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四章二人の魔女の戦争

悩みと葛藤

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「ラグドさん!ライムさん!」

「君の気配が森からしたのでな、村に入る前に寄って良かったよ」

 ラグドは笑顔で近づいてくる。歩は彼の姿を見て思わず泣きそうになった。やっと帰れるのだと。

「大変だったなぁアユ公。にしても魔女に襲われて良く無事だったもんだ!」

「本当にその通りですよ。僕っていざって時に運が良いっぽいですからね。シスター・マリーに会えて良かった」

 途端、笑顔だったラグドの顔が真剣な顔へと変化する。歩は察したようでラグドの目をまっすぐに見つめる。

「君は、もう気づいているのね?」

「・・・はい」 

 彼が言おうとしている事が何となく分かる。僕とシスター・マリーの関係性だ。

「君はもう伝えたのかね?」

「いえ・・・伝えられませんでした」

 伝えていないではなく、と歩は苦い顔をして言った。

「でも、僕が英語シグルの生まれ変わりだと言うのは伝えました。というよりも伝えざるおえませんでした」

「成る程、草原の原っぱが燃えていたのは君の仕業だったのか」

 ドラクブレイクで焼け焦げた草原を見たらしく、そんなに緊急事態だったのか?と聞かれ歩は全てを話した。

「魔術で強化ね・・・ライム君、君も魔術で強化された魔物と戦ったと言っていたね?」

「はい。普段ならソルジャー級の魔物のはずなのですが、ナイト級程度の強さを持っていました」

「凄まじい強化だな。そんなに強化したら魔物の身体がもたないのでは?」

 強化にも個体差があるが制限がある。強化の限界を超えれば身体は崩壊し、死に至る。

 ソルジャー級からナイト級などもってのほかだ。魔物は耐えきれず死ぬのが目に見えている。そういう研究結果があった事をラグドは知っていた。

 ただ、その研究をしていたのはである。

「魔女が関わっている可能性が濃くなってきたな」

「魔女ってそんなに規格外なのですか?」

「ああ。人の皮被った化け物だ」

 まったくもって想像出来ない。確かに普通の人間のような姿を取っていたが、あれは偽りなのか?

「まあここで話すのも落ち着かん。あっちに戻ってから話をつけよう」


「はい・・・あ、ちょっと待って下さい。僕が音速の騎士トーマの息子だというのは秘密でお願いします」

「別に良いじゃねえか。ばれたって」

「そのばれた後が問題なんです。僕が実の息子の子供だと知ったら息子はどこにいるの?って必ず聞いてくるはずです」

「ああ、そういう事ね」

 父はもうこの世にはいない。いない人とは会わせなれない。だから絶対にバレたくない。

「今隠してもいつしか話さなくてはならなくなるぞ。覚悟はしておけ」

「・・・はい」



 コンコン。扉をノックする音が響く。いつもは開けている扉だが、今日はカギをかけているので入れないのだろう。

 もしかしたら魔物かもしれない。慎重に名前を聞いてみる。

「誰?」

「僕だよ。歩」

 歩が帰ってきたと分かった瞬間、警戒心が解け扉のカギを開けて扉を開く。

確かに歩はいた。だが、歩だけではなかった。歩の後ろに槍を担いだ若者と優しそうな顔をした老人が立っていた。メリアは2人に見覚えがあった。

「ライム君!?それにラグドおじいちゃんまで!?」

 ラグドをおじいちゃん呼ばわりした事に大いに驚いたようで、その場に尻餅をつく。

「随分早い到着ね!手紙を送った人の足はそんなに早かったのかしら!」

「ハハハ、そうかもしれないね」

 ラグドとメリアの世話しない話が始まる。メリアはラグドにとてもなついている。話し方を見れば分かる。しかしラグドさんにも孫がいるかもしれないとは思っていたが、まさかその孫がメリアだったなんて。世間も狭いなぁ。

 2人が世間話に華を咲かせていると話し声に気づいたシスター・マリーが歩み寄ってくる。

 心臓が飛び出てしまいそうだが、なんとか抑えてポーカーフェイスを作る。

「あら、今回は随分と早かったわね」

「確か2年前にメリアが風邪引いた時は2週間かかったんだっけ?」

「来たときにはもう治ってたしね」

 マリーを混ぜて世間話が始まった。共に魔王を倒した仲間ということもあってかとても仲が良さそう。

「歩さんもお帰りなさい。ボクサーラビットを3匹も捕まえてきてくれたのね」

「はい、これでシチューを作りたいと思います。台所借りても良いですか?」

「ええ、是非」

 歩はボクサーラビット3匹を持って台所へと消えていった。

「それにしてもあの子がラグドの言ってたシグルの生まれ変わりだったのね!性格が全然違くてびっくりしちゃったわ」

「それは私も驚いた。生まれ変わると容姿だけじゃなくて中身も変わるのだなと。だから彼の奥に眠っていたシグルが出てくるまで全然分からなかったよ」

「貴方の透視能力から免れるなんてやっぱり死んでもシグルは凄いわね」

「本当に大したやつだよ。アイツは・・・」

 今は亡き親友の話をしていると若かった頃の記憶が甦る。あの頃は馬鹿した者だ。

「さて、歩さんの手料理はどのくらい美味しいのかしらね?」

「店を営業するくらいには腕は良いぜ」

 今夜出された兎肉のシチューはあまりの美味さに皆驚いたという。



「そういえば、シトラ達にはもう連絡はしたんですか?」

「しまった!忘れてた!」

「団長、アユ公が見つかって喜びまくってましたからね。今繋りの石は持っているんですか?」

『ちゃんと持ってきてある。早速だが元山に電話をかけるとしよう』

 手の平サイズの結晶を取り出して祈りを捧げる。すると10秒もしないうちに元山が出た。

「どうしたラグド?あのガキが見つかったのかね?」

「ああ、やっぱり魔女に誘拐されたそうだ。私の友人が保護してくれていた。今いるから電話に変わろうか?」

『そうだな。変わってくれ』

 ぽいっ、と僕の方に繋りの石が飛んでくる。僕はそれを難なくキャッチすると通話を開始した。

「どうも・・・ご迷惑をおかけして申し訳ございません・・・」

『まったくだ!貴様は定期的に面倒を起こさなければ生きていけないのか!』

「・・・ぐうの音も出ません」

 元山の言う通りである。歩は半年に1回の頻度で事件を持ってくる。面倒事ホイホイと化しているのだ。それも平均より低い幸運のせいだ。

『とにかく!そのまま帰ってくるんだ!分かったかね!?』

 「分かりました」と言うつもりだったが、頭に一瞬あの光景がよぎった。魔女である。今日魔女が強化したらしき魔物がこの村を襲ったのはとてもじゃないが偶然とは思えなかった。

 何か意図があったに違いない。聞く話によると今まで何も動きを見せていなかった2人の魔女が動き出したとライムさんが言っていた。

 僕は人間だ。だから魔女の考えている事なんて分かりはしない。だが、これだけは言える。

 このままにしていたら何か悪い事が起きる。

「すみませんが、元山さん。僕ちょっとこの世界に滞在したいと思います」

『・・・え?』

 驚いたのは元山だけではない。後ろにいたラグドとライムまでもが驚いている。

「今僕の目の前で良くない事が起きようとしています。何とかして事前に止めたいんです!」

 この一言の意味をラグドさんとライムさんは理解してくれたようで、笑みを浮かべている。

『・・・分かった。では、頑張りたまえ』

 元山は言葉はキツいが悪人ではない。それは歩も分かっていた。自分の意思を尊重すれば優先してくれる事も。

「だが、アイツらには報告させてもらうぞ。多分お前の所に行きたいと言うのがオチだと思うが』

『はい、分かっています。もし来てくれる
んだったら僕の剣を持ってきてほしいと伝えて下さい」

『分かった・・・・死ぬなよ?』

 それが最後の言葉のようで、繋りの石は通話を終了した。
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