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小魚、旅に出る

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「おぉ……。ナイス踊り食いアタック」

「違うんですけど!?」

 ピチピチとみじめに跳ねながら川に戻っていると、リズが感心したように言葉を漏らした。
 内心皮肉的に思ってたけど、他人に言われるのは話が違うのだ。

 跳ねながらようやく川に戻ると、なんとなく安心感を覚えた。
 ふぅ、やはり水は落ち着くぜ。

 ここ数時間水での生活が続いたせいですっかり魚根性が染みついてしまった。


「ねぇ、あのクマドロップ品落としたみたいだよ」

「お、拾ってくれ。俺はみずから出たくない」

 水面から顔を出してさっきまでクラッシュベアがいた場所を覗く。
 そこには、真っ白で大きな牙が落ちていた。

 リズはそれを拾い、こちらに持ってきてくれた。

「意外と悪くないね。そういえば、ウィズは装備とかどうしてるの? 全裸じゃん」

「私は全裸。装備はまだない」

 悲しいことに未だに所持金0。装備なしのド底辺状態だ。
 数時間やってこの状況は普通ありえないことが、今の俺の現実になってしまっている。

「う、嘘でしょ? 装備とかこれからどうするつもりなの?」

「そもそも魚用の装備があるのかすら謎だよ。この先一生装備なしの未来すら考えてる」

 もし、魚用の装備があるならつけてみたいものだ。
 ちょっと武骨にはなるだろうが、今の状態よりは絶対マシのはず。

「それなら、1個私に思いくつところがあるんだけど一緒に行かない?」

「一緒に行ってくれるのはありがたいけど、俺は御覧の通り地上はほとんど動けないぞ」

「分かってるよ。私が行ってみたいって思ってたけど手がでなかったところなんだ。でも、ウィズがいれば行けるんだよね」

 リズが一人で行けなくて、俺がいれば一緒に行けるところってどんなところだ?
 少し頭を捻って考えてみたけど、俺の頭に該当するものは一つも出てこなかった。

 少なくとも、地上ではないのは確かだが。
 俺の様子をみてピンと来ていないのが分かったのか、リズが言葉を続ける。

「この川を少し下ると海が広がるんだけどさ、海の底に城があるって話なの」

「俺亀じゃないけど、浦島太郎スタイルでもやるつもりなのか?」

「まぁ、なんとかなるんじゃない? ならなかったらその時考えよう」

 つまり、リズは自分一人では海の底までは移動できないから俺を足に使って海中にある城に乗り込むってことらしい。竜宮城があるなんて話は一度も聞いたことなかったけど、リズはどこでそんな情報つかんできたんだろう。

「分かった。水の中にある城なら俺に合ったアイテムなんかも獲得できるかもしれないしな。一緒に竜宮城に行こう」

「よしっ。乗り気で良いね! 一回一人で挑戦したんだけど、種族が堕天使だとそこまで行けなかったの。本当に都合よく遭遇した」

「もう一回試してたのか。それじゃ場所もはっきりしてそうだし、さっそく向かうか?」

「行っちゃおー! 本当に川を下るだけだし、ついさっき行ってきたばかりだから場所はばっちりだよ」

 リズの案内に従って、俺は一緒に川を下った。

 ◇

「おぉ、これが海か」

「なんか魚視点だと色々違って見えそうね」

「開放感がすごい。初めて飛行機に乗った時みたいだ」

 川を下ること5分。
 俺達の目の前にはゲーム世界とは思えないほど巨大な海だ。
 あまりにひろすぎて先は見えず、青い海がどこまでも広がっている。

 何処までいけるのか試したくはあるが、今の俺の目的はそこではない。

「それで、どうやって竜宮城まで行くつもりなんだ?」

 俺のサイズはまだ50センチ程度で、人を乗せて動けるようなサイズではない。
 俺を使って移動するのは良いが、方法が分からなかった。

「ウィズのことを掴むから、なんとか泳げない?」

「え”っ。で、出来るか分からんぞ。それに、モンスターに襲われたらどうするんだ」

 手で俺を掴んで、俺はリズを引っ提げて深くまで泳ぐってことか。
 俺はモーターか何かかな?

 でも、そうするとモンスターが襲ってきたときはどうするのか。
 モーターになっている以上俺は攻撃している場合じゃないし、連れて移動している以上移動速度は落ちてるはずだ。モンスターから逃げきれない可能性が高い。

 リズは炎攻撃で水中では使えなさそうだしなぁ。

「私の蒼炎は水でも燃えるよ? ウィズは一直線に竜宮城を目指してくれれば良いから」

「そりゃ面白い。ならひと泳ぎしよう」

 少し水深が深くなるところまで泳ぎ、俺のことをリズががしりと掴む。
 準備が出来たところで海の中を覗いて見ると、モンスターがうようよいるのが見えた。

「よし、行くぞ!!!」

「れっつごー!!」

 地獄のモーターレースが今始まる。
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