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三章音速の騎士

夏川の剣豪

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「なあ、シトラ!あれどういう事だ!」

 黒い人間のようなものと戦っている亮一と優人を歩が指差す。

「あれは、ソウルイーターよ」

「ソウルイーター?でもさっきまでは首長竜の姿を・・・」

「ソウルイーターはね、人の魂を喰らい自身の力を蓄え、自分が見た中で最も強い者または生き物の形をとる

「随分と厄介な特性を持ってるなソウルイーターって」

 シトラが恐れていたのは魂を喰われる事だけでなく戦う最中進化する特性に恐怖していたのだろう。

 現に今進化したソウルイーターの姿を見たシトラの手は震えている。

「不味いわ・・・これ以上進化されないようにしなきゃ───!」

「待て待て!ここは亮一と優人さんに任せよう」

 ここで応戦に行ったら更にソウルイーターを強くするだけだと思った歩はシトラの腕を掴み制止する。

 「僕らは大人しくこの蛇の相手をしていよう。亮一と優人さんは剣の天才だ。絶対に倒してくれる。それに───」

「それに?」

「亮一と優人さんは。ここで邪魔をしたら一生恨まれるよ」



 嗚呼、まさかこんな日が来るとは夢にも思っていなかった。

 複製の偽者とはいえ自分自身と戦える日が来るとは。

 俺の斬撃をソウルイーターは相殺する。

 しかも剣筋まで同じ。文句なしだ。

 これなら、俺の弱点が知れる。

「Kiaaaaaaaaaaa!!」

 ソウルイーターの堂々たる正面切り。返して腹を裂こうとするも、後ろに飛ばれ失敗。

 足に力を溜めと人を遥かに超えた跳躍力と速さで飛びかかってくる。

 俺は逃げも隠れもせず、スピードがかかった一撃を受け止めた。

 今何度か刀を交えたことで分かった事がある。

 俺を象ったソウルイーターは俺の思考すらも象ったらしい。

 もし、俺がソウルイーター側だったら俺はソウルイーターが取った行動と同じ行動をすると思う。

 ここまで俺をコピーしているとは・・・。少々面倒だ。

 同時にわかりやすい。

 ソウルイーターが俺と同じ思考をしているというのならば、攻撃を先読みする事も困難ではあるが、可能である。

「Kiryaaaa!!」

 面・・・を打つかと見せかけての逆胴打ち。とてもシンプルかつ有効な手だ。

 俺も良く使っている。

 普段なら肘で打たれるのを防ぐが、ソウルイーターの持っている漆黒の刀は竹刀ではなく、本物の刀だ。もし肘で受けようものなら俺の左腕は斬られる。

 ならばと後ろへ下がり逆胴打ちを狙っていた刀の一撃を俺の刀で打ち落とす。

 ソウルイーターの手から刀が離れることはなかったが、逆胴打ちを打ち消す事には成功した。

「Kia!?」

 ここからが勝負所。がら空きになった頭に狙いを定め、大きく刀を振りかぶる。

 咄嗟の判断で刀を受け止めようと頭を防ぐ。

 予想通り。我ながらなんと臆病なのだろうか?

 でもそれが人間の本能、反射神経の判断である。

「せいっ───!!」

 頭の代わりにがら空きになった胴体───ではなく、身体を捻って小手を狙う。

 ソウルイーターの右手は刀と共に吹き飛んだ。ついでに左手も切断。

 痛覚がないのか、痛み苦しむ素振りを見せないソウルイーター。

 背を向けて逃げると思ったが、意外な事にソウルイーターは仁王立ちして逃げようとしない。

 成る程、・・・。悪くない。

 自分の複製ではあるが、俺は敬意を持って我が偽者を切り捨てた。



「草木を揺るがす彼方の風よ、刃となりて切り裂け!───『ウィンドカッター』!」

 刃のように切れ味の良い一吹きの風が巨蛇の斑模様まだらもようの身体を細かく切り刻む。

 巨蛇だった肉塊はぼとぼとと血を垂らして地面に転がる。

 仲間が切り刻まれたとしても巨蛇は決して下がらない。

 むしろ仲間を殺された事を糧に攻撃の勢いを増す。

 ヒュッ────!!

 葵に飛び掛かる巨蛇をシトラの放った矢が脳天を貫く。

「助かったよシトシト」

 両手に弓と矢を持っている為サムズアップが出来ないシトラは笑顔で答える。

「にしても倒しても倒してもキリがない。どうしたら良い・・・」

 巨蛇はあまり強くなく、油断さえしなければ噛まれはしないが、数があまりにも多い。

 もし殺すスピードを落とせば、数を増やしこちらが不利になる。

「足場も蛇の死骸だらけで、立つ場所も───」

 歩はあるミスを犯していた事に気づいた。

 足元に転がっているはずの巨蛇の死骸が跡形もなく消えているのだ。

 血も、肉も、何もかもだ。

 誰かが僕らが戦っている時に魔術を使用して片付けたのか?否、非現実的だ。

 現に魔術師の気配は葵意外はしない。

 ただ1つだけ分かるといえばこれは魔術が関係しているという事。

「・・・まさか!」

 何か閃いた歩は1匹の巨蛇を殺す。そしてその死骸を見た。

 死骸は腐るように朽ちて、跡形もなく消え去った。

「やっと理解わかった・・・」

 この蛇はあちらの世界ラグナロクから来た魔物ではない。

 魔力によって産み出された擬似的な生命。

 そんな魔術があると以前ラグドさんから聞いた事がある。

 自分が考えた生物を魔力で製造する大魔術。

 その名を『メイキングクリーチャー』。今は失われた遥か古代の大魔術。

 その古代の魔術を行使できる者がいるのだろうか?

 とにかく、今は魔術師を探すのが先決だ。

 でければここから先の巨蛇の毒で毒死。

 魔術で作られたと思われる巨蛇はゆうに50匹を超えている。

「2人共、聞いてくれ!この蛇は魔術で作られた疑似生命かもしれない。実際に死骸も足元にいないはずだ!」

「何ですって!?」「何ですとー!!」

 慌てて葵とシトラは足元を見ると、顔を見合わせて怪訝な顔をする。

「きっと魔術師が近くに潜んでいるはずだ!何とか探すぞ!」

「でも、どうやって・・・」

「炙り出す」

 そう言うと葵は炎の魔術詠唱を開始する。

「空をも焦がす竜の炎を我が魔力で再現する!!───『ドラゴンフレイム』!!」

 竜が吹くような炎の息が杖に埋め込まれた宝石から勢いよく吹き出す。

 葵は竜の息を吐く杖をそこらじゅうに振り回し、魔術師を炙り出し始めた。

 果てして本当にこの方法で魔術師が出てくるか?

 かなり難しい挑戦だろう。何せ相手は古代の大魔術を行使する程の魔術師だ。

 身を隠す前に自身の身を守る為の防御魔術を展開しているはず───。

「熱っっぅぅぅぅぅぅ!!」

 葵が洞窟の隅っこを炙っていると、人影が現れる。

 その人影はローブを纏いフードを深く被っているため顔は確かめられないが、白い髭を顎に蓄えており、手には無駄に派手な杖が握られている。

 しかも良く見てみるとローブはとても美しい彩飾があらゆる所に施されていた。

 何て言ったら良いだろう・・・派手だ。

「ゲホッ!ゲホッ!良くぞ見破ったな若き魔術師よ!我が名はプリング!失われた古代の魔術を使う事が出来る大!魔術師である!」

 そしてその魔術師は何だか態度がデカかった。
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