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5年後

エルフの国にて・・・

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『Deyaaaaaaaaa!!』

 エルフの国の近くの森。普段は植物と物静かな魔物しかいない森に悪魔の叫び声が響く。

 悪魔は氷の魔術によって身動きが取れない状態となっていた。

 そこに背丈の低い女性と雷の剣を携えた30代の騎士が現れる。

「残念だったねー中級悪魔ちゃん。この天才魔術師とエルフ最強の騎士に出会っちゃうとは。まあ、悪ささえしてなければ出会うことはなかったと思うけど」

 この中級悪魔はかなりエルフの国でやらかしてしまったのだ。主に墓を荒らしたり、老人を襲って殺人未遂を行うなどだ。

 そんな時にこの葵と王国から退治を命じられたリズベルが手を組んでここまで追い込んだのだ。

「リズベルさん。やっちゃってください!」

「助太刀助かった」

 リズベルは葵に一言お礼を言うと、中級悪魔の心臓めがけて雷鳴の剣をさす。中級悪魔はしばらくもだて苦しんだが、最後には絶命し、チリとなって消えていった。

「本当に助かった葵。折角エルフの国に来たんだ。私の家まで来てくれ。もてなそう。きっとマーブルも喜ぶ」

「わーい」

 リズベルさんの後についていって、かなり豪華な屋敷へと着く。どうやらここがリズベルさんのお家らしい。

 扉を開くと数人のメイドが凜とした顔でリズベルに向かってお辞儀をする。アニメで見たことある光景だ。

「あ!兄さん!お帰りなさい!それに葵まで!」

「うぃーす」

 マーブルとは3年前にエルフの国を訪れた際に共通の友達シトラで仲良くなった。前に会った時は鎧を纏っていたが、今日は纏ってはいない。よく見ると腹部が不自然に大きくなっていた。

「もしかして・・・赤ちゃん?」

「そうよ。あと3ヶ月ぐらいで生まれてくるらしいわ」

 どうやらリズベルの信頼する騎士と去年結婚したらしい。旅を続けていると情報がまったく入ってこない。歩達とは2年も会っていないし。

「それよりも兄さん。こんなのが届いたよ」

「何だその封筒は・・・?」

 リズベルはマーブルから封筒を受けとると中から1枚の紙を取り出す。その紙には達筆な字で平和記念パーティーと書かれていた。

「プリクル女王からか・・・」

「そういえばプリクルとは4年会ってないな・・・もしかして私お呼ばれされてない?」

「連絡が取れてないだけで招待状は来てるんじゃないかな?」

 そうかな・・・消息が分からないから呼ばなくていっか!とか思われていないかな・・・?

 そんな感じで不安になっていると、肩掛けバッグの中に入っている繋りの石が光り始めた。何だ何だと思いながら繋りの石を手に取り通話を開始する。聞こえてきたのは懐かしい声だった。

『もしもーし、葵?聞こえてくるかー?』

 歩だった。噂をすれば影が差すという諺をもしかするとあるかもしれない。

「うん、聞こえてるよ。どうしたのー?」

『実はさ、また6年前みたいに魔族の国で平和記念パーティーやるらしいんだけど』

「まさかピンポイントでその話題だったか・・・」

 流石は歩と言ったところだ。歩に今エルフの国のリズベル邸にいることを話す。

『そうなの!?近くにリズベルさんとマーブルさんはいる?』

「いるぞ」

「いるよー」

『あ、どうも。ご無沙汰しております』

 礼儀正しさもまったく変わっていない。姿は見えてないけど、頭を下げているのかな?

「そっちに私の招待状が来てるわけ?」

『うん。今すぐじゃなくて良いから暇な時に取りにきてー』

「明日には取りに行くよ。じゃっ!」
 
  繋りの石の通話を終了させた葵の表情は非常に嬉しそうだった。

「パーティーかぁ・・・良い男に会えるかな・・・?」

「葵はどんな男性が良いの・・・?」

「渋い人!」

 出会いも楽しみだが、何よりも楽しみなのは友との再会である。皆どんな姿になっているのだろうか?今から待ち遠しい。



 『憩いの場』が営業終了する数分前。ガランガランと鐘が鳴る。

「いらっしゃ──葵、来たわね」

 葵の姿が扉から現れた瞬間、シトラは笑顔になる。葵も自然と口角が上がっていた。

「本当に久しぶりね。2年ぶりだっけか?」

「うん、まあそんな感じ。あれ?歩は?」

「歩は自分のお師匠の所に出かけていったわ」

「あちゃー、ちょっと遅かったか!」

 「だからこれを葵に渡してくれーって」

 そう言ってシトラが渡してきたのは封筒に入った平和記念パーティーの招待状だった。招待状にはご丁寧に日本語でやまがたあおいと書いている。

「歩はいつ帰ってくるの?」

「今日の12時ぐらいには帰ってくるかな?」

「じゃあ、それまで待ってても良いかな?」

「勿論!じゃあ、恵に紹介するからこっちにきて!」

「前に会ったのは2歳の頃だっけか?多分覚えていてないだろうなー」

「その頃はまだ物心無かったしね。しょうがないわよ」

 最初は警戒されることになるが仕方がない。段々となついてくれるのを待つとしよう。



「師匠?いますかー?」

 竜の巣の奥にある小さな小屋。歩は戸を優しく叩いて中にいるカロルを呼んでいた。

「はいはい。今開けるぞー」

 ガチャリと鍵が開く音がすると、歩はドアノブに手をかけて中へと入る。中に入ると暖房の暖かさが歩の体を包んだ。

「よく来たのー歩。嫁さんと娘は元気か?」

 カロルはまるで自分のことかのように歩の妻と娘の心配をする。まだ娘に会わせてあげられていないのが本当に申し訳ない。

 最初はカロル師匠をここから出そうとしたのだが、師匠は頑なにこの竜の巣を出ようとはしなかったのだ。

 だからこうして僕が1ヶ月に一度来て料理を振る舞っているのだ。振る舞わなければずっとリザードマンの肉だけという片寄った食事になってしまうからだ。

 歩は竜殺しの剣を壁に立て掛けるとエプロンに身を包んで調理を開始した。作るのは回鍋肉。足りていない野菜を美味しく取るには最適の料理だ。

 数十分後、回鍋肉は完成し、師匠の前へと出す。師匠は白米と一緒にぺろりと平らげてしまった。2年前に白米を持ってきた時は食べてくれるか心配だったが、今では美味しそうに食べてくれる。

「ふう、美味かった・・・・歩、毎月すまんな。こんな老いぼれの為に料理を振る舞いにきてくれて」

「僕が好きで来てるんです。師匠のことが嫌いだったらきていませんよ」

「そうかそうか・・・。歩、もう一度言わせてくれないか?」

「何をです?」

「フリートを苦しみから2度も解放してくれて本当にありがとう」

 カロルは厳格な顔で頭を下げる。歩は慌ててカロルに頭をあげるように言った。

「ワシの血はこれで途絶えてしまったが、意思は残っている。君だよ、歩。どうか末長く生きてくれ」

「やめてくださいよ、師匠。今生のお別れみたいなことを言うのは」

 最近老化が進んできたのだろうか?カロル師匠は前にも増して穏やかになった。いつか恵が大きくなったらここに連れてこよう。きっと自分の孫のように可愛がってくれるはずだ。

 1ヶ月ぶりのしっかりとした料理だったからだろうか?師匠はぺろりと平らげてしまった。歩は汚れた皿を洗い終えると、エプロンを外して竜殺しの剣を腰に帯びる。

「じゃあ、また来月」

「じゃあの」

 小屋の扉を開けて歩が出ていこうとする。カロルは何かを思い出したようで出口へと向かおうとしている歩を呼び止める。

「どうしたんです?」

「最近、風の噂によると大地の竜が現れたらしい。何時お前さんの前に現れるか分からん。くれぐれも気をつけてくれ」

「大地の竜ですか・・・分かりました。みんなにも伝えておきますねっ!」

 歩は最後に笑みを称えると、出口へと向かっていった。
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