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四章二人の魔女の戦争

一発逆転

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 青髪の魔女は厭らしい笑みを浮かべながら異形の化け物と化したベティと共に歩み寄ってくる。

「ありがとね、私の可愛い可愛いベティちゃんを醜くしてくれて!!」

 革靴を履いた青髪の魔女の一蹴りが歩の顔面にヒットする。

「どう、いたしまして・・・」

「この、くそがっ!!」

 胸ぐらを掴まれ顔面に数発パンチを喰らう。やはり自分よりレベルが上だからか魔女の蹴りは痛い。

 それに先ほど吹き飛ばされたのも相まって今にも痛みで気絶しそうだ。肋骨も何本か折れてしまったらしい。

「私を侮辱するに飽きたらず、私の愛するペットまでこんな姿にするなんて・・・絶対に許さない・・・!」

 魔女のパンチは終わらない。頬の骨が折れ、鼻の折れ、歯は何本か折れてしまった。

 僕は死を悟った。このまま殴り殺されてあのカメレオンの餌になるのだと。その瞬間、僕はある考えに至った。本当にこの村を襲ったのは僕が欲しいからだったのだろうか、と。

 最後の力を振り絞って青髪の魔女に問いかける。

「なあ、死ぬ前に聞いても良いか・・・?」

「ふんっ、質問しだいね」

「お前がこの村を襲った本当の理由は何だ?」

 青髪の魔女は質問を聞くと、きょとんとした顔になり、数秒後にギャハハと笑いだした。

「何が、おかしいんだ」

「だって、それはさっき言った───」

「僕が聞いているのは違う理由があるじゃないかと聞いているんだ年増!」

 顎に強烈な一撃を喰らってしまう。余計な言葉を付け加えてしまった。

「あんた次歳の事言ってきたらただじゃおかないよ!───そうね、私がこの村を襲おうとしてる本当はね・・・魔女戦争の為よ」

「魔女、戦争・・・?」

 これまで生きてきた中で聞いた事言葉が出てきて歩は戸惑う。青髪の魔女は知らない事を馬鹿にするように見下しながら説明した。

「魔女戦争って言うのはね、簡単に言うとどちらが国の領地をより多く奪う事が出来るかっていう魔女の

「遊び、だと・・・!」

 遊び。と聞いた瞬間、心の奥底にたまっていた怒りがこみ上げてくる。

 ふざけるな。遊びで国を領地を奪うだと?

 ふざけるな。遊びで平和に過ごす村を襲うだと?

 ふざけるな。遊びで人を殺すだと?

 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!

 そんなの、あんまりだ!!

「ふざ、けん、なぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 歩の身体から黒い気が漏れだす。黒い気が出るのと同時に歩のボロボロだった身体は癒され、地に足つけて立ち上がる。

「はっ!?え、ちょっ!!」

 歩の身体はもう動けない。そう思っていた青髪の魔女は動揺し、焦りながらも危険を察知して結界を展開する。

「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 歩は折れた剣を投げ捨て素手で青髪の魔女に殴りかかる。

「馬鹿ね、怒りで結界が───ぶへっ!!」

 青髪の魔女の結界を見事に粉砕した歩の拳は魔女の顔面に深くめり込んだ。

 魔女はあまりの威力に5m程吹っ飛ばされる。

「あ、う・・・!」

「Aaaaa───」

 ゆっくりと上を見上げる。次の狙いは勿論、ベティだった。

 だがベティは青髪の魔女のように逃げたり守ったりはせずに立ち向かおうと戦闘体制をとった。

 歩を格下と見ているのか、はたまた逃げるという選択肢がない程に歩を殺したいのか。真実はこれからずっと分からないだろう。

 だが、これだけは言える。

 逃げるのが最も賢い選択肢だったと。



「せりゃあっ!!」

  ライムの白銀の槍の一撃が魔物の心の臓を穿つ。魔物は生きようと喘ぐが、努力虚しく死んでいく。

 槍という武器はとても便利だ。凪ぎ払う事も出来れば、1つに集中して攻撃する事も出来る。

「おいっ、歩。そっちの方はどう───」

 少し離れた所で戦う歩の様子を見ようとライムは右を向く。

 言葉が凍りついた。

 無理もないだろう、善なる青年が禍々しいオーラを纏って巨大なカメレオンと戦っているのだから。

 巨大カメレオンは身体中ボコボコに殴られた末、頭に生えた剣の破片を脳の奥深くにまで打ち込み絶命させた。

 その一部始終を見てしまったライムは少し心に恐怖を覚えてしまった。

「ラグドさん!歩が何かヤバいッ!!」

「ん、ヤバいって───うおっ!!」

 あまりの変貌っぷりにラグドも腰を抜かしてしまうほど、歩の身体からは禍々しい気を放っており、目も充血したかのように赤かった。

「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 邪気を纏いながら歩は一直線にラグド達に向かって走る。その姿はまるで人間を追いかける闘牛にも見える。

「団長!ど、どうしたら・・・!」

「少し抑えておいてくれ!マリーを呼んでくる!!」

「ちょっ、無理だって!絶対いつもの歩より強───」

 狂戦士と化した歩はあわてるライムにお構いなしに顔面パンチをお見舞いした。

 あまりの高い威力にライムの身体は数m先まで吹き飛ばされ、木に衝突して停止する。

「いよね~。大体察してた」

 勢い良く木にめり込んだ身体を引っこ抜いて、槍を構える。

「死ななければ良いんだよな?」

 ライムの目は仲間を見る目ではなかった。その瞳は鷹のように鋭く、常人なら睨み付けられたら怯んでしまうほど恐ろしい。

 そんな瞳を見ても狂戦士と化した歩には1ミリたりとも効いてはいなかった。

「お前の戦う時はもっと万全の状態でやりたかったんだが───仕方ないか・・・」

 剣を持たぬ歩は拳を。槍を持つライムは獲物を狙う狼が如き構えをとる。

「Aaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

「こいやボケェ!!」



 狂戦士と化した歩と戦い始めてからどれ程時間が経っただろうか?

 未だにラグドさんはシスター・マリーを連れて戻ってきてはいない。

 何か不祥事でもあったのだろうか?いや、そんな事はどうでも良い。

 今やるべき事は────。

「あ、ぐ・・・!」

 襤褸雑巾のようにヨレヨレになったを起き上がらせなければ。

「Aaaaa・・・」

 歩───いや、あの化け物に殺されてしまう。

 どんなに身体に呼びかけても身体は動こうとはしない。

 起きろ!起きろ!早く起きろ!

 操縦者がどんなに機体身体を動かそうとしても機体が壊れていたら指示の意味はない。

 脳の指示は虚しく、ライムは化け物に胸倉を掴まれる。

「あ、う・・・」

 もはや抵抗する力すらない。ライムはゆっくりと目蓋を閉じた。

「Aaaaaaaaa!!」

 拳を大きく振りかぶり殴りかかる。しかし、何故か拳が動かない。

「ちょっと、やり過ぎ、だッ!!」

 ラグドだった。瞬間、歩の身体はぶっ飛んだ。歩から解放されたライムはラグドに支えられ、ゆっくりと地面に横たわる。

「すまない。まさかここまで深刻だとは思わなかったんだ」

「いえ・・・だい、じょう、ぶ・・・」

 すぐさま治療魔術でライムの傷を癒す。専門職までではないが、中々の速度でライムの傷は癒えていった。

「随分と、禍々しい気を纏っていますね」

「あんな歩君は始めてだ・・・」

 約束通りラグドはシスター・マリーを連れて来た。流石の聖女もかなり険しい顔をしている。

「あの子が他の魔女に洗脳されていた時と同じような雰囲気ですね・・・」

「洗脳状態と同じだと?何がスイッチになったんだ?」


 だが、今はそんな事を考えている暇ではない。5レベル上のライムが完膚なきまでに倒されたのだ。

「私が足止めさせておく。君は歩君を清めてくれ」

「勿論、そのつもりです」

 シスター・マリーはそう言うと、真っ先に祈り始めた。

 かつては勇者だったとはいえ、今は全盛期とは比べ物にならない程衰えている。

 さてどれ程の時間止める事が出来るか?

「祈りは終わりました!なるべく歩を近づけて下さい!」

「そういえば君聖女だったね!?」

 本気を出せば神の声まで聞く事が出来る存在。それが聖女というものである。修道女とは比べ物にならない程祈りがすぐに届くのである。

「さあ、早く!!」

「う、おぉぉぉぉぉぉ!!」

 久方ぶりの全力ダッシュ。だが、着々と歩は近づいて来ている。

「やばぁぁぁぁい!!」

「Aaaaa!!」

「『ホーリーライト』!!」

 あと一歩近づけば拳が届く。絶体絶命の危機の瞬間、なんとか間に合った。

 黒く間禍々しい姿をした歩の身体はみるみるうちに元の姿へと戻っていく。

 元に戻った歩は糸が切れた人形のように倒れた。

 久々の全力ダッシュにラグドは尻餅をついてハアハアと息を荒らげている。

「この状態で戦うのは、無理そうだな」

「手がかかりますね・・・まったく」

 と言いながらも満更でもない顔をして歩を担ぐシスター・マリー。ラグドはすぐさま自分がライムと歩を運ぼうと提案するが。

「大丈夫ですよ、少しは手伝わせて下さい。それに───」

「それに何だ?」

「この子とは戦友の生まれ変わりという以外にも何か別の繋がりがある気がするのです」

 シスター・マリーはそう言って笑う。その笑みはまるで聖母の如く輝かしかった。
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