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06 おわり

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 這うように逃げる殿下。
 重たい剣を振り下ろすグレーテル男爵令嬢。
 止めようと男爵令嬢に手を伸ばす護衛騎士。

 護衛騎士に阻まれた事で殿下の背を狙った剣は大きく反れ、グレーテル男爵令嬢は転びながらも剣を殿下の右足に向かって突き刺したそうです。

 当事者でありながらその様子を人伝いにしか知らないのは、グロール公子によって凄惨な現場を見ずに済むよう応接室から連れ出されたからです。

 殿下の命は、寮にいた医師により救われましたが、片足は失われ王位継承権は彼の弟へと移る事になるだろうと、翌日には噂が広がりました。



 第一王子だったルドルフ様と、第二王子のお母上は違うため政治的に大きな動揺が貴族達の間に広がったのです。 ですが……私には全てが夢の中の出来事のようでした。

 ルドルフ殿下は長年追い求めていた方ではありましたが……凄惨な現場を見る事が無かったせいでしょうか? それとも……グレーテル男爵令嬢に同情したせいでしょうか? この結末に私は思ったほどの衝撃を受ける事も無くすんなりと受け入れる事ができたのです。



 今回の出来事で、ルドルフ様は多くの女性を敵に回してしまいました。 そして。王位継承権を失い、片足を失い復権の可能性も失われ、ルドルフ様の味方は居なくなったのです。

 大勢の方々が、私が婚約破棄を求めた事は当然の事だと、グレーテル男爵令嬢が心に深い傷を負い正気を失い恐慌状態に陥った気持ちもわかると証言が集まったそうです。

 その結果、私の婚約破棄は呆気なく進められ、そしてグレーテル男爵令嬢の行動は、痴情のもつれとして処理を行いルドルフ様はグレーテル男爵令嬢の元に婿入りすると言う事で決着がつけられました。





 学園内サロン。

「世間とは随分と薄情なものですね」

 私は苦笑交じりにグロール公爵家公子ハルトヴィン様に告げました。

 ルドルフ様とグレーテル男爵令嬢は、卒業を目前に退学処分とされたのです。

「責任ある者がその責任を全うしなかった結果です。 私は彼等の失態を教訓としなければいけませんね」

「ハルトヴィン様に限ってそのような事にはならないでしょう」

「えぇ、貴方を悲しませるような事はしないと誓いましょう」

 不思議そうにハルトヴィン様を見れば、彼はニッコリと微笑み立ち上がり私に手を差し出しました。

「行きましょうか? ここはどうにも人の視線が多すぎるようですね」

「まだ、あの事件から日は浅いですからね……」

 グレーテル男爵令嬢の恐慌によって私の婚約破棄は早々に勧められましたが、両親曰く婚約破棄を思い止めるよう説得して欲しいと言われていたそうです。

 私が夜遅くまで勉強に励んでいるルドルフ様に寄り添い、問題の解決に助力しておりましたがソレは王太子に与えられた業務であり、私が婚約破棄を告げ彼の業務を手伝わなくなってからと言うもの、彼は王太子としての仕事の多くが未処理となっており、もしグレーテル男爵令嬢の恐慌が無ければ、婚約破棄は難しかっただろうと言う話でした。

 だからこそ、ルドルフ様とは関係の無くなった今も好奇の視線を向けられるのでしょう。 



 私達は人目を避けるように図書館へと向かいました。

 王立学園の図書館は広く、そして貴族の子息令嬢が図書館を利用する者は勉強熱心な真面目な方が多く、人目を避けながらも男女の噂を避けるには丁度良い場所でしょう。

 私達はお互い興味のある本を手に取り、ガラス張りのテラスへと向かいました。 少し肌寒い季節ではありますが……うっかりとお喋りをして、読書をしている方達の邪魔をする訳にはいけませんからね。

「外は冷えますから、これをどうぞ」

 そうして肩にかけられた女物のショール。

「えっと……コレは、ハルトヴィン様の?」

 と言うには余りにも可愛らしいデザインです。

「いいえ、貴方のために準備した贈物です。 遠慮なくお使い下さい」

「そんな……いただけません」

 グレーテル男爵令嬢が起こした凄惨な場から連れ出して下さり、ルドルフ様との婚約が無事に解消された事で、今までより近しい関係になってはいましたが、それでもプレゼントを得ると言うのは行き過ぎです。

「不快だと言うなら諦めますが、そうでないなら是非お受け取り下さい」

「不快だなんて、そんな事絶対にありませんわ」

「良かった……」

「えっと……その……ありがとうございます」

 私は笑顔で礼を述べる。

 そして私達は小鳥のさえずりを聞きながら本を読んでいるのですが、ハルトヴィン様の様子が妙にソワソワとしていらっしゃるようで……。

「あの、どうかなされたのですか? 今日は随分と落ち着かないようですが?」

「相談に乗って欲しい事があるんですが、よろしいでしょうか?」

「相談ですか?」

「はい。 実は、国の方に一つ願い事をしていたことがあるのですよ」

「えっと……ソレはハルトヴィン様の故郷の?」

「えぇ、少々焦り過ぎていたと言いますか……その……」

 騎士として鍛え抜かれたハルトヴィン様が、大きな身体でモジモジする様子は、まるで迷子の大型犬のようだなと私は笑いそうになるのを必死に堪えていました。

「どうなされたのですか? 私でよろしければ相談に乗りますよ?」

「相談と言うか……その……よろしければ!! 学園を卒業後、私と共に国について来てはいただけないでしょうか?」

 無骨な方の真剣な申し出は何処か可愛らしくもありましたが……私は、どうしても、用心深くなってしまうのです……。

 だって……変な期待をしてしまいそうになってしまいますのもの……。

「それは、どういう事でしょうか?」

「この国に親善交流に訪れた私を避ける者が多い中、貴方だけが私に笑みを向け、親切にしてくださいました」

「当たり前の事を行ったまでです」

「ですが、貴方と知り合い、語り合い、貴方と言う人を知るごとに私は貴方に惹かれていきました。 ルドルフ殿が容易に婚約破棄に応じる事は無いと思い……国同士の友好を利用し貴方を手に入れようとしたほどに……愛しています。 愛しているんです。 どうか、私と共に国に来てはいただけないでしょうか?」

 長い沈黙が流れました。
 その沈黙の長さは、私の心の葛藤と言えるでしょう。

「……ありがとうございます……ですが……本当に私は、私は当然の事を……いいえ、ルドルフ様のために、あなたがこの国に滞在する間、不便が無いよう心がけたに過ぎません。 それな私が……あなたに愛される資格は……」

「えぇ、貴方がルドルフ殿を愛していたのは知っています。 ですから、これから時間をかけて私を好きになっていただけるよう努力しますから、チャンスを頂けないでしょうか?」

「違うんです。 私は……貴方の好意が欲しくて……貴方に対しての親切がルドルフ様のためだったことを隠そうとしたんです。 私は身勝手な人間です」

「それは……私の事が好きと言う事で良いのでしょうか?」

 私の懺悔ともいえる言葉を、嬉しそうに聞きなおしたハルトヴィン様に私は頷いた。

「お慕いしております」

「ありがとう……」

 私は卒業後、国に戻るハルトヴィン様と共に国を出ました。 隣国と言えど歴史や文化が異なり、少しばかり苦労はありましたが……それはハルトヴィン様の優しさを実感する良い機会であり……私達の愛情をより深いものへと導いてくれました。



 そしてグレーテル男爵令嬢のご実家がハルトヴィン様の国で脱税を行っていた事実が発覚し、その財産の多くを没収されたと言う話でした。 ですが……あの二人も苦労を乗り越えきっと愛情を深めてくれると私は信じております。



 おわり
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感想 1

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みんなの感想(1件)

nicole
2024.09.22 nicole

国のためだと言ってるけど本当は自分のためだろ
金も欲しい、自分の補佐も欲しいってだけで、彼女達のためでも何でもない
だからざまあされる、それだけの事

解除

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