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本編

初めての大きな仕事

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 歓迎会でのやらかしから相当の時が過ぎ、季節は初夏。

 私こと森島茜は研修で色んな部署で色んな仕事をしながら数か月を過ごしていた。

 そんな日々が続いてた時、ベテラン刑事の月島さんに連れられて麻薬取引が行われるという現場の前で張り込みをしていた。

「手に入れた情報によると、今回購入者と取引しに来るのは清水組の組員らしい。捕まえたら清水組にトドメが刺せる」

「す、凄い大仕事じゃないですか・・・どうしてそんな時に新人の私を?」

「逮捕に練習なんて無いんだよ。実際に捕まえて経験値積むだけ」

「それは・・・そうですけど」

「大丈夫。他にも仲間は待機してるから。500m先のビルの屋上にスナイパーもいるし」

「中村さんですか?」

「いや、豊田だ。中村は別件で東京にはいない」

「そうだったんですか・・・」

 日が落ちてからどのくらいたっただろうか。私と月島さんは日が落ちる少し前から張り込みをしていたが、それらしい人物は一向に現れず、時刻は1時を回っていた。

時々怪しい男や妙に派手な恰好をした女が現場を横切るが、それらの人達は何もせずに通りすぎていく。

 もしかしたら事前にバレてしまってここにはこないのかもしれない。もしくは嘘の情報をつかまされたのかもしれない。

 勤務中なのでスマホを使って暇を潰す事ができずに数時間。ようやっとそれらしき坊主頭に黒いスーツを着こなした男が現れた。

「月島さん!」

「落ち着け。まだヤクを持ってるとは限らねぇ。ヤツがヤクを手に出すまで待機だ。良いな?」

「分かりました」

 焦ってはいけない。張り込みはどこまで辛抱強く待てるかが成功の鍵となる。せっかちな私にはとてもじゃないが向いていない。早く慣れたい物だ。

 坊主頭の男はキョロキョロと周りを見渡しながら数分。歯が数本抜けたいかにもな男が覚束無い足取りで坊主頭の男に近づいてきた。

「ビデオは回ってる?」

「はい。バッチリです」

 逃がした場合に備えてビデオカメラも設置している。

 後は坊主頭の男が麻薬を手元に出せば出動して捕まえる事ができるのだが、坊主頭の男はいかにもな男と揉めているようで中々ヤクを出してはくれない。

「ヤク欲しいけど金はないパターンだな」

「その場合はどうなるんです?」

「ぶちギレて帰るか、または────」

 しばらく揉めていると、坊主頭の方は内胸ポケットからL字の黒い物体を取り出して先端をいかにもな男に向ける。

 夜遅く光源の少ない闇の中でも分かる。坊主頭の男が出したのは拳銃だった。

 月島さんはそれを予期していたかのように持っていた拳銃を手に取り、私に目配りをする。

「脅して金を持ってこさせるかのどっちかだ。行くぞ!!」

「は、はい!!」

  私も急いで銃を取り出し安全装置を外して坊主頭の男へと近づく。

「動くな!!警察だ!!」

「チィッ!!来るな!!来たら殺す!!」

「月島さん!どうします!?」

「銃を下げずにずっと向けていろ!!」

「銃も下げろや!!コイツの脳みそぶち撒かれたいんか!?」

「お前の方こそ脳漿をアルファルトに撒かれたいようだな!」

「俺はどうなっても構わねぇ!!捕まったらどうせサツに情報吐いちまうだろうからな!!」

「ひ、ひぃぃぃ!!」

 坊主頭の男は眼が血走っており、正気とは思えなかった。常に引き金に指をかけており、いつ撃ってもおかしくはない。

「お前自分の命が惜しくないのか!?」

「とっくの昔に死んでたはずの命さ!!今死んでも別に構わねぇ!!」

「もっと命を大切にしろっ!!」

「命よりも情報吐く方が嫌だって事がどうして分からないんだ!!頭沸いてんのかワレェ!?」

 ついには銃口を自分のこめかみに当て、引き金を引こうとする始末。それを止めたら次は取引をしようとしていた男が、それを止めたら自分にこめかみに銃口が。無限ループのように同じことが繰り返しされる。

 今はまだ引き金を引いてはいないが、いつ引いてもおかしくない状況に冷や汗が止まらない中、私は嫌気が刺して銃口を坊主頭の拳銃へとこっそり向ける。

「もういい加減にして欲しい!!月島さん!私ほ撃ちますよ!!」

「待てっ────!!」

「待ってたらますます取り返しがつかなくなる!!」

 月島さんの制止を言葉で押し退けて私は引き金を引き、銃弾を発射する。

 普段腕を鍛えている事、銃の訓練をしっかりと受けていた事もあってか、放たれた銃弾は曲がらず真っ直ぐと狙った場所へと飛んでいき、坊主頭の男の拳銃へと命中した。

「あだっ!?」

 銃弾がぶつかった坊主頭の男の銃はアスファルトの地面を滑っていき、男の武器は何も無くなった。

「チィ!糞が!!」

「今だ!!確保ーー!!」

 月島さんは銃を坊主頭の男に向けながら近付き、拘束。男は死んでも構わないと言っていたわりに銃を構えた月島さんが近づいてくると、素直に手錠をかけられ、近くで待機していた覆面パトカーに乗る。

「あと、貴方もね」

「ひひ・・・見逃してくれないの?」

「尿検査で陰性だったら解放してあげるわよ」

「ひひ・・・ああ、ヘタこいた」

「精々豚箱で薬物以外の生き甲斐を見つけなさーい」

 2人の男が入れられると覆面パトカーは警察署に向かって走っていった。これで全て解k────。

「茜君」

 声色の低い月島さんの声が背後から聞こえてくる。何故声色が低いのかは自分が一番良く知っている為、素早く後ろを振り向いた瞬間に頭を下げる。

「・・・あの、すみませんでした。勝手に銃を撃ってしまって・・・」

「俺の指示を聞かなかったのは叱るべきだが・・・狙い通りの箇所に当てたのは誉めるべきだな。素晴らしかったぞ」

「あ・・・ありがとうございます!!」

 月島さんの口から出てきたのはお叱りの言葉ではなく、褒め言葉だった。叱られるとばかり思っていた私は少しの時間フリーズする。

「というわけでプラマイゼロ。俺は君の事を叱らない。けど、注意はしておく。今回上手く出来たからって次も上手く行くとは限らない。銃は簡単に命を奪える悪魔の武器だ。細心の注意を払って使いなさい!」

「は、はい!!」

 この日、私は上機嫌で家に帰って快眠を貪るのだった。
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