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三章音速の騎士

入り交じる謎

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 雲に隠れていた太陽がやっと姿を現し僕達を照らす。

 気温の激変で少々体調が悪いが、自宅に帰るのにはどうってことなかった。

 杉田さんはプリングの首を。優人さんは胴体を抱えている。

 敵だったとは言え死体をそのままにしておくわけにはいかず、署で保管するらしい。

 警察ではない一般人の僕ら4人はトボトボと帰路を歩いていた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・お腹空いた」

 4人は一言も喋らなかった。体調が悪い事もあるだろうが、喋らなかった原因は北海道で出くわしたあの騎士に原因がある。

 あの騎士は何者なのか?ラグナロクから派遣されてきたベテランの騎士なのか?それとも───。

「あれが騎士トーマだったのかな・・・」

 最大の疑問点がそれだった。プリングと戦っていたあの鎧の騎士。あれは音速の騎士トーマだったのではないか、と。

「だとしたら父さんじゃない事は確定だね」

 歩は見てしまったのだ。あの兜の隙間から覗く青い瞳を。

 父さんの瞳は黒だ。だから父さんが音速の騎士トーマという可能性は───。

「いや、もしかしたらカラコンつけていたのかもしれねぇぜ」

「あ───」

 カラコン、カラーコンタクト。目を色を変える事が出来るアクセサリー。

 カラコンの種類は多彩だ。黄色もあれば緑色もある。勿論青色も。

 父さんがトーマだとしてそれを息子である僕に気づかれない為につけたという可能性は十分にある。

 それにまだあの鎧の騎士が音速の騎士とは確定していない。

 しかし、プリングの首を跳ねた際に見せたあのあの速技は素晴らしいの一言だった。

 どのように修行すればあのようなスピードを出すことが出きるのだろうか。

 もう一度あの鎧の騎士に会いたい。

 会って面を向けて話したい。そして聞きたい。貴方は何者なのか?と。

「まあ今日はゆっくり休もうぜ。朝からかり出されて俺もうクタクタだよ」

「それ同感。私も死にそうなくらい眠い」

「僕は店の手伝いしなくちゃ。まだ午後の2時だし」

 辺りを見渡すと小学生程の齢の少年少女達が何処かへと走っていく姿が見られる。

「アタシも手伝った方が良いよね?」

「どっちでも良いよ。寝たかったら寝ても良いし」

 ううん、手伝う。笑顔で答えるエルフの少女の頭を歩は優しく撫でた。

「じゃっ、俺はこの辺で」

「私も~」

 自分らとは反対方向の道を歩いていく亮一と葵に手を振る。

 後ろから見た2人は明らかに披露していた。

「うわっ、歩見てあれ・・・」

「えっ?───うわ・・・・」

 シトラが指差す先に見えたのは『憩いの場』の前に作られた長蛇の人の列だった。

 暑さで参っていた頭が更に悪化する。

 溜め息をつくと歩とシトラは裏口から『憩いの場』に入っていった。



「ふう、疲れた~」

「ありがとな魔物退治で疲れてたのに手伝わせちゃって・・・」

「良いよ良いよ。別に、今日はそんな体力を激しく消耗するような強敵とは戦ってないから」

 午後の5時。まだ太陽が僕ら人間を照らしている時間帯。

 地獄の午後2時から4時までを潜り抜けた歩と冬馬は椅子に腰を下ろして冷たいアイスティーを飲んでいた。

 シトラはと言うと途中で体調を崩して今は部屋で寝ている。

 歩は父冬馬の姿を見るや否やホッと溜め息をついた。

 冬馬は今日は『憩いの場』から離れていなかった。常連さんに聞いたのだから間違いない。

「いやあ、お前らがいない今日に限って皆来るんだからびっくりしたよ。クーラーを回してなきゃ倒れてたくらい!」

「そのクーラーのせいでシトラは体調崩したんだけどね」

 シトラの体調不良は一目瞭然。寒い所から暑い所に戻ってきた・・・と思いきやまたもや寒い所にその身を置いたからだ。

 急な気温の変化は身体を壊す。僕も気を抜けば倒れてしまいそうだ。

「さて、お客さんの波も過ぎた事だし歩お前はもう休め」

「うん、そうするよ」

 いつもだったら「大丈夫だよ」等と言って父さんの反対を押しきってでもやるだろう。

 だが今日は「大丈夫だよ」と言える体調ではなかった。

 頭は回転は悪いし、息は苦しい。このままの状態で続けたら何処かで倒れてしまう。

 そうなると迷惑になるので僕は父さんの言葉に甘えて上で眠る事にした。



「・・・またか」

 ベッドで眠りに付いたと思った矢先の事であった。

 歩はまたもや何処か分からない場所にいた。

 頬をつねってみるが痛みは一切感じない。

 どうやらまた

 だが前回の場所とは打って変わって今回は教会だった。

 何らかの神を象ったステンドグラスが日の光を浴びてキラキラと輝く。美しいという一言だけが脳裏に浮かんだ。

「失礼するっ!」

 バンッ!と勢い良く教会の扉が開かれる。開かれた扉の先に立っていたのは赤い瞳に漆黒の髪を持った美青年。

 些か老けているが間違いない。前回の夢の最後で現れた青年だ!

「ラグド様!もう少しお静かに───」

「すまないこれからは気を付ける。それよりもマリーは?」

「2階に赤ちゃんといますよ」

 ラグドと呼ばれた青年は若いシスターの返答にそうかと答えるとそそくさと階段を上っていった。

「あれが若い頃のラグドさん・・・?」

 似てはいた。顔付きに目の色。何よりも雰囲気が似ていた。

 若い頃のラグドさんと踏んで良いだろう。

「ついていこう」

 折角また夢の中とはいえ過去の世界(しかもラグナロクの)に来たのだ観光するのも良かろう。だが、僕の選択肢から観光等という選択は数秒で消え去った。

 ついていかなければいけない。そんな感じがするのだ。

 歩はラグドの後を追って階段を上る。

 途中から会話が聞こえてきた。

「遅いぞラグド。勇者ともあろう者がおんなんでどうする?」

 一度しか聞いた事がないが、何処か懐かしいこの声。僕の前世竜殺しの英雄シグルの声だった。

「集合時間はなかったはずだが・・・まあいい。それで、ニクルは?」

「ニクルもまだ来てねえな。ま、お前が来たんだからすぐ来るだろ」

 シグルの予想は見事にあたり、美しい貴族服に身を包んだ美しい青年が僕をすり抜けて2階へとかけ上がる。

 青年の耳は尖っていた。それに加え整った顔立ち。エルフだろう。

「おっと、私が最後だったか?」

「そうみたいだぜニクル・・・じゃねえニコラス王」

「やめてくれ。私達は仲間だろう」

 ワハハと豪快に笑ってニクルの肩を叩くシグルの姿は前回の紅い鎧姿ではなく腰に竜を象った剣を帯びただけの平服姿だった。

 教会という時点で気づいてはいたが、今回は戦いを見る機会はないようだ。少し残念。もう1回見て戦いの参考にしたかったのだが・・・。

 それにしてもこの3人。何故先程から部屋に入らずに扉の前に立っているのであろうか?

 見えないことを良いことに扉に耳を当ててみる。すると微かにだが赤子の泣き声が聞こえてきた。

「勇者御一行様。どうぞお入り下さい」

 音もなく扉を開けて扉の先から出てきたシスターは横に退き3人を部屋へと促す。

 3人は抵抗なく部屋の中へと入っていった。

 赤子の泣き声がより一層と大きくなる。

「いらっしゃい。良く来たわね3人とも」

 開いた扉からひょっこりと顔を出して部屋を覗く。部屋には聖母マリアを彷彿とさせるような美しく清らかな女性が赤子を抱いてベッド から上体を起こしている。

「いつもふらふらしているシグルと違ってラグドは騎士団長でしょ?それにニクルは一国の王。私になんかに会いに来ていいの?」

「ふらふらじゃねえよ。人々を救ってんだ俺は」

「シグル、お前の実力なら私を退いてロマニアの騎士団長になれるだろう?どうしてそんな生活をしている?」

 ラグドは申し訳なさそうに眉を潜めて言うとシグルは溜め息をついて答えた。

「俺は一つの国よりも沢山の村を救う方が人の為になるだろ?別に国を守る騎士が良くないわけではないが、俺は俺のやり方で人を救いたいんだ」

 そうか、とラグドが頷く。「人には人のやり方があるからな」

「そうとも!」

「確かにマリーの言う通り王たる私は忙しい。だがな、共に冒険した仲間の赤子を見に行かない程甲斐性なしではないぞ私は」

「フフフ、本当にあなたは真面目なのだか不真面目なのだか分からないわね。そこがニクルの良いところなんだけど」

 マリーは赤子の後頭部を優しく撫でながら微笑む。

「それにしても赤ン坊ってのは本当に面白いな!これから骨や筋肉が発達して俺らみたいになるんだろ?」

「それが生物の成長というものだ。それで、性別は雄かな?雌かな?」

「男の子よ」

 性別を伝えると3人はおおっー!と唸る。

「男ぉ?わっかんねえな!」

「これから男の子らしくなるんだよ」

 シグルを赤子を怪訝そうに見つめる。

「名は決まっているのか?良かったら私が───」

「「「却下」」」

 名前を発表する前に全否定されたニクルはしょんぼりとする。

「だってお前ネーミングセンスないじゃん。確かお前が今飼ってる兎って何て名前だっけ?」

「モチノスケだ」

「はっきりいってお前にはセンスがない。ここは、俺が格好いい名前をつけてやろう」

「良いわよ。聞かせて頂戴」

 顎に手を添えうーんと唸るシグルは暫くするとそうだ!と言ってマリーの方を向いた。

「ジークフリーズってのはどうだ!格好いいだろ!」

「確かに格好いいけど、ちょっと長いわ。却下」

 「ちぇっ」と舌打ちするシグルを笑うとマリーは腕の中でスヤスヤと眠る赤子のまだ少ない髪の毛を撫でる。

「実はね、もう決めてあるの」

「何だよっ!決めてるなら早く言ってくれよ!」

「フフフ、ごめんなさいね。面白い事になりそうだったからつい───」

「それで、この子の名前は一体何なんだ?」

 ラグドが困り顔で問うとマリーは微笑んで答えた。

「トーマ。この子の名前はトーマよ」

 新た生まれた命の名を知った3人は先程とは打って変わって静かに微笑んだ。
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