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三章音速の騎士

大軍襲来

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「どのくらいの規模の魔物が押し押せてくるのですか?それと出現する場所は?」

 魔物の大軍と聞いた歩は即座にその情報を聞き出す。彼が1年で身に染みた癖の1つだ。

「500はくだらないそうだ。しかもその全てがナイト級以上」

「ナ、ナイト級が500!?」

 目眩がする。これまでも幾度か魔物の大軍と剣を交えてきた。だが、その全ての軍はソルジャーとナイトが混じった軍だった。

 だからまだレベルが低い僕らでも何とか無茶をしてでも勝てたのだ。

 だが、今回は何もかもが次元が違う。

 規模、強さ。まったくもって別次元。

「で、出現場所は?」

「・・・ここだ」

 日本地図を取り出して指で示す。指された場所は日本の首都東京の最も栄えている街新宿だった。

 目眩が本格的なってきた。どんなに事前に用意が出来ていたとしても混乱は免れられない。

 最悪の場合、多くの者が死に、街を崩壊し、日本の経済は大きなダメージを喰らうであろう。

「今回は数が多すぎるのでな、助っ人を呼ぼうとしたのだが、呼べなかった・・・」

「・・・まさか」

 ラグドさんのように透視能力があるわけではないが、大体の予想は出来る。

 歩は次に襲ってくる言葉を待ち構えるべく生唾を飲んだ。

「この国だけでなくエデンの国々に魔物の大軍が現れている」

「現在進行形で?」

 「ああ」溜め息まじりにラグドが頷く。「死者も出てる」

 エデン出身の戦士は夏川にいる僕らではない。世界各地に僕らと同じステータスカードをラグナロクの戦士からもらった人達がいるのだ。

 そして彼らは自分達の故郷を守っている。

「我々には猶予が日ある。充分に準備してくれ歩君」

 僕らには選択肢がない。この国を守れるのは自分らだけなのだ。例え嫌であろうと戦わなければいけない。

 それが、ステータスカードを授かった人間の宿命だ。

「分かりました・・・」

「他の子達にも伝えてくれ。私はこれから準備にとりかかる」

「了解しました」

 ラグドは外套を纏って退室する。

 歩はドアが閉まると同時に大きな溜め息をついた。

「多分だけど、今回の戦いは誰か死ぬわよ」

 真剣な眼差しで歩に告げるシトラ。歩は苦い顔をする。

「ネガティブな事は言わないでくれ」

 と言う歩だが、心の中ではシトラの言葉に納得している。

 なんたってこちらの戦士は10も満たないのにあちらの方は500なのだ。

 勝てる確率は確かにあるが、全員死なずに勝てる確率はとても低い。

 元々分かりきっていた事だ。戦いとは命と命の削りあい。削り取られた者が先に死に、削り取った者は生き残る。

 今まではその命の削りあいで僕らは負けていなかったが、今回はどうかは分からない。いや、いつも分からない。

 なんたってどんなに技術がある兵士でも鉄砲で急所を狙われただけで死んでしまうのだから。

 勝敗は強さと知力にも依存するが、最も依存しやすいのは運だ。

 運には誰も逆らえないのだ。例え神であっても。

「でも、万が一の事も考えなくちゃ実際に起きた時に対応出来ないわよ」

「そう、だね・・・」

 最近はシトラの意見に同感する事がとても多くなった。これも一緒に暮らしている影響なのだろうか?

 ともあれ、覚悟はしておいた方が良い。本当に仲間が死んでしまった場合動揺して戦えなくなってしまうかもしれない。

「あとなんだけどね、多分アタシ達以外にも戦ってくれる人が1人だけいると思うわ」

「誰だい、それは?」

 意地の悪い笑みを浮かべるとシトラはこう言った。

「あの鎧の騎士よ!」

「鎧の騎士がかい?でもどうしてそう思うんだ?確かに杉田さんと緑さんを助けてくれたけど偶々かもしれないし・・・」

「エルフの感よ!」

 エルフの感・・・ね。何とも曖昧な理由だ。

 でも何故か信じる事が出来た。きっと僕がこの少女を信頼しているからだろう。

「じゃあ早速亮一達に連絡しないとね!それとも集まって貰った方が良いかな?」

 集まった方が良いわ!とシトラが頷く。

 作戦会議の開始だ。



「ただいま」

 『憩いの場』の裏口から入る。左を向くとかき氷を作る父がいた。

 父は僕の存在に気づくと、笑みを浮かべてこちらへと歩み寄ってくる。

「おう、早かったな歩。ラグドさんに呼ばれたんだっけ?何を話してきたんだ?」

「実はさ、あと2日後に新宿に魔物の大軍が押し寄せてくるらしい。今日はそれを説明される為に行ってきたんだ」

「何だって!?」

 いつものらりくらりの冬馬も流石に目をひん剥いて驚く。

「今から作戦会議を開きたいんだけど、席空いてるかな?」

「あと10分もすれば空くと思うぜ。亮一達が来るまでには空くだろ」

「了解。じゃあ僕は皆が来る前に冷たい飲み物を用意しておくよ」

 確か冷蔵庫にオレンジジュースがあったはずと呟きながら冷蔵庫を開く。

 ぶわっと冷気が身体を襲う。一瞬ではあるが、鳥肌が立った。

「暑いのは分かるけど、あんまり開けっぱなしにしないでくれよ」

 電気代も馬鹿に出来ないからな。と笑い混じりに呟く冬馬に歩はホッと安心する。

 良かったいつもの父さんだ、と。

「ねえ、父さん・・・」

「ん、何だ?」

 今このキッチンにいるのは僕と父さんだけだ。

 この状況ならば聞き出せるのではないのか?

 ───貴方は音速の騎士トーマですか?と。

「・・・・・・」
 
「どうしたんだ?言うんだったら早く言えよ」

 どうしてだろうか?舌が回らない。いや、違う。頭が舌を回してくれない。

 嫌がっているのだ。僕は心の中でストップをかけているのだ。

 父さんにその質問はするな!したら取り返しがつかないぞ!と。

「・・・ごめん。何でもないや」

「お、そうか?」

 冬馬は再び調理を再開する。

 結局僕は弱い人間なのだと改めて思い知らされた。



「500・・・ね」

「すっごい数・・・」

 情報を聞かされた亮一と葵は苦言を漏らす。

 だが、一言も「嫌だ」とか「無理」等と弱音は吐かない。

 彼らも自覚しているのだ。自分達にしか出来ないと。

「しかも、新宿ときた」

「色々壊したら若者達に叩かれそう」

「SNS映えする物は壊さないようにしよ・・・」

 若者の流行が飛び交う新宿。もしも建物を壊したらどうなるだろう。考えたくもない。

「今俺らの戦力は俺、歩、葵、緑、兄ちゃん、シトラさんの6人か」

「あとラグドさんも参加してくれるらしいよ」

「マジか!?百人力じゃねえか!」

 老いたとしてもあちらの世界ラグナロクを魔族から救った元勇者である。彼の実力を知っているので参加してくれると言ってくれた時はとても嬉しかった。

 しかし追加戦力はラグドさんだけでは

「あとは北海道で出会したあの鎧の騎士が仲間に入ってくれるかもしれない」

「あの甲冑野郎がか?」

「言い方良くない・・・」

「・・・すまねぇ」

 葵に注意された亮一は意外にも素直に謝った。これも幾度となく困難を共に潜り抜けた結果であろう。

 2人はステータスカードを手に取るまでまったくと言って良いほどに関係がなかった(別に仲が悪かったわけではないが)。

 それが今では笑いながら世間話に花を咲かせる仲だ。歩はそれを嬉しく思う。

「鎧の奴の事は置いといて、歩、お前何か案があるのか?」

「今回の戦いのかい?」

 そうだよとぶっきらぼうに言う亮一。亮一は焦っている。幼い頃からの仲だそのくらいは手に取るように分かる。

 史上最大の規模、さらに戦場は東京。焦らない奴などいない。

 葵は冷静さをかいてはいるが、一皮剥がせば焦りと緊張で汗が涌き水が如く滴るであろう。

 そのくらい今回の戦いは余裕がなかった。誰かが死ぬかもしれない戦いなのだから。

「先程から考えてはいるのだがどうにも現実的かつ理想的な案が思い浮かばないんだ。明日警察署で作戦会議を開くそうだからその時にまでは考えておくよ」

「そうか・・・。でも一応は策はあるんだな?駄作でも何でも良いから言ってみてくれ」

「聞きたいなら教えるけど、本当に現実的じゃないよ?」

 良いから良いからと亮一の押しに負けて歩は今自分が考えた作戦の中でまだ実現可能かもしれない作戦の内容を話す。

 亮一と葵は口出しせずに最後まで歩の作戦を頭で理解しながら聞いていった。

 そして話終えると亮一は突然テーブルと手の平で思いっきり叩いて立ち上がった。

「ひゃっ!!何よいきなりどうしたの亮一!」

 シトラが驚いている事に目もくれずただ一直線に歩を見つめる。

見つめるその瞳には何かの熱意が感じ取れた。

「歩、それ使えるぞ!!」

「えっ?でも、あんまり現実的じゃ───」

「何言ってるんだよ!俺らはとっくのとうに!」

 何言ってんだ?と最初は首を傾げた歩だが、すぐ理解したようでニヤリと笑みを浮かべた。

「そっか、僕らはもうとっくに

 葵とシトラがはてと頭にハテナを浮かべる中、歩と亮一は熱い握手をかました。
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