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七章 融合と絶望

黒竜対歩

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「ふわぁ・・・よく寝た・・・」

 その日の歩の起床はいつもよりも早かった。防寒着を着て歯ブラシと歯みがき粉を持って外に出ると湧き水の湧く所まで歩く。

「あった、あった・・・」

 湧き水を見つけた歩は歯みがきを始めた。いくら洞窟の中とはいえ、身体と歯をキレイにすることは大切だ。すると背後から───。

「Rizaaaa・・・」

 歩と同じように早起きなリザードマンが剣を振り回しながら歩に襲いかかってきた。

「ん・・・?」

 歩は振りかかる剣を片手で受け止めると、木の枝を折るように折る。リザードマンもあまりの一瞬のことで硬直してしまう。

「頼むから帰ってくれ。今なら殺さないから」

 しっしっ、と手払いをする。リザードマンは手払いの意味が分かったようでわなわなと身体を震わせて歩に襲いかかってきた。

「ったく、面倒だ───なっ!!」

 歩は空中にいるリザードマンの頬をひっぱたいた。ビンタされたリザードマンは端までぶっ飛び、壁に頭をぶつけて気絶した。

「もうこれに懲りたら僕に襲いかかってくるなよ?」

 気絶しているのにも関わらず言葉を言い放つと小屋へと戻っていった。

「よし───!」

 歩は小屋に戻ると朝食の準備を始めた。主食はカロルがどこかから買ってきた硬いパンと歩お手製のコーンスープ。

「ん・・・・・」

 コーンスープの匂いに誘われてカロルが起きてきた。目を眠たそうに擦りながら椅子に座る。

「このコーンスープがワシの朝の楽しみじゃわい・・・」

「でも僕あと1ヶ月ぐらいでいなくなりますよ?」

「たまに飯を作りに来てくれんかの?」

「師匠もこれを機に外で暮らしてみれば?」

「若い者が次々に老いて死んでいく姿はあまり見たくないからな」

「そうですか・・・」

 まあ、師匠の気持ちも分からないことはない。歩は淡々とコーンスープをお玉で混ぜる。

「さて・・・歩、準備はできておるかの?」

 歩はコーンスープを混ぜながら真剣な表情へと変わる。それも無理はない。今日は最終試験である黒竜のカロルとの戦いがあるのだから。

「お主の実力なら必ず黒竜のワシをたおす事ができる」

「・・・ベストを尽くします」

 歩はコーンスープと硬いパンをテーブルに出すとカロルと平らげてしばらくしてから竜殺しの剣を持って外に出た。

「ワシはお前を殺す気でお主と戦う。だからお主もワシを殺す勢いで向かってこい」

「はいっ!」

 歩は竜殺しの剣を抜刀、戦闘態勢に入る。カロルも魔力を集中し始めた。

「黒竜のまま理性を意地するためには魔力が必要でな!戦う時間が限られているというのは行ったな?」

「はいっ!」

「お主が一時間ワシの猛攻撃から耐えるか戦って戦闘不能にさせるかどちらかを行ったら最終試験合格とする!!」

「よろしくお願いします!」

 カロルの身体から鱗が生え始める。身体は巨大化し、服が耐えきれずに破れていく。

 歩は剣を握る手を決して緩めることはなかった。やがてカロルは黒竜へと完全に変化を遂げた。

「Gooooooon!!」

 黒竜の咆哮が空洞が響きわたる。辺りに隠れていたオオトカゲやリザードマンが尻尾を巻いて逃げていく。

 黒竜の恐ろしさを昔から知っていることがうかがえる。

「Gaaaaaaaa!!」

 息を吐くが如く青い炎が歩に向かって吐かれる。歩はすかさず飛んで避ける。

「ふっ───!!」

 足を力に込めて黒竜へとぶっ飛ぶ。黒竜の漆黒の鱗に刃を振り下ろす。

 ───が、黒竜の鱗は創造以上に硬く皮を斬ると斬ることしかできなかった。

「くっ───!!」

 攻撃を喰らわないようにすぐに離れてもう一度態勢を立て直す。

 黒竜は身体を傷つけられたことに怒り、鋼の剣が如く鋭く頑丈な爪を振り下ろしてきた。

「『シャイニングシールド』!!」

 頭より先に反応した本能が自然とシャイニングシールドを発動する。強大なドラゴンの膂力と鋭い爪が相まって光の盾はものの3撃でやられてしまった。

「『フレイム』!!」

 剣に魔力を包み、フレイムを纏わせる。カロルから学んだ魔術剣だ。ドラゴブレイクと同じ容量だったので、修得は半日でできた。

「うぉおおおお!!」

 気迫と共に黒竜へと走り、再度同じ箇所を斬る。フレイムの熱で焼き斬ることに成功した。

「Guooooon!!」

 肉斬られたという痛みに黒竜は悶え苦しみそして歩を睨み付ける。歩が離れる前に爪を振り下ろした。
 
「やばっ───!!『シャイニングシールド』!!」

 すぐに光の盾を展開するも、黒竜の爪の方が早く、歩の肌を切り裂いた。

「うぐっ・・・・!!」

 痛い。転がりたいくらい痛い。だが、今の状況でそんな事はできない。歩は痛みに耐えながら黒竜から離れた。

(さて、どうしよう・・・)

 大きなダメージを黒竜に与えることには成功した。だが、次は警戒して近づく前に炎を吐いて近寄らない様にするだろう。

 だとするなら途中で限界を突破した速さで近づくしかない。僕が限界を突破した速さを出す手段は1つしかない。

 歩は作戦を練ると、再び全速力で黒竜へと走っていった。歩の予想通り黒竜は警戒して青い炎を吐いて牽制した。

「今だ───『カオスモード』50%発動!!」

 炎が放たれた瞬間、歩はカオスモードを展開させて一瞬だけ限界を超えた速さを再現した。一瞬だけのカオスモード発動こそが歩の限界突破の唯一の手段である。

「『スパーク』!!」

 剣に魔力を込めて、雷のその刀身に宿す。歩は黒竜の胸に向かって雷の剣を振り下ろした。

「せりゃあぁぁぁぁぁ!!」

 雷は剣の切れ味をサポートし、見事鱗ごと黒竜の肉を裂いた。

「Guooooooooooooon!!」

 黒竜は自分についた傷の痛みに耐えられず、遂に地面に倒れた。黒竜の身体はみるみるうちに小さくなっていき、カロルの姿へと戻っていった。

 だが、傷は癒えるわけではなく、胸と脇に大きな傷を負っている。歩はすぐに駆け寄った。

「『ヒール』!!」

 カロルを殺させまいと全力の治療魔術を行使して傷を癒す。やがて険しかったカロルの顔も安らかなものへと変わっていった。

「ふう、峠は越えたか・・・」

 カロルが一命をとりとめた事を確認すると歩自身に治療魔術を唱え、傷を癒した。

「師匠、お疲れ様です」

歩は眠るカロルに礼を述べると小屋へと運んでいった。



「・・・・・・はっ!ワシ、ついに死んだ!?」

 師匠が起きたのは最終試験終了から3時間後だった。師匠は自分の胸と脇を触ると、胸に手を抑えて安心した。

「起きましたね、師匠。はい、こちらコンソメスープです!」

 歩は出来立てアッツアツのコンソメスープをマグカップに入れてカロルは火傷しないようにゆっくりと飲み始めた。

「どうやら、ワシは・・・負けたようだな」

「・・・はい」

「普通の一般的なものならここで何か修行過程終了を記念した物を渡すはずなのだが、ワシには生憎そんな洒落た物が無くてな・・・すまない」

「そんな、僕は別に大丈夫ですよ。師匠に教えてもらったものだけで充分です」

「お前は本当に出来た男よな・・・・・・修行過程終了、おめでとう」

 しわくちゃの手でパチパチと手を叩く。

「ありがとうございます」

 歩も満面の笑顔で答える。カロルは癒えたばかりの身体を持ち上げて立ち上がると、歩に向かって宣言した。

「よし!これからお主のオリジナル技の習得をサポートする!どんな技を作りたいかはイメージはできておるかな?」

「はいっ!」

「よし!じゃあ、言ってみい?」

 僕の、考えたオリジナルの技。それは────。

 歩は頭で想像したオリジナル技をカロルに話す。カロルは親指でサムズアップをしてくれた。

「良いじゃないか!やろう!」

 カロルからの許可をもらった歩は剣を持って外へた駆り出すのであった。
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