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4章 最終防衛戦門

21話 高層ビルで優雅にワイン飲んでるマヌケ達

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「まず、最初のターゲットは田西宝石の社長から!」

「田西宝石って世界にも進出してる有名な宝石ブランドじゃない!そんな奴が『末を見る者』なの!?」

「うん、びっくりだよね~。オレも最初はびっくりした。でも、リオにいる『末を見る者』のほとんどが富豪だったり、人生勝ち組だったよ」

 主任の車に乗りながら、説明を聞く2人。どうやら、リオにいる末を見る者は、町にゴーレムや魔物を放っている張本人らしい。

「あんなに大量のゴーレムを放てたのも財力が途方もなくあったからなのか・・・」

「いつの時代も金持ち敵に回したら大変な事になるって事だね~。因みに、全員ザナ人じゃないよ」

「リオにまで変な思想が広がってたのか。これ下手したら、永遠に続くんじゃ無いの?」

 思想は生まれたら最後、人類が滅亡するまで潰える事はない。いや、寧ろ人類が滅亡しても残ってる可能性だってある。

 近代において、様々な事が自由になった代償ともいえよう。

「ていうか、何で俺らなんです?今日当番の俺らをわざわざ引っ張り出してくる意味ありました?」

「下手したら、主任だけでも対処できそう。まあ、私は殺したいから構わないけど」

「そこまで簡単じゃないからさ。中途半端な実力者じゃ、足手纏いになるだけ。だから、中途半端じゃない実力者である君達を選んだ。理由はこれで十分じゃないかな~?」

 しっかりと答えてもらうと、何だか、とても恥ずかしい気分になるのは、大人になって褒めてもらうのに耐性が減ってしまったからだろう。

 車は順調に進んでいき、あっという間に銀座の一等地マンション〈銀座タワー〉までやってきた。

「銀座なんて何年振りだろ・・・」

「私はJDの時友達と遊びに行ったっきりだわ。てか、異門町から出たのも久しぶりだし」

「そうそう!マンションの付近でうろちょろしてる、人達なんだけどさ、全員私服警官だから!」

 用意周到だな。

 説明すると早速、私服警官が近づいてきて主任に耳打ちする。

「ふむふむ・・・成る程」

「主任?何かあったんですか?」

「ん?ああ、俺らに監視されてるのに気づかれたらしいよ。マンションにいる対象」

 さらっと伝えられる非常事態。主任、何であんたはそこまで冷静でいられるんだ?もしかしたら、逃げられるかもしれないんだぞ?

 いや、逃げられるだけならまだ良い。特定されたという情報がリオにいる『末を見る者』の組員の中で広まったら、全ての逃亡を許してしまう危険性もあるというのに。

「大丈夫!既に対象のスマホやSNSとかの連絡手段は、ハッキングで断ってあるから!」

「おおー用意周到!・・・待って、それでばれたんじゃね?」

「そういう事♡それじゃあ、今度は物理的に逃げられないように、さっさと殺し───捕まえましょうか」

 今、殺すって言いそうになってなかったか?やっぱり特定するまでのこの2週間、殺意が湧くまでストレスが溜まっていたことが分かる。

「バカなターゲットは最上階にいるから。さっさと捕まえて次の現場に行こうかー」

 スキップをせずに、普通に歩いている所から分かる。今回の主任、本気だ。

 怒っているからユーモアが消えているわけではない。今回の件を重く捉えているが故の真面目モードなのか。

 エレベーターで最上階まで登ろうとしたが、案の定、停止させられていた。何とも面倒な悪足掻きだ。

 主任も同じ思いのようで、小さく舌打ちをすると、スマホを取り出し、誰かに電話をかけ始める。

「あ、もしもし?オレです。オレオレ。なんか、エレベーターが使えなくなってるので、ハッキングして使えるようにしてください。はい、よろしくお願いしまーす」

 ハッカーチームも待機させていたようで、動かなくなったエレベーターがものの1分で起動し、扉が開いた。

「それじゃあ、最上階までいこうか~♪」

 流石は高級マンションといったところか。上昇する時に体にかかる負荷がほとんどない。いつかこんな良いマンションに住んでみたいものだ。

「ま、一軒家買ってるからそんな機会もう無いと思うけど」

「何言ってんの?」

「よし!着いた~それじゃ行きましょうか~」

 最上階に到着したエレベーターは、重々しい鉄の扉を開く。待ち構えていたのは、石で体が作られたゴーレム。

 オーソドックスなゴーレム、久しくみていなかったので、ちょっぴり感動している自分がいる。

 勿論、狙いは俺達。石の拳を振り上げてきたので、俺は番えていた矢を、ゴーレムの胸、核がある所に向かって放った。

「「ナイスショット」」

「ありがと。ほら、次来るよ。やっちゃってバーサーカー」

「誰がバーサーカーだって!?」

鳩山おまえだよ。はよさっさと打ち砕け」

 ゴーレムは一体だけでは終わらない。奥の部屋からゾロゾロと出てくる。しかし、マンションの廊下ということもあってか、あまり大きくはない。せいぜい190cmくらいの大きさだ。

 小さいという事は、それに応じて核を守る胸部の岩も薄いという事。

 両手に斧を握った鳩山は、煎餅を手で割るように、ゴーレムの胸部を核ごと破壊。奥の部屋までいたおよそ20体のゴーレムを一息で停止させてしまった。

「やっぱり2人を連れてきてよかったよ~。それじゃあ、入りましょっか~」

 当然鍵がかかっていたので、蹴破って対象の部屋に侵入する。

 中に入ったが、生活音も無ければ、呼吸音を聞こえてこない。もしかして、既に逃げられた?

「ゴーレムが動いてたし、まだ近くにいると思うんだよね~。あのゴーレムどうみても自律式じゃなかったし~」

 ゴーレムにも2種類存在しており、魔力のバッテリーがあるタイプと、魔力を流し続ける事で動くタイプがある。

 バッテリータイプは、コストが高い。どのくらい高いかと言うと、後者の3倍くらいのコストがかかる。

 そして、今異門町で暴れているゴーレムは全てバッテリータイプだ。一体につき、500万はかかっているだろう。

 そんな高級品が毎日何十体も壊されたらどうなるだろう?勿論金欠になる。

 対象は宝石の会社を営んでいるが、資金は無限ではない。何処かで節約をしているはず。

 そして、その節約された部分が自分を守る最終防衛ラインのマンションだった。

 見た目だけでは、バッテリータイプか、アダプターか見分けが付かないが、魔力の流れで判別することができる。

 里見と鳩山が倒したゴーレムの背中から魔力の流れを感じた。つまり、まだ部屋の中にいるということ。しかし、肝心の流れは、対象の部屋まで続いていたが、既に見えなくなってしまった。

「ま、隠れてるんだろうね。例えば・・・ここの壁とかにさっ!!」

 剣を抜き、壁に剣を刺す。すると、刺した壁から赤い液体が溢れ出てきた。

「わーお。大当たり」

 まさかの一撃である。これには、鳩山と里見だけでなく、主任もちょっと驚いていた。

「・・・過失だよね?」

 殺人罪に少し怯える主任であった。
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