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六章2つの世界

魔王城へ・・・

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 地上から空に浮かぶ魔王城までそう遠くはなかった。

 ワイバーンにお礼を言って、空に浮かぶ大地をゆっくりと踏みしめた。

 もしかしたら崩れてしまうのではないだろうか?トラップが設置されているのではないのか?

 そんな不安をもちながら大地に2つの足をつける。

 ・・・何もなかった。何も起こらなかった。警戒した自分が馬鹿馬鹿しい。

 だけども油断するのは間違いだ。上空に位置しているせいで強い風が身体を吹き飛ばそうと襲ってくる。

 大人程度には体重はあるから僕達は大丈夫だが、子どもや犬や猫などの小動物は大丈夫だろうか?

「相変わらずここは高いな。メグル連れて来なくて良かった」

「ラグドさんの奥さんですか?」

 疑問に思っていたが、質問していなかったこと。ラグドさんが招待されるぐらいだ。その奥様であるメグルさんが招待されてもおかしくないはず。

 なのにここにはメグルさんの姿はみられない。

「アイツはな、かなり重度の高所恐怖症なんだ。木に昇った後に下見たら気絶しちゃうくらいの」

「ああ、成る程ね・・・」

 少し怖いが、四つん這いになって下を見てみる。股間がキュッと締め付けられる感覚に襲われる。見なきゃよかった・・・。

 足を止めているだけでは魔王城には入れない。歩達は足を進める。

 しばらく歩くと魔族の兵士2人が槍を握ってやってきた。

「パーティーの参加者様でしょうか?」

 別に戦いに来たわけではないらしく、身元確認にきたらしい。

 歩は招待状をバッグの中から風に飛ばされないようにしっかりと持って取り出す。

「少々お待ちを・・・・・・確認できました。ようこそお客様、我々が城まで案内します」

 客だと知ると、兵士達を回れ右して魔王城へと歩いていく。歩達は兵士を後ろから追いかける。

 浮遊した大陸には不思議なことに植物が育てられていた。木は勿論、雑草や花も生えている。

 強い風に晒されているせいで変な方向に向いているが。

 植物を見ながら歩いていると兵士達が僕達に向けて話始めた。

「少し前までは何もない更地のような場所だったんです」

「まあ退屈な場所でしたよ」

「そんな貧相な土地を見て哀れみを覚えたプリクル様が私財で植物を植えてくれたのです」

「そうなんですか・・・」

 最初に着いた森と言い、本当に現魔王であるプリクルという女性は植物が好きなのだと分かる。

 田舎なのか栄えているのか分からない埼玉県に住んでいるからか僕や亮一や葵は自然が大好きだ。

 きっと現魔王様と仲良くなれるだろう。

「さて、着きました。こちらが入口です」

 遠くから見ていても凄い迫力ではあったが、至近距離で見るとその迫力が何倍にもなって襲ってくる。

 外装は意外と普通だった。兵士の話によると外装は悪趣味だったから現魔王が変えたのだとか。

 変えるくらい悪趣味な外装。一回見てみたかった。

「少々お待ちを───」

 全長3メートルはある門を兵士が槍の石突で2回叩くと、門は錆びた金属が軋む音を出しながら開く。

「開きましたのでどうぞお入り下さい。我々は門番ですのでご案内はこれにて終了です」

 兵士2人は僕らに向かって敬礼すると、門の前で二王立ちを始めた。彼らに聞こえるように大きな声でありがとう、と述べて中へと入る。

 外装と同じく内装も普通だった。壁は純白で床は大理石に良く似た石で作られている。

 2階へと続く階段の上には天使と悪魔が対決する絵が飾られている。

 他にも色んな絵が壁に飾られていたが、天使と悪魔の絵が特に目立っている。

「ほう、かなり模様替えをしたんだな」

「内装も昔はあまり良くなかったのですか?」

「ああ、かなり悪かった」

 紫の壁に不気味な青い炎の照明。床には悪魔を模したタイルが敷き詰められており、2階へと続く階段の上には天使と悪魔が対決する絵ではなくて、魔族らしき人物が人間を蹂躙する絵だったらしい。

 聞いただけでも分かる悪趣味さ。内装を変えて大正解である。

「お待ちしておりました。ラグド様」

「どうも」

 魔族のメイド数名が、ラグドの前に立ってお辞儀をする。流石は元勇者だ。

「こちらの方々はラグド様のお知り合いですか?」

「ああ。招待状ももらっている正式な招待客だ」

「そうでしたか。ならばもしよければ招待状を見せていただけませんか?」

「あ、はい」

 ポケットから4人の招待状を取り出してメイドさんに渡す。兵士に見せて通してもらったのにまだ検査をするのだろうか?

「歩様、シトラ様、亮一様、葵様ですね?プリクル様から聞いております。貴方がたのお部屋も用意されています」

「ありがとうございます」

 シトラがいるのが大きかったのだろう。まさかの厚待遇。

別段断る理由はない。歩達はメイドについていった。



「こちらが皆様が使うお部屋となっております」

 僕達に用意されていた部屋は高級ホテルのロイヤルスイートルームと同格の部屋だった。

 置物1つ1つが見た目からして高価で壊した時の事を想像するととても怖い。

「宴の開始時間は午後の6時からになっております。それまでどうぞごゆっくり」

 メイドは頭をペコリと下げて、部屋から出ていった。

「凄い、この部屋」

 葵がベッドの上をトランポリンのように跳ねる。本当に今年20歳になる女性なのか?と心配してしまう。

「パーティーの開始が6時からだって言ってたけどよ、まだ1時じゃん」

 意外と早く着いてしまい、パーティー開始時間まで5時間も暇があるのだ。

「だからさ、ワイバーンで地上に戻って観光しね?」

「良いね!そうしよう!」

 招待状と、ロマニア王からもらった金貨が入った袋を手に持ち、竜殺しの剣を腰に携える。

「歩、剣なんか持っていかなくても大丈夫でしょ?」

「いや、もしかしたら厄介事に巻き込まれるかもしれないから・・・」

「・・・確かに。アタシも短剣ぐらいは持っていこう」

「私も」

 2ヶ月前のエルフの里の時のようにいざという時に武器を持っていないのは勘弁だ。

 ラグナロクの町を歩く時は武器は持っておくとエルフの里で誓っていたのだ。

「亮一は何か見たいものでもあるのか?」

「見たい物というよりも明美にお土産を買っていかなきゃいけないと思ってさ」

「明美ちゃんあっちの世界に置いてきぼりだもんね」

「仕方ねぇだろ!明美の招待状は無いし、そもそもアイツはステータスカード所持者ではないし」

 こちらの世界にステータスカードを持たない人間が来たりなんかしたら魔物に襲われて死ぬのがオチだ。

 だから決して一般人は連れていかない。

「魔族が作るガラス細工はとても綺麗よ。明美ちゃんに渡したら絶対に喜ぶわ」

「おお、そうなのか!ならガラス細工を買いに行こうぜ!」
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