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牢の中のミリヤム・リービヒはただ懇願した。
バルトルト様からの愛を。
それは絶対に許される事がないのに……しつこく何度も何度も……。
拘束用の椅子に座らされ、自らの哀れを語り同情を求めた。
国家転覆罪にあり公爵家の権威はこの場では失われている事が宣言された時点で、聞いても居ないのに勝手に色々と話しながらバルトルト様の愛を求め続けた。
気分が悪い……。
「求めるなら、与えるべきではないか?」
バルトルト様は必死にイライラを抑えながら……なるべく……声を抑え、甘く囁いた。
「ぁっ……私は悪くないの……ただ、愛しているだけ」
饒舌に話だしはしたけれど、此方の知りたい事を話してくれないのが難点。 挙句……このような状況にありながらバルトルトに性的にアピールを行いその庇護と恩赦を求める事は止めない周到さも忘れない。
イライラする。
気分が悪い。
「サーシャ、君は席を外して。 その方がいいから」
私を抱きしめ甘く耳にささやき、頬に口付け……気づけば牢から追い出されていた。
バルトルト様は1時間も経過せずフランツ様と戻ってきた。
そして、私を抱きしめる。
「何かあったのですか?」
ちょっと怒っている。
「栄養補給。 ゴメン……不快にさせかねないと思ったから。 許して、お詫びはするから……愛しているよ」
そう言って口づけられ、ソファに座り私を膝の上に乗せた。 それが当たり前のようにフランツ様がお茶を淹れ始める。
「それで、何か分かったのですか?」
「ミリヤム自身は大した事は知らない。 婚姻披露には出ない偽物を出せと言った俺の言葉に従って、ミリヤムは俺と似た背格好の男を探し始めた時、初めてテロの事実を知らされたと言う事だった」
口調が揺らいでいる。
余程ストレスだったのでしょうと、私は、何時もの幼い口調で無い事を指摘することなく話に耳を傾けた。 何時もよりも少しだけ低く落ち着いた様子で語られる声は、耳に心地よく語られる内容を聞き逃しそうになるのは、問題ですけどね……。
ミリヤムがバルトルト様の偽物を探し始めた事で、婚姻の拒否の事実を知りテロ組織は焦り、ミリヤムを本格的に仲間に招いたそうだ。
借金、テロの加担者、そして……罪から逃げるためには王政を失墜させるしかないと、そのためにミリヤムに与えられた役割は婚姻披露にバルトルト様を引っ張り出す事。
嫌だ、知らない、関係がない。
ミリヤムはそう頑張っていたと言う事だった。
「ヴァロリー・ストロープの積極的な行動に反する非積極的なミリヤムの様子を考えれば、嘘をついている訳ではないでしょうね」
「本当に役に立たない女だ……」
私は、膝の上に横抱きにされたままバルトルト様の肩を抱き頭を撫で、そして頬に口づけ、肩をトントンと叩いた。
ヴァロリー・ストロープの方は、どう……話を聞きだしたか……ソレは見ても聞いても余り気分の良い話ではないでしょう。 何しろ、彼方此方売られる喧嘩ではなく戦争から国を守ってきた人達。 荒事には慣れ切っています。 彼女は近く別の地域に移送されると聞かされたが、彼女がどういう状況なのか? 彼女はどうなるのか? 私は聞かない。
今回のテロは、現国王が見下し圧政を引いていた貴族達による反逆意識と、ストロープ伯爵家が金を貸した貴族を利用して行われる予定ならしい。 その背後……後ろ盾と言うか黒幕は、この国から三つ向こうにあるペシェル国だった。
「間に二国もあるのに? 侵略には適さないでしょう?」
「統治が問題ではなく、ペシェルが欲しかったのはこの国が抱える万能薬の素材らしい」
「万能薬ですって?」
この大陸では幾度となく疫病が蔓延した。
疫病の多くは弱い幼子を狙い、そして生殖能力を奪う事も多く、そのたびに国々は危険に襲われており、毎回疫病の被害を受けないこの国に万能薬があると言われだした。 だから、何時だってこの国は戦争を仕掛けられるそうだ。
でも、私は万能薬を知らない。
ヴァロリーは万能薬をペシェル国に流通出来るなら、テロを止めさせても良いと言ったらしい。
「現国王への反逆意識を刺激したのなら無理でしょう?」
「無理だろうな。 だが俺が利用される事は回避できる」
「ふぅん?」
それだけで収めるようには思えなかったから、私はただ笑って済ませた。
「それで、万能薬なんて存在するの?」
「亡くなった先王……お爺様が言うには、万能薬ではなく、人間の持つ生物的防御力を高める薬で対応してきたそうだ。 現国王は知らない話だ……。 もし命が脅かされた時、自分を守る材料に使うようにと教えられた」
こう言われて、私は初めて……バルトルト様が王族なのだと実感したと言うのは秘密。
「そうですか。 それでどうするのですか?」
「テロを利用する」
テロ計画。
バルトルト様と公爵家の婚姻披露となれば、戦争功労者の多くが集まる事が予測される。 うちにいる元騎士もそうだけど、バルトルト様の母方のご実家も有能な騎士団として有名ですし、実際に戦場に出ている者にとっては横の繋がりも大事となるでしょう。 だから……婚姻披露には多くの軍事関係者が参加する。
王宮の警備が緩くなるし、国王夫婦は婚姻披露に絶対参加しない。
婚姻披露の日程が確定されれば、王宮の警備の多くがテロ賛同者がつく予定となっているそうだ。 そして国王夫婦は殺害し、王太子を新王に立て、テロ加担者達が王太子の周囲を固め、万能薬をペシェル国に横流しする。
これがペシェル国が立てたテロ計画の全貌だった。
「ソレでどうするの?」
「そのまま、乗っかる。 国王夫婦が殺害されたところで……テロ犯を捕まえ、王太子を助けた格好をすれば此方の優位性を持って王太子を脅し俺達に優位なように国政を敷かせる事もできる。 サーシャ愛しているよ。 もし……サーシャが居なかったら……僕は、ヴァロリー・ストロープの手を取っていただろうね」
それだけ国王夫婦が嫌いだったのだと言う言葉が見えた気がした。
語り終える頃には、何時もの彼に戻っていた。
バルトルト様からの愛を。
それは絶対に許される事がないのに……しつこく何度も何度も……。
拘束用の椅子に座らされ、自らの哀れを語り同情を求めた。
国家転覆罪にあり公爵家の権威はこの場では失われている事が宣言された時点で、聞いても居ないのに勝手に色々と話しながらバルトルト様の愛を求め続けた。
気分が悪い……。
「求めるなら、与えるべきではないか?」
バルトルト様は必死にイライラを抑えながら……なるべく……声を抑え、甘く囁いた。
「ぁっ……私は悪くないの……ただ、愛しているだけ」
饒舌に話だしはしたけれど、此方の知りたい事を話してくれないのが難点。 挙句……このような状況にありながらバルトルトに性的にアピールを行いその庇護と恩赦を求める事は止めない周到さも忘れない。
イライラする。
気分が悪い。
「サーシャ、君は席を外して。 その方がいいから」
私を抱きしめ甘く耳にささやき、頬に口付け……気づけば牢から追い出されていた。
バルトルト様は1時間も経過せずフランツ様と戻ってきた。
そして、私を抱きしめる。
「何かあったのですか?」
ちょっと怒っている。
「栄養補給。 ゴメン……不快にさせかねないと思ったから。 許して、お詫びはするから……愛しているよ」
そう言って口づけられ、ソファに座り私を膝の上に乗せた。 それが当たり前のようにフランツ様がお茶を淹れ始める。
「それで、何か分かったのですか?」
「ミリヤム自身は大した事は知らない。 婚姻披露には出ない偽物を出せと言った俺の言葉に従って、ミリヤムは俺と似た背格好の男を探し始めた時、初めてテロの事実を知らされたと言う事だった」
口調が揺らいでいる。
余程ストレスだったのでしょうと、私は、何時もの幼い口調で無い事を指摘することなく話に耳を傾けた。 何時もよりも少しだけ低く落ち着いた様子で語られる声は、耳に心地よく語られる内容を聞き逃しそうになるのは、問題ですけどね……。
ミリヤムがバルトルト様の偽物を探し始めた事で、婚姻の拒否の事実を知りテロ組織は焦り、ミリヤムを本格的に仲間に招いたそうだ。
借金、テロの加担者、そして……罪から逃げるためには王政を失墜させるしかないと、そのためにミリヤムに与えられた役割は婚姻披露にバルトルト様を引っ張り出す事。
嫌だ、知らない、関係がない。
ミリヤムはそう頑張っていたと言う事だった。
「ヴァロリー・ストロープの積極的な行動に反する非積極的なミリヤムの様子を考えれば、嘘をついている訳ではないでしょうね」
「本当に役に立たない女だ……」
私は、膝の上に横抱きにされたままバルトルト様の肩を抱き頭を撫で、そして頬に口づけ、肩をトントンと叩いた。
ヴァロリー・ストロープの方は、どう……話を聞きだしたか……ソレは見ても聞いても余り気分の良い話ではないでしょう。 何しろ、彼方此方売られる喧嘩ではなく戦争から国を守ってきた人達。 荒事には慣れ切っています。 彼女は近く別の地域に移送されると聞かされたが、彼女がどういう状況なのか? 彼女はどうなるのか? 私は聞かない。
今回のテロは、現国王が見下し圧政を引いていた貴族達による反逆意識と、ストロープ伯爵家が金を貸した貴族を利用して行われる予定ならしい。 その背後……後ろ盾と言うか黒幕は、この国から三つ向こうにあるペシェル国だった。
「間に二国もあるのに? 侵略には適さないでしょう?」
「統治が問題ではなく、ペシェルが欲しかったのはこの国が抱える万能薬の素材らしい」
「万能薬ですって?」
この大陸では幾度となく疫病が蔓延した。
疫病の多くは弱い幼子を狙い、そして生殖能力を奪う事も多く、そのたびに国々は危険に襲われており、毎回疫病の被害を受けないこの国に万能薬があると言われだした。 だから、何時だってこの国は戦争を仕掛けられるそうだ。
でも、私は万能薬を知らない。
ヴァロリーは万能薬をペシェル国に流通出来るなら、テロを止めさせても良いと言ったらしい。
「現国王への反逆意識を刺激したのなら無理でしょう?」
「無理だろうな。 だが俺が利用される事は回避できる」
「ふぅん?」
それだけで収めるようには思えなかったから、私はただ笑って済ませた。
「それで、万能薬なんて存在するの?」
「亡くなった先王……お爺様が言うには、万能薬ではなく、人間の持つ生物的防御力を高める薬で対応してきたそうだ。 現国王は知らない話だ……。 もし命が脅かされた時、自分を守る材料に使うようにと教えられた」
こう言われて、私は初めて……バルトルト様が王族なのだと実感したと言うのは秘密。
「そうですか。 それでどうするのですか?」
「テロを利用する」
テロ計画。
バルトルト様と公爵家の婚姻披露となれば、戦争功労者の多くが集まる事が予測される。 うちにいる元騎士もそうだけど、バルトルト様の母方のご実家も有能な騎士団として有名ですし、実際に戦場に出ている者にとっては横の繋がりも大事となるでしょう。 だから……婚姻披露には多くの軍事関係者が参加する。
王宮の警備が緩くなるし、国王夫婦は婚姻披露に絶対参加しない。
婚姻披露の日程が確定されれば、王宮の警備の多くがテロ賛同者がつく予定となっているそうだ。 そして国王夫婦は殺害し、王太子を新王に立て、テロ加担者達が王太子の周囲を固め、万能薬をペシェル国に横流しする。
これがペシェル国が立てたテロ計画の全貌だった。
「ソレでどうするの?」
「そのまま、乗っかる。 国王夫婦が殺害されたところで……テロ犯を捕まえ、王太子を助けた格好をすれば此方の優位性を持って王太子を脅し俺達に優位なように国政を敷かせる事もできる。 サーシャ愛しているよ。 もし……サーシャが居なかったら……僕は、ヴァロリー・ストロープの手を取っていただろうね」
それだけ国王夫婦が嫌いだったのだと言う言葉が見えた気がした。
語り終える頃には、何時もの彼に戻っていた。
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