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第4章 竜と思ったらトカゲだった
11-1 3匹目がやってきた
しおりを挟む「何だ!?」
突然の振動に、窓から外の様子を確認する。
「なっ……」
目に入った光景に絶句する。
隣の部屋が、砲弾でも撃ち込まれたように陥没していた。
バサッ、と鳥にしては大き過ぎる羽ばたきが聞こえた。
「竜?! こんな街の中に……」
見ると、灰色の竜がアパートの上空を飛んでいた。
優雅とすらいえる仕草で羽ばたく度に、大小の瓦礫や粉塵が地上に降り注ぐ。
今の衝撃は、この大きな獣が隣の部屋に体当たりを仕掛けたに違いない。
一歩間違えれば、命はなかった。
一気に冷や汗が滝のように背中を伝う。
曇天のような灰色の鱗を持つドラゴンが、青々しい両眼を動かした。
誰かを捜している。
(カルマか……?)
昼の一件を思うとその可能性が高い。
アパートの正面上空に停止するドラゴンの視界に入らないよう身を低くして窓の外を窺う。一発目のアタリが外れたのは不幸中の幸いだ。
「ありゃあアンタの知り合いか?」
「知り合いかどうかは知らんが、おそらくは聖域の……」
言いながら、同じように身を低くして窓から竜を見上げた青年の表情が凍り付く。
「貴様は……あの時の!」
「お、おい! 待てって、そこ、窓……!」
声を上げ、ドラゴンの浮かぶ通りへと飛び出そうとするダークナイトを止めに入る。
だが予想外の怪力で引っ張られ、そのまま窓から引きずり出された。ここは2階だ。
「うおっ?!」
「むぎゅ」
当たり前だが着地の体勢が悪く、鈍い音を立てて落ちたデュークの下敷きになり竜の化身が呻いた。
「痛ってぇ~……くそっ。てめ、もっと後先考えて行動……」
「どけ。重い」
クッション代わりになった青年が不機嫌に命じる。
「あんた、まだ兄貴のほうか?」
「だからなんだ」
立ち上がり、割れた眼鏡を胸ポケットにしまい込んだ兄竜は一顧だにせず答えた。
「いつまでも占領して、弟の許可は取ったのかよ?」
「これは私の器でもある。危険な局面をあんなどんくさい男に任せていられるか!」
「……ごもっとも」
ぎんっと睨みつけられ、デュークは大人しく賛同した。
元の造作が綺麗すぎる分、本気で睨まれるとやたら迫力がある。
「避けろ」
「うわっ?!」
唐突に胸を突き飛ばされ、デュークは道脇のゴミ箱に背中からダイブした。さっきから散々だ。
先ほどまでいた場所を竜の吐息が直撃する。
炎の残滓が服を掠め、皮膚の露出した部分に焼けるような熱さを感じた。
デュークを突き飛ばしたと同時に反対方向に飛んで避けたダークナイトが立ち上がり、攻撃を仕掛けてきた灰竜を睨みつける。
ボゥ、とその身体が白い輝きを帯びた。
「待て! こんな街中で竜になるな!」
察し、慌てて制止する。それでなくとも白竜の身体は桁外れに大きい。あの姿で暴れられたら、街の一角が潰れてしまう。
「知るか! そんなもの……」
振り払おうとしたダークナイトの声が途切れる。
その間にも、灰竜は大きく翼を羽ばたかせ上空へと逃亡した。
「ふん、仕方があるまい」
どうやら弟に説得されたらしい。しぶしぶ頷いた兄は、進路を変更しデュークへと駆け寄った。
「来い人間」
「何で!?」
襟首を掴み、強引に引きずっていくダークナイトに抗議する。
「ヤツの狙いは貴様かもしれないからだ」
「何で俺がドラゴンに狙われるんだよ!?」
「貴様がシグルドの末裔だからだ」
「……っ」
嫌な言葉だ。デュークの感情などお構いなしに、川辺まで走ったダークナイトが空を見上げ告げた。
「飛ぶぞ」
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