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七章 融合と絶望

もう一人の竜殺し

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「───というわけでお願いします!」

『急だな・・・まあ、分かった。今比較的手の空いている戦力者数名を指定された場所に送る』

「ありがとうございます。では───」

 無線を切ると歩達は目的地に向かって走りだす。目的地は勿論フレイムドラゴンが向かった先。巣があると思われる場所。

 GPSは東京駅であった。どうしてそんな目立つ所に巣を作ったのか謎に謎を呼ぶが、僕らが見つけられなかった原因は恐らく地下に巣を作ったからだろうと思える。

ドラゴンはどんな環境でも生きるのに必要な物さえ揃っていれば生きる事ができる。火山の火口や極寒の氷の上、そして地下にも住むことができる。

 恐らくドラゴンは地下に巣を作っているのだろう。まあもしかしたら僕らから逃げて羽休めしているだけかもしれないが。

「ここから東京駅まで何分ぐらい?」

「ちょっと待って・・・10キロ!」

「体力を全回復させる前に倒すぞ!」

「それにしても何でフレイムドラゴンなんかが東京駅に巣を作ってんだろ?」

「詳しい理由は分からないけど、大抵の理由は世界の融合のせいだろうな」

 半年前起きた世界の融合のせいで政府や都市だけでなく自然にも大きな影響を及ぼした。エデンの植物達は魔物やラグナロクの獰猛な植物によって食べ尽くされ、エデンの植物を食糧としていた生きもの達は死に絶え、今では魔物が生態系を形作っている。

魔物も普通の肉として食べれる種族もいるのだが、ただの猟師では仕留められない。ラグナロクの植物から生えた果実を食べようとした者は果実が獲物を誘き寄せる罠だと気づかされずに植物に食い殺される。

 結果この半年で餓死や魔物が要因の死を含めて約9000万人が死んだ。いや、発見されていないだけでもっと死んでいるだろう。

 兎に角今人類は弱っている。そんな状況の中に獰猛で賢き最強の生物であるドラゴンが現れたら人々はどうなってしまうだろうか?僕が一般人の立場だとしたら絶望し、死を受け入れるだろう。

「だから僕達が止めなきゃ───!!」

 そうならない為にも、僕らは剣や杖を持って戦わなければならない。例えその道が人の道を外れて化けものに道になっていたとしても。

「着いた!」

 全速力で走って10分。ようやっと東京駅・・・いや、東京駅跡へと到着した。

 GPSを確認した所フレイムドラゴンはまだ東京駅にいるようだ。だが、回りにドラゴンの姿は無い。やはりドラゴンは地下にいるようだ。

「ちょっと二人共黙っててね・・・」

 シトラは唇に人差し指をつけて黙るように歩と葵に伝えると長い耳をピコピコと動かしながら辺りの音を効き始めた。

 エルフの聴覚は人間の数倍、もしくはウサギと同じぐらいと言われている。更にステータスカードの恩恵で身体能力が強化されているシトラの聴覚はそこらのエルフを遥かに超えている。

「・・・・・・微かにだけど寝息が聴こえるわ。しかも地下から」

「これは確定だな」

「・・・どうして途中発信器壊さなかったんだろう」

 まだ援軍は来ていない。待つべきか?

「まだドラゴンは寝ているんだ。ゆっくりと援軍を待とう───」

 ビルの瓦礫に腰をおろした時であった。

「Ooooooooon!!」

 何の予兆もなくドラゴンの咆哮が聴こえてきたのだ。歩は一瞬驚いたが、直ぐ様瓦礫から腰を持ち上げて戦いのかまえを取る。

 葵とシトラも1秒遅れて武器を構える。ドラゴンの咆哮が遠くへとこだまする。すると何事も無かったかのように辺りに静けさが戻った。

 東京駅の周辺のアスファルトが土に押されてメリメリと割れていく。破壊されたアスファルトの中から勢いよく炎のような色の鱗を持ったドラゴンが歩達の目の前に飛び出してきたのだ。

 身体の傷から予想するに歩達と先程一戦交えた個体で間違いないだろう。傷はやはり癒えてはおらず、痛々しく背中や鼻頭に斬り傷が残っている。

「な、何でだ!?」

「わ、分からないわよ!!」

「・・・私は分かった」

「なら教えてくれ!!何でドラゴンは起きたんだ!!」

「・・・私達の足元に微妙にだけど魔力の反応がある。多分、ドラゴンが仕掛けた敵の接近を知らせるトラップ」

「くっそ!小さすぎて全然分からなかった!」

「それは私も・・・無念」

「援軍来てないけど、戦うしかないわよね!?」

「だなっ!またさっきと同じように葵とシトラは援護を───」

 ドラゴンを視線に入れながら指示していたその時であった。ドラゴンの右翼の根元に一瞬だけ線が見えた。その線は消えた途端、ドラゴンの右翼を綺麗に斬り落としたのだ。

「な───!!」

 なんという事だろうか。あんなにも硬く、歩にも傷つけることしか出来なかったドラゴンの身体を一瞬で斬ってしまった。竜殺しの魂と剣を受け継いでいる歩でも到底できることではない。

 一体誰が────。

「もしかして・・・坊主、お前の獲物だったのか?」

 後ろから低い男性の声とカタカタと靴で歩く音が聴こえてくる。僕達はドラゴンの事そっちのけで直ぐ様後ろを振り向いた。

 いつの間にか僕らの後ろにいたのは左目には何者かにつけられたであろう切り傷に燃えるような赤い髪を持ち、右手一本で軽々と両手専用の大剣を持ったボロボロの汚れたマントを纏った厳つい男がニヤニヤと笑みを浮かべながら歩の方へと向かってきていた。

「だとしたらすまない事したなぁ。余計なお世話だったか?」

「いえ、そんな事は・・・あ、貴方は・・・?」

「あ?俺か?名前はこっちの事情で教えられねぇが、一応呼び名があった方が良いよな。じゃあ、俺の事ぁ竜殺しって呼んでくれ」

「りゅ、竜殺し!?」

「ああ、竜殺しだ!こう見えても50体はドラゴン倒しているんだぜ!」

 は、初めて生で見た。僕の前世であるシグル以外の竜殺し。赤毛の竜殺しは手慣れているのだろうか?ドラゴンを前にしていても尚笑みを讃えている。

「おい、そろそろ来るぞボウズ」

「あ、は、はい!!」

 赤毛の竜殺しは歩に指示を送ると大剣を両手で構える。歩も右手に光の盾を展開すると戦いの構えを取った。

「Guoooooooon!!」

 フレイムドラゴンがまず最初に攻撃を仕掛けたのは歩達ではなく、先程右翼を切り取った赤毛の竜殺しだ。自分の身体を斬られているのだから矛先を向けるのも納得がいく。

「やっぱ俺か!」

 自分が攻撃されると頭の何処かで分かっていたようで赤毛の竜殺しは大剣を盾のように自分の前に出して守りの構えを取る。

 フレイムドラゴンはそんなのお構い無しに凶悪なアギトから灼熱の炎を吐き出した。灼熱の炎が赤毛の竜殺しを襲う。

「うぉおお!!やっぱフレイムドラゴンの火炎放射は凄いわ!完全に守りきってるのに熱が目茶苦茶感じるわ!」

 赤毛の竜殺しは自分が攻撃されているにも関わらずニヤニヤと笑みを浮かべて戦いを楽しんでいるようだ。

「ボウズ!今だ!」

 赤毛の竜殺しの様子に驚いきフリーズしていた歩だが、彼の呼び声と共に再起動する。

 今だ!の意味をすぐに理解すると、光の盾を前に出して身体を守りながらドラゴンへと向かっていく。

「うぉおおおおお!!」

 ドラゴンは途中で歩が近づいていることに気づいたようだが、そのときにはもう遅い。歩はとっくの昔にドラゴンの頭の上を飛んでいたのだから。

「だりぁあああ!!」

 叫び声と共に剣をドラゴンの頭めがけて突き刺した。剣は深くめり込み、頭蓋骨を割り、脳を破壊する。

歩にもその感覚にはすぐに分かった。脳を破壊したのに気づいた歩は剣を引き抜きドラゴンの頭から飛び降りる。

「やった!!」

「まだだ!気を緩めるな!」

 赤毛の竜殺しの怒号の叫び声の通り、フレイムドラゴンはまだ生きていた。脳を破壊されても尚動く身体。その生命力はゴキブリを上回っているのかもしれない。

 歩は飛び降りたばかりでまだ体勢が整っていなかった。赤毛の竜殺しはそれに舌打ちすると大剣を構える。

「ったく!今回だけだからな!」

 赤毛の竜殺しの持つ大剣に魔力が集中し始める。彼自身の魔力だけでなく、大気中の魔力も彼の大剣に向かっている。

 彼が何をしようとしているのか歩にはすぐに分かった。奥義だ。彼は奥義を持っていたのだ。

 やがて溜まった魔力は雷となり、大剣を包み込む。

「運が悪かったな!!───『ドラゴスパーク』!!」

 巨大な雷の塊は赤毛の竜殺しが大剣を振り下ろすと同時にフレイムドラゴンへと放たれ、ドラゴンの身体を包んだ。

 歩の想像を超える電気がフレイムドラゴンを襲う。

「Goooooooon!!」

 フレイムドラゴンは終始苦しみながら命を落とした(電気の影響で身体は微かに動いてはいるが)。

「凄い・・・」

 歩は一人で驚愕していると、赤毛の竜殺しは歩の方に向かってきて手を合わせて頭を下げてきた。

「悪い!ボウズの獲物倒しちまった!」

 何と赤毛の竜殺しは俺を助けてくれたのにも関わらず謝ってきたのだ。歩はまさか謝られるとは思っていなかったので一瞬動揺したが、すぐに大丈夫ですと返事を返す。

「あそこで竜殺しさんがあのドラゴスパークを打ってくれなかったら今頃僕死んでるか運良く生きてても後遺症が残る程の怪我をしていたはずです。だから謝らないでください」

「ボウズ、お前さん剣を振っている者にしては随分と賢い応え方するな。実力と知性を兼ね備えているのか、流石だな」

 赤毛の竜殺しは歩の事を褒め称えると右手を出して握手を求めてきた。歩も喜んでその手を握り返す。

「ありがとな、久しぶりに将来有望な若者を見た気がするぜ。所でボウズ、お前さんの名前を聞いていなかったな」

「僕の名前ですか?僕の名前は歩、小野山歩です」

「歩・・・?歩ねぇ・・・」

「?どうかしましたか?」

「いや、何でもねえ。それじゃ、俺はここでおいとまするぜ」

 赤毛の竜殺しは服のポケットから導きの石を取り出すと、何処かへと飛んでいってしまった。

「まさか、あのガキンチョが歩だったのか・・・やっぱ人生って何が起きるかまったく分からないな!!」
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