上 下
61 / 219
三章音速の騎士

お盆

しおりを挟む
 蝉の鳴き声が鳴り止まぬ気配がない今日は8月13日。

 地域にもよるのだが、今日は先祖を家に帰ってくるお盆の日だ。

 我が小野山家も今日母さんと祖父を墓から家へと連れて帰ってくる。

「ちょっと待ってよ~」

 ちゃんと靴を履き、歩と冬馬の元へと急ぐシトラ。

「別に今日は楽しい事はないんだぞ?ただただ骨を持ち帰ってくるだけだぞ?」

 別に関係もないのにシトラはついてきた。

 何をするのかはしっかり話した。お墓から先祖を連れて帰ってくるだけだと。ご先祖様に失礼だが、普通の子ならやっぱ良いやと放棄している筈だ。

 僕だって昔は幼い頃はお盆の日にお墓に行くことは拒んでいたのだ。

 理由は面倒くさいからではなく、幽霊が怖いからなのだが。

「極東のお墓なんて行った事がないしさ。行ってみたいと思って!あと、お義母さんにも挨拶しなきゃいけないし!」

 今初めて理由を聞いたが、意外としっかりしていた。

 思い返してみれば彼女は学習欲が強かった。今回も学習欲が刺激されたに違いない。

「良いねぇその意欲!素晴らしい!」

 一方父さんは上機嫌だった。朝も7時に起きてラジオ体操をやっていた程に。

 余程今日のお盆が待ちきれなかったらしい。

 そんなにテンション上げる行事ではないのに、うちの2人と来たら・・・。

「よし、歩くぞ!うちには車がないからな!」

 父さんが言った通り、うちには車という物がない。理由としては買うお金がないという事と、父さんが免許証を持っていないという2つが上げられる。

 別に何処かに遊びに行ったり等はあまりしないので困らないのだが。

「何処にお墓はあるんの?」

「神社の隣。お祭りがやってた所の隣」

「ああ、あそこね」

  そこから暫く歩き続けた。走ってもいないのに汗が吹き出してきてしまう。タオルを持ってきておいて良かった。

 この道をもう一度お骨を持って歩かなきゃいけないと思うとため息が止まらない。

 しかし行事は行事だ。しっかりやらなければバチが当たるというもの。どんなに面倒だとしてもやりきらなければ。

「よし!着いた!」

 そうこうしているうちに目的地である墓地へと到着した。

 小野山家の墓は父さんが毎月掃除に来ているか藻や泥汚れもなくとても綺麗だ。

「これが極東のお墓・・・うちの方と似ているような似てないような」

「大体お墓っていうのは石で作るしね。似てても仕方ないよ」

 歩達は掃除を始める。元々綺麗だった墓石が雑巾で磨かれ更に輝く。買って来た花をお供えしたら掃除完了だ。

「さて、お祈りしようか・・・」

 手を合わせ目を瞑りお祈りをする。シトラも見よう見真似でやってみた。

「「「・・・・・・」」」

 静寂が始まり、蝉の鳴き声、車の走行音、お坊さんがほうきで地面をはく音。全て大きく聴こえる。

「・・・良し!じゃあ帰るか!」

「えっ!?」

 墓地を出て帰路を歩く。シトラは何故か驚いているようだ。

「ねえねえ、連れて帰んなくて良いの!?」

「ん?どういう・・・ああ、そういう事ね」

 彼女が驚いている理由が分かったかもしれない。

「物理的に連れて帰るんじゃなくてその霊を連れて帰るって意味だ」

「へ・・・?」

「お墓を開けるなんてバチ当りなことはやらないよ」

「あ、そうなの・・・」

 どうやら理解してくれたらしい。流石に墓を開けるなんて事したら悪霊にとりつかれかねない。

「でも霊なんて残っているのかしら?」

 最もな疑問だ。確かに霊が残っているという保証はない。

 なんたって死んだら魂は生まれ変わるのだから。

「確かにうちのお墓に霊はいないかもしれないな。でもそれで良いんだ。伝統を守ることは大切なんだから」

「・・・そうね」

 燃えるような気温に身体を蝕まれながらも僕達は先祖と共に家へと帰っていった。



「ねえ、何作っているの?」

「これは精霊馬しょうりょうまだよ」

「しょうりょうま?」

 家に帰ってきた歩はキュウリとなすに割り箸を刺して精霊馬を作っていた。

「簡単に説明するとあの世から家に帰ってきたご先祖様が使う乗り物はみたいなものかな?」

「何で食べ物なの?」

「・・・確かに」

 シトラの言う通りだ。昔は今のように食べ物が盛んにあったわけではないのに、何故貴重な食料であるキュウリとなすをご先祖様の乗り物にしたのだろうか?

 木で作った人形でも良いのではないだろうか?布と綿で作ったぬいぐるみでも良いのではないのだろうか?

 本当に昔の人の考えは謎だ。

「何でキュウリとなすなわけ?」

「キュウリは馬を模していて、なすは牛を模しているらしいよ」

「馬は分かるけど、何故に牛?牛はいらなくない?」

「これにもちゃんと理由があってね。馬に模したキュウリにはご先祖様が一刻も早く帰ってきてほしいという意味が込められているらしい」

「馬は足が速いしね!じゃあ牛は?」

「行きがあれば帰りがある。時が過ぎればあの世にご先祖様が帰らなければいけない。牛に模したなすにはゆっくりと帰ってほしいという意味が込められているんだ」

「へえ~」

 シトラはしばらくキュウリとなすの精霊馬を見つめる。

「馬の人形と牛の人形でよくない?」

「確かにね」

 最もだ。人形にした方が形もしっかりしているし、何度も使う事が出来る。

 野菜も腐る事はない。

 本当に何で昔の人はキュウリとなすを馬と牛に模したのだろうか?

 ユーモアな人がふと思い付いたのだろうか?

 真実は謎のままである。

「おおっ、良く出来てるじゃないか!」

 キュウリの精霊馬を持ち上げてうんうんと頷く冬馬。

「誰が作っても同じでしょ?良いキュウリとそれなりに強度がある割り箸させ使えば」

精霊馬の工作など幼稚園生でも出来るぐらいに簡単だ。もし失敗したら野菜がおじゃんになるが。

「それでも俺はこの精霊馬は良く出来ていると思う。完璧だ」

「ありがとう」

 褒められたなら素直に受け取っておくべき。そう母から教えられたっけ?

 なあ、母さん。今ここに帰ってきているなら教えてくれよ。

 

 あの後僕は情報収集の為に母さんの日記を更に読んだ。

 父さんを助けてからのしばらく日記はただただ父さんを褒め称える文ばかりだったのだが、父さんを『憩いの場』に迎入れてから3日後に新たな動きがあった。

『3月8日。冬馬さんを養子として迎え入れた事が関係しているのか、私は警察に呼ばれた。何か冬馬さんがしたのか不安になりながら警察署へ来たが、別に冬馬さんが何か警察沙汰をやらかしたわけではないらしい。警察が今まで預かっていた冬馬さんの所有物をである私に受け取ってほしいらしい。受け取ったのは冬馬さんが着ていた服と大破した鎧、そして美しい装飾が施された剣を受け取った。どうやら剣は本物らしい。返すけれども決して外には持っていかないようにと注意された。銃刀法違反に引っ掛かるだろう。私は冬馬さんの所有物をに隠す事にした。誰にも見つからないある場所に』

 3月8日の日記の最後に書かれているある場所とはどの部屋の示しているのだろうか?それ以前にある場所とは家の中にあるのだろうか?

 その秘密を知っている者はこの家にはもういない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南
ファンタジー
 え、冴えないお父さんが異世界の英雄だったの?  私、村瀬 星歌。娘思いで優しいお父さんと二人暮らし。 お父さんのことがが大好きだけどファザコンだと思われたくないから、ほどよい距離を保っている元気いっぱいのどこにでもいるごく普通の高校一年生。  仲良しの双子の幼馴染みに育ての親でもある担任教師。平凡でも楽しい毎日が当たり前のように続くとばかり思っていたのに、ある日蛙男に襲われてしまい危機一髪の所で頼りないお父さんに助けられる。  そして明かされたお父さんの秘密。  え、お父さんが異世界を救った英雄で、今は亡きお母さんが魔王の娘なの?  だから魔王の孫娘である私を魔王復活の器にするため、異世界から魔族が私の命を狙いにやって来た。    私のヒーローは傷だらけのお父さんともう一人の英雄でチートの担任。  心の支えになってくれたのは幼馴染みの双子だった。 そして私の秘められし力とは?    始まりの章は、現代ファンタジー  聖女となって冤罪をはらしますは、異世界ファンタジー  完結まで毎日更新中。  表紙はきりりん様にスキマで取引させてもらいました。

喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一
ファンタジー
[ルールその1]喜んだら最初に召喚されたところまで戻る [ルールその2]レベルとステータス、習得したスキル・魔法、アイテムは引き継いだ状態で戻る [ルールその3]一度経験した喜びをもう一度経験しても戻ることはない 17歳高校生の南野ハルは突然、異世界へと召喚されてしまった。 剣と魔法のファンタジーが広がる世界 そこで懸命に生きようとするも喜びを満たすことで、初めに召喚された場所に戻ってしまう…レベルとステータスはそのままに そんな中、敵対する勢力の魔の手がハルを襲う。力を持たなかったハルは次第に魔法やスキルを習得しレベルを上げ始める。初めは倒せなかった相手を前回の世界線で得た知識と魔法で倒していく。 すると世界は新たな顔を覗かせる。 この世界は何なのか、何故ステータスウィンドウがあるのか、何故自分は喜ぶと戻ってしまうのか、神ディータとは、或いは自分自身とは何者なのか。 これは主人公、南野ハルが自分自身を見つけ、どうすれば人は成長していくのか、どうすれば今の自分を越えることができるのかを学んでいく物語である。 なろうとカクヨムでも掲載してまぁす

世界を滅ぼす?魔王の子に転生した女子高生。レベル1の村人にタコ殴りされるくらい弱い私が、いつしか世界を征服する大魔王になる物語であーる。

ninjin
ファンタジー
 魔王の子供に転生した女子高生。絶大なる魔力を魔王から引き継ぐが、悪魔が怖くて悪魔との契約に失敗してしまう。  悪魔との契約は、絶大なる特殊能力を手に入れる大事な儀式である。その悪魔との契約に失敗した主人公ルシスは、天使様にみそめられて、7大天使様と契約することになる。  しかし、魔王が天使と契約するには、大きな犠牲が伴うのであった。それは、5年間魔力を失うのであった。  魔力を失ったルシスは、レベル1の村人にもタコ殴りされるくらいに弱くなり、魔界の魔王書庫に幽閉される。  魔王書庫にてルシスは、秘密裏に7大天使様の力を借りて、壮絶な特訓を受けて、魔力を取り戻した時のために力を蓄えていた。  しかし、10歳の誕生日を迎えて、絶大なる魔力を取り戻す前日に、ルシスは魔界から追放されてしまうのであった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】 オレは前世の記憶を思い出した。 あの世で、ダメじゃん。 でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。 まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。 ときどき神様の依頼があったり。 わけのわからん敵が出てきたりする。 たまには人間を蹂躙したりもする。? まあいいか。

【第2部完結】勇者参上!!~究極奥義を取得した俺は来た技全部跳ね返す!究極術式?十字剣?最強魔王?全部まとめてかかってこいや!!~

Bonzaebon
ファンタジー
『ヤツは泥だらけになっても、傷だらけになろうとも立ち上がる。』  元居た流派の宗家に命を狙われ、激戦の末、究極奥義を完成させ、大武会を制した勇者ロア。彼は強敵達との戦いを経て名実ともに強くなった。  「今度は……みんなに恩返しをしていく番だ!」  仲間がいてくれたから成長できた。だからこそ、仲間のみんなの力になりたい。そう思った彼は旅を続ける。俺だけじゃない、みんなもそれぞれ問題を抱えている。勇者ならそれを手助けしなきゃいけない。 『それはいつか、あなたの勇気に火を灯す……。』

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

処理中です...