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四章二人の魔女の戦争

魔女の策略

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 ばり、ぼり、と骨と肉が混じり合う音が家じゅうに鳴り響く。普通の人なら耳を塞ぎたくなるような音だが、青髪の魔女はこの音は聴き慣れている。魔女にとっては不快どころか聴いてて安心できる音だった。

「しっかり体力をつけておきなさい?これから戦争になるんだから」

 靴音を鳴らしながら近づくとその先にいたの毛のない頭を撫でる。

「kyurururururu・・・」

 奇妙な声で鳴く影に潜む何かはご主人様に撫でられた事に気づくと目を細めて甘え始める。青髪の魔女にはそれがたまらなく可愛かった。

「ねえ、どんな姿で行った方が良いかしら?」

 青髪の魔女は何かに向けて質問を投げると幼女から10代前半の少女の姿へと変化した。

「初めて恋というものを知ったうぶな少女の姿が良いかしら?それとも───」

 更に身体を変化させ、今度は20代前半の美女へと姿を変える。

「色っぽく責めた方が良いかしら?」

 何かはご主人様が何をやっているのか訳が分からず首を傾げる。青髪の魔女はまあ、答えるわけないかと微笑む。

「あの子、多分女性に対しての耐性なさそうだからこの姿で行った方が面白そうね」

 もちろんそんな根拠は無い。だが、長年生きてきた自分の直感が訴えているのだから従おう事にする。

 おめかしをし、青の衣装で彩った青髪の魔女は闇に向かって声をかける。

「さあ、私の可愛いで可愛い子供達」

 闇から無数の光が浮かぶ。それと同時に多種多彩の鳴き声が聴こえてくる。準備は万端のようだ。

「フフ、待っていなさい私の可愛いボウヤ」

 青髪の魔女は厭らしく舌なめずりをした。



「うわっ!」

 ベッドに座りながら本を読んでいた歩を突然の寒気が襲う。こんなに暑い日に何故と思ったが、大した事ではないとして再び本に集中する。

 読んでいる本は勿論自分の物ではない。この教会の所有物だ。暇だから読んでいるという理由でも合ってはいるが、本を読んでいる1番の理由はこの世界の文字を覚える為だ。

 昔、日本人がこの国に来たのか分からないが、彼等は日本語を使っている。だから意志疎通に関しては問題ないのだが、使っている文字はまったく日本語ではないのだ。

 少しくらいは日本語と似ているのでは?と思った人も何人かいよう。だが、まったく持って似ていない。二卵性双生児みたいに。

 だからこうして僕は簡単な文字でも覚えようかと就寝時間になるまで本を読んでいるのだ。

 まあ読んでいるのは厳密に言うと本ではなく、絵本なのだが。絵本は文字を覚えるのに有効だと昔テレビで聞いた事がある。

 テレビの言う通り確かに覚えやすい。挿絵があるからか?

「歩さん、就寝時間ですよ。お勉強も良いですが、明日も早いですのでお早めに就寝なさってください」

 ドア越しでメリアに就寝時間を伝えられた歩は唯一の光源であったロウソクを消してベッドに横たわった。暑いので布はかけなかった。

 今さらなのだが、エデンとラグナロクの気節は反転しているのか?エデンは12月で防寒着を着ていないと外に出られない程寒かったが、ラグナロクは逆に薄着でないと熱中症になるほど暑い。

「不思議だなぁ」

 異世界なのだからと歩は考える気も立たない。それよりも眠くて眠くて仕方がなかった。先程まで本を読んでいる時は眠くはなかったのに。暗くなった瞬間身体に疲れがどっと降り注いだ。

 思い返せば今日はずっと鍬を担いで畑仕事をしていた。休みらしい休みは昼御飯を食べる時間だけだった。

「寝よ・・・」

 歩はベッドに横たわって僅か2分で眠りについた。



「西の地域はどうだったかね?」

「残念ながら、何も情報は得られませんでした・・・」

 西の地域を調査しに行ってくれていた騎士に礼を言い、休みを与えるとラグドは大きく溜め息をついた。

 歩君が行方不明になってから3日。元山から聞いた話だとシトラも精神的にまいっているらしい。一刻も早く探し出さないといけないのだが、有力な情報は未だ得られず。

 それも仕方のない事なのだ。なんたってロマニア王国は世界に6つある国の中で最も領土が広い国なのだ。そう簡単に見つけられるわけがない。

 もしかしたら別の国にいるのかもしれない。そうだとしたら砂漠から指定された石コロを探すのと同じくらい無謀だ。


 コンコン、詰所の扉を誰かがノックする。

「誰だ?入れ」

「はいっ、失礼します」

 と言って入ってきたのはロマニア騎士団に所属する若い騎士。彼の親指と人指し指の間には白い物が挟まっていた。

「何だね?それは?」

「ラグド団長宛ての手紙でございます!」

「ほう、誰からだね?」

「シスター・マリー様からです!」

「マリーからか・・・後で読むから私の部屋に置いといてくれ」

 指示を出したが、若い騎士は戸惑って行動を起こそうとしない。彼は確か3日前に騎士になった若者だ。まだ仕事になれていないのだろう。

「あの、それが、至急読むようにと名前の下に書かれておりまして・・・」

「ほう、どれどれ───」

 戸惑っていた理由はどうやらそれのようらしい。すまなかったなと若い騎士に詫びてマリーからの手紙を受け取った。

 光の魔術で辺りを明るくしてから手紙を読む。

─拝啓 ロマニア王国騎士団長ラグド様

『夏が本格的になってきて、涼しさを求める今日この頃、いかがお過ごしですか?』

 極東風の手紙の書き始めにラグドは笑みを溢す。相変わらず極東が好きなんだなと。

『私の方は若い子達を育てるので大変ですが、とても楽しい1日を送っています。ところで今回手紙を送ったのは貴方に頼み事が出来たからです』

 あのマリーが自分に頼み事とはと不思議に思いながらも手紙を読み進める。

『先日、貴方の知り合いと名乗る歩という青年を魔女の洗脳から救いだしました。もし本当に貴方の知り合いならば教会に赴いて下さい』

 ラグドは椅子から跳び跳ねた。それはもう見事に。怪我なんか関係ないかのようにピョン、と。

『P.S.お孫さんは元気に暮らしていますよ』

 最後の一言でラグドの喜びが最高潮になり、大声で叫んでしまう。見回りをしていた騎士や兵士達が何事かと詰所に集まってきた。その中には寝ぼけたライムもいた。

「どうしたんすか、団長?」

「歩君の居場所が、分かった!!」

「「「「「えっ!?」」」」」

 騎士と兵士達がどよめき騒ぎ始める。本当か?という声が聞こえたのでライムにマリーからの手紙を渡して読ませる。

 手紙を聴き終えた騎士と兵士達は武器を放り捨て抱き合って喜んだ。彼等はここ3日歩探索の為に精を出していた。

 実際に歩と会った事の無い輩は多いが、やっと見つかったとまるで自分の事のように喜ぶ。

 しばらく騒ぐとラグドは大声で静まるよう騎士と兵士達に叫んだ。

「明日の早朝にマリーが管理する教会へと向かう!第1騎士隊と私だけで行く!私が留守の間、国の平和を頼んだぞ!」

「「「「「「はっ!!」」」」」」

 元気の良い男らしい返事が城中に響いた。
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