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最終章 探究者と門番

14話 恵庭の格闘家

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「おぇ・・・また気持ち悪い」

「まあ、結構揺れたしね。でも、おかげで何とか着いたみたいだね」

 まあ、案の定というべきなのかな?恵庭市もしっかりと荒らされていた。

 綺麗に咲いていたであろう花は潰されて、花びらは、地面に散っている。

 恵庭市の観光スポットの花庭は、戦場か?と疑いたくなるくらい荒らされていた。これじゃあ、作った人が報われなさすぎる。

「酷いですね・・・きっと、破壊したのは、自然の美しさを理解していない常識知らずとみました」

「魔物に人間の常識を押し付けても無駄でしょ。それに、多分、改造された魔物だろうし」

 今いる恵庭市には、遺体が存在する。その遺体を守る為、末を見る者の改造を施された魔物が存在するはずだ。

「シャープ!あそこ見て!人が倒れてる!」

 リリックが指差した先には、警官がうつ伏せになって倒れていた。流血はしていないが、起き上がる様子が無い。打撃による死亡と見ていいだろう。

「でも、頭を殴られた痕跡はないな・・・胴体に喰らって死んでしまったのかな?・・・ちょっと失礼」

 仰向けにして、腹部を確認。触ってみた感じ、まだ死んでから時間は経っていないらしい。腹部には、明らかにおかしい凹みが出来ていた。大きな岩が腹に激突したみたいだ。

「さぁてと、死体がまだ温かいって事は、まだ近くにいるって事だよね。少し辺りを散策してみよっか・・・」

「だ、誰か助けてくれぇぇぇぇぇ!!」

 捜索に乗り出したその時、助けを懇願する、男の声が聞こえてきた。声の大きさからして、そう遠い場所にはいない。花庭にはいるだろう。

「左側聞こえてきた。早く行くよ!」

 ドワーフ自慢の地獄耳で方角を特定したモネは、僕達の先頭に立って、走り始める。それを追いかけているうちに、嗅覚が、血生臭さと獣臭さを感知した。もしかしたら、既に手遅れかもしれない・・・。

「あっ!来た!門番?門番なのか?頼む!助けてくれ!!」

 俺達が向かっている方向から走ってきたのは、1人の警官。声からして、先程助けを求める悲鳴をあげた警官で間違いないだろう。

「落ち着いて下サイ。一体何があったんですか?それにその血は────」

「そんな事はどうでも良い!早く俺をあの怪物から助けてくれ!他の警官仲間は既に殺された!は一度定めた獲物を決して逃がさない!だから、次に狙われるのはおr────」

 警官の助けを求める声は、途中で途切れてしまった。物理的な方法を用いて。僕の目の前で。

 僕らに助けを求めていた警官の姿はもうない。目の前にあるのは、巨大な拳と、拳に潰された赤い肉塊。肉塊から血が噴射し、体に付着する。今、目の前にある肉塊と、飛び散った血は、つい数秒前まで会話をしていた警官。僕達に助けを求めていた警官。

 彼のいきなりの死を受け入れるのは、そう難しい事ではなかった。それ以上に気にしなければならない事が目の前で起きているからだろう。目の前で起きた警官の急死を恐らく1秒で受け入れた僕は、後ろに後退し、ハルバードを構えた。

 僕だけじゃない他の3人も個人差はあったが、目の前の死を受け入れて、臨戦態勢を取った。

 警官を一撃で肉塊にした拳は、血を滴らせながら拳を引き抜く。拳を目で追っていくと、見えたのは、体長3m以上の巨大なウサギ・・・熊のような厳つい体つきと顔つきをした白い獣が立っていた。

 白い獣は、拳に付着した血を舌でペロリと一回舐めると、まずかったのか、唾と共に吐き出し、僕らを睨みつける。

「格闘ラビット・・・ですかね?あまりにもショッキングな光景だったので、一瞬思考が停止してしまいました」

 シュエリさんが口にした魔物の名前を僕も知っている。主に気温が低い場所にする巨大なウサギの魔物で、同族だろうが、人間だろうが、タイマンでの勝負を望むという珍しい習性を持つ魔物だったっけ。

 挿絵ありの図鑑で学んだので、姿も知っているが確かに今目の前にいる白い獣ととてもよく似ている。けど、習性と全く合っていない。格闘ラビットのタイマンは、あくまで、縄張り争いの手段。けちょんけちょんにする事はあっても、肉塊にするまで殺す事はない。

「これも、末を見る者の改造の結果なのかな?」

「身体的能力だけでなく、性格や習性まで変えちまうのかよ・・・やべぇな、末を見る者」

「身体と習性を変えたら、それは全く別の生き物では?」

「世界を融合をしなくても、十分に滅ぼすべき存在かもしれないね。末を見る者」

 簡単か難しいかはおいてといて、別の生物を作り出すだけでなく、それを野に放つ末を見る者は、世界融合という蛮行をしなくても、同盟騎士団に滅ぼされていただろう。

「Pyooooooooooo!!!」

「しかも、やる気満々みたいだね。どうする?」

 リリックが言ったどうする?は、戦いの意思表示を現しているのではなく、誰が、先制攻撃をするかを聞く確認行動である。まあ、こんな事聞かなくても、先制攻撃するのは決まっているのだが。

「勿論!アタシだろ!!」

 自慢のモーニングスターを手に取り、格闘ラビットにとびかかり、脳天目掛けて振り下ろす。モネの全力がこもった一撃だったが、片手で防がれてしまう。

 武器を掴まれてしまったモネは、投げ飛ばされ、後方へと吹き飛んでいった。

「何をやっているんですか。おチビ様は」

「岩も砕いちゃうモネの一撃すら手で止めちゃうのか・・・戦う相手としては最高だね・・・」

「どうする?凍らせる?」

「それとも、燃やしちゃいましょうか?」

「いや、そのまま魔術を使っても、多分避けられちゃうと思う」

 魔術は当たらなければ、ただの災害に成り下がる。魔術を50か100でしか出せないリリックは特にその傾向がある。だから、ここは────。

「本来の習性に従って、タイマンでも張ろうよ!!」

「ちょっと、じゃあ、アタシはどうするわけ?」

1!!」

「もう1匹・・・?」

 シャープ達が向かおうとしていた方向。警官達が格闘ラビットと戦っていた場所から、赤色の巨体が現れる。元から赤いのではなく、赤に染まってしまったようだ。赤色の元は、恐らく血液。そんな猟奇的な色に染まった巨体の正体は────

「Pyooooooooooooooooooooooooooo!!!」

「もう1匹いた・・・!!」

 別個体の改造格闘ラビットだ。
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