上 下
39 / 219
二章英雄の意思を我が剣に

キング級

しおりを挟む
「やっと底が見えてきた」

 戦闘開始から4時間。溢れかえっていたリザードマン達は残り50体程になった。

「それもシトラが狙撃で数を減らしてくれたお陰」

「あと杉田さんもね」

どうやらシトラと杉田さんは一緒に狙撃をしているようで、シトラの矢がリザードマンを射ればその近くで杉田さんの銃弾が額を撃ち抜いていた。

「歩!そっちの方はまだ残ってるか?」

 亮一がこちらに向かって走ってくる。まだ戦い足りないらしく、その瞳はまだ闘志に燃えている。

「まだ20体ぐらいは残ってるな。僕も体力が限界だから手伝ってくれない?」

「勿論だとも!それにしても血生臭いな。こりゃ渋谷が元通りになるのは時間がかかりそうだな」

「そうだね・・・」

 建物は破壊され、アスファルトの地面にはリザードマンの死体が転がっている。魔物退治自体は命の危険はあるが、難しい仕事ではない。問題は退治したあとの後処理にある。

 特に渋谷は日本の首都の中でも発展している地域だ。元通りにするには時間と莫大な費用がかかるだろう。

「それにしても、こんなに大量の魔物が現れたのに頭目はいないのか?ビッグサイズのリザードマンとかさ」

「確かに。このぐらい仲間を殺されれば出てきてもおかしくはないと思うんだけどな」

「あれじゃないの?」

 と言って葵は北を指差す。僕と亮一はその方向に目線を向ける。そこにいたのは硬そうな鱗を持ち、およそ人が装備出来るとは思えない大剣を片手で振るう巨大なリザードマン・・・いや、巨大な2足立ちをする竜がいた。

「Graaaaaaaaaaa!!」

「デカ過ぎるだろぉぉぉぉぉ!!」



「やっぱり、リーダーはあいつだったのか・・・」

 異常な程のリザードマンの数から何となくは予想していたが、いざ現れるとなると鳥肌が立つほど恐ろしい。あんな怪物が何故エデンに現れたのだろうか?

「シトラちゃん、何か知ってるみたいだけどもし良ければ教えてくんね?あのデッカイリザードマンの事」

「あれはリザードマンがキング級まで進化したキングリザードと呼ばれる魔物です」

「そのキング級っていうのは、魔物のランクみたいなものかい?」

「はい。魔物は大きく分けて4つのランクに分けられます。まず、ゴブリンやリザードマン等の雑魚モンスターが属するソルジャー級。それなりの力か智恵を持ったモンスターをナイト級。オーガなどの歴戦の戦士でも苦戦を強いられるモンスターをプリンス級。腕の立つ戦士が束になってやっと倒す事が出来るモンスターをキング級と分けています」

「つまりはあのキングリザードっていうのは相当腕の立つ奴が複数いなければ勝てないのか?」

「はい・・・」

「参ったな・・・」

 ここで戦っている人達は確かに腕が立つが、それでもまだキング級を倒すまでの実力を持っていない。

 キングリザードを倒せる確率はゼロに等しいだろう。今戦っている人達で1番レベルの高いのはアタシだが、アタシはただの弓兵。強敵に大ダメージを負わせる事は難しい。キング級に傷を負わせる事が出来る者がいるとしても歴史に名を乗せる程の英雄しかいない。

 つまりこのままだと全員がここで全滅し、エデンの極東は終焉を迎える。

「歩・・・」

 

「Graaaaaaaaaaa!!」

 巨大なリザードマンの咆哮が建物の窓を割る。気を抜けば転んでしまう程の威力だ。この時点で僕らが今まで戦ってきた魔物とは比べ物にならない程の強さだというのが分かる。

「歩、どうする?」

「やるしかないでしょ・・・」

 きっと今の僕らでは束になって戦いを挑んだとしてもやつの足には及ばないだろう。

「何か作戦は・・・?」

「無い」

「ならやっても意味ねぇだろ!」

「でもやらなきゃ」

 こんな相手に作戦を練ったところで実行する前に潰されるのがオチだ。それならば何の考えもなしに突っ込んで少しでも良いから傷をつければいい。

「私、良いの思い付いたよ」

「良いのって何だ葵?」

 背筋をピンと伸ばして手を上げたのは葵。何やら勝算があるらしい。

「今ある魔力を全部使って爆発を起こす」

「そんな事が出来るのか!?」

「難しいけど、出来る。でも私のだけじゃ足りないからお姉ちゃんと一緒にやる」

「優人さん、緑さんは?」

「確か何処かのビルの屋上にいたはずだから今呼ぼう!」

 雑嚢からスマホを取り出すと、緑さんに電話をかける。

「繋がった!もしもし、優人だけど!」

『何優人君、今私全魔力使ってアイツを爆破しようとしてるんだけど?」

 この姉妹は考えがよく似るようだ。仲の良い証拠だ。

「だったらこっちに来て妹さんと一緒にやってくれ!そっちの方が良いんだろ?」

『葵はまだ魔力が残っているの?』

 2人の会話を聞いていた葵が優人に向かってサムズアップをする。つまり残っているという事だ。

「残ってるらしい」

『オッケー。ならすぐにそっちにいくわ』

 通話が終了し、優人さんは雑嚢にスマホを戻す。

「葵ちゃん、すぐにこっちに来るらしいから今のうちに準備をしておいて」

「ラジャー」

 承諾すると杖を地面に刺し、目を閉じ詠唱を始める。

「我が身体に秘められし、全ての魔力を魔石に込める。魔石よ、満ちろ!」

 杖に埋めこまれた赤い宝石に葵の魔力が注ぎ込まれていく。僅かにだが杖に埋めこまれた赤い宝石が輝き始める。

「さて、と。葵が頑張ってる事だし、俺らももう1踏ん張りしますか!」

「だね!」

「だな!」

 僕を含めた亮一、優人さんの3人が剣を引き抜き、巨大なリザードマンに宣戦布告する。

「「「かかってこい!化け物!!」」」

「「俺達が!」」「僕達が!!」

「「「相手だ!!」」」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

子連れの元悪役令嬢ですが、自分を捨てた王太子への復讐のために魔獣討伐師を目指します!

アンジェロ岩井
ファンタジー
魔法学園のパーティーに来賓で訪れた王太子妃にして公爵令嬢のアイリーン・カンタベルトは突然、自身の夫であり国の王太子であるルシア・ソーインツベルに離婚を突き付けられた上に『稀代の悪女』のレッテルを貼られ、処刑されそうになってしまう。 あまりにも理不尽な仕打ちに、彼女は最愛の娘と共に彼らの元を離れ、国の中に巣食う魔物を狩る魔獣討伐師、またの名を魔物狩人として生きながらえる事を決意した。 これは、そんなアイリーンが娘のシャルロッテと共に魔物狩人としての仕事をこなしながら、各地を回り『聖女』の地位と自らの信用を取り返すまでの物語。 ーー 更新頻度は多めの予定です。

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

さようなら、私の初恋。あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)
ファンタジー
『人殺しでも、幸せになれるのか』  魔王軍に立ち向かうために、人々が『勇者』となって旅立つ時代。そんな中で、刀のみを携えた白い髪の少年が一人。  少年の名は『白(しろ)』。白も人々と同じように『勇者』となって旅に出るただの少年だった。しかし、勇者となって数日、白は王様に突如死刑を言い渡されてしまう!  白はたまらず王城から逃げ出したが、今度は白を育ててくれたジャンおじさんが人質に! 途方に暮れる中、白はどこからどう見ても美少女な金髪の魔法使い、サナと出会い……?  信じられるのは、携えた刀と己が仲間のみ! 刀一本で魔法世界を駆け抜けろ!  忍び寄る運命、そして白に絡み付く『人殺し』の重罪。迫り来る数々の強敵を乗り越え、白は幸せを掴むことができるのか?!  和風なのか洋風なのか近代なのかよく分からない英雄譚、開幕ッ! *******  今後数年に渡って展開していく『Project:Wit』、その一つ目の物語、『もしも願いが叶うなら』は、ギャグ1.5割、シリアス……8.5割のバトルファンタジーです。(最近はSFしてたりもします)  後々オムニバス形式で繋がってくる他の物語とも、まあほんの少しぐらい接点はあります。  地の文よりセリフ多めです。おそらく多分絶対読みやすい文体なんじゃないかなと思います。  ですが「「一部グロ要素アリ」」  となっております。  不定期更新です、予めご了承ください。 *物語の感想とか来たらめちゃくちゃ喜びます、是非感想をお寄せください。 *本小説は、一人称切り替え視点というかなり特殊な視点を取っています。諸事情によりたまに三人称にもなります。つまり視点が結構コロコロ変わります。 『*』が出てきたら視点(○人称)が変わり、『◆』で区切られている時は時間(時間軸)が、『◇』で区切られている時は場所が前の文から大きく(もしくはビミョーに)変わっていると言うことを念頭に置いて読み進めることをおすすめします。  最後まで読んだ人に、『面白かった!!!!』と言わせてみせる。そんな、きっと面白いであろう物語です。是非ご一読ください。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

処理中です...