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七章 融合と絶望

歩の怒り

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 勇者ラグドの訃報は世界中に電撃の如く広がり、全世界が悲しんだ。

 亮一達は慎重にラグドの亡骸をロマニア王国まで運び、後日葬式が行われた。参列者は500人を超えた。

 急な知らせだったにも関わらず人が集まったのはラグドがそれほど生前活躍し、皆から信頼を得ているということだ。

 一方、ラグドを殺した帳本人である剣士ドラゴンはいなくなっていた。あの時ドラゴンは気絶していた。しばらく動けないであろう重症を負って。

 恐らく協力者か仲間かが彼を連れていったのだろう。

 ラグドの死から約2ヶ月。歩が竜の巣での修行を終え、緊急避難所へ帰ってきた。

「いやあ、無事に帰ってこれて良かった!良かった!葵とシトラはまだ帰ってきてないのかな?まず帰ってきているであろう亮一に会いに行くか!」

 歩は亮一が宿として使っている病院の一部屋を訪ねる。そこには案の定亮一と恋人の明美がいた。

 亮一は歩の元気そうな顔を見ると、笑顔で彼に近づいていく。

「歩!無事だったか!」

「何度か死にかけたけどね。ところで、葵とシトラはまだ帰ってきてないのかな?」

「すまないが、知らん。まだ帰ってきてないんじゃないか?」

「そっか。じゃあ、ちょっとラグドさんの所に行ってくるよ。帰ってきたって報告してこなきゃ」

 歩のその一言を聞いた亮一はいきなりスイッチが入れ替わったかのように、明るかった顔から暗い顔になる。あまりの変わりように歩は驚いて「どうしたの?」と聞くと、衝撃の回答が帰ってきたのだ。

「ラグドさんは・・・死んだ」

「え・・・?」

 その一言だけで歩の頭は大混乱を起こした。あのラグドさんが?誰よりも強かったラグドさんが?勇者だったラグドが?何で?何でさ?

 歩は亮一に詰めるように説明を求める。亮一は重い口を開いて1ヶ月前にあった出来事を全てありのまま話した。

 全てを聞き終えた歩は肩から力が抜け、涌き水ように目から涙を流した。亮一もその時の事を思い出して再び涙を流す。

 そこからの歩の行動は早かった。病棟を出た歩は外に置いてあったバイクを飛ばしてロマニア王国まで向かった。

 最高速度で走ったお陰でものの20分で到着した。到着するや否や歩はロマニア王国騎士団の詰所まで走っていく。詰所には日本刀を持った青年がいた。

「あれ?どっかで・・・」

「ああ!あんたか!久しぶりだな!」

 青年は僕の肩を叩いて歓迎してくれた。ヒノマルの人だろうか?亮一が連れてきたのだろうか?

「覚えてないか、俺の事?」

「ごめん、覚えてないや?いつ会ったっけ?」

「ほら、アンタと亮一がヒノマルに初めて来たとき喧嘩売ったヤツだよ!」

「あ・・・えぇぇ!!」

 歩はあまりの変貌っぷりに腰を抜かしてしまう。あんな乱暴な性格からこんな好青年になったのか!一体何があったんだ?

「あの時はごめんよ。あんときの俺、今思い出すと最低だわ。亮一と話してようやく気づいたんだよ」

「ああ。成る程・・・」

 昔にもそんな事があった。反抗期を迎えた同級生の友人を宥めて元の優しい性格に戻していたっけ・・・。

「ここに来たってことは亮一から聞いたんだろ?ラグドさんのこと・・・」

「ああ。非常に惜しい人を失ってしまった」

「俺もよ、まったく話せなかったけど、皆の話を聞くと滅茶苦茶優しい人なんだなってしみじみ思うよ」

「うん・・・」

 先程涙をこぼしたにも関わらず歩は再び涙を溢しそうになってしまう。青年の方を見ると彼の目も潤んでおり、いつ泣いてもおかしくはなかった。

「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は獅子丸。アンタのことは亮一から耳にコブができるくらい聞いてるよ」

「でも、自己紹介はしておくよ。僕は小野山歩。これからよろしく」

 歩と獅子丸はお互いの自己紹介を終えると熱い握手をかます。するとそこにライムさんが入ってきた。

「あっ!ライムさん!」

「おおっ!アユ公!元気そうで何よりだ!!」

 ライムは歩を見るや否や笑顔で近づいてコツンと拳で歩の肩を軽く叩く。

「その様子だと・・・聞いたみたいだな」

「・・・はい」

 いつも明るく見ていて笑顔になってしまうライムの笑顔が水をかけられた炎のように消えてしまう。

「ついてきてくれ」

「あ、は、はい!」

 くるりとライムは身体を回れ右させて詰所を出ていった。歩はその後をついていく。城の外を出て、城下町を抜けて、たどり着いたのは墓場だった。

 木で作られた十字架が地面に突き刺さっている。戦いが終わったらしっかりとした石の墓を作ってあげなければ・・・。

 その中に1つだけ異様な雰囲気を放つ墓があった。木で作った十字架ではなく、剣が刺さっているからだろうか?

 そして歩はその剣に見おぼえがあった。そう、ラグドさんの剣だ。

ラグドさんの剣は柄が血の赤で染まっており、刃は雨に晒されたのか、酷く錆びてしまっている。

 聞く話によると、ロマニアの英雄が死んだ時に行われる埋葬だそうだ。本当ならもっと立派な所に墓を立てて、剣が錆びないようにするのだが、今の状況下ではできなかったそうだ。

 歩は剣の墓の前に立つと、静かに正座をして手を合わせて祈る。どうか、勇ましく生きたラグドさんの魂が天国に行けますようにと。

 歩の目にはやはりまた涙が涌き水のように流れていた。ライムは彼の肩にポンと手を置いて話した。

「これは勇者ラグドからのお言葉だ。『君はシグルを超えた最高の竜殺しだ』」

 その言葉が決定打となり、歩はその場に泣き崩れてしまった。



「ただいま・・・」

「歩っ!大丈夫か!?」

 帰ってきた歩はとてもげっそりしていた。今にも倒れそうな歩を亮一はしっかりと支えて椅子に座らせる。

「明美、何か飲み物を出してやってくれ」

「分かったわ」

 明美が病室には不自然な冷蔵庫から緑茶のペットボトルを出すと、ガラスのコップに注いで歩の前に出した。

「ありがとう、明美さん・・・」

 歩はコップを手に取ると、緑茶を一口飲む。乾いた喉に刺さるようだ。喉が潤ったところで歩は口を開いた。

「受け入れるのにかなり時間がかかったよ」

「・・・俺もそうだった」

 思い出したらよぎってしまう。あの人の勇姿、あの人の言葉。あの人に何度助けられたことか。

「亮一、知っているんだろ?」

「何を?」

「ラグドさんを殺したヤツの特徴」

「ある程度はな。俺が知ってることは全て話そう」

 亮一は対面するように椅子に座ると歩に1つ1つ丁寧に特徴を教えていった。

「ラグドを倒したヤツの名前はドラゴン。だけど、これは偽名の可能性が高い。で、自分の事を竜殺しだって名乗ってた」

「竜殺しだって・・・!」

「ああ。ソイツはでっかい大剣を使ってた。お前と同じくらいの大きさのな」

「俺ぐらいの大きさの剣・・・?」

 そんな大剣、振り回せるヤツがいるのか?いや、いたな。三ヶ月前に出会ったあの赤毛の竜殺し・・・・。

 待て。確かあの竜殺しも僕と同じぐらい大剣を使っていた。

「ソイツさ、仮面被っててどんな顔してるのか分かんなかったけど、最後らへんにラグドさんが仮面を割ってくれたんだよ。そしたら20代後半ぐらいの男の顔が出てきた」

「ソイツは若い剣士なのか・・・」

 若い剣士が負傷していたとは言え、ラグドさんを死まで追い込むとは計り知れない実力だ。

「そんでさ、すんごい技を使うんだとソイツが。確か、『ドラゴスパーク』だったな」

 ドラゴスパーク懐かしくはないが、何処かで聞いた名前だ。・・・・そう、あの時だ。

 その瞬間、歩は全てを掴んだ。それと同時に怒りも沸き上がってきた。

「亮一。僕、犯人が分かったよ」

「ホントか!」

「ああ」

 間違いない。絶対にあの人・・・いや、アイツだ・・・・。

「もし良かったらちょっと僕に協力してくれ。必ず仇を取ってやる・・・」

 歩の瞳はいつも以上に燃えていた。



 勇者ラグドとの戦いから約2ヶ月程経っただろうか?ルルド様に作ってもらった義腕はとても素晴らしい。

 まるで自分の手のように動くし、なにより攻撃を喰らってもまったく痛くない。

 ルルド様はやはり偉大な方だった。片腕を失い、お目当てであった勇者ラグドを殺してしまったにも関わらず俺を許し、更には新たな腕までくれたのだ。やはり、あの方はこの歪んだ世界を支配するのに相応しい。

 ドラゴンはある男の元へと向かっていた。それは数ヵ月前。まだ腕を失う前のこと。ある青年にクソジジイカロルの情報を与えたのだ。案の定青年はクソジジイの元へと向かっていった。

 ロマニアに忍ばせている下っぱの話によると、今日、帰ってきて勇者ラグドの墓参りをしていたらしい。

 青年は勇者ラグドを慕っていたらしく、墓の前で泣いていたそう。俺がその慕っていた人を殺したと知ったらどんな顔をするだろうか。

 だが、目的はそんな悪魔が好みそうなことではない。彼がどれ程強くなったか、だ。

 恐らくあの青年は病院の屋上で夜風に当たっているだろう。

 目的地に近づくと、やはりいた。あの青年。あの時のように夜風に当たっていた。勇者ラグドを受け入れられないのかとても悲しそうな顔をしている。

 俺は青年の後ろにふわりと着陸し、青年に比較的爽やかな声で話しかけた。

「よお、歩。無事に修行を終えたみたいだな!」

 歩青年は振り返って俺の顔を見るとニコリと笑った。

「こんばんは。竜殺しさん」
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