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六章2つの世界
宴のラッシュ
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「いやー、意外と人集まったねアタシの誕生日パーティー」
「まさか僕の高校の友達とあんなに仲良かったとは思わなかった」
4月の26日。今日はシトラの生まれた日だ。
4日前の僕の誕生日会同様にかなり盛り上がった。
シトラが連れてきたお友達の中に僕の高校の頃の同級生がいたのはとても驚いた。
いつ仲良くなったのかは知らないが、とても仲が良さそうだった。
全員僕の顔を見るなりなんだか切なそうな顔をしたのが気がかりだが。
「一体どこで知り合ったのさ?」
「えーっとそれはね・・・」
★
今から2年前の話である。
冬馬さんに休みをもらったアタシは夏川の町をもっと知ろうと散歩する事にした。
商店街を歩くと、優しいおじさんおばさん達が挨拶をしてくれる。
公園に行けば子供達が仲良く砂遊びをしている。
とても平和だ。ラグナロクもこんなに平和だったらどれ程良いことか・・・。
公園のベンチに座りながら黄昏れる。
するとアタシの前に数人の女の子が立ちはだかった。
「あなたがシトラ?」
「あなた達は・・・?」
仁王立ちする数人の女の子はアタシにあまり好意的ではない視線を向けてくる。敵意に近い視線だ。
「私達は歩君ファンクラブの者よ」
「歩の・・・ファン?」
なんと驚きだ。あの歩にファンがいたとは・・・別にそれほど有名人ではないはずなのに何故ファンクラブが?という疑問があるが、まあ良いだろう。
「あなた最近『憩いの場』で働いているらしいじゃない?」
「ええ、そうだけど・・・何でそんな事を聞くの?」
「何で私達は雇われないであなたは雇われるのよ!」
そういえば冬馬さんが言っていた。「うちには人を雇う余裕とお金が無い」と。
それが理由でこの娘達も雇われなかったのだろう。それに対してアタシは『憩いの場』で歩と共に働いている。
彼女達の不満はそのなのだろう。ならばしっかりと理由を説明しなきゃならない。
「最近、別の世界から魔物が現れているのは知ってるわよね?」
「ええ、ニュースになってるからね。それを退治してるのは歩君とその他の人だと言うのもね」
その他って・・・・。
「アタシは魔物が来ている世界から来たの」
「へー、そうなの。あっちの世界の人は全員あなたみたいに耳が長いわけ?」
「ううん。アタシの世界では人間以外にもドワーフ、オーガ、エルフ、魔族の4種の知的生命体が暮らしているの。アタシはその4種の中の1種のエルフよ」
「本当に本の中みたいな世界なのね、別の世界は。・・・あなたの事はよく知ることができたわ。次は何で『憩いの場』で働いているかを教えて頂戴」
何とも上から目線で腹立たしいが、あちらが怒っているのも分からなくはない。
シトラは丁寧に宿が無いから働く代わりに住ませてもらっている事を説明した。
「そうなの・・・・てことはあなた、歩君と1つ屋根の下で暮らしているの?」
「ええ、そうよ」
この事は言うのは不味かったかもしれない。今でも少し後悔している。
アタシと歩が同じ家で暮らしていることを知った歩のファンの女の子達は狂ったように叫び出す。
思わず耳を塞ぎたくなるレベルだ。
「ああああなたそれは勿論冗談よねねねねね?」
「え、本当だけど?」
自分で言うのもなんだが、その時のアタシは純粋な子供のように素直な女だった。
だから歩とくっつくことが出来たのだろうけど。
「何であなたみたいな清楚を装ったビッチみたいか女が歩君と一緒に暮らしているのよ!」
「むっ・・・!」
この発言には流石のアタシも少しカチンときてしまった。今思えば何でこの時大人な対応ができなかったのだろうと反省している。
ここでしっかりと大人の対応をしていればもっと早く歩のファンの子と仲良くなれたにちがいない。
「歩はあなたみたいに親しくない人に悪口を言うような女はあまり好きじゃないからよ!」
「なんですって・・・あなた一体何様よ!歩君の事何も知らないくせに!」
「へーん!知ってますよーだ!歩の優しさも、可愛さも、アソコの大きさもね!」
アソコの大きさもね!は本当に余計だった。蛇足というやつだった。最後の一言が更に口喧嘩に油を注ぐ。
「アソコの大きさって・・・!何であなたが歩君のオ〇ン〇ンの大きさを知ってるのよ!」
「一緒にお風呂に入ったからよ!」
時を遡れる道具があったら使ってこの時の自分に顔面パンチを喰らわせたい。何で調子に乗って言ってしまったのだろうか?
「あ、歩君とお、お風呂・・・!許せない!」
「許されなくて結構ですー!とにかくあなた達に歩とアタシの関係に首を突っ込む権利はありませんから!」
「なんだと・・・!」
ついにキレたファンクラブの女の子がシトラの胸ぐらをつかみにかかる。
シトラは掴まれる寸前で身体を反らすと、勢い良く地面に顔を強打した。
女の右の鼻の穴から一筋の鼻血が垂れる。
「いった~・・・」
「あ、えっと・・・大丈夫・・・?」
「ちょっと!何してくれてんのよ!」
「京子鼻血出しちゃったじゃない!」
「ひどい!最低!」
まるでアタシが悪人のような言い方だが、喧嘩を売ってきたのも胸ぐらを掴もうとしてずっこけたのもこの京子っていう女がやったことではないか。冗談じゃない。
これ以上この人達をいたら堪忍袋の緒が切れて殴ってしまいそうだ。
同じ力同士の殴り合いならまだ良い。だが、相手はステータスカードを持たない非力な人間。一発でも殴ったりしたら骨は折れてしまうだろう。
歩のファンクラブの子達が待ちなさい!と叫んでいるのを右から左に流してアタシは帰路を歩いた。
★
「ほら、あったでしょ?アタシが怒りながら帰ってきた日」
「覚えてる覚えてる。理由はそれだったのか」
2年前聞いても教えてくれなかったのに、こんなところで教えてもらえるとは思いもよらなかった。
「それで、喧嘩で仲良くなったとは思えないけど、その後仲直りしたの?」
「うん。で、そのあと仲良くなったんだ!」
★
歩のファンクラブの娘達を喧嘩をしてから1ヶ月が経ちアタシはすっかりあの人達の事を忘れて暮らしていた。
冬馬さんがまだ生きていた頃が1番魔物が送られる頻度が高かったが、ファンクラブの娘と喧嘩していた時が1番魔物が出やすい期間だったのである。
「今度はどこで何が出たの!?」
「所沢でデッカイスライム!緑さんが爆撃したら分裂して400体になったけど」
「お姉ちゃんどんだけ思いきって爆撃したのよ・・・スライムの弱点とかは?」
「真ん中にある核を破壊すれば死ぬわ。でも核を外して別の所斬ったら分裂するから気を付けてね」
スライム。歩達が今まで戦った事のなかった魔物。某有名RPGの影響で誰もが知っているはずの魔物なのだが、一回もエデンに現れた事はないのだ。
だからか分からないが歩のテンションが少し高め。
「よっしゃ!気合い入れて倒そう!」
「テンション高っ!所沢のプロペ通りで良いんだな?」
「杉田さんの言った事が本当ならね」
夏川から所沢まではそう遠くはない。導きの石なんか必要ない。
『憩いの場』から出て10分。歩達は所沢駅の近くにあるプロペ通りへとやって来た。ゲームセンターや飲み屋が立ち並ぶ通りに今日は人ではなく、スライムがはびこっている。
少し予想はしていたが、スライムは某有名RPGのように可愛くはなかった。むしろグロテスクである。人を体内に吸収するのだろうか、透明な身体の中に人の手が浮いている。
良く観察して核がどこにあるのか確認。あった。青色の水のような身体の真ん中にドン!と大きな赤い球体があった。
誰がどう見てもあれが核だろう。
「シトラ、君の矢は核まで届くのか?」
「もっちろん!アタシの射撃なめないでよ!」
弓の弦に矢を番わせながら歩に向かって片目を閉じてウインクすると建物の上に登って上からスライムを打ち始めた。
「歩、毎回毎回店が忙しいのに呼び出してすまんな!」
スライムの核を確実に破壊しながら優人は助太刀に来てくれた歩に感謝を述べる。
「気にしないでくださいよ。人救いなんですから」
歩達の参戦でみるみるうちにスライムの数は減っていく。スライムの身体を形成していた液体でプロペ通りは水浸しだが。
シトラも一体一体確実に倒していた。効率良く倒していると、いくつかの人影を見つける。人影は裏路地に走っていった。
最初は見間違いかと思ったが、その人影をスライムが追いかけていく。スライムには目はないが、辺りの振動でどこに獲物がいるのかわかってしまうのだ。
「ちょっ!追いかけてくんなし!」
裏路地から聞こえてきたのは聞き覚えのある女の声。建物の上から見てみるとスライムに襲われていたのは歩のファンクラブと名乗る京子という歩の同級生とその取り巻きである。
個人的な恨みはあるが、別に悪人でもなければ特別な力を持っているわけではない。よってアタシが取る行動は1つ。
矢を弓の弦に番えるや否やシトラは矢をスライムの核めがけて撃った。
冷静に撃つシトラの矢は確実に当たると言っても過言ではない。見事に京子とその取り巻きを襲うスライムの退治に成功した。
「え?これって矢・・・?」
シトラによって助かった京子と取り巻き達は自分達の身に起きた事をゆっくりと確認する。
シトラは驚かせないようにとゆっくり建物の上から裏路地に落ちた。
優しく降りても魔物に襲われた直前からか少し驚かせてしまったが。
「あんた、何でいるのよ!」
「見ればわかるでしょ!?戦ってるの!危ないから早く逃げなさい!」
「に、逃げるたって魔物がいっぱいでどこに逃げれば良いのやら───」
「アタシが先導してあげるから早く逃げなさい!」
弓矢を構えながら裏路地を出ると、シトラはすぐ近くの所沢駅へと連れていった。
先程まではスライムだらけだったが、今は退治されていない。優人さんの情報によると所沢駅に近くにいた市民は避難しているとのこと。
気に喰わないが京子と取り巻き達は一般市民だ。見殺しには絶対できない。
スライムを蹴散らしながら所沢駅へと到着する。
京子達は一安心したようで、まだ中にも入っていないというのに床にへたれこんでしまった。
京子は息をある程度整えると、立ち上がってシトラの前に立つ。
「た、助かったわ。かなり大きな借りができちゃったわね。いつかお礼しなきゃ───って何何何!?」
シトラは真剣な眼差しで京子を見ながら弓矢を構えていた。
「ままままさか私を撃とうとしてるわけじゃないよななな!?」
シトラは何も答えない。ジリジリと弦を引いていき、木製の矢を思い切り放った。
京子は恐怖で目を閉じた・・・・・・だが、痛みは一切感じない。代わりに感じたのは髪を揺らす風。
背後からべちゃりと音が聞こえてくる。ゆっくりと目を開けて後ろを振り向いてみるとスライムがシトラの矢に貫かれて液体へと成り果てていた。
シトラは京子ではなく、京子の後ろにいるスライムを狙っていたのだ。
「あ・・・う・・・」
「後ろ、気を付けなさい」
そう言い残すとシトラは再びプロペ通りへと姿を消していった。
この戦いの後シトラが京子とその取り巻き達と仲良くなったのは言うまでもない。
「まさか僕の高校の友達とあんなに仲良かったとは思わなかった」
4月の26日。今日はシトラの生まれた日だ。
4日前の僕の誕生日会同様にかなり盛り上がった。
シトラが連れてきたお友達の中に僕の高校の頃の同級生がいたのはとても驚いた。
いつ仲良くなったのかは知らないが、とても仲が良さそうだった。
全員僕の顔を見るなりなんだか切なそうな顔をしたのが気がかりだが。
「一体どこで知り合ったのさ?」
「えーっとそれはね・・・」
★
今から2年前の話である。
冬馬さんに休みをもらったアタシは夏川の町をもっと知ろうと散歩する事にした。
商店街を歩くと、優しいおじさんおばさん達が挨拶をしてくれる。
公園に行けば子供達が仲良く砂遊びをしている。
とても平和だ。ラグナロクもこんなに平和だったらどれ程良いことか・・・。
公園のベンチに座りながら黄昏れる。
するとアタシの前に数人の女の子が立ちはだかった。
「あなたがシトラ?」
「あなた達は・・・?」
仁王立ちする数人の女の子はアタシにあまり好意的ではない視線を向けてくる。敵意に近い視線だ。
「私達は歩君ファンクラブの者よ」
「歩の・・・ファン?」
なんと驚きだ。あの歩にファンがいたとは・・・別にそれほど有名人ではないはずなのに何故ファンクラブが?という疑問があるが、まあ良いだろう。
「あなた最近『憩いの場』で働いているらしいじゃない?」
「ええ、そうだけど・・・何でそんな事を聞くの?」
「何で私達は雇われないであなたは雇われるのよ!」
そういえば冬馬さんが言っていた。「うちには人を雇う余裕とお金が無い」と。
それが理由でこの娘達も雇われなかったのだろう。それに対してアタシは『憩いの場』で歩と共に働いている。
彼女達の不満はそのなのだろう。ならばしっかりと理由を説明しなきゃならない。
「最近、別の世界から魔物が現れているのは知ってるわよね?」
「ええ、ニュースになってるからね。それを退治してるのは歩君とその他の人だと言うのもね」
その他って・・・・。
「アタシは魔物が来ている世界から来たの」
「へー、そうなの。あっちの世界の人は全員あなたみたいに耳が長いわけ?」
「ううん。アタシの世界では人間以外にもドワーフ、オーガ、エルフ、魔族の4種の知的生命体が暮らしているの。アタシはその4種の中の1種のエルフよ」
「本当に本の中みたいな世界なのね、別の世界は。・・・あなたの事はよく知ることができたわ。次は何で『憩いの場』で働いているかを教えて頂戴」
何とも上から目線で腹立たしいが、あちらが怒っているのも分からなくはない。
シトラは丁寧に宿が無いから働く代わりに住ませてもらっている事を説明した。
「そうなの・・・・てことはあなた、歩君と1つ屋根の下で暮らしているの?」
「ええ、そうよ」
この事は言うのは不味かったかもしれない。今でも少し後悔している。
アタシと歩が同じ家で暮らしていることを知った歩のファンの女の子達は狂ったように叫び出す。
思わず耳を塞ぎたくなるレベルだ。
「ああああなたそれは勿論冗談よねねねねね?」
「え、本当だけど?」
自分で言うのもなんだが、その時のアタシは純粋な子供のように素直な女だった。
だから歩とくっつくことが出来たのだろうけど。
「何であなたみたいな清楚を装ったビッチみたいか女が歩君と一緒に暮らしているのよ!」
「むっ・・・!」
この発言には流石のアタシも少しカチンときてしまった。今思えば何でこの時大人な対応ができなかったのだろうと反省している。
ここでしっかりと大人の対応をしていればもっと早く歩のファンの子と仲良くなれたにちがいない。
「歩はあなたみたいに親しくない人に悪口を言うような女はあまり好きじゃないからよ!」
「なんですって・・・あなた一体何様よ!歩君の事何も知らないくせに!」
「へーん!知ってますよーだ!歩の優しさも、可愛さも、アソコの大きさもね!」
アソコの大きさもね!は本当に余計だった。蛇足というやつだった。最後の一言が更に口喧嘩に油を注ぐ。
「アソコの大きさって・・・!何であなたが歩君のオ〇ン〇ンの大きさを知ってるのよ!」
「一緒にお風呂に入ったからよ!」
時を遡れる道具があったら使ってこの時の自分に顔面パンチを喰らわせたい。何で調子に乗って言ってしまったのだろうか?
「あ、歩君とお、お風呂・・・!許せない!」
「許されなくて結構ですー!とにかくあなた達に歩とアタシの関係に首を突っ込む権利はありませんから!」
「なんだと・・・!」
ついにキレたファンクラブの女の子がシトラの胸ぐらをつかみにかかる。
シトラは掴まれる寸前で身体を反らすと、勢い良く地面に顔を強打した。
女の右の鼻の穴から一筋の鼻血が垂れる。
「いった~・・・」
「あ、えっと・・・大丈夫・・・?」
「ちょっと!何してくれてんのよ!」
「京子鼻血出しちゃったじゃない!」
「ひどい!最低!」
まるでアタシが悪人のような言い方だが、喧嘩を売ってきたのも胸ぐらを掴もうとしてずっこけたのもこの京子っていう女がやったことではないか。冗談じゃない。
これ以上この人達をいたら堪忍袋の緒が切れて殴ってしまいそうだ。
同じ力同士の殴り合いならまだ良い。だが、相手はステータスカードを持たない非力な人間。一発でも殴ったりしたら骨は折れてしまうだろう。
歩のファンクラブの子達が待ちなさい!と叫んでいるのを右から左に流してアタシは帰路を歩いた。
★
「ほら、あったでしょ?アタシが怒りながら帰ってきた日」
「覚えてる覚えてる。理由はそれだったのか」
2年前聞いても教えてくれなかったのに、こんなところで教えてもらえるとは思いもよらなかった。
「それで、喧嘩で仲良くなったとは思えないけど、その後仲直りしたの?」
「うん。で、そのあと仲良くなったんだ!」
★
歩のファンクラブの娘達を喧嘩をしてから1ヶ月が経ちアタシはすっかりあの人達の事を忘れて暮らしていた。
冬馬さんがまだ生きていた頃が1番魔物が送られる頻度が高かったが、ファンクラブの娘と喧嘩していた時が1番魔物が出やすい期間だったのである。
「今度はどこで何が出たの!?」
「所沢でデッカイスライム!緑さんが爆撃したら分裂して400体になったけど」
「お姉ちゃんどんだけ思いきって爆撃したのよ・・・スライムの弱点とかは?」
「真ん中にある核を破壊すれば死ぬわ。でも核を外して別の所斬ったら分裂するから気を付けてね」
スライム。歩達が今まで戦った事のなかった魔物。某有名RPGの影響で誰もが知っているはずの魔物なのだが、一回もエデンに現れた事はないのだ。
だからか分からないが歩のテンションが少し高め。
「よっしゃ!気合い入れて倒そう!」
「テンション高っ!所沢のプロペ通りで良いんだな?」
「杉田さんの言った事が本当ならね」
夏川から所沢まではそう遠くはない。導きの石なんか必要ない。
『憩いの場』から出て10分。歩達は所沢駅の近くにあるプロペ通りへとやって来た。ゲームセンターや飲み屋が立ち並ぶ通りに今日は人ではなく、スライムがはびこっている。
少し予想はしていたが、スライムは某有名RPGのように可愛くはなかった。むしろグロテスクである。人を体内に吸収するのだろうか、透明な身体の中に人の手が浮いている。
良く観察して核がどこにあるのか確認。あった。青色の水のような身体の真ん中にドン!と大きな赤い球体があった。
誰がどう見てもあれが核だろう。
「シトラ、君の矢は核まで届くのか?」
「もっちろん!アタシの射撃なめないでよ!」
弓の弦に矢を番わせながら歩に向かって片目を閉じてウインクすると建物の上に登って上からスライムを打ち始めた。
「歩、毎回毎回店が忙しいのに呼び出してすまんな!」
スライムの核を確実に破壊しながら優人は助太刀に来てくれた歩に感謝を述べる。
「気にしないでくださいよ。人救いなんですから」
歩達の参戦でみるみるうちにスライムの数は減っていく。スライムの身体を形成していた液体でプロペ通りは水浸しだが。
シトラも一体一体確実に倒していた。効率良く倒していると、いくつかの人影を見つける。人影は裏路地に走っていった。
最初は見間違いかと思ったが、その人影をスライムが追いかけていく。スライムには目はないが、辺りの振動でどこに獲物がいるのかわかってしまうのだ。
「ちょっ!追いかけてくんなし!」
裏路地から聞こえてきたのは聞き覚えのある女の声。建物の上から見てみるとスライムに襲われていたのは歩のファンクラブと名乗る京子という歩の同級生とその取り巻きである。
個人的な恨みはあるが、別に悪人でもなければ特別な力を持っているわけではない。よってアタシが取る行動は1つ。
矢を弓の弦に番えるや否やシトラは矢をスライムの核めがけて撃った。
冷静に撃つシトラの矢は確実に当たると言っても過言ではない。見事に京子とその取り巻きを襲うスライムの退治に成功した。
「え?これって矢・・・?」
シトラによって助かった京子と取り巻き達は自分達の身に起きた事をゆっくりと確認する。
シトラは驚かせないようにとゆっくり建物の上から裏路地に落ちた。
優しく降りても魔物に襲われた直前からか少し驚かせてしまったが。
「あんた、何でいるのよ!」
「見ればわかるでしょ!?戦ってるの!危ないから早く逃げなさい!」
「に、逃げるたって魔物がいっぱいでどこに逃げれば良いのやら───」
「アタシが先導してあげるから早く逃げなさい!」
弓矢を構えながら裏路地を出ると、シトラはすぐ近くの所沢駅へと連れていった。
先程まではスライムだらけだったが、今は退治されていない。優人さんの情報によると所沢駅に近くにいた市民は避難しているとのこと。
気に喰わないが京子と取り巻き達は一般市民だ。見殺しには絶対できない。
スライムを蹴散らしながら所沢駅へと到着する。
京子達は一安心したようで、まだ中にも入っていないというのに床にへたれこんでしまった。
京子は息をある程度整えると、立ち上がってシトラの前に立つ。
「た、助かったわ。かなり大きな借りができちゃったわね。いつかお礼しなきゃ───って何何何!?」
シトラは真剣な眼差しで京子を見ながら弓矢を構えていた。
「ままままさか私を撃とうとしてるわけじゃないよななな!?」
シトラは何も答えない。ジリジリと弦を引いていき、木製の矢を思い切り放った。
京子は恐怖で目を閉じた・・・・・・だが、痛みは一切感じない。代わりに感じたのは髪を揺らす風。
背後からべちゃりと音が聞こえてくる。ゆっくりと目を開けて後ろを振り向いてみるとスライムがシトラの矢に貫かれて液体へと成り果てていた。
シトラは京子ではなく、京子の後ろにいるスライムを狙っていたのだ。
「あ・・・う・・・」
「後ろ、気を付けなさい」
そう言い残すとシトラは再びプロペ通りへと姿を消していった。
この戦いの後シトラが京子とその取り巻き達と仲良くなったのは言うまでもない。
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