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【嫉妬する貴族達】
キルシュ商会の成長は、貴族達の嫉妬の的となっていた。
「なぜキルシュ商会が、あの馬鹿王子との婚姻を結んだんだ?」
「馬鹿王子を厄介払いするために、何か好条件をだしたのでは?」
「いや、陛下はあのような庶民を気に掛ける事は無いさ」
「そうそう、陛下はそう言う人だ」
「あぁ、恥をかけばいいと縁組を認めたと聞いているぞ」
「あの婚姻披露は悲惨だった……」
「だがな……たかが男爵家の娘を王家に娶ったと言うが、違うのは分かっているよな? キルシュ商会の躍進を考えれば逆だろう。 なぜキルシュ商会があの馬鹿王子の元に娘を嫁がせたかではないかね?」
「あれは悲惨な婚姻披露だったよなぁ。 あの馬鹿王子を夫に持った娘はどうしているのか?」
悲惨と言いながらも人々は笑っていた。
笑っていたが、それもまた本心ではない。
誰か情報を持っていないかと様子をうかがう。
人々はキルシュ商会の商売が成功し拡大し続ける秘密に興味を持ち、今なら、あの王子の機嫌をとってでもキルシュ商会との友好関係を築きたいと言うのが本音だった。 だが、王家の機嫌を損ねる事は出来ないと言うジレンマを抱えているのも事実である
他の貴族を出し抜けないか?
人々は様子を伺い、牽制しつつ、キルシュ商会を悪く言いながらも……心の中で伝手を求めた。
【大貴族リービヒ公爵令嬢の憂鬱】
大貴族リービヒ公爵家では、我先にとキルシュ商会との関係を深めようとした。
冷害のおりにプライドを優先した事で、食料難に陥り、一族の末端を利用しキルシュ商会から金を借りた。 その額は大きい……金利だけでも大きな負担になっているのが現状だ。
「なぜ、私があの馬鹿に嫁がなければなりませんの!!」
ミリヤム令嬢がヒステリックに叫ぶ。
「学友として過ごした頃、お前はあの馬鹿王子に随分と懐かれていたじゃないか」
「懐かれていた?!」
金切り声は悲鳴に近い。
「宝物を送られていただろう? お前ほどの女だ、少し興味のある素振りをすれば、あんな田舎臭い娘から男を奪いとるなど簡単な事だろう」
「ふざけないで、セミの抜け殻、蛇の抜け殻、鳥の羽根、獣臭く薄汚いものを宝だと言う子にはウンザリよ!!」
「花や宝石を貰っていた事もあったじゃないか」
「……知りませんわ!! 私は、私は、あんな馬鹿と一緒に居たくない考えただけでも気が狂いそうですわ」
そう言って身を震わせた。
本当に幼い頃だった。 バルトルト王子が二歳年上の綺麗なミリヤム公爵令嬢に興味を持ったのは五歳の頃だった。 鳥、トカゲ、蛇、セミ、トンボ、カエル、石、花、バルトルトは綺麗な物が好きで、ミリヤム令嬢に喜んでもらおうと綺麗な宝物を何度か贈っており、そのたびに怒らせていたし、怒るのも仕方がないと誰もが言っただろう。
だけれど、それ以上にミリヤム令嬢はバルトルトを嫌っていた。
あの幼さが、無邪気さが気持ち悪かった。
ジッと見つめる目が怖かった。
空気を読まず、遠慮なく疑問を聞くのが嫌だった。
馬鹿と言われてもへらへら笑っているのが、不気味だった。
嫌い嫌い嫌い嫌い!!
「嫌、嫌よ!! 嫌なの!!」
バルトルトとの婚姻を申し込んだのは、リービヒ公爵の方からだった。
バルトルトと言う存在に興味を持たない国王陛下と、バルトルトを汚点と考える王妃は、どうでもいい好きにしろと受け入れ、手続きは部下に任せた。 だから公爵が断ろうとすれば断る事が出来るだろう。
だけれど公爵は欠片も引くつもりはなかった。
「ミリヤム、お前はバルトルト王子に嫁ぐと思っているが間違いだ。 お前が嫁ぐのはキルシュ商会だ」
眉間を寄せ不満そうにするが、それでも悲鳴を上げるほどではない。
「なぜ、私があのような……下級の家に……」
「だが、その財力は王家を超えていると言われている。 下級の家にお前が嫁ぐ……お前が一番高貴な存在で、美しくて、賢い。 それが、どういう事か分かるな?」
静かに公爵が説得すれば、ミリヤム・リービヒ公爵令嬢は息を飲んだ。
【キルシュ商会の安定と躍進】
バルトルト王子がキルシュ家の娘と婚姻を果たしてから、もの凄い勢いでその事業の拡大を勧めたが、元々、その素質はあった。
旅人と言うものはその経験から気候を読める者も少なくはない。
前年度からの冬は暖かく、雪も少なかった。
占い師たちは、お日様の異常を訴えた。
隣国の火山が爆発した。
それらの事から、その年は冷夏が予測できた。
当時のサーシャは幼かったが、幼さゆえに多くの人から色んな話を聞いた。 そして、商売に関われない事から、知識を手に入れようと王立図書館に頻繁に通っていた。
そんなある日、サーシャは家族会議で一つの提案をした。
「下級貴族の一般農家に芋の栽培を勧めるべきだと思いますわ!!」
「芋より米や麦の方が高く取引が行われるからねぇ~。 説得は難しいと思うぞ?」
妹を溺愛する兄は頭を撫でまわしながら告げた。
「兄様、私は真面目に言っておりますのよ!!」
お嬢様ブームの当時は、今よりずっとお嬢言葉を使っていた。
後ろ向きな兄に対しサーシャは強気で計画を押したのだ。 幼いとは言え商人の娘、現実主義が身についているのだけど、その時のサーシャは違った。 図書館で知り合った少し年上の少年が背中を押してくれたのだ。
「冷害は確実だと多くの人が言っているわ。 なら、同じ面積で収穫できる米や麦と同額で芋を買い取ると言う条件を出し、神聖契約を交わせばいいわ」
「そこまで言うなら……下級貴族の一般農家でうちと懇意にしている者達でいいよな?」
「えぇ、それでお願いするわ、兄様」
冷害は多くの旅人の予測通り発生し、それは五年に渡り続き、買い取った芋は上級貴族に倍の価格で販売する事が出来た事で安定した利益を獲得する事となり、五年目以降は凶作を迎えている他国を相手に商売を続けた。
安定した商売。
それはバルトルト王子とサーシャの婚姻において一気に業務を広げ拡大した。
貿易港となりえる町を一つ購入し、港を整え、町を作り上げた。 町を作れば、生活に必要な全般を取引するようになり、ソレ等の取引は当然キルシュ商会が引き受け、暮らしやすくなるための様々な整備、研究、開発、企画が行われている。
貿易のための港は未だ完成はしていないが、活用計画は商人達によって計画されている。
世間の噂通り、キルシュ商会の財産は王家を既に超えていた。
だが……国王夫婦は、王族は、その事実を知ろうともせず、何処までも息子を見下し、嫌がらせに励むばかりだった。
キルシュ商会の成長は、貴族達の嫉妬の的となっていた。
「なぜキルシュ商会が、あの馬鹿王子との婚姻を結んだんだ?」
「馬鹿王子を厄介払いするために、何か好条件をだしたのでは?」
「いや、陛下はあのような庶民を気に掛ける事は無いさ」
「そうそう、陛下はそう言う人だ」
「あぁ、恥をかけばいいと縁組を認めたと聞いているぞ」
「あの婚姻披露は悲惨だった……」
「だがな……たかが男爵家の娘を王家に娶ったと言うが、違うのは分かっているよな? キルシュ商会の躍進を考えれば逆だろう。 なぜキルシュ商会があの馬鹿王子の元に娘を嫁がせたかではないかね?」
「あれは悲惨な婚姻披露だったよなぁ。 あの馬鹿王子を夫に持った娘はどうしているのか?」
悲惨と言いながらも人々は笑っていた。
笑っていたが、それもまた本心ではない。
誰か情報を持っていないかと様子をうかがう。
人々はキルシュ商会の商売が成功し拡大し続ける秘密に興味を持ち、今なら、あの王子の機嫌をとってでもキルシュ商会との友好関係を築きたいと言うのが本音だった。 だが、王家の機嫌を損ねる事は出来ないと言うジレンマを抱えているのも事実である
他の貴族を出し抜けないか?
人々は様子を伺い、牽制しつつ、キルシュ商会を悪く言いながらも……心の中で伝手を求めた。
【大貴族リービヒ公爵令嬢の憂鬱】
大貴族リービヒ公爵家では、我先にとキルシュ商会との関係を深めようとした。
冷害のおりにプライドを優先した事で、食料難に陥り、一族の末端を利用しキルシュ商会から金を借りた。 その額は大きい……金利だけでも大きな負担になっているのが現状だ。
「なぜ、私があの馬鹿に嫁がなければなりませんの!!」
ミリヤム令嬢がヒステリックに叫ぶ。
「学友として過ごした頃、お前はあの馬鹿王子に随分と懐かれていたじゃないか」
「懐かれていた?!」
金切り声は悲鳴に近い。
「宝物を送られていただろう? お前ほどの女だ、少し興味のある素振りをすれば、あんな田舎臭い娘から男を奪いとるなど簡単な事だろう」
「ふざけないで、セミの抜け殻、蛇の抜け殻、鳥の羽根、獣臭く薄汚いものを宝だと言う子にはウンザリよ!!」
「花や宝石を貰っていた事もあったじゃないか」
「……知りませんわ!! 私は、私は、あんな馬鹿と一緒に居たくない考えただけでも気が狂いそうですわ」
そう言って身を震わせた。
本当に幼い頃だった。 バルトルト王子が二歳年上の綺麗なミリヤム公爵令嬢に興味を持ったのは五歳の頃だった。 鳥、トカゲ、蛇、セミ、トンボ、カエル、石、花、バルトルトは綺麗な物が好きで、ミリヤム令嬢に喜んでもらおうと綺麗な宝物を何度か贈っており、そのたびに怒らせていたし、怒るのも仕方がないと誰もが言っただろう。
だけれど、それ以上にミリヤム令嬢はバルトルトを嫌っていた。
あの幼さが、無邪気さが気持ち悪かった。
ジッと見つめる目が怖かった。
空気を読まず、遠慮なく疑問を聞くのが嫌だった。
馬鹿と言われてもへらへら笑っているのが、不気味だった。
嫌い嫌い嫌い嫌い!!
「嫌、嫌よ!! 嫌なの!!」
バルトルトとの婚姻を申し込んだのは、リービヒ公爵の方からだった。
バルトルトと言う存在に興味を持たない国王陛下と、バルトルトを汚点と考える王妃は、どうでもいい好きにしろと受け入れ、手続きは部下に任せた。 だから公爵が断ろうとすれば断る事が出来るだろう。
だけれど公爵は欠片も引くつもりはなかった。
「ミリヤム、お前はバルトルト王子に嫁ぐと思っているが間違いだ。 お前が嫁ぐのはキルシュ商会だ」
眉間を寄せ不満そうにするが、それでも悲鳴を上げるほどではない。
「なぜ、私があのような……下級の家に……」
「だが、その財力は王家を超えていると言われている。 下級の家にお前が嫁ぐ……お前が一番高貴な存在で、美しくて、賢い。 それが、どういう事か分かるな?」
静かに公爵が説得すれば、ミリヤム・リービヒ公爵令嬢は息を飲んだ。
【キルシュ商会の安定と躍進】
バルトルト王子がキルシュ家の娘と婚姻を果たしてから、もの凄い勢いでその事業の拡大を勧めたが、元々、その素質はあった。
旅人と言うものはその経験から気候を読める者も少なくはない。
前年度からの冬は暖かく、雪も少なかった。
占い師たちは、お日様の異常を訴えた。
隣国の火山が爆発した。
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当時のサーシャは幼かったが、幼さゆえに多くの人から色んな話を聞いた。 そして、商売に関われない事から、知識を手に入れようと王立図書館に頻繁に通っていた。
そんなある日、サーシャは家族会議で一つの提案をした。
「下級貴族の一般農家に芋の栽培を勧めるべきだと思いますわ!!」
「芋より米や麦の方が高く取引が行われるからねぇ~。 説得は難しいと思うぞ?」
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「兄様、私は真面目に言っておりますのよ!!」
お嬢様ブームの当時は、今よりずっとお嬢言葉を使っていた。
後ろ向きな兄に対しサーシャは強気で計画を押したのだ。 幼いとは言え商人の娘、現実主義が身についているのだけど、その時のサーシャは違った。 図書館で知り合った少し年上の少年が背中を押してくれたのだ。
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「そこまで言うなら……下級貴族の一般農家でうちと懇意にしている者達でいいよな?」
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