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五章妖精達の森
ついに来た里帰りの日
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月曜日、午前9時。歩はラグナロクへ行くための最終チェックをシトラと共に行っていた。
荷物量はと言うと最初はキャリーバッグ2つ分あったのだが、日用品はあちらで用意されているという事で何とかキャリーバッグ1つ分で済ませる事が出来た。
しかし、いつの間にご両親に連絡をしたのだろうか?繋がりの石を持っているのは元山署長だけだ。
そういえば、2週間前にお使いに行かせたっけ?その時に連絡したのだろう。
「やばい・・・眠い」
歩は強烈な睡魔に襲われていた。油断したら眠ってしまう程である。
一方のシトラは遠足に行く小学生低学年かと言いたい程ウキウキしていた。久しぶりの里帰りだテンションが上がるのも無理はない。
「楽しみで寝られなかったの?」
「いや、その逆。果たして僕が受け入れられるかどうか心配で心配で・・・」
「大丈夫だよ!お父さんとお母さんに定期的にラグドさん通して歩の良い所書いたり歩の写真送ったりしたけど、『良い子を見つけられたじゃないか!』って返事が来たから!」
「そうなの・・・そんな事やってたの!?」
いつの間にラグドさんにそんな物を渡していたんだよ!そしてラグドさんも僕に伝えてくれよ!!
まだ里帰りは始まってもいないのに、もう疲れてしまっている。明らかになったシトラの所業とシトラのご両親に認められるかどうかの心配で押し潰されてしまいそうだ。
「でも、結果的に良い印象与えてるんだから良いじゃん!」
「会ったらどうなるか分からないじゃないか・・・僕とシトラのご両親のウマが合わない可能性だってあるんだし・・・」
はぁ、とタメ息をつく歩のバンッと背中を叩く。
「痛ッッ!!」
とっさに後ろを振り返るとそこには膨れっ面のシトラがいた。今まで1年半の同棲で作り上げてきた記憶がシトラが危険信号を鳴らす。
膨れっ面になったシトラは少し面倒くさい。その面倒くささはキングリザードを上回るだろう。
「ご、ごめん・・・つい緊張でネガティブになっちゃった・・・」
「気持ちは分かるよ。分かるけどさぁ・・・もっとリラックスしてよ折角の里帰りなんだし!!」
「ごめんなさい・・・」
腰を曲げてペコリと頭を下げる。3秒程して顔を上げると、シトラは自分の指で自分の唇を指していた。
彼女が僕に求めているのはただ1つ。ごめんねのキスだ。
歩は苦笑いしながらも両手をシトラの顔に添えて優しく唇を重ねた。
5秒程キスをすると、歩は少し顔を赤くしながらシトラから離れた。
「フフ、可愛い」
「からかわないでくれよ・・・」
何回もしているのにも関わらずキスで恥ずかしがっている歩を見るのがシトラにとって最高の至福の時間なのである。
「ほ、ほら!早く行くぞ!時間通りに行かないと元山署長怒っちゃうから!」
「はーい!」
★
夏川市警察署の署長室へと到着した歩とシトラは丁寧にドアをノックする。
「良いぞ、入れ」
許可が下りると同時に歩はドアを開けて署長室へと入る。そこにはやはりいつもしかめっ面の元山署長がいた。
「どうも、おはようございます」
「時間通りだな。これからも心がけると良い」
褒めているのは分かるのだが、しかめっ面のせいで皮肉に聞こえるのがこの署長の悪い所である。
表情なら誰にでも変えられるのに何故この人は笑わないのだろうか?きっと良い笑顔が作れるのだろうに。
「さて、今回は里帰りと聞いたのだが・・・お前らは何故武装しているのだ?」
そう、歩とシトラは武装していた。歩は魔女にもらった黒い鎧を胸と籠手とブーツの部分だけ装着して腰には白銀の剣を帯びており、シトラは狩人装束に竹製の弓と矢を背中に背負っていた。
「ほら、あっちは魔物が生息している場所なのでね。もしもの時の為の対策です」
「そうか・・・頼むから死なないでくれよ。お前達は日本の守護者なんだから」
「大丈夫ですよ。今回はただの里帰りですから!」
「何フラグを立てているんだ君は!!もし本当に魔物と戦いたくないなら絶対にそういうフラグが立つような事は言うな!頭の中で思うだけで良い!!」
元山署長の意見も一理あった。僕は人より幸運度が低い。思わぬ事故を呼び寄せてしまうかもしれない。この前だって不良高校生10人に絡まれたし(完膚なきまでにこらしめたが)。
「と・に・か・く!最近魔物の被害が少しだけだが減ってきているんだ!変な事をして魔物をこちらの世界へ送り込まないように!以上!!」
付き合いが短いと面倒事を押し付けられたくないだけだろ?と思う人もいるが、元山署長はそんな理由で言っているわけではない。
彼は心から一般人が傷つくのを嫌っている。怒りっぽい人だが、彼の心には僕達以上の正義感が宿っているのだ。それ故この署長は皆に尊敬され愛されている。
「これがラグナロクに行ける程の力を持つ導きの石だ。良いか?壊さないようにな?」
渡されたのはいつも使っている導きの石よりも輝きが強い導き石だった。これさえあれば別世界であるラグナロクにも簡単に行く事が出来るのだ。
「では、署長。お元気で。お土産はしっかり買ってきます」
導きの石を頭上にかざし行き先を思い浮かべる。まず、最初に向かうはロマニア王国だ!!
「あまり変な物は買ってこないようにな!あと旅行客専門の詐欺師には気をつけろよ~!」
相変わらずのしかめっ面だが、僕らに向かってサムズアップをしてみせる。一瞬だが、署長の口角が上がった気がした。
導きの石から放たれた光は歩達を包むと別の世界へと導いていった。
「・・・・・・やはり笑顔で送っていった方が良かっただろうか?」
★
1時間程の移動は終了し、目の前に現れたのは思わず腰が抜けてしまう程に大きく美しい城。ロマニア城がそびえたっていた。
「相変わらずここは凄い場所だな・・・」
城に見惚れていると、槍を持った2人の兵士がこちらに向かって走ってきた。
「貴様、何者だ?名を名乗れ」
どうやら検問のようだ。2ヶ月前に来た時はラグドさんやライムさんと一緒に来たから検問にかからなかっただけで、やはり自分達だけでは簡単には通れないらしい。
「あの、エデンから来ました歩と申します。久しぶりにラグナロクの方に来たのでロマニア王に挨拶をと思いまして・・・」
「何?歩だと・・・?しばし待たれよ」
そう言うと2人の内1人が城に向かって走っていった。残った兵士はどうやら新人のようで初対面である僕達に対して低い腰で話してきた。
「あの・・・本当に歩さんなんですか・・・?」
「はい、そうです」
「あの、その・・・我が国を守ってくれてありがとうございました!貴方様がいなければロマニア王国は滅亡していたかもしれません!!」
新人兵士から飛んできたのはまさかのお礼の言葉だった。詳しく聞いてみると彼は僕の強さに憧れて兵士に志願したらしい。
しかも彼ように僕が理由で兵士になった者はかなりの数がいるらしい。なんだか英雄になった気分だ。
「何をおっしゃるのです!貴方は正真正銘の英雄ですよ!!」
英雄・・・か。まだ青二才の僕が英雄という冠を被るには早すぎるのではないのだらうか?果たして僕の前世である竜殺しのシグルは僕を英雄として認めてくれるだろうか?
新人兵士と世話しない会話を続けて5分。ようやっと城へと走っていった兵士が戻ってきた。彼は目の前に立つといきなり敬礼してきた。
「失礼しました、アユム殿。どうぞ城へとお入りください。王も謁見の間にて待っております」
「わざわざありがとうございます」
城へと戻って入城許可を取りにいってくれたベテラン兵士にお礼を述べると城へと続く道を歩く。
右を見ると僕より歳が少し下の少年達が鬼のような怒声をあげる教官の指導の元木剣を振っていた。新人兵士の育成だろうか?
「あっちでも何かやってるよ」
シトラに肩をつつかれ左を見てみると左では若い魔術師達がカカシを的にして魔術を打つ練習をしていた。炎の魔術でカカシを燃やしたり、氷の魔術で凍らせたりしている。
「こんな事してたのか・・・」
3ヶ月前に来た時は魔女の件で大忙しだった為あまり見ていなかったが、城の前には訓練場や宿舎があり、そこで兵士達や魔術師達は寝泊まりをしているようだ。恐らく宿舎の大きさからして全員があそこで寝泊まりをしているわけではなさそうだが。
ロマニア城の門前に着くと門番をしていた兵士がこちらに向かって敬礼をするやいなや門を開けてくれた。門番兵にお礼を言って城内へと入る。
「よう!アユ公!!」
陽気な挨拶で迎えてくれたのはラグドさんの部下であるライムさんだった。槍と鎧こそ装備していないが、いつ襲ってきても良いようにか腰には短剣が腰に吊るしてある。
「どうも、お久しぶりですライムさん。いきなり訪問してしまい申し訳ありません」
「良いんだよ良いんだよ。お前さん達は国の英雄様なんだからよ!」
やはりまだ英雄と呼ばれることに馴れていないようで歩は少し顔を赤くする。
「で、今日はどうしたんだ?顔からして面倒事ではないようだが・・・」
「実は───」
歩はここに来るまでの経緯を簡単にライムに伝えた。
「成る程。ついでにこの城に寄ったってわけか・・・」
「ラグナロクに来たんだし、お土産でも持っていかないとかと思いまして」
「お土産?──ああ、その紙袋に入ってるのか。どんな物持ってきたんだ?」
「僕が住む日本の京都という都市の名物の生八つ橋という物です。ロマニア王の好みが分からなかったので1箱だけ持ってきました」
「我が王はプレゼントが大好きだからな。きっとお喜びになるぞ」
ついて来い!とライムは歩達を謁見の間の前まで案内してくれた。行く先々で兵士やメイド達に敬礼や頭を深く下げられたので少し恥ずかしかったが。
謁見の間の前まで来ると兵士2人がドアを開けてくれた。目の前に現れた謁見の間の奥ではロマニア王が笑顔を讃えて歩達に向かって喋った。
「よく来てくれた歩!シトラ!3ヶ月ぶりだな!」
ある程度ロマニア王に近づくと、歩とシトラは片膝を付いて頭を垂れた。
「お久しぶりです、ロマニア王。お元気でしたか?」
「ああ、私はこの通り健康体だよ。けど、ラグドが───」
そう言えばこの城に入ってからラグドさんはいなかった。連絡を取ったのも2ヶ月も前だし・・・もしや、何かあったのでは!?
「腰を痛めてしまったんだ」
「腰・・・ですか?」
「ああ。ただ、骨を折ったわけではないのだ。まあ所謂───」
「ぎっくり腰ですね?」
「そう、それだ!」
まさかあのラグドさんがぎっくり腰になっているとは・・・勇者もやはり歳にだけは勝てなかったのか。
それにしても連絡さえしてくれば、湿布ぐらいは持ってきたのに。
だが、ぎっくり腰が2ヶ月間連絡がなかった理由とは思えない。きっとラグドさんは魔物との激しい戦いで腰を───!!
「城下町で木から降りられなくなった子供を助けようとしたら木から落下して腰を痛めたとの事」
「えぇ・・・」
因みにその子供は隣にいたライムさんが助けてあげたのだそうな。
荷物量はと言うと最初はキャリーバッグ2つ分あったのだが、日用品はあちらで用意されているという事で何とかキャリーバッグ1つ分で済ませる事が出来た。
しかし、いつの間にご両親に連絡をしたのだろうか?繋がりの石を持っているのは元山署長だけだ。
そういえば、2週間前にお使いに行かせたっけ?その時に連絡したのだろう。
「やばい・・・眠い」
歩は強烈な睡魔に襲われていた。油断したら眠ってしまう程である。
一方のシトラは遠足に行く小学生低学年かと言いたい程ウキウキしていた。久しぶりの里帰りだテンションが上がるのも無理はない。
「楽しみで寝られなかったの?」
「いや、その逆。果たして僕が受け入れられるかどうか心配で心配で・・・」
「大丈夫だよ!お父さんとお母さんに定期的にラグドさん通して歩の良い所書いたり歩の写真送ったりしたけど、『良い子を見つけられたじゃないか!』って返事が来たから!」
「そうなの・・・そんな事やってたの!?」
いつの間にラグドさんにそんな物を渡していたんだよ!そしてラグドさんも僕に伝えてくれよ!!
まだ里帰りは始まってもいないのに、もう疲れてしまっている。明らかになったシトラの所業とシトラのご両親に認められるかどうかの心配で押し潰されてしまいそうだ。
「でも、結果的に良い印象与えてるんだから良いじゃん!」
「会ったらどうなるか分からないじゃないか・・・僕とシトラのご両親のウマが合わない可能性だってあるんだし・・・」
はぁ、とタメ息をつく歩のバンッと背中を叩く。
「痛ッッ!!」
とっさに後ろを振り返るとそこには膨れっ面のシトラがいた。今まで1年半の同棲で作り上げてきた記憶がシトラが危険信号を鳴らす。
膨れっ面になったシトラは少し面倒くさい。その面倒くささはキングリザードを上回るだろう。
「ご、ごめん・・・つい緊張でネガティブになっちゃった・・・」
「気持ちは分かるよ。分かるけどさぁ・・・もっとリラックスしてよ折角の里帰りなんだし!!」
「ごめんなさい・・・」
腰を曲げてペコリと頭を下げる。3秒程して顔を上げると、シトラは自分の指で自分の唇を指していた。
彼女が僕に求めているのはただ1つ。ごめんねのキスだ。
歩は苦笑いしながらも両手をシトラの顔に添えて優しく唇を重ねた。
5秒程キスをすると、歩は少し顔を赤くしながらシトラから離れた。
「フフ、可愛い」
「からかわないでくれよ・・・」
何回もしているのにも関わらずキスで恥ずかしがっている歩を見るのがシトラにとって最高の至福の時間なのである。
「ほ、ほら!早く行くぞ!時間通りに行かないと元山署長怒っちゃうから!」
「はーい!」
★
夏川市警察署の署長室へと到着した歩とシトラは丁寧にドアをノックする。
「良いぞ、入れ」
許可が下りると同時に歩はドアを開けて署長室へと入る。そこにはやはりいつもしかめっ面の元山署長がいた。
「どうも、おはようございます」
「時間通りだな。これからも心がけると良い」
褒めているのは分かるのだが、しかめっ面のせいで皮肉に聞こえるのがこの署長の悪い所である。
表情なら誰にでも変えられるのに何故この人は笑わないのだろうか?きっと良い笑顔が作れるのだろうに。
「さて、今回は里帰りと聞いたのだが・・・お前らは何故武装しているのだ?」
そう、歩とシトラは武装していた。歩は魔女にもらった黒い鎧を胸と籠手とブーツの部分だけ装着して腰には白銀の剣を帯びており、シトラは狩人装束に竹製の弓と矢を背中に背負っていた。
「ほら、あっちは魔物が生息している場所なのでね。もしもの時の為の対策です」
「そうか・・・頼むから死なないでくれよ。お前達は日本の守護者なんだから」
「大丈夫ですよ。今回はただの里帰りですから!」
「何フラグを立てているんだ君は!!もし本当に魔物と戦いたくないなら絶対にそういうフラグが立つような事は言うな!頭の中で思うだけで良い!!」
元山署長の意見も一理あった。僕は人より幸運度が低い。思わぬ事故を呼び寄せてしまうかもしれない。この前だって不良高校生10人に絡まれたし(完膚なきまでにこらしめたが)。
「と・に・か・く!最近魔物の被害が少しだけだが減ってきているんだ!変な事をして魔物をこちらの世界へ送り込まないように!以上!!」
付き合いが短いと面倒事を押し付けられたくないだけだろ?と思う人もいるが、元山署長はそんな理由で言っているわけではない。
彼は心から一般人が傷つくのを嫌っている。怒りっぽい人だが、彼の心には僕達以上の正義感が宿っているのだ。それ故この署長は皆に尊敬され愛されている。
「これがラグナロクに行ける程の力を持つ導きの石だ。良いか?壊さないようにな?」
渡されたのはいつも使っている導きの石よりも輝きが強い導き石だった。これさえあれば別世界であるラグナロクにも簡単に行く事が出来るのだ。
「では、署長。お元気で。お土産はしっかり買ってきます」
導きの石を頭上にかざし行き先を思い浮かべる。まず、最初に向かうはロマニア王国だ!!
「あまり変な物は買ってこないようにな!あと旅行客専門の詐欺師には気をつけろよ~!」
相変わらずのしかめっ面だが、僕らに向かってサムズアップをしてみせる。一瞬だが、署長の口角が上がった気がした。
導きの石から放たれた光は歩達を包むと別の世界へと導いていった。
「・・・・・・やはり笑顔で送っていった方が良かっただろうか?」
★
1時間程の移動は終了し、目の前に現れたのは思わず腰が抜けてしまう程に大きく美しい城。ロマニア城がそびえたっていた。
「相変わらずここは凄い場所だな・・・」
城に見惚れていると、槍を持った2人の兵士がこちらに向かって走ってきた。
「貴様、何者だ?名を名乗れ」
どうやら検問のようだ。2ヶ月前に来た時はラグドさんやライムさんと一緒に来たから検問にかからなかっただけで、やはり自分達だけでは簡単には通れないらしい。
「あの、エデンから来ました歩と申します。久しぶりにラグナロクの方に来たのでロマニア王に挨拶をと思いまして・・・」
「何?歩だと・・・?しばし待たれよ」
そう言うと2人の内1人が城に向かって走っていった。残った兵士はどうやら新人のようで初対面である僕達に対して低い腰で話してきた。
「あの・・・本当に歩さんなんですか・・・?」
「はい、そうです」
「あの、その・・・我が国を守ってくれてありがとうございました!貴方様がいなければロマニア王国は滅亡していたかもしれません!!」
新人兵士から飛んできたのはまさかのお礼の言葉だった。詳しく聞いてみると彼は僕の強さに憧れて兵士に志願したらしい。
しかも彼ように僕が理由で兵士になった者はかなりの数がいるらしい。なんだか英雄になった気分だ。
「何をおっしゃるのです!貴方は正真正銘の英雄ですよ!!」
英雄・・・か。まだ青二才の僕が英雄という冠を被るには早すぎるのではないのだらうか?果たして僕の前世である竜殺しのシグルは僕を英雄として認めてくれるだろうか?
新人兵士と世話しない会話を続けて5分。ようやっと城へと走っていった兵士が戻ってきた。彼は目の前に立つといきなり敬礼してきた。
「失礼しました、アユム殿。どうぞ城へとお入りください。王も謁見の間にて待っております」
「わざわざありがとうございます」
城へと戻って入城許可を取りにいってくれたベテラン兵士にお礼を述べると城へと続く道を歩く。
右を見ると僕より歳が少し下の少年達が鬼のような怒声をあげる教官の指導の元木剣を振っていた。新人兵士の育成だろうか?
「あっちでも何かやってるよ」
シトラに肩をつつかれ左を見てみると左では若い魔術師達がカカシを的にして魔術を打つ練習をしていた。炎の魔術でカカシを燃やしたり、氷の魔術で凍らせたりしている。
「こんな事してたのか・・・」
3ヶ月前に来た時は魔女の件で大忙しだった為あまり見ていなかったが、城の前には訓練場や宿舎があり、そこで兵士達や魔術師達は寝泊まりをしているようだ。恐らく宿舎の大きさからして全員があそこで寝泊まりをしているわけではなさそうだが。
ロマニア城の門前に着くと門番をしていた兵士がこちらに向かって敬礼をするやいなや門を開けてくれた。門番兵にお礼を言って城内へと入る。
「よう!アユ公!!」
陽気な挨拶で迎えてくれたのはラグドさんの部下であるライムさんだった。槍と鎧こそ装備していないが、いつ襲ってきても良いようにか腰には短剣が腰に吊るしてある。
「どうも、お久しぶりですライムさん。いきなり訪問してしまい申し訳ありません」
「良いんだよ良いんだよ。お前さん達は国の英雄様なんだからよ!」
やはりまだ英雄と呼ばれることに馴れていないようで歩は少し顔を赤くする。
「で、今日はどうしたんだ?顔からして面倒事ではないようだが・・・」
「実は───」
歩はここに来るまでの経緯を簡単にライムに伝えた。
「成る程。ついでにこの城に寄ったってわけか・・・」
「ラグナロクに来たんだし、お土産でも持っていかないとかと思いまして」
「お土産?──ああ、その紙袋に入ってるのか。どんな物持ってきたんだ?」
「僕が住む日本の京都という都市の名物の生八つ橋という物です。ロマニア王の好みが分からなかったので1箱だけ持ってきました」
「我が王はプレゼントが大好きだからな。きっとお喜びになるぞ」
ついて来い!とライムは歩達を謁見の間の前まで案内してくれた。行く先々で兵士やメイド達に敬礼や頭を深く下げられたので少し恥ずかしかったが。
謁見の間の前まで来ると兵士2人がドアを開けてくれた。目の前に現れた謁見の間の奥ではロマニア王が笑顔を讃えて歩達に向かって喋った。
「よく来てくれた歩!シトラ!3ヶ月ぶりだな!」
ある程度ロマニア王に近づくと、歩とシトラは片膝を付いて頭を垂れた。
「お久しぶりです、ロマニア王。お元気でしたか?」
「ああ、私はこの通り健康体だよ。けど、ラグドが───」
そう言えばこの城に入ってからラグドさんはいなかった。連絡を取ったのも2ヶ月も前だし・・・もしや、何かあったのでは!?
「腰を痛めてしまったんだ」
「腰・・・ですか?」
「ああ。ただ、骨を折ったわけではないのだ。まあ所謂───」
「ぎっくり腰ですね?」
「そう、それだ!」
まさかあのラグドさんがぎっくり腰になっているとは・・・勇者もやはり歳にだけは勝てなかったのか。
それにしても連絡さえしてくれば、湿布ぐらいは持ってきたのに。
だが、ぎっくり腰が2ヶ月間連絡がなかった理由とは思えない。きっとラグドさんは魔物との激しい戦いで腰を───!!
「城下町で木から降りられなくなった子供を助けようとしたら木から落下して腰を痛めたとの事」
「えぇ・・・」
因みにその子供は隣にいたライムさんが助けてあげたのだそうな。
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