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第314話 [披露宴。]

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全員が大宴会場に入って暫くすると部屋の明かりが消えた。

「それでは皆様、新郎アキト様、新婦カスミ様の入場です。」

ハロルドがそう言うと扉の方にスポットライトが当てられた。すると荘厳な雰囲気を醸し出す様な音楽と共に扉が開き、先程とは違うドレスとタキシードを着た2人が皆んなに向かってお辞儀をしてから主賓席へと向かった。

「何で花冠?」

俺がそう呟くと隣の席に座っていたルークが声を掛けてきた。

「ありゃエルフの昔からの風習だそうだ。」

「そうなのか?」

「あぁ、なんでも初代様が結婚の儀に世界樹様から贈られたのがきっかけって事らしいぞ。」

「へぇ~、もしかして有名な話なのか?」

「エルフの知り合いがいる奴らなら大抵は知ってるんじゃないか?まぁそん中でも皇族は世界樹の麓に専用の花園が在って、皇族は必ずそこの花を使うって話だ。」

「そうな・・・ん?彼処か?」

「行った事が有るのか?」

「俺の思ってる場所だったらな。」

「へぇ~普通は入れねぇけど、まぁシュウトなら歓迎されるか。まぁいいや、そんで普通は両家の母親が自分の子をよろしくって意味で相手の子にプレゼントするらしいが今回はカスミの母親が居ないって事で2つともリリスさんが作ったって話だぞ。」

「なるほどな、2人共被らないとダメならそうする他無いわな。でもそうか、花冠か・・・。」

「どうしたんだ?」

「いや、前世で妻と上の2人の子が楽しんでたのを思い出しただけだ。」

「そうか、悪かったな。」

「いや、ルークが気にする事じゃないって、どっちにしろその頃の俺はもう死んでるしな。」

「まぁ、前世って言ってたもんな。おっ、席に着いたな。」

ルークがそう言うとハロルドが2人の馴れ初めを話し、それが終わるとリーグさんが壇上へと呼ばれた。

「うむ、此度は余の友ガシュウとトヨタの子供達の結婚式という事で参加する事になったが、アキト殿を小さき頃から見てきたのもあって叔父と思って挨拶させてもらうが良いかの?」

リーグさんはそう言うとアキトの方を見るとアキトは返事をする様に頭を下げた。

「うむ。此処に居る者はアキトが拾われてきたのは知っておると思う。」

リーグさんの言葉に周りが少しザワついていたが、リーグさんは気にする事無く話し続けた。

「この様な目出度い日に何を、と思う者も居るじゃろうが聞いて欲しい。」

リーグさんがそう言うと会場は静かになった。

「うむ。あれはアキト殿と初めて会った時の話じゃが、あれはガシュウと遺跡ダンジョンからの帰りじゃった。ガシュウの屋敷で呑み明かそうと屋敷に着いた時にまだ幼いお主が居ったのじゃ。余は初めて会った時になんと聡明で愛らしい子じゃと思い、抱っこさせてもらいながらガシュウに尋ねると魔物に襲われ、子1人になってしまったから養子として育てると言っておったのじゃ。余は愛らしいのもあって人族は人族で育てる方が良いと余の養子にと話したのじゃ。」

ガシュウさんはその話を聞いて懐かしさを思い出した様に頷いていた。

「じゃが、あの頃から賢い子じゃったのか、その話をした途端、余の腕の中で暴れて、リリス殿の方に手を伸ばし、その後はリリス殿にしがみついたまま、離れようとはせんだ。しかもリリス殿も実の我が子を見る様な優しい顔で抱き締め、そんな2人を引き離すのは忍びないと思っておるとガシュウに声を掛けられてのぅ、必ず幸せにすると言われたので余は諦めて叔父として接する事に決めたのじゃ。」

「アキト殿、いや、アキトよ。今のお主はガシュウが言った通り、余には幸せそうに見えるがどうじゃ?」

「はい。凄く幸せです。」

「うむ。良き両親から注がれた愛情を今度は妻となったカスミ殿とカスミ殿との間に産まれて来るであろう子を幸せにする事を両親が自分にしてくれた様に愛情を注いで幸せにしてあげるのじゃぞ。」

「はい!」

アキトが真剣な表情で返事をするとリーグさんは深く頷いてから俺達の方を見た。

「うむ。長々と話してしまったが、これを持って乾杯の挨拶とさせてもらう。では皆グラスは持ったな・・・乾杯!」

リーグさんの乾杯の音頭で和やかな雰囲気で始まるとバト、セバス、サーシャの3人が前菜から運び、その料理に舌鼓を打つ者、新郎新婦の所に行って話をする者、他の席へ行ってそこで話を弾ませている者に別れていた。

暫くすると新郎新婦の所に行っていたガシュウさん達3人が俺の方へと歩いてきた。

「シュウト様、この度は誠にありがとうございます。」

「何の事ですか?」

「シュウト様のお陰でアキト達が夫婦になる事が出来、アストライアー様にも祝福して頂けました。」

「アストライアー様の事はお願いしただけですし、以前もお話しましたが、2人が夫婦に成ったのも遅かれ早かれ何れ結ばれてましたよ。」

「そうかもしれへんけど、今日この目出度い日に結婚出来たんはシュウトはんのお陰やで。」

「確かに結婚するのは目出度いですけど・・・。」

「あれ?シュウトはんは知らんのか?」

「ん?何の日なんですか?」

「今日は例の大災害から生き延びた事を祝い、アストライアー様から世界の人々へ祝福とあるお言葉を賜った1年で最も目出度い日なのですよ。」

「そうなんですね。」

「しかもそのお言葉というのが、『新たなる希望の光り、その者に従いし者が結ばれる時、その者らの間に産まれる子は世界から争いを無くす光りと成るだろう。』というものなのです。」

「はぁ・・・。」

俺が良い話だろうけど何の関係が?と思っているとリーグさんが話し掛けてきた。

「シュウト殿は分かっておらぬのだな?」

「何をですか?」

「新たなる希望の光りとはシュウト殿を指す言葉なのじゃよ。」

「え?どうしてそうなるんですか?」

「それは私がお話致します。私共の国には神々に成られたお話が文献として残っており、その際に必ず賜るお言葉が新たなる希望の光りなのです。ですので、何れ神の1柱と成られるシュウト様の事なのです。」

「あぁ、そういう事ですか。でも完全な亜神にも成ってないですし、もしかしたら違うかも。」

「いえ、そんな事はありえません。それにシュウト様がそうであればアキトらの子供、私共の孫が聖人様か聖女様に成れるという事、そう私共に信じさせて頂けませんでしょうか?」

「・・・そうですね。では、どういたしまして。」

「はい。ありがとうございます。」

俺がそう言うと3人はとても嬉しそうに頷いた。

「そういえばシュウト殿は例のスキルの事は御存知なのかのぅ?」

「いえ、スキルを授けるっていう事ぐらいしか聞いてないんで。」

「他人に知られたらあかん系のスキルなんちゃうか?」

「シュウト様にまで、知らせないとはもしかしたらそうかもしれませんね。」

「そんなスキルが在るんですか?」

「ございます。死の間際で他人に知らせる事で一度しか使えぬスキルという報告も受けておりますし、単純にカジノ等では豪運や詐欺に使えるスキルは隠したり致しますね。」

「鑑定されたらバレないんですか?」

「前者の様なスキルは神によりある程度は阻害される様です。しかし後者の方はレベル次第ではバレますね。」

「神様による・・・ですか。」

「確かにシュウト様の持っておられる神の瞳でしたら看破する事は可能かもしれませんね。」

「そうですか・・・。」

俺がそう思い、少し悩んでいると久しぶりに《ピコン♪》と音が鳴ったのでステータスを確認した。

『シュウトが心配してる様な事は無いわよ。実際、さっき話に出てた【九死に一生】っていうスキルもシュウトが確認しようとすれば、神により保護されていますが的な文章が見えるはずよ。まぁ見えた時に承認しちゃうと確認出来てスキルは消えちゃうけどね。だから気になっても悪人じゃなかったら見ちゃダメよ。』

「分かってるよ。」

俺がそう言うとガシュウさん達は不思議そうな顔で俺の方を見てきた。

「シュウト様、どうされたのですか?」

「あぁ、すいません。神託に反応してしまっただけです。」

「何か有ったのでしょうか!?」

「あぁ、いえいえ、さっきの神の瞳に関して問題無い事を教えて頂けただけなので。」

「そういう事でしたか。」

ガシュウさんはそう言うとホッと胸を撫で下ろしていた。

「保護されてるスキルは看破する前に確認する内容の文章が出るらしいです。」

「左様でございますか。」

「はい。ですので、善人には使用しない様に。と釘を刺されたんです。」

「当然の事でしたので、分かってると仰ったのですね。」

「そうですね。あっ、そろそろ皆んなが席に戻っていきそうなので、自分もアキト達に声を掛けに行っても宜しいでしょうか?」

「これは失礼しました。リーグ、トヨタ、私共も席に戻りましょうか?」

「そうじゃのう。」

「せやな。飯も冷めてまうやろうしな。」

3人はそう言うと自分の席に戻っていったので、俺はアキト達の方へと向かった。

「よう。ちゃんと食べれてるか?」

「皆んなが来るからちょっと無理かな。」

「シュウト兄、心配せんでも披露宴が始まる前に食べれんかってもええ様にってナビコちゃんから軽食食べさせてもろたさかい。」

「えっ、そうなの?」

「なんやアキトはもろてないんか?」

「・・・無かったと思う。」

アキトはそう言うと少し残念そうな顔をしていた。

「おい。新郎がそんな顔してたら駄目だろ。」

「そ、そうだね。」

「それに前世でもそうだが、女性はお色直しとか、ドレスによっては食べるのが難しかったり、色々あって食事出来ない事が多いが男性は食べようと思えば、結構食べれるものだぞ。」

「そうか、そうだよね。」

アキトはそう言うとホッとした表情を見せた。

「そうだ。2人とも結婚おめでとう。」

「唐突だね。ありがとう。」

「いや、来た時に言うべきだったのを忘れてたから。それより、1つ聞きたいんだが、聞いても良いか?」

「何だい?」

「お前達が貰ったスキルって人に話しちゃいけない系のスキルなのか?」

「違うよ。カスミはどうだい?」

「ウチもそんな事あらへんよ。何でなん?」

「いや、皆んなが俺に聞いてくるし、世の中には話すと駄目なスキルも在るって聞いたから。」

「あぁ、九死に一生みたいなスキルを貰ったかもって事で皆んな何かを聞きたそうにしてたのか。」

「そういう事やったんか。ウチも何やろ思てたんよ。特にオトンがソワソワしとったし、納得やわ。」

「じゃあ何時のタイミングでも良いから皆んなに言ってもらって良いか?」

俺がそう言うとカスミちゃんはアキトに耳打ちをし、2人同時に立ち上がった。
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