貴方に必要とされたいとは望みましたが……

こことっと

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 大丈夫ですか?

 近寄せられる緑の瞳は、心配そうに私を覗き見てきます。

 私は同情されているの?

 そう思えば、悲しくて……苦しくて……だけど……こんな状況への対応方法は、誰も教えてなどくれてはいなくて……。

「ラーレ様……ごめんなさい。 きっと、私の言葉は貴方を悲しませ、不安にさせ……苦しませてしまいましたよね。 ですが私も辛かったのです。 胸の内に秘めたままに等出来なかった!!」

 大きな緑色の瞳に浮かべる涙。
 それは決して嘘偽りだとは思えません。

 私は……ただ、呆然とするしかありません。
 だって、もう何も考えたくは無かったのですから……。

「私は、多くの推薦を受け、多くの人に認められた婚約者です。 貴方は……何が言いたいのですか?」

「私は……学園に入学し、初めて殿下を拝見しました。 爵位等全く気に掛ける事無く殿下は全ての方々に平等で……そして優しい方。 私が殿下を愛するまで多くの時間を必要としませんでした。 だから……彼の側にいられるよう努力しました」

 努力? その言葉に私は叫びそうになりました。 だって……殿下の周囲にいた方が、ご機嫌を取るだけの方々でなければ、彼はあれほど授業や課題、次期王としての学習に苦労する事は無かったでしょう。

「努力ですか……」

 ラーレは嘲笑めいた笑みを無意識で浮かべていた。

 ビクッと怯えた様子を露わにしたグレーテル男爵令嬢は叫んだ。

「殿下の側にいて、殿下を支え、愛された……。 なのに、殿下の婚約者に選ばれたのは貴方。 私がその決定を聞いた時、どれほどの絶望を受けたか……貴方に分かりますか!!」

 グレーテル男爵令嬢の緑色の瞳から涙が零れ落ち。
 噛まれた唇から血が滲んでいた。

 これでは……まるで私の方が悪者ではありませんか。

「ですが、婚約者に選ばれたのは……次期王妃に相応しいとされたのは、貴方ではなく私です」

「えぇ、その通りですわ。 私は……私では殿下の王妃に相応しくはない。 私は男爵家の生まれでしかありませんから……。 それも下賤な者と同じように商売に明け暮れ、金に執着する薄汚い商売をしておりますから……」

「別に私は、貴族が商人として勤める事が悪いだなんて……」

 また……。

 そして、荒げられる声は、誰も居ないように思えた周囲に人を集め始めていた。

「このような場所で、騒いでは殿下の評判にも良くはありません」

「評判? 評判なんて気になさる必要はありませんわ。 私と殿下の関係は皆知っておりますもの。 知らないのは……ラーレ様、貴方だけではありませんか? それだけ、貴方は殿下の事を知らなかった……そう言う事ですわ」

「私こそが、2人の邪魔者だとおっしゃるのかしら?」

 私の声は震えていた。

「いいえ、私は、殿下を愛する者同士として対等であるべきだと思いましたの。 私だけが・……ツライ思いをするなんて……苦しい思いをするなんて……。 なぜ、貴方だけが真実も知らず幸福そうに祝福を受けますの? 私は……それが許せなかった」

「どうしろとおっしゃるのかしら? 国を預かる方々が選んだのは私ですわ」

「えぇ、別に別れて欲しい等とは思っておりませんの……ただ、私を認めて欲しいだけ。 殿下と私との愛情を受け入れて欲しいの。 ただでとは言いませんわ。 十分な慰謝料を支払わせて頂きますわ。 ラーレ様のお家は侯爵家とは言うものの、その……王家に嫁ぐほどの余裕はございませんでしょう?」

 静かに淑やかに語られる言葉……だけど、その全ては侮辱でしかなく、周囲に人がいる事も忘れて私は声を大きくあげてしまった。

「お金の問題ではありませんわ!!」

 周囲の人たちが興味深そうにコチラをチラチラと覗き見ていて……私は慌てて声を潜めた。

「その話は……本当ですの? 信じられませんわ。 殿下は何時だって勤勉な方でした。 殿下を慕う人達に誠意的に接し、そして……期待に応えようと何時だって必死に勉学に励んでいる方です あなたとその……」

 夜を共にしていたなどとは思えない……そんな言葉は口にするのに抵抗があった。

「殿下は何時だって……何時だって……寝食を忘れて役目を果たそうと励んでいらしたもの信じられない……信じられませんわ」

「そんな殿下だからこそ、私に癒しを求めたとは思いませんか? 貴方は……理想の殿下を求めすぎ追い詰めたとは思わないのですか? 殿下はその責任に疲れ、私に助けを求めたのです。 私の身体を求め、安らぎを求め、救いを求め……愛を求められました。 愛しているとおっしゃられたのです。 慰謝料は貴方の望む額をお支払いしましょう。 どうかご検討をお願いいたします」

 丁寧に優雅に……彼女は頭を下げ背を向けた。

 胸が……痛い。
 心がツライ。

 私は好奇の視線を気にする余裕もなくその場を走り去った。

 逃げるように……。

 泣くための場所を求めて……。
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