上 下
214 / 219
八章 希望の光達

化け物と化したルルド

しおりを挟む
 数十発の矢が怪物ルルドに向かって飛んでいく。

「『ウインド』!!」

 更にシトラは矢に風の魔術をかけてスピードを上げて威力向上を狙う。その速度は獅子丸の居合の速度を遥かに上回っていた。

 怪物ルルドは矢をはらおうとする素振りも避けようとする素振りも見せなかった。やがて矢は怪物ルルドへと到達する───が。怪物ルルドの鋼のような皮膚を傷つけることは不可能であった。シトラが放った矢は全て弾かれ、怪物ルルドの足元にバラバラと落ちていく。

「全っ然!矢が刺さらないんですけど!!」

「そんなものが進化した我に効くとでも?」

 巨大な手による連続叩き潰しが歩達に襲いかかる。歩達はただただ逃げまどうしかなかった。

「くっそ!誰も攻撃しないなら俺からいくぜ!!」

「ま、待て!亮一!!」

 先に怪物ルルドに攻撃をしかけたのは亮一だった。亮一は赤くなった煉獄刀を燃やして床にめり込む怪物ルルドの腕をぶった斬ろうとする。

「か、かてぇ・・・・」

 亮一の全力の一撃だったにも関わらず、怪物ルルドの身体は雀の涙程度しか傷つかず、一刀両断には至らなかった。

「失せろ。ゴミ虫」

「うぎゃ───!!」

 怪物ルルドの巨大なデコピンが亮一に命中する。デコピンがぶつかった瞬間、僅かにだが骨が砕ける音が耳に入った。亮一は壁にめり込んでいる。

「亮一ーーーー!!」

 必死に叫んで呼んだが、返事はない。死んでいないことをただ祈るのみだ。だが、亮一のお陰で怪物ルルドの情報を手に入れることができた。あの怪物、無敵というわけではないようだ。

「くそっ!また使うしかないのか・・・!!」

 歩は竜殺しの剣を構えて魔力を集中させる。灼熱の炎が刃へと宿った。

「メリア。今のうちに亮一の生死確認を頼む!!」

「わ、分かりました・・・!!」

 灼熱の刃はやがて炎の渦を形成し、天井まで届くものとなった。

「ドラゴブレイクか。前世の我はそれを喰らって多大な損傷を受けたが、今の我ならどこまで耐えられるかな?」

「知らん────『ドラゴブレイク』!!」

 果たして竜の鱗をも溶かす炎は放たれた。怪物ルルドは抵抗することなく、ドラゴブレイクの炎へとぶつかる。

「うぉおおおおおお!!」

 歩のドラゴブレイクを喰らった怪物ルルドは炎の中で悶え苦しみ、うずくまる様子を見せたが、死んでいるようには見えなかった。

 やがて怪物ルルドを包む炎は消える。怪物ルルドは多少ふらつきながらも立ち上がった。

「ははっ!耐えるぞ!耐えられるぞ!この身体!素晴らしい!実に素晴らしい!!」

 怪物ルルドは傷つきながらも立ち上がったのだ。歩は唖然としてしまう。自分が持っている中の最強の技が攻略されてしまった。その事実に対して歩は恐怖を覚える。

 こいつ怪物ルルドには、決定打を与えることは不可能───。そう思ってしまうくらい歩は絶望した。

「お、おしまいだ・・・」

 絶望し、呆然と棒立ちする歩とは裏腹に怪物ルルドはまさに気分は右肩上がりであった。前世で散々苦しめられた技を完璧とは言えないが、克服することに成功したのだ。嬉しいという感情以外湧かないだろう。

 怪物ルルドにはもう1つ気になることがあった。歩が絶望している隙に実行に移す。

「『フレイム』」

 魔術を使うと、いつもより2回り程大きな炎の玉が形成される。

「素晴らしい・・・!!身体だけでなく、魔力の燃費も良くなるとは・・・!!」

 怪物ルルドはしばし炎の玉を見て、歩達に向かって飛ばした。速度は変わらず、速い。

「「『シャイニングシールド』!!」」

 歩と葵は急いで光の盾を張る。光の盾は完璧にできていた。しかし、怪物ルルドが放った炎の玉は無情にも二人の光の盾を悉く破壊した。

「まずい────」

 リズベルは葵と歩を抱えてその場から離れる。炎の玉は歩達を追いかけずに床に衝突した。炎の玉の威力はすさまじく、王の間の床を破壊してしまった。

「うわぁあああああ!!」

 リズベルは歩と葵を抱えて1階に落下する。王の間の真下はかつて平和記念パーティーを開催した大広間であった。

「あがっ───!!」

 リズベルは二人を抱えたまま床に落下に腰に大きな損傷を負う。メリアは聖なる力で作った天使のような羽でパタパタと飛んで難を逃れたようだ。

「リズベルさんっ!!」

「す、すまない・・・腰が・・・」

 歩はすぐさま立ち上がってリズベルに肩を貸して立ち上がらせる。すると、時間差で王の間の壁にめり込んでいた亮一が落下してきた。

 歩はリズベルのようにはさせまいと落下地点で待ってしっかりとキャッチする。

「サンキュー・・・」

「何てことはない。それよりも・・・」

 歩は怪物ルルドに視線を向ける。怪物ルルドは自分の強化された力を完全とまではいかないが大体は理解してしまったようだ。

「素晴らしいぞ・・・素晴らしいぞ・・・!!」

 自分の強さを理解してしまった敵ほど厄介なヤツはいない。3年以上の戦いで自然に学んだことだ。

「だが・・・この城では窮屈だ・・・」

 怪物ルルドは僕らそっちのけでなにやら頭を回し始めた。今の一言からあまり良い予感はしない。

「一度壊して新たに城を作るとしよう」

  怪物ルルドは左手の平に半径1mの大きさの黒いおぞましい玉を形成する。みたことの無い魔術であったが、直感が教えてくれた。あの魔術はやばいと。

「皆!逃げろぉぉ!!」

 皆が察知していたようで僕が叫ぶと城の外へと走っていく。だが、外に出たとしてもここ魔王城は空中。ワイバーンも元の場所へと戻してしまった為、足がない。

「わ、私に任せてください・・・!!」

 名乗り出てきたのはメリアだった。彼女は天に向かってお祈りを捧げると背中に先程の羽よりも巨大な大天使のような羽が生えてきたのだ。

「私に捕まって下さい・・・!!」

「だ、大丈夫なのか・・・?」

 成人した男性3人と女性が2人いるのだぞ?それをか弱い修道女が持ち運べるのか?

「なるべく私にしがみつくようにしてください!!そうすれば地上までは何とか」

「分かった」

 歩達はメリアの腹部や足にしがみつくと、メリアは全員しがみついたのを確認して大空へと飛んでいった。

 総重量300キロはあるにも関わらずメリアは地上に向かってゆっくりと下りていった。

 その数分後であった。歩達がつい先程までいた魔王城の空飛ぶ地が吹き飛んだのだ。間違いなく怪物ルルドが先程使った魔術で。

「やっぱりか・・・」

 歩は自分の直感に感謝する。もしも鈍かったら魔王城と共にチリとなっていただろう。

 これで怪物ルルドも死んでいたら良いのだが───。

「アイツ・・・飛んでるぞ・・・!!」

「背中に僅かだけど小さな羽が生えてた。多分それで飛んでんだと思う」

 ルルドは瓦礫や土のホコリをかき分けて歩の視線へとその姿を現した。爆発に巻き込まれたにも関わらず、まったく傷ついていない。魔術は自分が行使した物でも身体は傷つく。あの威力の魔術から命を守る皮膚は恐ろしく硬い。

「あんな皮膚、どうやって破壊したら・・・」

「ラグドさんから借りた勇者の力で何とかならないのか・・・?」

「多分無理だ。僕が使う勇者の光はドラゴブレイクよりも弱い」

 何か良い手はないのか・・・。思考を繰り返し行う。今まで培ってきた知性、努力全てを振り絞って考える。過去現在の出来事からも引っ張りだす。

 思い出を引き出していると、ある一言が僕の頭の中に流れてきた。本当にさっきの記憶だ。

『ハッ!その程度か!!情けない・・・ラグドの勇者の一撃はこんな物ではなかったぞ!!』つい先程ルルドが僕に向けて放った言葉だ。この言葉には侮辱ではない他の意味があったのではないかと考える。

 僕は勇者の力を使う時に何処を集中させた?全てだ。全ての臓器、筋肉に集中して放っていた。それでもラグドさんのようには使えていなかった。

 それは自分が使いこなせていないからと勝手に考察していたが、それは違うのではないのか?まだ集中するべき部位があったのではないのか・・・?

 駄目だ。どう思考を回しても思い付かない。誰か知っていそうな人物は──いた!!

「メリア。ラグドさんから勇者の力の使い方のコツとか教えてもらってないか?」

「ええっ?勇者の力の使い方・・・もしかしてあれかな?」

 孫のメリアなら知っているのでは?と一か八かで聞いてみたが、なにやら知っているようだ。地上に着くまでは流石のルルドも何もしてはこないだろう。話を聞いてみることにした。

「お祖父ちゃんの奥義の『シャインブレード』は知ってるますよね?私小さい頃お祖父ちゃんにどうやって使っているのか聞いてみたんです」

「そうか!!シャインブレードも勇者の力で打っていたのか・・・!!」

 魔力の気配がしたのは勇者の力と同時に魔力も使っているからなのだろう。それ故に広範囲で高火力の技が出せたのだ。

「全身と心を集中させるらしいですよ」

「全身と心・・・?でも、心臓に集中はしているぞ?」

「心臓じゃないんじゃない?例えば魂とか?」

シトラの発言で頭の中で何かが繋がる。そうだ。ラグドさんから借り受けた勇者の力は元々ラグドさんの魂の紐つけられていたもの。

 今僕が勇者の力の所有者ならば、勇者の力の根源は内臓の何処かではなく、魂にあるのではないのだろうか?

「そういうことだったのか・・・でも、魂に集中を込めるにはどうしたら・・・」

 内臓ならまだ辛うじて感じとることができる。魂は生憎物質ではない。脳に宿る人間の力の源だ、とラグドさんは教えてくれた。ただ、脳に集中を注いだとしても魂に集中は注ぐことはできないだろう。

「なあ、歩。ステータスカードって確か魂を強化して身体能力を向上させる物だったよな?」

「確かそうだったね・・・・そうか!ステータスカードか!流石だよ、亮一!」

 つまりはだ。魂に繋がっているステータスカードに集中を注げば自然と魂に集中を注ぐことができるのではないのだろうか?

 幸いなことにステータスカードは意識すればすぐに出も物質化することができる。内臓に集中を注ぐことよりも簡単だ。

「行ける・・・!行けるぞ!!」

「よっしゃ!やったろうぜ!!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南
ファンタジー
 え、冴えないお父さんが異世界の英雄だったの?  私、村瀬 星歌。娘思いで優しいお父さんと二人暮らし。 お父さんのことがが大好きだけどファザコンだと思われたくないから、ほどよい距離を保っている元気いっぱいのどこにでもいるごく普通の高校一年生。  仲良しの双子の幼馴染みに育ての親でもある担任教師。平凡でも楽しい毎日が当たり前のように続くとばかり思っていたのに、ある日蛙男に襲われてしまい危機一髪の所で頼りないお父さんに助けられる。  そして明かされたお父さんの秘密。  え、お父さんが異世界を救った英雄で、今は亡きお母さんが魔王の娘なの?  だから魔王の孫娘である私を魔王復活の器にするため、異世界から魔族が私の命を狙いにやって来た。    私のヒーローは傷だらけのお父さんともう一人の英雄でチートの担任。  心の支えになってくれたのは幼馴染みの双子だった。 そして私の秘められし力とは?    始まりの章は、現代ファンタジー  聖女となって冤罪をはらしますは、異世界ファンタジー  完結まで毎日更新中。  表紙はきりりん様にスキマで取引させてもらいました。

世界を滅ぼす?魔王の子に転生した女子高生。レベル1の村人にタコ殴りされるくらい弱い私が、いつしか世界を征服する大魔王になる物語であーる。

ninjin
ファンタジー
 魔王の子供に転生した女子高生。絶大なる魔力を魔王から引き継ぐが、悪魔が怖くて悪魔との契約に失敗してしまう。  悪魔との契約は、絶大なる特殊能力を手に入れる大事な儀式である。その悪魔との契約に失敗した主人公ルシスは、天使様にみそめられて、7大天使様と契約することになる。  しかし、魔王が天使と契約するには、大きな犠牲が伴うのであった。それは、5年間魔力を失うのであった。  魔力を失ったルシスは、レベル1の村人にもタコ殴りされるくらいに弱くなり、魔界の魔王書庫に幽閉される。  魔王書庫にてルシスは、秘密裏に7大天使様の力を借りて、壮絶な特訓を受けて、魔力を取り戻した時のために力を蓄えていた。  しかし、10歳の誕生日を迎えて、絶大なる魔力を取り戻す前日に、ルシスは魔界から追放されてしまうのであった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【第2部完結】勇者参上!!~究極奥義を取得した俺は来た技全部跳ね返す!究極術式?十字剣?最強魔王?全部まとめてかかってこいや!!~

Bonzaebon
ファンタジー
『ヤツは泥だらけになっても、傷だらけになろうとも立ち上がる。』  元居た流派の宗家に命を狙われ、激戦の末、究極奥義を完成させ、大武会を制した勇者ロア。彼は強敵達との戦いを経て名実ともに強くなった。  「今度は……みんなに恩返しをしていく番だ!」  仲間がいてくれたから成長できた。だからこそ、仲間のみんなの力になりたい。そう思った彼は旅を続ける。俺だけじゃない、みんなもそれぞれ問題を抱えている。勇者ならそれを手助けしなきゃいけない。 『それはいつか、あなたの勇気に火を灯す……。』

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...