私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと

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 手紙の中には、バルトルト様の心の内もミリヤム様の心の内も当然ながら書かれてはいない。 書ける訳がないのはわかりますが……こう、手に届くようで届かない。 理解できるようで理解できない。 モヤモヤするわ。

「もう、こんな事まで書いてこないでよ!!」

 だからと言って、手紙を途中で放り出す事は出来なかった。



【王宮】

 柔らかな身体、甘い匂い、自分は女性であると訴えながらミリヤムは囁いた。

「私の方が正妃に相応しいと思いません? 私なら貴族をまとめ上げる事ができますわ。 貴方の誹謗も中傷も全て黙らせるだけの貴族としての経験、実績がある有用な人材であり、貴方の人生を導いて差し上げる事ができます。 それに顔もスタイルもいい。 夢のような一時を送らせてあげますわ。 なにより、私を正妃にしてくれれば王宮における貴方の立場を回復して差し上げるわ」

 そんなミリヤムのセリフを見れば、私は心が痛んだ。

 それはバルトルト様が持っていて当たり前のものなのに、私が絶対に与えて上げられないもの。 私の家族を家族だと言い慕うバルトルト様が本当に欲しかったものは? 彼自身の家族である事は間違いないはずですもの。 そう考えれば胸が痛い。

 だけど……彼は、あっさりと断っていたと書かれていた。

「どうでもいいよ。 要らない。 貴方も要らない。 別に貴族なんてどうでもいい。 僕にはサーシャがいるから。 僕の欲しかったものは全部サーシャが与えてくれた。 だから要らない。 それに、サーシャは僕にとって一番美人で可愛い。 それに……貴方の肉は……」

 自分に寄り添い、くっつけてくる温かく柔らかな感触をマジマジと見て、バルトルトは顔をしかめた。

「下品かな?」

 そう言いながらバルトルトは、訓練中の見習い騎士の若者達に向かって手を振って見せた。

「お~い!!」

 ここ3年程、バルトルトは自分を誹謗中傷するような貴族達と距離をとっていたし、王宮にも近寄る事も無かった。

 人と言うのは噂話が好きだ。
 自分の価値を上げる事が出来る人が好きだ。

 それでも3年も姿を見せていなければ、噂の数は減ると言うものだ。 特に彼との面識がない若い者達で、十分な功績を残した騎士団に所属している若者達となれば、手をブンブンと振って見せるバルトルトを無視するなんて出来なかった。

 それに加えて、

「お~い」

 なんて大声で呼ばれれば無視する訳にもいかず、訓練中の若い騎士見習いたちは近寄って来る。

「ねぇ、身体を武器にしているのを、僕相手に媚びているところを、人に見られて平気なの? それとも……キスでもすればいい? そうすれば満足して去ってくれる?」

 不思議そうにバルトルトが問いかければ、ミリヤムはキツイ表情でバルトルトを睨みつけ逃げて行き、バルトルトはその背に向けて舌を出した。

「不快だけど、もっと早く言えば良かった」



 だからと言ってミリヤムは諦めなかった。
 次の日も、その次の日も……それこそ、一緒になって頭がおかしくなったと言われても、側にいた。

「ねぇ、いい加減にすれば? そもそも僕達は婚姻関係を結ぶのは不毛な関係でしょ」

 そう語るバルトルトは、大きな穴を王宮の庭に掘っていた。

「そんな事より、今すぐ穴を掘るのを止めなさい!! ここは王宮ですわ!!」

「知っているよ。 僕は穴を掘りたいんだ。 だから掘る。 ただソレだけだよ。 なんだったら君も一緒に掘るかい?」

「嫌よ!!」

 早々にミリヤムは去って行ったけれど、それでも毎日のようにバルトルトについて回った。



 バルトルトは王家に対して、両親に対して、執着を持っておらず、分かりやすく気狂いのような言動を続けていた。

 王立図書館に行き、本を高々と積み上げ、その上に座って本を読む。
 物凄い早さで読み進める本を片付けるのを面倒がった結果で、読むだけでなくヒッソリと持ち出してサーシャの元に送っていた。

 広い王宮の敷地内で彼方此方に穴を掘って行く。
 高確率で宝石の原石を見つけ、高出力の魔力溜まりも見つけていた。

 庭先で狩りをし、花を摘み花束や花冠を作る。

 それらの行為は、王子であっても許される行為ではないが、王子だからこそ誰も注意が出来ずにいた。

 3年の間に回復していた評価は一気に地に落ちて再び『気狂い王子』『馬鹿王子』と呼ばれるようになり、国王陛下と王妃は金切声を上げながら怒り千切る。 見て見ぬふりは10日が限界でバルトルトは王宮から放り出された」

「お前と言う奴は王子でも何でもない。 王家から何かを得られるとは思うな馬鹿者が!!」

 その時もミリヤムは側にいた。

 顔色悪く国王陛下の怒りを正面から受け止め、それは気の毒でしかなかった。

「これでも、貴方は僕の側妃になるの? ぁっ!! 父上に追い出されたから、側妃ではなくて愛人なのかな? あはははは」

 ミリヤムは涙を浮かべながら、逃げるように走り去った。



「これで婚約破棄って言ってくれれば楽なんだけどね」

 少し離れた場所で控えていたフランツにバルトルトは苦笑いを向けたのだが……それは、甘い考えでバルトルトはある貴族から食事会に招かれる事になった。

「食事会? 無視でいいよ」

「いえ、参加しておいた方がよろしいでしょう」

「何、リービヒ公爵が怒りのあまりに婚約破棄だって言うのかな?」

「いいえ相手は、ストループ伯爵家です」

「えっと……うちと同じように近隣諸国との貿易を中心とした事業展開をしている?」

「はい」

「そっかぁ……なら出ておいた方が良いかもね」





 食事会にはストループ伯爵夫婦と、その娘ヴァロリー。 そして、リービヒ公爵とその娘ミリヤムが同席していた。

 ストロープ伯爵は、バルトルトから見ても祖父母の年齢であり、彼等が紹介した美貌の娘ヴァロリーはどう見てもミリヤムと同じような年ごろに思えた。

 まだ年若いサーシャにはない色香がそこにあったのだ。

 嫌な予感がバルトルトも、側近として付き添ったフランツの胸にも沸いて来ていた。

 嫌な予感、違和感、そんなものを全て無視して、バルトルトは幼い笑みを作って見せた。

「これは、婚約解消の場を作ってもらったって奴かな? リービヒ公爵としても王家と縁を切られた僕に娘を嫁がせる意味は無いでしょう?」

 一通りの挨拶を終えた後、バルトルトは苦笑いと共に告げた。

「私達は、王家ではなく貴方にかけております」



 そうして……ストローブ伯爵夫婦、そしてリービヒ公爵、その娘達は立ち上がりバルトルトに対して頭を下げて見せた。
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