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三章音速の騎士

大魔術師参上!

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「自分で言っちゃうの?大魔術師って・・・」

 葵が冷えきった目で派手な老人を見つめる。

「そんな目で人を見るんじゃない!失礼でしょうが!」

 こそこそ隠れていたお前には言われたくはないと言いたいが、控えておくことにする。

「えっと、プリング?あんたが毒蛇を出していたのか?」

「いかにも!我は太古に失われし大魔術『メイキングクリーチャー』を扱える唯一の男!それが我だ!」

「何で言っちゃうかな?バカなの?ねえバカなの?」

 シトラが馬鹿というのも一理ある。理性でも蒸発しているのだろうか?

「蒸発しとらんわ!全く、失礼な奴よの」

「あんた、心が読めるのか?」

 「そうだ」と答えるプリング。透視能力。人の頭の中を覗きこみ、心中を読み取る希少な能力レアスキル

 ラグドさん以外の人でこのスキルを所有している人物を見るのは初めてだ。

 しかも、プリングは敵。敵に心の中を見られるとなると行動を読まれてしまう。

「おやおや~?やっと自分が置かれている立場に気づいたようだね~。そう、君達は我に傷1つつける事が出来ないのだよ!」

「確かにあんたの透視能力は非常に厄介だ。これまで戦ってきた中で一番。だがな、頭で行動が読めても身体が追い付かなければ意味がないだろっ!!」

 地面を力いっぱい踏みしめ、加速。目にも止まらぬ速さでプリングを切り裂く。

 切り裂かれたプリングの身体は霧のように四散した。

「何ッ!!」

「甘いわっ!!」

 背中が炎で焼かれる。

 服と身体が頑丈だったお陰で致命傷は免れたが、目を手で覆ってしまう程の致命傷を負わされてしまう。

「くっ───!!」

 即座に治療魔術で火傷を癒すと、立ち上がって後ろを振り向く。

 そこにはやはりプリングがいた。

「いくら加速しても無駄だ。我は魔術だけでなく全てのステータス値が高いのだから
な!」

 サーチでプリングのステータスを確認。レベルは72、ステータスは全て300を超えている。レベル42の僕とは次元が違う。

 この勝負、勝ち目があるのか───?

「ない!断言しておく!君達が我に勝てる確率は0だ」

 高らかに宣言するプリングの背後に1人。

 刀を振り下ろす男がいた。

 男の振り下ろした刀はプリングの右腕を胴体から切り離す。

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 右腕を失ったプリングは海水で濡れている地面にゴロゴロと転がりその場に踞る。

「勝てなくても

「優人さん!」

 プリングの右腕を切断したのはあちこちボロボロの優人だった。

 優人の刀の刃は墨汁のように黒い液体とプリングの赤い血で濡れていた。

「貴様、我がしもべと戦っていたはず───!?」

「あれか?もう倒したぞ」

「なっ───!!」

 以外だったのかプリングは絶句する。

「ソウルイーターだっけか?戦っている相手に化ける戦法は良いと思うんだが、俺と亮一には相性が悪すぎたな」

「だって俺らは日々の稽古で自分の弱点や癖を知り得ているんだから」

 亮一と優人が営むは剣道。武道の1つである。

 剣道に限らず武道という道はハッキリと自分の弱点や癖が頭にくるほど分かるのだ。

「そしてお前の透視能力にも弱点がある。それは、同時に何人もの頭の中を見れない事だ」

「な、何故それを───!!」

「俺らの知り合いにさ、お前と同じく透視能力が使える人がいてさ、その人に透視能力の欠点を聞いた事があったんだよ」

「くそ───!!」

 踞っていたプリングが落ちた自分の右腕を持ち、切断面にくっつけると治療魔術の詠唱を始める。

「癒しの神よ、我が身体の傷を癒したまえ───『ヒール』!」

 緑の美しい光が右腕を再びプリングの身体へと癒着させる。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 腕をくっ付け直したのは良いがプリングの体力の殆どが削られていた。

 治療魔術とは身体の傷を癒す魔術ではなく、身体の細胞を活性化させて急速に傷口を癒す魔術なのだ。だから治療魔術には魔力以外にも体力が必要とされる。

 プリングが行ったのは右腕の接着。もう1歩も歩けない程疲弊しているはずだ。

「お前にはもう動く体力すら残っていないはずだ。大人しくついてきてもらうぞ!」

「こんな所で捕まってたまるものか───!!」

 懐から謎の玉を取り出すと、地面に叩きつける。

 地面に叩きつけられた玉はあたりに粉をばらまき、煙幕を作り上げる。

「しまっ───!」

 気づいた頃にはもうプリングの姿がなかった。

 優人は自分の失態に苛立ち舌打ちをする。

「すまねえ、もう少し早くアイツを仕留めていれば・・・」

「もしもの話は止めましょう。プリングを逃がしはしましたが全員無事だったことを喜びましょう」

 とシトラが言う。

 最もな意見である。プリングは確実に今まで戦ってきた敵の中で最も手強い相手だった。

 あそこで優人さんが助けに来てくれなかったら僕らはやられていた。

「ソウルイーターはアイツが操っていたってことで良いんだな?」

「ああ、恐らくは」

 古代の大魔術を操ることが出来る魔術師だ。ソウルイーターを操ることなど容易いことだろう。

「五十嵐さんに報告に行こうぜ。魔物は倒したからもう海水浴場はオープンしても良いって」

「・・・いや、ダメだ。まだプリングを倒せていない。アイツが生きていれば何体てもソウルイーターを呼び出せるだろう」

「確かに・・・」

 原因は倒せたが根源は倒せきれていない。

 プリングは近いうち必ず戻ってくるだろう。

「じ、じゃあ海水浴は?」

「すまないが諦めてくれ」

「そんなぁ~・・・」

 落胆するシトラだが、彼女は魔力をかなり消費しているからそこまで海水浴は楽しめないだろう。

 そういう僕も治療魔術を使用しすぎたせいか体力が殆ど残っていない。

「また機会はあるからさ。今日は一旦帰ろ?ね?」

「分かった・・・・」

 頬を膨らませてふて腐れるシトラ。

 これはご機嫌直しには時間がかかりそうだ。

「何あれ?」

 葵が何か見つけたようでプリングの血溜まりを指差す。

「どうした?」

 指差す先に落ちていたのは親指程の夕焼け色の宝石だった。

 血を触るのには抵抗があるが我慢して宝石を拾う。

 よく見るとその宝石はプリングのつけていたネックレスの一部だった。

「普通戦闘の場にこんなもんつけてくるか?普通」

「魔力も込もっていなければご加護もあるわけでもない。あのプリングってやつ相当の派手好きのようね」

 戦いにおいて何かの補助があるイヤリングやネックレス等を付けるのは分かる。

 だが、戦闘には何の役にも立たないただ高価なだけの装飾品を付けてきたって戦いの妨げになるだけだ。

 プリングは派手好きなのは分かったが、葵は唾を飲む程の大魔術師だ。

 大魔術師が自分を彩る為だけに役に立たない宝石を身につけるだろうか?

 考えても埒があかないので思考を停止させた。

「まあ良い。こいつは持っておくことにしよう」

 もしかしたらプリングを探す手懸りになるかもしれない。

 そう思った歩はポケットに宝石を突っ込んだ。

「海・・・・」

 シトラは未だに未練があるようで黄昏るように海を見つめていた。

 思えばあの時に任務が終わったら海で遊ぼうなどと言わなければ良かった。

 彼女に要らぬ期待をさせただけだった。

「大丈夫。また来てあげるから」

「・・・約束だよ」

 シトラの小指と僕の小指を絡めさせて指切りげんまんをする。

 少し涙目なシトラの手を引いて洞窟から歩は出た。
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