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六章2つの世界

奥へと進む

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 やはり、もう少し手のこんだ罠を仕掛けるべきだっただろうか?自分が仕掛けた30は軽く越える罠が勇者ラグドによって次々と作業のごとく潰されていく。

 あの男ラグド、やはり老いても油断ならない。

 だが、こちらの目的は罠で敵を全滅させることではない。単なる時間稼ぎの為に設置した罠だ。

 時間稼ぎだとしたら罠達は十分に時間を稼いでくれている。残りの罠は5個だが、あとどのくらい時間を稼いでくれるだろうか?

「せめて10分は時間を稼いでくださいね、ヒッヒッヒッ!」

 赤い服の男の引き笑いが部屋じゅうに響いた。



「GaraGaraGara!!」

 歩はスイッチのような物を踏んでしまった!すると突然地面から軽武装した骸骨が土から這い出てきた。

 数は9、死霊の類いだろうか?なら───。

 声で呼ぶ前にその人物は前に出てきていた。

「ここは私にお任せを」

 聖女マリーである。彼女は杖を歩に預けると、天に向かって祈り始めた。

「慈悲深き我らが父よ、願わくは救われぬ魂を救いたまえ───」

 と、聖女マリーは一言祈る。するとなんということだろうか!骸骨は無抵抗のマリーに攻撃することなくカタカタと音を鳴らして消えていった。

 見間違いだろうか?骸骨から白いもやのようなものが一瞬だけ発生したような気がする。魂だろうか?だとすれば無事に天国に行けるように祈ろう。

「長年遺体を放置していると生前はどんなに良い人でも悪霊となってしまうので遺棄された遺体を見つけたら埋めるかもしくは近くの教会まで駆けつけてくださいねみなさん」

 遺体の放置で悪霊となる。もしラグドさんやリズベルさんなどの強い人が悪霊となったら強さはそのまま受け継がれているのだろうか?

 昔、鎧に乗り移った魂だけの戦士と戦ったことがあったが、あのときはかなり個体差がはっきりとあった。おそらく死霊になっても強さはそのままなのだろう。

 聖女である祖母がいれば問題ではないだろうが。

「さて、と・・・この扉の奥か?」

 いくつもの罠を潜り抜けてやっとの思いでたどり着いた鉱山の奥には人口の丈夫そうな鉄扉があった。ちょっとやそっとでは開けることは出来なそうな扉が。

「こりゃあ、私でも難しいな・・・拳で破る前に拳の方が砕けてしまう」

「なら、私の魔術を───」

「やめなさい」

 勿論、魔術はここでは使えない。使えば皆に被害が及ぶ。ここまで被害者0人なのにここで自滅で被害者を出してたまるものか。

「なら、穴を掘って進めば良いんじゃねえか?」

 ドワーフの戦士が、鉄扉の横の壁をトントンと叩く。なるほど!と歩はポンと手を叩いた。

「でも、かなり時間がかかるんじゃねえか?」

「言われてみれば・・・」

 残念ながら今歩達が持っているのは武具と回復薬。ピッケルやスコップなどと言った発掘用具は持っていない。

 やはり、なんとかしてこの鉄扉を開ける必要があるな───。

 目を瞑って考え始める。爆破は勿論駄目。強引には拳が持たない。武器を使ったら折れる可能性がある。さて、困ったものだ・・・。

「俺ならできるんじゃねえか?」

 声と共に手を上げたのはう亮一だった。亮一はそう言うと鉄扉の前にたった。

「葵、ちょっと筋力増加の魔術かけてくれ」

「ん、分かった───てい!」

 わずかながらに亮一の腕の筋肉が膨れ上がった気がする。亮一は膨れ上がった筋肉を不満そうに見ると葵に向かって言った。

「すまねえ、もう少しかけてくれないか?」

「うん───せいや!」

 更に腕の筋肉が膨れ上がった。それでもまだまだ亮一は不満そうだ。

「もっとかけてくれ」

「・・・爆発するよ?」

「筋肉が爆発しても後で治療すれば大丈夫だよ。良いからやってくれ」

「わ、分かった───とわぁ!!」

 ついにう亮一の腕の筋肉は太腿と入れ替わったのか?と疑うまでに大きくなっていた。亮一の顔もなんだか苦しそうである。

 無理のある急なビルドアップは身体には良くないようだ。

「お、おい!亮一、お前なにするつもりなんだ!?」

「筋力を上げてからの・・・居合い斬りだ・・・!!」

「はいぃぃ!?」

 確かに居合い斬りで鉄が斬れるとは聞いたことがあるが、推定で10センチはある鉄の板だぞ?可能性なのか?

「やれると思ったらできるんじゃねえか!?」

「で、でも・・・」

「このまま突っ立ってても何もできないだろ!!だったら俺が身体張ってアクション起こすしかねえ!!」

 膨れ上がった腕を動かし、刀を握りしめる。

「うぉおおおおおお!!」

 気合いの叫びと共に刀を鉄扉に向かって振り下ろした。

「・・・・・・やったか?」

  斬ったまでは良かった。だが、鉄扉にも鉄扉を斬った刀にも何も起きてはいなかった。

 これは、失敗かと誰もが思った瞬間である。

 鉄扉に縦にきれいな一直線の亀裂が入ったのである。亀裂はどんどん深さを増していき、その先まで見てるくらいまで深い亀裂となった。

「よっしゃ!成功だぜ!!」

 亮一は思わずガッツポーズをする。亮一が喜ぶ反面、彼の愛用の刀の剣先には小さなヒビが入っていた。

 だが、彼は刀の亀裂を見ても気落ちするような様子はまったく見せなかった。

「お、おい、大丈夫なのか?刀にヒビ入っちまったのに・・・」

「良いんだよ、別に。寧ろ皆の役に立てて良かったぜ。俺さ、昨日の戦いであんまり役に立てなかったからさ・・・」

 確かに、昨日デストロイヤーとの戦いが終わった後の亮一はいささかテンションが低かった。でも、まさかその事で落ち込んでいるなんてまったく思わなかった。

「後は扉蹴ったら通れると思うぜっ!!」

 鉄扉を踏むようにして蹴ると、鉄扉はギシギシと音を鳴らして前に倒れた。亮一はヒビの入った刀を納めると早く行こうぜと僕らを急かした。 

「・・・・・・」

「そんな悲しい顔するなって!鍛冶職人に直してもらえば良いんだからよ!!」

「それで良いんから大丈夫なんだけど、腕は大丈夫なの?」

 歩が気にしているのは刀ではなく、筋肉を無理矢理増幅させていた腕だった。亮一はカモフラージュの為に笑顔を作ってはいるが、笑顔がひきつっていることに歩はすぐに気がついた。

「正直に言うと、滅茶苦茶痛い。でも酷い筋肉痛だと思えば平気さ」

「亮一、腕を貸して」

「おい、よせって!」

 拒む亮一の腕に向かって治療魔術を放つ。すると亮一の顔から苦が消えた。

「お前、なにやってんだ!貴重な魔力を・・・!!」

「仲間の為に使えているんだから有効活用できているだろう?これからは痛む場合は無理せずに治療魔術が使える人に言えよ」

「ったく、お人好し過ぎるんだよお前は・・・」

 怒る亮一であるが、その怒りの表情からは嬉しさが滲み出ていた。

 破壊された鉄扉を踏んで先へと進むと、再び肌がピリピリと電気が走ったような感覚に襲われた。

 魔術師達がバッタバッタと倒れていく。

「おい!しっかりしろ!」

 首の血管に指を添えるとしっかりと心臓の動く音が確認できるところから死んではいないようだが、一体何故?

 肌ち電気が走るような感覚から推測するに魔王の魔石の影響なのだろう。だが、魔石の影響は入る前に薬を飲んで断ったはず。

 鉄扉が蓋と同じ役割を担っていたのか?

「ヒッヒッヒッ、やはりここまで犠牲無しで来てしまいましたか・・・予想しておいて良かった」

 拍手と共に道化師のように陽気な声が聞こえてくる。歩達は反射的に武器を構えた。   

 暗くてはっきりと見えなかったシルエットが段々と見えてきた。赤い服、間違いない。

「ようこそ!百戦錬磨の戦士様!ここからは私が相手しましょう!」
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