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五章妖精達の森

全回復

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 シトラの放った3本の矢は空を斬ってオクトスへと飛んでいく。

「よっ!はっ!とっ!」

 だが、オクトスから見たらその矢はとても遅かった。簡単に止められてしまう。

「そんな遅い矢で私は射抜けませんよ」

「何だと、この野郎~!」

 自分の弓術を馬鹿にされたシトラは膝をついて弓矢を構えると、魔術を唱え始めた。

「風の神よ、我が矢に疾風を──『ウイングアロー』!」

 風をまとった矢が再びオクトスめがけて飛んでいく。先ほどの矢よりも2倍早い正に疾風の如き矢がオクトスを襲う。

「おおっ!早い!でも───」

 オクトスには見えていた。容易に矢の軌道から外れる。

 だが、シトラは笑っている。右手の人差し指をオクトスに向かって指すと矢が生き物のように軌道を変えて再びオクトスへと向かっていく。

「何っ!?」

「甘いわね!アタシだってこういう技も出来るのよ!」

 オクトスは当たらんようにと避け続けるも、シトラの矢は決して逃してはくれない。

 まるで獲物を見つけた狼のように追いかけていく。

「しつこいですね・・・!」

 他の事そっちのけでシトラの矢から逃げる。逃げて逃げて逃げまくる。

 やがてオクトスの体力は消耗していく。一方のシトラは指を指しているだけなので何にも疲れを感じない。

「いい加減に───しろ!!」

 ついに堪忍袋の緒が切れたのか、シトラの追いかけてくる矢を火の魔術で燃やしてしまった。先ほどまで追いかけていた矢は灰になってパラパラと地面に落ちていく。

「やはりエルフの狩人は他の種族の狩人よりも厄介ですね・・・」

「厄介なのは狩人だけじゃないぞ」

「え・・・?」

 そう。オクトスはシトラの矢から逃げることで精一杯だった為、忘れていたのだ。レベル91のリズベル騎士団長の存在を。

 リズベルの剣の刃には巨大な電気が走っていた。10万ボルトはありそうなくらいの電気が。

「私の奥義は少し痺れるぞ──『スパークストライク』!」

 剣を振り下ろした瞬間、巨大な電気がオクトスを襲う。オクトスは逃げる隙を与えられずに10万ボルトはある電気をがっつりと言わんばかりに喰らった。

「き、さま・・・!」

 ダメージは喰らっているのは目に見えてわかる。だが、大ダメージとまでは行かなかったようだ。

鎧が金属製だったのか、少し麻痺を起こしている。

「その剣・・・雷の魔術がかけられた物ではないな・・・」

「その通りだ。この剣を作る際に使われたのは雷神トールの戦槌。雷の魔術とは比べ物にはならないさ」

 雷神トール。オーディン神の息子であり、様々な武勇がある戦い好きの神。

 雷神トールが愛用していたニョルニルは雷の力を持っていたとされる。

 そんな戦槌で剣を打ったらどうなるだろうか。神器にも近い強力な剣が完成するだろう。

「ま、元々戦いで使う金槌だったから剣を作るのは些か苦労したらしいけどな」

「何とも厄介な剣を作ってくれた物だな、その剣を作った鍛冶職人は・・・!お前達を殺したら会いに行こう」

「その機会は多分訪れないと思う。私達がお前を倒すのだから」

「青二才が・・・!」

「私はもう30歳だ・・・!」



「ふう、かなり楽になった・・・」

 身体の疲れや激しい痛みは8割程無くなっているが、後で反動があると思うとなんだが頭が痛くなってくる。

 ポーションとは所謂即効性のエナジードリンクだ。後で絶対に返済がある。

「オクトスをここから出すよりかは幾分マシかな・・・?」

 だいぶ軽くなった身体を起こして、剣を握る。

「さてと・・・再チャレンジと行きますか!!」



「キヤァ───!!」

「ぐっ・・・!!」

 オクトスの剣撃は凄まじいものだった。常人では到底とらえる事はできないだろう連続攻撃はリズベルを苦戦させる。

「ほらほら!アナタのご自慢のミョルニルソードで私を攻撃してきなさい!」

「変な名前を───つけるな!!」

 剣撃の隙を狙った攻撃。見透かされたかのようにその一撃は避けられてしまう。

「先ほど私に使った・・・何でしたっけ?そうだ、『スパークストライク』。あれを打たなければ私は到底倒せませんよ?」

「断る。その口振り、絶対に嫌な予感しかしない」

「ご名答。先程ばっちし喰らったので対策はばっちりなオクトスなのです!」

 オクトスの様子を見るともうスパークストライクのダメージは消え去っているようだった。

 それは通常攻撃が当たらない今の状況でオクトスに傷を与えられないを意味している。

「『カオスモード』フル展開!」

 緊迫な状況に漂う白と黒のオーラ。だけども安心感のあるオーラだ。

「おやおや、随分とお早い復活ですね。歩君」

「凄く強いポーションを飲んだからね」

「すまない歩君・・・やはり私だけでは倒せないようだ。君の力を借りたい」

「分かりました・・・と、言いたい所なのですが、少しだけ待っていてくれませんか?」

 快く承諾してくれると思っていたリズベルは意外な歩の解答に口が半開きになってしまう。リズベルは焦ってもう一度頼んだ。

「僕に良い策があるんです。きっとあの悪魔を倒せる良い方法が」

「頭の良い君が言う事だ。きっと良い作戦がその頭の中にあるのだろう。分かった、持ちこたえよう」

「ありがとうございます!」

 頭を下げると、歩は駆け足でシトラに近づく。

「ちょっと導きの石貸してくれないかな?」

「一体何をするつもりなの歩?」

「多分今からシトラに頼む内容を聞いたらすぐに分かると思う。父さんの白銀の剣を探してして」

「一体白銀の剣に何の意味が───ああ成る程ね!」

 シトラは意味が分かったらしく、ポンと手を叩く。

「じゃ、これ!」

 雑嚢を漁って繋りの石を取り出すと、歩に手渡す。

 サンキューとお礼を言って歩は何処かへと繋りの石を使って行ってしまった。
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