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4章 最終防衛戦門

13話 晩御飯何にする?

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「・・・あれ?俺どのくらい寝てた?」

「大体5時間ぐらい!どう?疲れは取れた?」

 窓から外を見ると、夕日が沈みかけている。壁の時計を見ると、針が6時を指している。

「ちょっとまだだるいけど、さっきよりかは遥かにマシだね。待ってて今からご飯作るから────」

「ダメ!!」「駄目です!」

 立ち上がろうとする翡翠を止めるリリックとシュエリ。病み上がりの翡翠を働かせたくないようだ。

「わたしが作るから!」「私が作りますので!」

 自分達にまかせて、寝ていてくれと言いたいらしい。しかし、翡翠は全然安心してはくれなかった。

「お湯の沸かし方は分かる?」

「カチャッてすれば良いんだよね!」「炎の魔術は一応使えます」

「包丁の使ってる時、包丁を握っていない手は?」

「ぶらんとしておく!」「強化魔術で傷つかないようにします」

「・・・作った事ないね?」

「「無いです」」

 リリックとシュエリは本物の王女様。料理なんてやった事は無い。特に、リリックと一緒に住んでいる翡翠は、彼女の料理下手を理解していた。

「じゃあ、座ってドラマか映画でも見てて。ちゃちゃっと作っちゃうから」

「はーい・・・」「お役に立てず申し訳ございません」

「気にしないでください。元から俺の仕事なんで」

 冷蔵庫を開けて、食材チェック。残念な事に全く食材が入っていない。ザナに行くからと言って無駄に買うのを止めておいたんだっけ。

「残ってるのはピーマンと、玉ねぎ・・・しょぼいな」

 買いに行くか?いや、そんな体力ない。リリにおつかいを頼みに行くのもありだと思ったが、今狙われているのに、単独行動をとらせるのはよろしくない。

 仕方ないので、残った食材で作るとしよう、肉があったら、野菜炒めを作れるんだけど、肉は無い。ザナに行く前に食いきってしまったんだっけ?

 主食に出来るのは米と、パスタ・・・パスタ?そうだペペロンチーノにしよう。

「簡単な物でも良い?」

「ヒスイの作る物なら!」「ヒスイ様にお任せします」

 そうと決まれば、ペペロンチーノを作ろう。ピーマンと玉ねぎを切る。

「とても速い包丁捌きですね。雇っているシェフを彷彿とさせます」

「ほんとそれ。プロ顔負けだよね」

「照れるし、危ないから離れてね」

 フライパンに油を垂らして、加熱。同時に、鍋に水を入れて、加熱する。

 温まったところで、刻んだ玉ねぎとピーマンを炒める。焦がさないように弱火で炒めていく。

「そういえば、モネさんは?」

「自分の部屋で寝てる!」「まあ、あの方も随分とお疲れのようでしたし・・・」

 シュエリさんの労いの言葉。本人の前でかけてあげていたら、少しは喧嘩する事が無くなるだろうか?

「そういえば、ヒスイ様はハーフドワーフのあの方と一緒にいても何の嫌悪感も抱かないのですね?」

「人間の父さんの血が強かったか、育った環境かもしれませんね」

 詳しい原因は自分自身も分かっていない。けど、悪い事ではないので、理由なんて分からなくてもいいだろう。

「ヒスイ、沸いてるよ」

「おけおけ」

 鍋の水が沸騰したのを確認したら、パスタ麺を4人前投入。丁度良い柔らかさまで茹で終え、玉ねぎとピーマンを炒めていたフライパンの中に投入。

「後は作り置きのペペロンソースをかけて和えれば・・・はい完成!」

「流石翡翠!用意周到ね!」「とても美味しそうな匂いですね。ペペロンチーノという食べ物は。はしたないですが、早く食べてみたいです」

 既に2人は食べる気満々。起きたばかりで食欲が無かった俺も食欲がわいてきた。

「ふわぁ・・・ごはん?」

「あ、モネさんナイスタイミング。ペペロンチーノできたよ」

 起きたばかりのぼさぼさの髪の毛で、壁に空いた穴から姿を現すモネさん。モネさんとシュエリさんとの間の空気が一瞬ぴりついたが、今日は既に2度も喧嘩をしているせいか、もう喧嘩をする気はない模様。

「違ぇよ、バカ。お前の家だから喧嘩しねぇんだよ。命拾いしたな、ヒッキー」

「その言葉、そっくりそのままお返ししますよチビ様」

 どうやら、互いに呼び合うあだ名が決まったらしい。事情とエルフとドワーフの関係を知らない人から見たら、ただの仲良しに見える事間違いなし。

 まあ、エルフとドワーフの仲が悪い事なんて、小学5年生の社会で習う常識なので、知らない人なんてほとんどいないのだが。

 牽制ともとれる、言葉を交わしたのちに、ちゃぶ台を4人で囲うように座り、手を合わせて食前の挨拶の後、フォークを手に取った。

「もしかして、リオのこの国のルールも予習済み?」

「はい。興味深かったので、ついでに覚えました。食材・料理に感謝する文化・・・この国の人達は礼儀正しいのですね」

「ザナみたいに魔物に囲まれた生活してないからな。心に余裕があったんだろうよ」

「ザナ程じゃないけど、リオもそこそこ大変だった時はあったんだよ?戦争とか」

 ザナでは、国同士の喧嘩・・・つまり戦争はあまり起きない。故に、戦争になれておらず、魔族との戦争が1000年も続いてしまったという説も存在する程だ。

 フォークを巧みに使い、パスタ麺を巻き、口に運び、咀嚼する。かなり雑に作った節はあるが、美味しくできていて何よりだ。

 辛さはもう少し強めした方が良いかな?ペペロンチーノと呼ぶには些か刺激が足りないような気がする。あまり辛くしすぎると、リリが食べられなくなるので、調整がとても面倒なのがポイント。 

「美味しい・・・!!こんなに美味しい食べ物が、リオの一般家庭では食べられているのですか!!まだ、リオといいう世界を1%も味わっていませんが、満足している自分がいます・・・」

「そんな?」

「うんうん!分かるよ!すっごい分かる!わたしだって、休日は出かけずにずっと、家でダラダラしてるし!」

「それは、リリが面倒くさがってるだけでしょ」

 毒にも薬にもならない。けれども、楽しい会話を続けながら、その日の夕食は幕を閉じた。
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