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七章 融合と絶望

竜の巣の中の小さな木の小屋

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「あなたが英雄シグルのお師匠さん・・・」

「一応はそうなってはいるが・・・それよりもお主何者だ?その剣はシグルしか握れない仕組みになっているはずだったが・・・まあ、詳しい話は小屋で話そう。ついてこい」

 カロルはくるりと歩に背中を向けると空洞の奥へと進んでいく。5分程歩くと目の先に小さな光が見えてきた。小さな光は歩くごとに大きくなっていき、次第に正体が見えてきた。

 光の正体は小屋から溢れだす光だった。カロルは小屋の扉を開くと歩に入れと手で誘う。

「ここにいても身体が冷えるだけだ」

 カロルの言う通りに小屋の中に入ると身体を包容するような暖かさが歩を癒した。部屋の隅を見てみると暖炉がある。だが、火は燃えていないようだ。

「不思議か?」

「はい。一体どうしてこんなにも暖かいのです?」

「暖炉の方をよく見てみろ」

「ん・・・?」

 暖炉の中をよく観察すると何やら真っ赤な石があった。真っ赤な石からはかなり強力な魔力反応がある。

「魔石にドラゴンの炎を込めたものだ。死ぬ覚悟で作った便利グッズだ」

「便利の為に冒険しすぎでしょ・・・」

 あの石に本当に竜の炎がこもっているというのならば、彼は自らあの炎に突っ込んでいったということになる。よく生きていたものだ。

「まあ、座れ」

「あ、はい・・・」

 ポンポンと椅子を叩いて歩に座るよう指示をだす。歩が座ると同時に自分も対面するようにテーブルを間に座った。

「早速で悪いが、お主の過去を見させてもらうぞ」

「え?どうやっ───うわぁ!」

 カロルは皺だらけの手を歩の額につけて目瞑り瞑想を始めた。

「・・・・・・」

(大丈夫かな・・・?)

 いきなり魔術を放ってこないだろうか?と不安に思ったが、そんな事はなく歩の額を触るだけで終わった。

「成る程、シグルの生まれ変わりか・・・」

「えっ!?どうしてその事を!」

「言っただろう?お主の過去を見させてもらうって。そしたら見てたんじゃよ、お主がシグルの口調でドラゴブレイクを放ってキングリザードを倒すのをな」

「本当に見たんですね・・・」

「何を隠そうワシの特技は過去未来現在を見ることだからな。まあそれも後付けなんだけどな・・・」

 カロルは最後の一言を未練がましく言うと全てを話してくれた。

「シグルには話したが、魂が同じだけの別人のお主にはちゃんと説明しないとな・・・。ワシの家系はな、竜の血を引いているんじゃ」

「竜の血を!?」

 一体どのような事があったら竜と交わるのだろうか?普通に聞いたら信じられない話だが、先程の黒竜とついさっき行われた過去を見る力を見せられては信じざるおえない。

「若い頃まではどこにでもいる普通の竜殺しだったんじゃよ」

「普通ではないと思いますがね・・・」

「40を過ぎた頃だろうか・・・ワシはお主に先程見せたような黒竜と対決したんじゃ。長い戦いの末、勝てたのじゃが・・・呪いをかけられてしまった」

「呪い・・・もしかしてさっきの・・・!」

「いや、少しだけお主の考えてる事情とは違うんじゃ。ワシが黒竜からかけられた呪いは周りの友人や家族が死んでいく不幸の呪いをかけられたんじゃ。だが、ワシの身体に流れる竜の血によって性質は変えられて黒竜へと変化を遂げる竜化の呪いをかけられてしまったんじゃよ」

「竜化の呪いですか・・・呪いにしては先程は上手くコントロールしていたように見えたのですが・・・」

「まあな。50年かけてコントロールできるようにしたんだ」

「50年・・・」

 50年ものの努力・・・僕には到底考えられない歳月だ。それでもカロルさんはガハハと心の底から笑う。今の彼にとってはわらい話なのだろう。

「更に副作用でな、長寿になってしまったんじゃよ。もうかれこれ200年は生きとるかな?」

「2、200年!?僕みたいな人間では考えるられない・・・」

 200年あったら人という生き物は一体何処に辿り着くのだろうか?仙人?それともただのイカれた老人?もし200年生きた純粋な人間がいたら話してみたいものだ。

 癖があるとはいえ、カロルさんが冷静な心を持っているのは恐らく彼の身体を巡る竜の血が身体と精神を強くしているのだろう。

 ラグドさんから以前聞いた覚えがある。竜の血には未知の力があり、薬として使ったら万病を治したり、身体に浴びたら誰にも傷つけることができない最強の身体が手に入ったり等。

 その話が本当だとするならば、カロルさんの中に流れる竜の血は長寿になったカロルさんを助けているはずだ。

「これが、今ワシが話せる全ての話じゃ」

「あ、ありがとうございます・・・」

「それで、お主は何をしにここに来たのかな?」

 豪快に笑うカロルだったが、スイッチが切り替わったように真剣な顔へと変貌を遂げた。歩もその顔に応じて紐解いていた緊張が再びしまる。

 歩は椅子から立つと、床に正座をし、額を床につけて懇願した。

「僕を竜殺しにしてください・・・」

「・・・よかろう。じゃが、ワシの修行はちいとばかし辛いからな?」

「覚悟の上です」

「生まれ変わって人格が変わってもやはり魂が同じだと人というのは似るんじゃな。おもしろい、ならば明日から修行だ」

 途中にいくつもの罠や敵があったが、何とか辿り着くことに成功した。だが、これからが本当の戦いである。一体この先どのような修行が待っているのだろうか?言えるとしたら間違いなく辛いということだろう。

 しかし、ここで折れるわけにはいかない。一人前の竜殺しになってこれから起きるであろう戦いに備えければならないのだから。



 エルフの国の領地の外れにあるかなり立派な屋敷。その中で女性2人が勉学に励んでいた。

「歩大丈夫かな・・・?」

 シトラは魔導書を読みながら横にいる葵に向かって話しかける。葵は横を見ることなくシトラ会話を開始した。

「多分だけど、大丈夫だと思う。私達だって到着して現在進行形で修行を受けているんだから」

「アタシ達は2人いたから比較的安全に着けたけど、歩は1人の上に竜の巣に行ったのよ!アタシ達とは比べものにならないくらい辛いと思うわ」

「歩のレベルと剣術なら余裕で竜殺しの達人に会えるって」

「でも~・・・」

「うるさいっ!」

 木槌のように堅い拳骨が葵とシトラの脳天を叩く。2人は痛そうに頭を手で押さえながら、拳骨をしてきた張本人を見た。

 熊のようにデカイ図体をした筋肉達磨のエルフ。彼こそが葵とシトラに教え紐解いている男である。

「いっててて・・・殴ること無いでしょ!ルドルフ先生!」

「そうでもせんとお前らは集中できないだろう!」

「シトラはともかく私はまだ会ってから3日なのに・・・」

「3日も教えていたらその者の性格なんて石コロを掴むが如く簡単だわ!口を動かさないで目を動かせ目を!」

「読むよりも実践でやった方が早いんじゃ・・・」

「何事も基礎学ばなければならない。いきなり実践でやっても怪我をするだけだ。魔術なら尚更だ」

 ルドルフ先生の言うことにも一理ある。魔術というのは使い方次第で自分に牙を剥く。実際に自分自身にも経験があるのだから。

 それは2年前に遡る。私はフレイムショットを編み出そうと研究を重ねていた日のこと。魔力の調整ミスで腕に火傷を負ってしまった。

 そのときの火傷は幸い小さく、1ヶ月程で治ったから良いものの、次も軽い怪我だとは限らない。

 現に私が今教えてもらっているのは、奥義レベルの大魔術だ。実践から始めて失敗した時の反動はとてつもないものだろう。

「どうだ?アオイ?できそうか・・・?」

 ルドルフ先生が問いかけてくる。いつもなら出来ますと言うのだが、今回覚えようとしている魔術は今までとは比にはならないくらい難しい。

 しっかりと舐めるように読まなければマスターできない。

「あと、一時間ください・・・」

「時間は充分にある。ゆっくりと覚えなさい」

「・・・・・・」

 魔術は魔力と想像力によって強くなる。どんなに魔力が高いとしても想像力の無い者は魔術師にはなれない。

 葵には魔力の高さに相応しい想像力があった。それ故にフレイムショットを編み出せたのだろう。

 葵は想像する。炎でもある。氷でもある。雷でもある。毒でもある。光でもある。闇でもある。全ての属性を掛け合わせた極みの魔術、を。

 全ての属性の魔術は使えることができる。だが、掛け合わせたことは一度もなかった。

 難しい。どうやって氷と炎と雷と毒と光と闇を掛け合わせれば・・・。

「いや、待てよ・・・」

「どうかしましたか?」

 別に一気にやらなくても良いのではないのだろうか?最初は2つずつで良いのではないだろうか?まず炎と氷から、次に毒と雷、最後に光と闇。

 2つずつ混ぜ合わせることが出来たなら次は3つずつと混ぜ合わせていけば良いのではないのだろうか?

 かなり手間のかかるが、そちらの方が新しい攻撃手段を増やせるし、何よりも確実にに近づくことができる。

「先生!」

「ほう、もう道を見つけましたか・・・・。では、私が見せてあげましょう!2つの属性で出来た魔術達を!」

 どうやら正解に辿り着けたらしい。葵は顔色1つ変えずにガッツポーズを取る。

「えぇ~早くない葵~」

「想像力がずば抜けているからな、同然だろう。お前も見習って想像力を働かせなさい!」

「はぁ~い・・・」

 ルドルフ先生は立ち上がると、ドアのノブを捻って外を指差す。

「着いてきな。みっちり叩き込んでやるよ」

「・・・はい」 
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