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二章英雄の意思を我が剣に

神隠しの被害者

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リザードマン達の渋谷大暴れ事件から3日が経った。渋谷は今も修復工事中だ。元通りになるまで1ヶ月はかかるらしい。

 次の日には身体も完全に癒えた僕は学校に行ったが、待っていたのは女子達からの質問攻めだった。その質問とは僕が後回しにしていたシトラとの関係の話である。

 でも亮一の登場で何とか穏便に済ませる事が出来た。亮一には本当に感謝してもしきれない。

 そして次の問題は僕のステータスカードについてだ。僕の前世らしい英雄シグルさんに身体を貸した際シグルさんはキングリザードを倒したのだが、その経験値が何故か僕のステータスカードに入っており、レベルが10一気に上がってしまった。

 そして、ステータス値がこのように爆上がりしてしまった。

オノヤマアユム:レベル25

攻撃力:105
守備力:109
素早さ:98
体力:110
魔力:86
幸運:65

 攻撃力と守備力と体力がついに3桁を超えた。これはとても嬉しかった。幸運の低さにはいつも頭を悩まされるが。

「何かズルしたみたいで嫌だな・・・」

 レベル自体が上がったのは嬉しい。しかしズルをした感じがして素直には喜べなかった。レベルというのは自分の力で魔物を倒して上げるもの。なのに僕は自分で倒してもいない魔物の経験値をもらってしまった。

 果たしてこれは許される事なのか?

「歩~、入るよ」

 ノックをしっかりとしてシトラが入ってくる。少し抜けている所があるが、礼儀はしっかりしている。それがシトラという少女だ。

「あれ?ステータスカードなんか実体化させてどうしたの?」

「丁度良かった。シトラ僕のレベル見てくれ」

「どれどれ・・・」

 彼女に僕のカードを渡して見てもらう。ステータスカードの値を見たシトラは静かに驚いた。

「この前の戦いで10もレベルが上がったの!?」

「うん、そうなんだ」

「良かったじゃん!こんだけレベルが上がればプリンス級と互角以上に戦えるよ!まあ、幸運がちょっと低い気がするけど」

「痛い所突かないでよ。自分でも自覚しているんだから」

「ふーん・・・」

 シトラは僕をじっと見つめる。何か顔に付いているのか?そんなに顔を見つめられると顔が嫌でも熱くなってしまう。

「ねえ、何でそんな浮かない顔してるの?」

「え、そんな顔してないよ」

「いいえ、してるわ!」

 本当?と疑いスマホの真っ暗な画面で表情を確かめる。確かに僕の顔はとても明るいとは言いがたい表情をしていた。

「ホントだ・・・」

「で、何でそんな暗い顔してるの?理由は何か自分では分かっているんでしょう?」

「・・・うん。実は───」

 彼女に悩んでいた事を全て話す。話終わると彼女は少し目を閉じて考えて、口を開いた。

「別にそんなに気にする事ないと思うわ。多分だけど英雄シグルからのプレゼントよ」

「プレゼント・・・?」

「そう、プレゼント。貴方に早く強くなって貰いたいって思っているのだと思う」

 プレゼント、と言えば聞こえが良いがそれでもズルをした感じは拭えきれない。

「第一歩は強くなる為にステータスカードの所有者になったわけじゃないだろ?人を守る為にステータスカードを手に取ったんだろ?」

「うん・・・」

「なら良いじゃないか!人を守る力を英雄シグルに貰ったんだから!」

「!!───」

 頭の中で何かが崩れる。そうだ僕は強くなる為に守るんじゃない。守る為に強くなるんだ。何故そんな大切な事を忘れていたのだろう。まったく自分が恥ずかしい。

「ありがとう、シトラ。お陰で大切な事を思い出せたよ!僕は英雄シグルから貰い受けたこの力を皆の為に振るう。決して恥じたりなんてしない!」

「うんうん!その調子その調子!───でさ、悩みを解決してくれた報酬といっちゃなんだけど・・・」

「うん、何でもするよ。まあ僕が出来る範疇ならばね」

「頭撫でてくれないかな・・・なんて!」

「うん、別に良いよ」

 彼女の望み通りに運河のようにきらびやかな金の髪をそっと撫でる。

「えっ!ちょ、待───」

 最初は恥ずかしそうに顔を赤らめていたが、次第に黙って嬉しそうに頭を撫でられていた。



 ラグドは自分が騎士団長として在籍するロマニア国から遥か東に存在するエルフの国へと訪れていた。

 馬車等の乗り物を経由して行ったら1週間程かかるが、導きの石を使ってしまえば一瞬である。

 エルフの国に着いたラグドとライムは寄り道する事なく白を基調とした美しい城の門の前へと来ると、1人のエルフの兵士が近付いてくる。

「すまないが観光なら控えて頂きたい。城内で問題が発生してな」

「その問題ってのは神隠しの事だろ?隠さずに教えてくれ」

「すまないが、素性を知らないアンタ達に教える事が出来ない」

 どうやら事は想像していたより深刻らしい。しかし、何としてでもエルフ王に会わなければ。

「王に伝えてくれないか?ラグドと名乗る者が王と話がしたいと」

「ラグド!?あ、貴方はまさか───失礼しました!すぐに確認を!!」

 兵士が門を開いて城の中へと入っていく。数分後、その兵士は肩で息をしながら帰ってきた。

「王からの許可が出ました!どうぞお通り下さい勇者ラグド!」

 先程の態度から打って変わって2人に敬語を使う兵士に敬意を払ってラグドとライムは城の中へと入っていった。

「ほぇー、エルフの城ってのはこんなに綺麗だったのか・・・」

 エルフの城は外見も勿論美しい。しかし外見だけでなく内面も肝を抜かす程美しい。謁見の間まで赤のカーペットが敷かれ、階段の手摺りには金の装飾が施されている。飾ってある人・・・いや、エルフの彫像達は躍動感があり、妙にリアルだ。

「触ったら怒られますかね?」

「止めておけ。エルフは綺麗好きだから汚されたらかなり怒るぞ」

「良かった触んなくて・・・」

 2階への階段を上り、謁見の間の前へと美しい白い鎧に身を固めたエルフの美青年が立っていた。この城の騎士団長のリズベルである。

「お待ちしておりました勇者ラグド殿。王がこの先でお待ちです」

「何度も言うが私は勇者ではなく、騎士団長だ。勇者はとっくの昔に止めたよ」

「失礼。では、ロマニア国騎士団長ラグド殿どうぞお入り下さい」

 リズベルが扉の前から退き、扉を開ける。扉先にあったのは城内よりも1段と美しい謁見の間だった。窓に貼られた女神や妖精が描かれたステンドグラスは外からの光を受け美しく輝き、柱は天然の巨大クリスタルが丸々1本使われている。その奥の金と赤の布で作られた王の座には1人の長い顎髭を生やした老人が座っていた。

 その老人こそがこのエルフの国を治めるエルフの王、ニコラスである。

「勇者ラグドよ。よくぞ来た」

「はい、お久しぶりです。ニコラス王」

「久しぶりだな勇者ラグド・・・という堅苦しい挨拶は止めにしないか?お前だって勇者って呼ばれるのやだろ?」

 難しい表情を浮かべていたニコラス王だが、いきなり人が変わったように口調が軽くなる。

「それもそうだな。友に敬語を使うなんてどうかしてる」

「儂も同感だ。いやータメ口使ったの何年振りかな!」

 ワハハ!と口を大きく開いて大笑いするラグドとニコラス。何も事情を知らないライムはぽかんと口を開けて身分関係なく肩を叩きあって2人を見る。

「あ、あの・・・ラグドさん。もしかしてニコラス王とお友達なんですか?」

「そうだ。彼は私と魔王討伐を行った仲間の1人、ニクルだ」

「ニクルってあの大魔術師の!?」

「いかにも!儂こそが若き天才魔術師と謳われたニクルだ!・・・まあ、今はただの老いぼれだがな!」

 ガハハ!と豪快に笑うニコラスに対してどうすれば良いのか分からないのでライムはとりあえず笑っておく。

「・・・で、此度はどのような件で来たのだラグド」

 古き友人との再会から一転してニコラスはラグドに訪問の理由を問い質す。

「エルフの国で神隠しが起きていると聞いてな、その真相を聞きにきた。それで、神隠しは本当なのか?」

 ニコラスは口で答えずに首だけこくりと傾げる。

「そうか・・・少し野暮な事聞くが、誰がいなくなったんだ」

「・・・儂のせがれである王子マクドスと騎士団長リズベルの妹のマーブル、そして大臣の娘のシトラの3人が現在行方不明だ」

「噂通り全員身分が高い人が失踪しているみたいですね」

「そのようだな」

 こそこそと聞こえないようにラグドに耳打ちをするライム。その時ニコラスの耳がピクピクと動いた。

 「ほう、やはりお前の国にも噂程度には流れていたか」

「聞こえていたんですか!?」

「舐めるでない!儂の耳は1km先の小石が地面を跳ねる音さえ聞き取るぞ!」

 つまりは超の付く地獄耳。ひそひそ話するだけ無駄なのだ。

「それでだ。その神隠しに会った者達の居場所に心当たりがあるのだが・・・」

「何!?何処だ!教えてくれ!」

「エデンだ」

「エデン・・・そうか!王子を含めた3人は消えた当時共に行動を取っていた。3人は運悪く転移が出来る場所へと辿り着き、そして───」

「エデンに飛ばされた」

 ニコラスは何という事だと嘆く。道理でどんなに探しても見つかんなかったんだと。

「ラグドお願いがある」

「分かってる。絶対に見つけ出して見せる」

 そう言うとラグドは背を向け、謁見の間を後にした。
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