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七章 融合と絶望

歩の不安

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「・・・・・・」

「ねぇ、どうしたの?帰ってきてからずっとだんまりしてるけど?」

 フレイムドラゴンを倒したその日の夜。元山に詳しい事情を報告すると、歩とシトラは自分達の寝床に戻って晩食を済ませた後、眠ろうとしていた。

 だが、部屋に戻ってきてからずっと歩は黙りこんでいるのだ。かれこれ2時間ぐらいだろうか?

 シトラが甘え声で呼んでも反応がない。厭らしい手つきで身体を触っても反応がない。ついにしびれを切らしたシトラは歩の顔をガッ!と掴んでがら空きの唇に口づけをした。

 シトラの蛇のように細い舌が、歩の舌を縛り付ける。先程まで黙っていた歩もついに反応を見せた。

「ちょっ!いきなり何するんだよ!」

「やっと喋った。次黙ったりしたら容赦はしないからね」

 彼女の発言に歩は身震いする。彼女に主導権を握られると明日の生活が辛くなってしまう。そうはなりたくない歩はしぶしぶ話し始めた。

「実はさ、僕まだまだ弱いんじゃないかって思っていたんだ」

 歩がタメ息混じりで話しているとシトラは首を傾げる。

「何を言っているの。貴方レベル80をとっくのとうに超えているじゃない」

「レベルとかそういう問題じゃないと思うんだ」

 昨日までは自分は他の人よりも強いのだと思っていた。実際にそうだ。だが、今日出会った赤毛の竜殺しと共闘して気づいてしまった。自分は未熟者だと。まだ上には上がいるのだと。

「なあ、シトラ。僕には何が足りないと思う?」

「それは何として足りてないと聞いているの?戦士?それとも人間として?」

「そう言われると・・・分からないな」

「じゃあ、アタシが分かる所まで言ってあげる。貴方は人間としては完璧よ。控えめで強くでない事が多いけど、いざという時には意志を固めて前に出る自我はっきりとした好青年」

「あ、ありがとう・・・」

「戦士としてはね・・・あれ?完璧とは言えないけど十分に強いな。戦いでひと人が死ぬことは理解できているし、何よりも戦いのノウハウを把握しているわ」

「そ、そうかな?だとしたら僕に足りないものは何だ・・・?」

 まず考えてみろ。僕は何者なのだ?男?剣士?喫茶店の店長?

 くそ!こんな事になるんだったら赤毛の竜殺しから何かアドバイスを聞いておけば・・・ん?赤毛の竜殺し?・・・・・・そうか!!

「そうだ!僕は竜殺しとしての技術が足りていないんだ!」

「竜殺しとしての?」

「ああ!僕には竜殺しの魂を受け継いでいるのにまったくもってその力を活用しきれていなかったんだ!ドラゴフレイムに依存していたんだ!」

 今まで気づいていなかった。僕は無意識のままに竜殺しという大きな玉座に腰を下ろしていたのだ。いつでも本気になればその玉座の更に上を目指せるというのにそれをやってはこなかった。

「決めた。僕は竜殺しを極める」

「竜殺しを極めるって言ったって、誰に教えてもらうのよ?」

「分からない。でも赤毛の竜殺しのような僕よりも遥かに凄い竜殺しがこの世界にいてもおかしくないだろう?」

「ま、まあそうだけど・・・」

「明日ラグドさんに聞いてくる。僕よりも強い竜殺しを紹介してくれって!」

「わ、分かった。分かったから下がって」

「あ・・・」

 話すのに夢中で気がつかなかったが、どうやら僕は話すのに熱くなってしまってシトラに詰め寄るように接近していたようだ。

「ごめん・・・」

 やはり僕は無意識というのが多いらしい。気を付けなければ・・・。

「さあ、晩御飯にしようか」

「今日は何?」

「ドラゴンの肉のステーキ」

「アタシドラゴン食べたこと無いんだけど美味しいのかな?」

「ラグドさん曰く引き締まってて旨いらしいよ」

 融合した世界で唯一良かったと思ったのが、今まで食べたことの無い肉や野菜などを食べられる事だろうか。今の楽しみは新たな食材での料理とシトラ共に過ごす一時しかない。



「じゃ、おやすみー」

 1つのベッドに歩とシトラは横になり、眠りにつく。だが、今日の歩は寝つきがとても悪かった。

 原因は晩食前の話である。竜殺しの達人と出会ったとしてどのような修行が待っているということだ。

 世界でトップクラスの力と知性も持ち合わせた最強種を武器1つで倒すのが竜殺し。恐らくはその修行は今までしてきたトレーニングとは比にはならないだろう。

 歩には覚悟はできていた。今よりも強くなって2つの世界を1つにした黒幕を倒してみせると。

(ちょっと風にでも当たってこよっかな?)

 やはり中々眠りにつけない歩はとうとうベッドから抜け出して病院の階段を昇って屋上へと向かった。

 ロマニア王国は一年中気温が低く、日本もその影響を受けてしまっている為とても寒い。真冬レベルの冷気な歩の頬を叩く。

「さっむいな。やっぱり外に出るべきではなかったのか?」

「いいや、割と正解だったんじゃねえか?」

 突然右から聞こえてきた声に身体が反応して左に左に移動して声の正体から距離を離す。声の正体の顔を見た途端、歩の磨かれた感覚が一気に静まりかえった。

「竜殺しさん・・・?」

 突如歩の横に現れた声の正体は昼に歩と共にフレイムドラゴンを倒した赤毛の竜殺しだった。赤毛の竜殺しは歩が警戒心を解いたと分かるとニコリと笑みを浮かべる。

「悪いな、驚かせちまって」

「いえ、大丈夫です。それよりもどうしてここが?」

「ここらへんが避難地域だって聞いてきたらこの建物の屋上にお前さんがいるのに気づいてな。ちょっと挨拶しにきたんだ」

「成る程」

 赤毛の竜殺しは歩の顔をジロジロとしばらく見るとこう言葉を放った。

「どうやら、自分に何が足りないのか分かったみたいだな」

「───っ!!どうしてそれを!?」

「ドラゴンを倒した帰り際にお前さんの顔を見たら何処か悩んでいそうな顔してたからよ、もしかしたら俺の竜殺しの技術を見て不安を感じたんじゃねえかな?って思ったわけよ」

「・・・良く分かりましたね」

「結構長く生きてるからな。人の表情で何を考えているのか大体分かるようになったんだわ」

 見た目は20代後半ぐらいに見えるが、単に見た目が若いだけなのだろうか?何にせよ彼が来てくれたのだ。ここは1つお願いをしてみよう。

「あの、竜殺しさん。もし良ければ僕を弟子に───」

「あーごめん。俺指導役向いてないんだわ」

 赤毛の竜殺しは歩が何を言うのか分かっていたようで歩が全て言いきる前に断ってしまった。思わずフリーズする歩だが、流石に悪いことをしたと思った赤毛の竜殺しは言葉を続けた。

「だからよ。お前さんに耳寄りの情報を教えてやるよ」

「耳寄りの情報ですか・・・?」

「ああ。俺ら竜殺しが究極を目指すならもってこいの情報だ。良く聞いとけよ」

 歩は聞き取れるように赤毛の竜殺しに近づいて話を聞くようにする。赤毛の竜殺しはごほん!と咳払いをすると話し始めた。

「お前さんも竜殺しの端くれなら英雄シグルぐらいは知ってるよな?最高峰の竜殺しと謳われた全世界の竜殺しの憧れだ」

「は、はい。知っています」

 その生まれ変わりが歩なのだが、素性がまったく分からない人にはその事を話さないようにしているためそのことは心の中に秘めておく。

「その英雄シグルにも当然半人前だった時期があったわけなんだが、その半人前だった英雄シグルを最高峰の竜殺しにした凄腕の竜殺しの老人がロマニア北の地にある竜の巣って所で隠居生活をしているとか」

「ほ、本当ですか!!」

「さあな。俺も噂でしか聞いていないから本当かどうか分からねぇ。でも、行ってみる価値はあるんじゃねえか?」

 このまま赤毛の竜殺しに弟子にしてくれと懇願しても彼は頑なに断るのほ歩にも分かっていた。ならば前世の自分の育てた老人の会いに行く方が早いのではないのだろう。

 それが嘘か本当かは分からないが、何も行動を起こさないよりかはマシだ。

「分かりました!僕、その場所に行って───あれ?」

 赤毛の竜殺しがいた方を振り向くと彼の姿はなかった。何故何も言わずに立ち去ってしまったのだろうか?歩は少し考えようとしたが、考えるだけ無断だと気づいて風邪を引く前に病院の中へと入っていった。
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