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二章英雄の意思を我が剣に

魔力が満ちるその時まで

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「大丈夫なのか、そんな事して?大丈夫なのか・・・なら頼む」

 スマホと呼ばれる繋りの石と同じ効果があるカラクリで誰かと杉田さんは会話をする。

 しばらくすると、会話が終わったのか、耳からスマホを放し、バッグの中にしまう。

「誰と話していたんですか?」

「仲間とだ。どうやら全魔力を使ってキングリザードを爆破するらしい

「爆破・・・そうか、『エクスプロージョン』か!」

「何だその魔術は?」

「正確には魔術ではありません。とてもではありませんが魔術とは言えません。身体に秘められた全魔力を使って爆発を起こすだけです」

 それは魔術師が強敵と遭遇した際に奥の手として使う博打。その威力はヘタをしたら大魔術にも匹敵する威力だ。今この状況で使うのには持ってこいの策だ。

「成る程ね・・・・で、敵は倒せるのか?」

「それは分かりません。『エクスプロージョン』は魔力の大きさに依存するので」

 エクスプロージョンは確かに大魔術を超える事もある。しかしそれは熟練の魔術師が使用した場合だ。歴の浅い魔術師が使ったら威力は保障出来ない。

「そこは運任せって事か・・・頼んだぞ緑さん」

 彼はそう言うと、銃を構えてキングリザードに狙いを定める。

「あの、何をやって・・・」

「決まってんだろ?雑魚処理さ。まだリザードマンは残ってる。アイツラが戦いやすいようにしなきゃな!」

 強敵に無力に等しい弓兵でもやれる事はある。良く師匠が言ってたな。昔はあんまりその言葉を信じていなかったけど、今は信じなければならない時のようだ。

「ええ、そうですね。やりましょう!」

 彼の意見に同意し、アタシは弓を構えた。



「カッッッッタ!!」

 動けなくする為に足を狙ったが、あまりの鱗の硬さに斬ったはずの自分にダメージが入る。これはリザードマンとは別次元の化け物だ。

「Gaaaa!」

「しまっ──!」

 気づいた時には手遅れだった。キングリザードの巨大な手が僕を建物へと吹き飛ばす。

 建物の窓ガラスが割れ、皮膚を切り裂く。本来なら痛いはずだが、それよりも強い痛みのせいで気にする事が出来ない。

「歩!大丈夫か!?」

 駆けつけてきた亮一が僕の体を起こす。亮一も右腕を怪我していた。手がだらりと力が抜けている。骨が折れてしまっているようだ。

「待ってろ・・・すぐに治してやる・・・」

 回復魔術の心得はある。治療には少々時間がかかるが、再び刀を握る事は出来るだろう。

「何言ってんだ!まず自分を先に治療しろ!」

「僕の怪我よりも亮一の腕の怪我の方が深刻だ。良いから腕を出して」

 観念してくれたようで、素直に腕を差し出す。亮一の腕にそっと手を振れる。やはり、骨が折れている。

「慈悲深き我らが父よ、この者の傷を癒したまえ──『ヒール』」

 僕の手の平から発生した緑の光が亮一の腕を癒す。流血が止まり、骨が繋がる。

「・・・・・・」

 亮一は手を開いて閉じてを何回か繰り返し動くか確認すると腰に納めた刀を再び引き抜く。

「わりぃ、歩・・・」

 彼は僕に詫びると、疾風の如くその場から立ち去った。

「さて、どうしたものか・・・」

 実は言うともう魔力が残っていない。亮一の腕を治した際に全てを使いきってしまった。

 意識が遠退いていく。ダメだ。こんな所でくたばってはいけない・・・。

「まだだ・・・僕は・・・俺は・・・戦える!」

 力を振り絞り、立ち上がる。血が身体のいたる所なら吹き出す。だが、気にしている暇なんてない!

 今俺がやるべき事はあの化け物を・・・キングリザードを殺す事だ。

「俺はまだ戦える!!」



「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 まったくもって歯が立たない。折角傷を治してもらったのに、これではアイツに会わせる顔がない!

「うぉおおおおお!!」

 自分の体と心を奮い立たせ、化け物へと向かっていく。

「Gaaaaaaaaaaa!!」

 化け物は雄叫びを上げる。俺の身体はあっけなく吹き飛ばされ、建物に衝突する。

「がはっ───!!」

 建物に衝突した俺の身体はそのまま地面へに落ち、痛みで蹲りたてなくなる。

「亮一!!テメェ、よくも・・・死ねェ!!」

 弟を傷つけられ、怒りを露にした優人の渾身の居合いが決まる。しかし斬れたのは鱗だけで、肝心の肉は断てていなかった。

「くそ!」

「Grua!!」

 身体を傷つけられ怒った化け物は優人を鷲掴みにすると、握り潰し始める。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 岩をも簡単に粉砕するその手は脆弱な人間の身体の優人には耐える事が出来なかった。骨が音を立てて折れていく。

「やめろぉぉぉぉぉ!!」

 兄を助けたい思いで頭がいっぱいになった亮一は何も考えずに突っ込んでいく。

 キングリザードは残念ながらバカではない。何も考えずに突っ込んでくる人間の対処なんて朝メシ前というもの。

 ブン!とキングリザードの尻尾が突撃してくる亮一をはね飛ばす。巨大で頑丈なその鞭はたちまち亮一を戦闘不能にする。

「亮・・・一・・・」

 痛みに歯を食いしばって耐えていた優人だが、流石に骨を一気に数本折られた痛みには耐えきれず気絶した。

「Gru?」

 様子がおかしい事に気づいたのか、キングリザードは握っている優人を振り回して意識があるかを確認。気絶している事に気付くと、地面にポイッとゴミを捨てるように投げた。

「おい、キングリザード」

「Gruuu?」

 声が聞こえた方向を向いたその先にある光景に驚く。戦闘不能になるほどに懲らしめた人間が立っているのだ。

「不思議か?ノックアウトした人間が立っている事が」

「Gruuuu・・・」

 その男は笑っていた。つい先程キングリザードに吹き飛ばされて強さを身で体験したにも関わらず。まるで見下すような不敵な笑みを浮かべてた。

 それが癇に障ったのか、キングリザードの鼻息が荒くなる。

「こいよ蜥蜴。ドラゴンスレイヤーと恐れられたこの剣、見せてやる」



「ねえ、歩何か様子がおかしくない?」

「確かに。普段のアイツはあんなに敵をなめるような事はしないぞ」

 建物から出てきた歩の様子がおかしい。表情を見たらすぐに分かった。1度モロに攻撃を喰らっているのに笑っているのは明らかにおかしい。何処かに頭でも打ったのではないのだろうか?

「おい、始まったぞ」

 再び歩対キングリザードの対決が始まる。先程までの歩はキングリザードの攻撃を避けていたのに対し、今の歩は剣で全て攻撃を受け止めていた。更にはさっきまでは傷つける事すら出来なかったキングリザードの身体に傷を負わせる事に成功する。


「やっぱり何かおかしいぞ!歩の奴大丈夫か?」

「確かにおかしいですけど。このままいけば勝てる・・・かも・・・?」

「マジ!?」

 歩のレベルはサーチで見たから知っている。到底キングリザードにはかなわない力量だ。でも今なら・・・キングリザードと互角に戦っている今なら勝てるのではないか・・・?

「なあ、シトラちゃん・・・驚かないで聞いてくれ」

「はい、何ですか?」

 杉田さんの顔を見るとその顔は蒼白していた。まるで化け物を見たかのように。

「歩をサーチで見てみたんだが・・・違かった」

「何が違かったんですか?」

「全部だ。ステータス値もスキルのレベルも・・・そして、名前までも」

「え・・・?」

 慌てて歩に向けてサーチを発動する。そしてその情報に目を疑った。サーチに異常が発生したのか?それともアタシの頭がおかしくなってしまったのか?とにかく歩の情報のはずが別の者の情報が表示されていた。

名前:シグル レベル99

筋力:588
守備力:699
素早さ:572
魔力:460
幸運:300

「何で英雄シグルのステータス値が乗ってるのよ・・・」
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