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六章2つの世界

偶然の再会

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「え!?それは本当なの?」

 プリクルはまるで無邪気な子どものようにはしゃぐ。

 なんたって数少ない友達がパーティーに来てくれたのだ。喜ばないわけがないだろう。

「じゃあ、早速会いに行ってくるわ!」

 王座を立ち上がり、少し早足で謁見の間を出る。

 1階では順調にパーティーの準備が整っていた。後はシェフの料理とお客を待つのみ。

 確認した所、パーティーに来る人数は200人を超えているらしい。

 しかも全員伝説に残るであろう英雄やら王様などばかりだ。

 高名な方が来てくれるというのにおもてなししないわけにはいかない。だから半年前から準備を進めてきたのだ。

「プリクル様。今日もご機嫌うるわしゅうございますね」

「相変わらずお世辞が上手いわね料理長。今日の料理も最高だと信じているわ」

 今日来るお客の中でも特に特別なお客の為に用意した棟。全ての部屋をホテルのロイヤルスイートルームに間違える程豪華にした。

 この棟には各国の王様や、かつて私の父を倒して世界を救ってくれた英雄達が泊まる。あと、シトラとそのお友達。

 呼ぶのは最初は少し抵抗があったが、きっとシトラの友達だから良い人達なのだろうと招待状を書いた。

 もしかしたら私の数少ない友達の中に入るかもしれない。

 今日のパーティーの目的は3つある。

 まず1つは安定した魔族の政治と訪れた平和を祝うこと。

 もう1つは私事だが、シトラに会うこと。

 最後は新しいお友達を見つけること。

 今の世は良い人達で溢れている。それならきっと私の新しい友達も見つかるはずだ。

「でも、その前にシトラに・・・!」

 会ったのは数年前だ。その時私は世界を征服しようとした魔王の娘としていじめられていた。

 辛かった。泣きたかった。でも、父は助けてくれなかった。

 父は散々迷惑をかけたにも関わらず命を助けてもらった。だが、父はまったく更正しなかった。

 メイドや執事には暴力を振るうし、政治もほったらかし。私にも暴力を振るう始末。

 確かにあの人から見たら私なんて使用人の女に性処理をさせていたら出来てしまった子どもに過ぎないのだから。

 私を生んでくれた母は私がまだ物覚えの無い頃に父からDVを受け死んでしまった。

 それなのに父は裁かれずに生きた。王だから。

 ふざけるな。何が王様だ。人に迷惑しかかけていないくせに。

 心に深い傷と闇を負っていた私に話かけてくれたのは1人のエルフの女の子だった。

 エルフのパーティーに招かれたのは良いものの、何をしたら良いのか分からず路頭に迷っていた私に声をかけてくれたのだ。

 私が影ならばあの娘は太陽だった。そのくらい眩しかった。

 その娘の名はシトラ。とても可愛らしい名だ。

 シトラは暴君の娘である私を友達にしてくれた。

 そこから私の人生は大きく変わった。

 私が魔王の娘だと知ったエルフの少女はエルフの偉大なる王ニコラス王の所までつれていってくれた。

 ニコラス王は人の頭の中を見ることが出来る透視能力の持ち主だった。

 ニコラス王は透視能力を使って、私や城の使用人達が魔王に暴力を振るわれている事を読み取った。

 そこからは早かった。ニコラス王はかつての仲間である聖女マリーと勇者ラグドを連れて魔王城へと乗り込んできて魔王と再び数十年振りの決戦を繰り広げたのだ。

 結果は父の負け。敗因は歳と数十年に負った古傷である。

 こうして再び倒された父は牢獄に入れられてしばらくしないうちに流行り病で死んだ。

 そして唯一の子どもである私が王位を次ぐ事になった。

 父を反面教師として民に優しい政治を始めた。魔族が抱えていた政治的な問題も1つずつ解決していった。

 ついに私にも幸せな人生が舞い降りてきたのだ。

 だが、その代わりに初めての友達であるシトラとは会えなくなってしまった。

 シトラと会えない状態で数年。ついに会える時がきたのだ。

 シトラとそのお友達がいる部屋の前に立つと、早速ドアをノックした。

(やっと会えるんだ・・・!)

 ・・・・・・反応がない。もう一度ノック。

 ・・・・・・やっぱり反応なし。

 思いきってドアを開けて部屋の中に入る。部屋はもぬけの殻だった。

「どうなされました?プリクル様」

「シ、シトラは・・・?私のシトラは?」

「シトラ様ならワイバーンに乗って地上に戻りました。なんでも観光するのだとか」

「そう、なの・・・」

 来るのが遅かった事に落胆するプリクル。

 それを見かねたメイドはプリクルに耳打ちする。

「もしよろしければ外出用の服とワイバーンを用意しますが・・・どうされます?」

 落ち込んでいたプリクルの目がカッ!と開く。どうやら立ち直れたようだ。

「ええ、すぐにお願い・・・!」

 プリクルは私室に向かって走り出した。



「へい、らっしゃい!兄ちゃん達観光かい?」

 まるで八百屋の店員ような男がガラス細工の店に入ってきた歩達の接客をする。

 歩がはい、と頷くと店員は早速案内をしてくれた。

 最初は販売されているガラス細工が置いてある場所ではなく、ガラス細工が作られる過程を見せられる。

 蒸風呂のように暑い場所で職人達が熱したガラスに息を吹き込んで壷のような物にしたり、形が完成しているガラス細工に模様を彫ったりしている。

 どうして人間はこういう物が作られる過程を見るのが好きなのだろうか?

 1時間は見ていられる気がする。

「こちらが出来上がった作品です。どうぞゆっくり見てご購入下さい」

 商品として並べられた職人の息が吹き込まれたガラス細工は日本の物で例えるならば江戸切子のような物だった。

 こんなにも美しいガラスのコップに飲み物を注いでみたいと思ったのはおそらく僕だけではないだろう。

 亮一も葵もシトラもあまりの美しさに見惚れている。

「これ、絶対買ってったら喜ぶ奴じゃん!」

 亮一もとても気に入ったようで早速2、3個持って買いにいった。

 亮一の決断力の速さにはいつも驚かされる。

 さて、自分はどれを買おうか?

 その前にどこで使おうか?店?それとも私生活?

「迷うなー!」

「あら、歩じゃない?どうしたのこんな所で?」

 ガラス細工を見ながら悩んでいると、後ろから高齢の女性の声が聞こえてきた。とても優しく包み込むような声だ。

 歩の耳と頭はその声をはっきりと覚えている。

「マリーお祖母ちゃん!」

 かつて勇者だったラグドさんと共に魔王を倒した聖女マリー。僕の実の祖母である。

「皆お久しぶりー!覚えてるかな?私の事?」

 隣で笑顔を振り撒く修道女勿論覚えていないわけがない。ラグドさんの実の孫であるシスター・メリアだ。

 こんな所でこの2人に出会うとはなんという偶然だろうか?

 それよりも疑問なのが何故この2人が魔族の国にいるのだろうか?

「もしかしてあなた達も平和記念パーティーに呼ばれたの?」

「うん、そうだけど・・・2人ももしかして?」

「一応私、聖女ですから」

「私一応勇者の孫ですから」

 と、自慢気に胸を張る2人。確かに呼ばれる道理は分かる。

「教会は他の子達に任せて参加する事にしたの。それにしても歩、いつの間にそんな大人の顔になったのよ?」

「え、そそそそんな事ないよ!」

 流石伊達に長年生きていることはある。だが、性事情だけは親戚に知られたくない。

 絶対に喋らないでくれよラグド・・・!

 シトラもアホではない。僕の目を見てわかったようでコクりと頷く。

「だって歩20歳になった夜にシトラとヤったんですよ?そりゃあ大人の顔になりますって」

 失敗してしまった。葵が口が軽いことを忘れていた。

 そのあとシスター・メリアに真っ赤で何故か分からないが説教を喰らい、マリーお祖母ちゃんには笑顔で背中を叩かれた。

 もう、最近恥ずかしめられる事が多い気がする。

 因みにガラス細工はコップ5個、馬の置物1個買った。
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