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四章二人の魔女の戦争

消えた王女

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 結局あれから3時間城のあちこちを探し回ったが、見つからなかった。隠し部屋にも、クローゼットの中にも、シャルナ姫の姿はなかった。

「すみません・・・僕の推測が間違っていたようです」

「推測は真実とは限らないという事ははなから分かっている」

 会議室では王女シャルナ行方を探る為の小会議が行われていた。ロマニア王国の大臣と手が空いていたお偉いさん達が円卓を囲んで話し合いをしている。歩と亮一と葵は立ちながら会議を聞いていた。

「まったく、シャルナ姫は叱られても懲りずに脱走する!いい加減窓に鉄格子をつけたらどうです?」

「恐らくだが、鉄格子をつけてもアイツはすぐに糸口を見つけて脱走する。つけるだけ無駄だよ」

 ロマニア王の意見に数人の老人が頷く。一体どれ程のじゃじゃ馬なのか見なくても分かる。

「それと、あの者達は何者なのですか?」

 鉄格子をかけろと言った老人が続けて歩達を指差し怒鳴るようにロマニア王に質問した。

「彼らはエデンから来た戦士です。今は我が国の客将です」

「エデンからぁ?ふん、あんな平和ボケした所から来たやつらなどたかが知れている」

 その発言に対し、亮一が少しムッとするが、歩が諭した。

「彼らのレベルは60をゆうに超えていますぞ、ムッツリーニ男爵」

「ムッツリーニ・・・」

 ちょっと親のセンスを疑うような名前に3人は吹き出しそうになるが、自分の太股をつねってこらえた。

「本当ですか~大臣?おい、サーチのあの者達のレベルを見てみろ」

「はっ!」

 後ろにいたムッツリーニの警護をしているらしい騎士は歩達の方を見るとサーチを作動させ、歩達のステータスを見る。

 ポーカーフェイスを保っていた騎士だったが、歩達のステータスを見て、驚愕する。

「全員、60どころか65を超えています。1人は70をも超えています・・・」

「70ぅ!?んな馬鹿な!どいつの事を言っている!!」

「あ、あの優男です・・・」

 と言って騎士は歩を指差した。ムッツリーニは立ち上がると歩に積めよって唾を飛ばしながら怒鳴る。

「貴様!どんなズルをしたんだ!!貴様みたいなガキがレベル70など有り得ん!!」

「いや、僕は魔物と戦って経験を───」

「止めんか!ムッツリーニ!!」

 困っている歩を助けたのはロマニア王だった。ロマニア王に怒鳴られたムッツリーニは借りてきた猫のように縮まる。

「確かに、彼の強さは年に比例していない!私も最初は疑った。いくら魔物達と激闘を繰り広げているとはいえ、そんなにも成長するのかと」

 ロマニア王は歩の背中を叩くとこう言った。

「だが、彼の父親とその身に宿す灯す魂な名を聞けば納得した!」

「い、一体誰なんじゃ!?」

 席に行儀良く座っていた貴族の老人の1人の1人がロマニア王に聞くと、ロマニア王はニヤリと笑って言った。

「彼は小野山歩!事故によりエデンへと飛ばされた音速の騎士トーマの息子であり、英雄シグルの魂を継ぐ者だ!!」

 ロマニア王は叫ぶように言った。近くにいた歩の耳が耳鳴りするぐらい大きな声で。

 集まっていた貴族達の間でしばらく沈黙が始まった。沈黙が2分で終わると貴族達は嘘だろ、とざわめき始める。

「なんなら、ここに聖職者を呼んで看破してもらってもいいんだぞ?」

 看破──聖職者が使う事が出来る真偽を見分ける力。ロマニア王の自信に本当だと信じたのか貴族達からの疑いの声はすぐに消えた。1人を除いては。

「よろしい、なら呼びましょう。ベティビィル、教会から連れてこい!」

「ハッ!」

 ムッツリーニにベティビィルと呼ばれた護衛の騎士は敬礼すると、会議室を飛び出して行った。

 神父が来るまで40分、歩はムッツリーニにイビられていたが、神父が歩はトーマの息子であり、英雄シグルの魂の者だと証明すると、再び縮こまったのであった。



「では、これにて会議を終了する。各自自分の担当する地域に賞金のチラシを配ること!!」

 2時間の会議の末、決まった探索方法は『賞金』であった。王女を連れてきた者には礼金を払うと書いた紙を配る。人の動かすにはやはり金という事だ。

 会議室から出ていく貴族と一緒に歩達も出ていく。会議室を出るとムッツリーニの警護騎士であるベティビィルがいた。

「あぁ?テメェ喧嘩売りに来たのかこのヤロ───」

「ハイハイ、喧嘩を吹っ掛けるないの」

 まるで犬をしつけるように亮一を宥める葵。ベティビィルはその光景をまたもポーカーフェイスで眺めると歩に深々とお辞儀した。

「先程は大変失礼な事をしてしまい、申し訳ございませんでした」

 なんと、ベティビィルの口から放たれたのは喧嘩言葉でも、煽り言葉でもなく、謝罪の言葉であった。歩もまさか謝罪が飛んでくるとは思わなかったので、慌てて頭を上げるようにベティビィルに言う。

「まさか、謝ってくるとは思わなかったよ。僕はてっきり喧嘩を吹っ掛けてくるんじゃないかと───」

「喧嘩?とんでもない!私のレベルは54だ。君らには到底勝てない」

 彼の言葉に偽りはなかった。サーチでステータスを見た所、本当にレベルが54だった。

「とにかく、私の主人が迷惑をおかけして申し訳ない・・・」

「いやいや、大丈夫だよ。こういうの慣れっこだし。君こそ大変だね、あんな傲慢な奴の警護なんて」

 そう言った途端、ベティビィルはこの世の終わりを見ているような目でため息を吐いた。

「本当に、大変だよ。給料が良いからって飛び付くんじゃなかった。今思えば私は食虫植物の甘い匂いに誘惑されたハエだったよ」

 給料と仕事の量が割に合っていないとベティビィルは再びため息をついた。ブラック企業という物かと歩は同情する。

「とにかく、お互い姫探し頑張りましょう!」

「はい、お疲れ様でした・・・」

 ベティビィルは無理矢理笑顔を作ると重い足取りで廊下を歩いていった。過労死しないだろうかと心配してしまう。

「ところで、シトラは?」

「シャルナ王女の部屋に行くって2時間前は言ってたけど、今もいるか分からない」

「ま、1回行ってみよっか」

 夕食まで30分ちょっとある。シトラを探すには十分な時間だ。

 まず、葵が言っていたシャルナ王女の部屋へ行ってみよう。

「シトラ、いる?」

「ん、どうしたの?歩」

 シトラは葵の言う通り王女の部屋にいた。という事は2時間も王女の部屋にいたことになる。一体この部屋を何をしていたのだろうか?

「え?何をしてたかって?ちょっと調べ事よ」

「シャルナ王女についての事を調べてるの?」

 勿論、とシトラはベッドの下の隙間を覗きながら言う。彼女の顔は稀に見れる真面目な顔だった。彼女が真面目な顔をする時はパズルを組み立てている時か、日本語を勉強している時である。

「な~んか、変なのよね・・・」

「どこら辺が?」

「羊皮紙が散らばっている所かしら?彼女、アタシと同じでかなりお転婆だったけど片付けとかはしっかりやるタイプの子なのよ」

「そんな子が散らかしっぱなしで出かけるわけがない・・・と?」

「うん」

 まったくもって気づかなかった。流石は長年の友人といったところか?

「あと、もう1つ気になる事があるのよ。葵は気づいたみたいだけど」

「そうなの?」

 葵の方を振り向く。相変わらずの無気力な表情だが、シトラの言う通り葵はに気づいたらしく、とてとてとシトラの方に歩み寄る。

 葵は勉強机の真ん前にある開いた窓を指差した。正しくは窓枠だ。

「ここ、微量の魔力が感じられる」

「魔力・・・?全然感じられないけど・・・」

「そのくらい反応が小さいのよ。もっと近づいて集中してみて」

 シトラに言われた通りに窓枠に近づいて魔力を集中させ、感覚を研ぎ澄ます。

 すると、本当に微量だが魔力が感じられた。しかも上質な魔力だ。だが、何故魔力反応が?シャルナ王女は魔術の才能がないと聞いていたが・・・。

「魔力を感じるのはここだけじゃないわ。勉強机にもよ」

「勉強机・・・本当だ!!」

 先程よりもほんの少し強い魔力反応があった。また同じ質の魔力が今度は机の中から感じる。しかし、何故机の中から反応があるのだろうか?おそるおそる魔力反応がする引き出しを引く。

「小さな、羊皮紙・・・?」

 入っていたのはメモ帳サイズの小さな羊皮紙。小さな羊皮紙には何やら言葉書いてある。僕らが使う文字ではなく、ロマニア王国の文字だ。エデン出身の僕と、亮一と、葵は読めないのでシトラに渡す。

「何これ・・・?随分古い文字ね。古代文字ってやつ?こういうのは学者に聞いた方が良いわね。皆、図書館に行きましょ」

「待って。その前にロマニア王を呼んだ方が良いんじゃないかな?」

「確かに。俺が呼んでくるからお前らは学者の所に行ってくれ」

 亮一は3階にある謁見の間へと走っていった。歩達は2階の図書館へと向かう。

 先程も1度来たが、図書館とは思えない大きさに再び驚いてしまう。隠し部屋に連れてきてもらった時学者は見かけたが、今は何処にいるだろうか?大声は出せないので自分の足で探さなければ。

「学者さ~ん、いませんか~?」

 迷惑にならない程度の小さな声で学者を探す。学者が居そうな歴史書が置いてある場所に来たが、どうやらハズレだったようだ。

 先に見つけたのは官能小説等がずらりと並んである場所を探していた葵だった。学者はニヤニヤしながら官能小説のページをめくっていたという(題名は聞かない方が良いだろう)。

「な、何のようかね?私はこう見えて忙しいのだが・・・」

 葵が見つけた学者は比較的若い学者だった。30代前半といったところか。童貞も卒業していなさそうな顔をしている。

「これを解読してほしいのですが・・・」

 小さな羊皮紙のメモを見せると、迷惑そうな顔をしていた学者の目がキラリと光った。どうやら興味が引かれた様子。

「フムフム・・・これは、凄いねー!」

「何です!?その文字そんなに凄い物なのですか?」

「あぁ、凄いとも!この文字は、古代の魔術師達が使っていた古代文字だ!」

「あの、解読は・・・?」

「出来るとも!すぐにやって見せよう!!」

 解読出来ると聞いた歩はホッと息を吐く。学者はそそくさとメモサイズの羊皮紙を持って何処かへ行ってしまった。

「歩、連れてきたぜ」

 すれ違い様に亮一がロマニア王を連れて帰ってきた。どうやら事情はここに向かう途中に聞いたらしい。

「しかし、良く見つけたな。私達でも見つけられなかったのに、どうやって?」

「女の勘ってヤツですよ」

 成る程、女の勘ね・・・実に便利だ。今ちょっとだけ女の子に生まれたかったと思ってしまった。

「で、誰に解読を任せたんだ?」

「比較的若い学者さんに頼みました。今ちょうど解読してくれている所です」

「あぁ、彼ね。彼なら正確に解読してくれるはずさ」

 本棚に体重を任せて呑気に口笛を吹いていると、ドンガラガッシャン!と騒音が聴こえてくる。騒音の次にはドタドタと足音まで聴こえてきた。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・か、解読出来ましたよ・・・」

 騒音と足音の正体は学者だった。別に急がなくても良いのに。

「国王陛下、心して読んで下さい。じゃないとショックが大きいかもしれません」

「あ、あぁ。では、早速────」

 ロマニア王が代表して別の羊皮紙に係れた翻訳を声に出して読んだ。

「『王女の助けたくば降伏し、私に国を寄越せ。明日、噴水広場で待つ』」

 ロマニア王が読んだ言葉にその場にいる全員がフリーズした。
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