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貴方は私の特別だったわ……マティルデ。
さようなら……。
私は静かに種違いの妹に微笑みを向ける。
妹は狼狽えていた。
「お姉さま……。 どうして……」
「貴方が婚約者であるアンドレアス様を思いやる事なく、教育を与えてくれる公爵家に恩義を感じるでもなく、その財産に害を及ぼそうとしたからよ」
「そんな事……私は公爵家を思って……」
マティルデは、その視線を私からアンドレアス様へと向けた。 美しい妹に甘かった時期のあるアンドレアス様なら、ほだされてくれるとでも思ったのでしょうか?
ショックで呆然とした妹は、まるで生気が抜け落ち人形のように見えました。 公爵家が受けた損害を考えれば、どれほど繊細で儚げな美貌を持ち合わせていても、相手をする者等は居ないでしょう。
いえ……ここで、相手をするような者がいたなら、私は最後の恩情を持って妹に逃げるべきだと伝えましょう。
「貴方はもう終わったの、すぐに公爵家から出て行きなさい」
これは、公爵家で未来の妻を発表する場でした。
妹は婚約者の自分が、盛大なお披露目の主役になれると考えていた事でしょう。 ですが、実際は公爵家と縁のある者達に、妹マティルデの持つ問題点を突きつけ、コレでもう縁は無いのだと、公爵家の身内だと思ってくれるなと伝える場だとなった。
妹は未だ理解しない。
「アンドレアス様」
妹は愛らしい唇を微かに開き……切ない声で名を呼ぶ。
私はただそれだけで腹が立ったけれど……夫を立てる未来の妻として、夫日違う貞淑さをしめすべく、私は震えながら公爵の背に隠れようとした。
消え入りそうな憐れみを誘う声。
香り立つように甘く切ない。
アンドレアス様は、震える私の肩に手を回し、引き寄せ、抱きしめてくれました。 それでも私は、今まで私から全てを奪った妹との過去を思い出して酒案を感じるのです。
「アンドレアス様……」
私が名を呼べば、明らかに違う視線が向けられホッとした。
「カトリーヌ、心配はいらない」
「私を、可愛いと愛していると言ってくれたのは、嘘だったのですか?」
「嘘ではありません。 カトリーヌが貴方を大切にし可愛がっていると同じように私も貴方を可愛がっていたに過ぎません。 それを、貴方が勘違いした。 それだけの事です。 私は弱い貴方に同情しただけです。 繊細で壊れ物のような貴方を愛する事などできません。 貴方は繊細な装飾品であり飾り物でしかありません。 私にとっては生きているカトリーヌこそ意味がある!! それに、貴方は公爵家に損害をもたらした。 もしカトリーヌが助けて欲しいと願わなければ、その損害を賠償すべく売り払っていた所だ」
ボンヤリとした様子のマティルデは、どこまでも儚げで透明で……天使、妖精、聖女と呼ばれるに相応しい姿で楚々と泣き出す。 それでも公爵は心を揺らす事は無かった。
「君には感謝している。 運命の相手……カトリーヌと出会わせてもらったのだから。 君との日々は、穏やかで……まるで生まれ変わったかのような日々だった。 だが、それは偽りの私……怖かった……君が恐ろしかった。 君の機嫌を取るように私が塗り替えられていく……それがどれほど恐ろしかったか!! 君には理解できないだろう」
妹、マティルデの涙に濡れた瞳に見つめられたゲーデル公爵……アンドレアス様は狼狽えていた。 私はその心の揺らめきが不安でアンドレアス様に縋りつきたい思いに駆り立てられたのです。
アンドレアス様は私を選んでくれた。
その瞬間すら私は恐怖を感じずにはいられません。
だって……妹マティルデは幼い頃から何時だって私の全てを奪っていったのですから。
「ど、う、して……なんですか?」
幼い動作で涙を拭えば、アンドレアス様は一瞬息を飲んだ。 だけれど……彼は次の瞬間には厳しい顔を露わにした。
「私は君が成長してくれると信じていた。 心も、身体も、そして公爵家に相応しい教育を受ければ相応しい人間になってくれると思っていた。 君は……公爵の妻に相応しくない……。 幼い子供のように遊ぶばかり、私の婚約者となったと言うのに王子に色目まで使い恥をかかせてくれたそうじゃないか」
「それは!! 違います。 ただ、少しお話をしただけです。 それに私は、それほど酷い事をしたでしょうか?」
「君はこの高貴な公爵家を理解する事が出来なかった。 公爵家の未来の妻としての役割を何一つ行わなかった」
その言葉にマティルデは薄く笑っていた。 嫌な子だ……美しい見た目に反して、なんて意地悪なのでしょう。 この子は……昔からこういう所がある子だった。
「そう……それで、お姉様と関係を持って満足だったとおっしゃるのですね」
「マティルデ!!」
私は品の無い言葉に、思わず叫んだ。
「お姉さま、大きな声を出さないで怖いわ」
「また、そのように幼さを振りかざして!! 貴方の言葉が公爵様にどれほど恥をかかせるのか分かっているのですか!!」
「そうやって、他者を落とし、自分を上げようとする……そんな事をせず、自分を磨きなさい。 貴方がカトリーヌより優れているのは外見だけなのですよ!! 貴方言葉、一言一言が貴方自身を貶める事になる事を理解しなさい。 もう一度言います。 私はカトリーヌを愛しているのです。 彼女こそが私の唯一の人なのです」
「そうですか……。 そこまで言ってお姉さまを選んだのですから大切にしてやってくださいね」
「当たり前だ。 もう二度とカトリーヌに近寄るな」
「約定でも残しましょうか?」
自棄になったかのように吐き捨てるような言葉。
「あぁ、そうしてくれるとありがたい。 何しろ、彼女は、カトリーヌは私の子を身籠っているのですから」
驚いた顔をし妹は、私をジッと見つめた。
「そう……おめでとうございますお姉さま。 お幸せに」
そうして妹マティルデは、彼女のための婚約披露であった場を後にした。 残された私は、アンドレアス様の妻として、未来の小公子の母として祝福を受けた。
私は微笑む。
今まで妹に奪われ続けていた日々はこれで終わったのだと……。
さようなら……。
私は静かに種違いの妹に微笑みを向ける。
妹は狼狽えていた。
「お姉さま……。 どうして……」
「貴方が婚約者であるアンドレアス様を思いやる事なく、教育を与えてくれる公爵家に恩義を感じるでもなく、その財産に害を及ぼそうとしたからよ」
「そんな事……私は公爵家を思って……」
マティルデは、その視線を私からアンドレアス様へと向けた。 美しい妹に甘かった時期のあるアンドレアス様なら、ほだされてくれるとでも思ったのでしょうか?
ショックで呆然とした妹は、まるで生気が抜け落ち人形のように見えました。 公爵家が受けた損害を考えれば、どれほど繊細で儚げな美貌を持ち合わせていても、相手をする者等は居ないでしょう。
いえ……ここで、相手をするような者がいたなら、私は最後の恩情を持って妹に逃げるべきだと伝えましょう。
「貴方はもう終わったの、すぐに公爵家から出て行きなさい」
これは、公爵家で未来の妻を発表する場でした。
妹は婚約者の自分が、盛大なお披露目の主役になれると考えていた事でしょう。 ですが、実際は公爵家と縁のある者達に、妹マティルデの持つ問題点を突きつけ、コレでもう縁は無いのだと、公爵家の身内だと思ってくれるなと伝える場だとなった。
妹は未だ理解しない。
「アンドレアス様」
妹は愛らしい唇を微かに開き……切ない声で名を呼ぶ。
私はただそれだけで腹が立ったけれど……夫を立てる未来の妻として、夫日違う貞淑さをしめすべく、私は震えながら公爵の背に隠れようとした。
消え入りそうな憐れみを誘う声。
香り立つように甘く切ない。
アンドレアス様は、震える私の肩に手を回し、引き寄せ、抱きしめてくれました。 それでも私は、今まで私から全てを奪った妹との過去を思い出して酒案を感じるのです。
「アンドレアス様……」
私が名を呼べば、明らかに違う視線が向けられホッとした。
「カトリーヌ、心配はいらない」
「私を、可愛いと愛していると言ってくれたのは、嘘だったのですか?」
「嘘ではありません。 カトリーヌが貴方を大切にし可愛がっていると同じように私も貴方を可愛がっていたに過ぎません。 それを、貴方が勘違いした。 それだけの事です。 私は弱い貴方に同情しただけです。 繊細で壊れ物のような貴方を愛する事などできません。 貴方は繊細な装飾品であり飾り物でしかありません。 私にとっては生きているカトリーヌこそ意味がある!! それに、貴方は公爵家に損害をもたらした。 もしカトリーヌが助けて欲しいと願わなければ、その損害を賠償すべく売り払っていた所だ」
ボンヤリとした様子のマティルデは、どこまでも儚げで透明で……天使、妖精、聖女と呼ばれるに相応しい姿で楚々と泣き出す。 それでも公爵は心を揺らす事は無かった。
「君には感謝している。 運命の相手……カトリーヌと出会わせてもらったのだから。 君との日々は、穏やかで……まるで生まれ変わったかのような日々だった。 だが、それは偽りの私……怖かった……君が恐ろしかった。 君の機嫌を取るように私が塗り替えられていく……それがどれほど恐ろしかったか!! 君には理解できないだろう」
妹、マティルデの涙に濡れた瞳に見つめられたゲーデル公爵……アンドレアス様は狼狽えていた。 私はその心の揺らめきが不安でアンドレアス様に縋りつきたい思いに駆り立てられたのです。
アンドレアス様は私を選んでくれた。
その瞬間すら私は恐怖を感じずにはいられません。
だって……妹マティルデは幼い頃から何時だって私の全てを奪っていったのですから。
「ど、う、して……なんですか?」
幼い動作で涙を拭えば、アンドレアス様は一瞬息を飲んだ。 だけれど……彼は次の瞬間には厳しい顔を露わにした。
「私は君が成長してくれると信じていた。 心も、身体も、そして公爵家に相応しい教育を受ければ相応しい人間になってくれると思っていた。 君は……公爵の妻に相応しくない……。 幼い子供のように遊ぶばかり、私の婚約者となったと言うのに王子に色目まで使い恥をかかせてくれたそうじゃないか」
「それは!! 違います。 ただ、少しお話をしただけです。 それに私は、それほど酷い事をしたでしょうか?」
「君はこの高貴な公爵家を理解する事が出来なかった。 公爵家の未来の妻としての役割を何一つ行わなかった」
その言葉にマティルデは薄く笑っていた。 嫌な子だ……美しい見た目に反して、なんて意地悪なのでしょう。 この子は……昔からこういう所がある子だった。
「そう……それで、お姉様と関係を持って満足だったとおっしゃるのですね」
「マティルデ!!」
私は品の無い言葉に、思わず叫んだ。
「お姉さま、大きな声を出さないで怖いわ」
「また、そのように幼さを振りかざして!! 貴方の言葉が公爵様にどれほど恥をかかせるのか分かっているのですか!!」
「そうやって、他者を落とし、自分を上げようとする……そんな事をせず、自分を磨きなさい。 貴方がカトリーヌより優れているのは外見だけなのですよ!! 貴方言葉、一言一言が貴方自身を貶める事になる事を理解しなさい。 もう一度言います。 私はカトリーヌを愛しているのです。 彼女こそが私の唯一の人なのです」
「そうですか……。 そこまで言ってお姉さまを選んだのですから大切にしてやってくださいね」
「当たり前だ。 もう二度とカトリーヌに近寄るな」
「約定でも残しましょうか?」
自棄になったかのように吐き捨てるような言葉。
「あぁ、そうしてくれるとありがたい。 何しろ、彼女は、カトリーヌは私の子を身籠っているのですから」
驚いた顔をし妹は、私をジッと見つめた。
「そう……おめでとうございますお姉さま。 お幸せに」
そうして妹マティルデは、彼女のための婚約披露であった場を後にした。 残された私は、アンドレアス様の妻として、未来の小公子の母として祝福を受けた。
私は微笑む。
今まで妹に奪われ続けていた日々はこれで終わったのだと……。
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