100 / 191
3章 異世界旅行録
27話 読書の時間
しおりを挟む
シュエリ王女の閉幕の言葉により、楽しかったパーティーは終了。モネさんとリリは特に満足しているようで、幸せそうに膨れたお腹をさすっている。
「お腹いっぱい食べるのは良い事だとは思うけど、少しはしたないぞ2人とも」
「今日ばかりは大丈夫だよ、ヒスイー」
「ナチュレの王女様だって、お腹いっぱいまで食べたみたいだし」
モネさんの指摘から、シュエリ王女の方を見ると、大して膨れてもいないお腹を幸せそうにさすっていた。流し目で俺の方を見ながら。
あれは確実に満腹という意味ではないが、これからの俺の命に関わるのでやめておこう。それと今のうちにシュエリ王女の誤解を解いておかなければ────
「って、いない!?もう帰っちゃったの!?」
王女は俺が目を離した隙に帰ってしまった。何としてでもリオに帰るまでにキスで子供ができるという話は逸話だと説明しなくては・・・というよりも、説明する前に俺は帰れるのだろうか?
そもそも、帰らせなかったらキスしようって事でキスしたわけだし、キスしてしまった以上、誤解を解かなければ俺はナチュレで本当に王族で暮らすことになってしまう・・・!
それだけは勘弁だ!俺は責任感のある仕事をするのは嫌いではないが、身の丈に合わない責任を負わされるのだけは嫌だ!
生徒会長に半ば無理矢理立候補させられた時も、緊張で応援スピーチから当選発表までの記憶が無かったし・・・(因みに翡翠が他の候補者に僅差で負け、第2希望の書記になった)。
まだ自分の背中に降りてくるか分からない責任に少し押しつぶされた翡翠は、その日の睡眠欲が全くもって失せてしまうのだった。
★
1時間前に城で開催されていたパーティー。町で行われていたどんちゃん騒ぎの宴。
永遠に続いてほしいと願われる最高の娯楽だが、人に体力という概念が存在する限り、永遠には続かない。
パーティーに参加した貴族や王達は客室で眠りにつき、宴で限界まで騒いだナチュレの民はベッドではなく、地面の上で泥酔している。
ほとんどの者が楽しさ故の疲労から眠りにつく中、翡翠は眠れないでいた。理由は簡単、シュエリの誤解が解けなかったら、自分の背中にかかる責任によるものである。
どんなに寝たくても、布団にくるまっても睡魔は襲ってはこない。初めてコーヒーを飲んでしまった子供のように目がギンギンだった。
「眠れんな・・・仕方ない」
スマホは充電できる回数が限られているから、なるべ使いたくはない。となると、残された暇つぶしの品は本だけになる。何冊か読んでいない漫画の新刊を持ってきたので、眠くなるまでの暇つぶしにはなりそうだ。
暗い特別客室の中、他の3人を起こさないようにバッグを手探りで見つけて、手探りでバッグの中に入っている本を探す。
見ないで探していると、漫画本ではない、薄くて大きな本で手に当たる。同人誌は電子で買うはずなので、持っていないはずなのだが・・・。
不思議に思った翡翠は、漫画ではなく、正体不明の薄い本を引き出す。本の裏表紙には、コーヒーをこぼしたような茶色いシミがついている。
翡翠はシミのついた薄い本の事を覚えていた。手元を照明魔術で明るくして、本の表紙の下らへんに書かれた名前を見る。
書かれた名前は『森山焼太』。俺が数日前に主任からもらった父さんの日記だった。
「そういえば、結局今まで1ページも読んでいなかったな・・・読むか」
眠くなるまで、まだ全然余裕がある。漫画本は後回しにして、日記を読むことにした。
父さんが残した日記。一体何が書いているのだろうか・・・俺の事が書いてあったら嬉しいな。
『20×4年6月12日。
先月、魔物との激しい戦いの末に亡くなってしまった主任の松野さん。彼が、俺によく奨めてきていた、良い事があったら、日記に書くというのを趣味にしていこうと思う。まず、今日はいとこから最高のニュースを聞いた。俺の事を散々低学歴だと罵っていた親戚のガキが志望校の受験に落ちたらしい。5教科ばかり勉強して、魔術を勉強しないからだ。当然の報いだろう』
しょっぱなからかなり尖った内容。まあ、森山家の人間がクソなのは知っているので、父さんの口の悪さには納得がいく。
最初の文から察するに、良い事だけを書いた日記のようだ。嫌な思い出を読むのは気が重くなるのでありがたい。
『20×4年7月4日。
今日は今年で一番気分の良い一日だった。主任の松野さんが倒せなかった上に、逃げられちまった魔物を殺す事が出来た。酒が最高に美味い!明日、討伐した皆で墓参りに行きたいと思う!』
文から分かっていく父さんの人物像。豪快だけど、仲間思いな人。大雑把だが、知る事が出来て良かった。
まだ、ページはある。少し眠くなってきたので、次のページを読んだら終わりにしよう。
『20×4年7月15日。
なんかナチュレっていう国から使いが来た。なんでも、4日に倒した魔物はナチュレも追ってたらしくて、倒す手間を省いてくれたお礼に、パーティーに招待してくれるらしい!エルフって言ったら美男美女の種族!パーティーと言ったら、美味しい物がいっぱい!その場ですぐOK!って皆で言っちまった!やべぇ、マジで楽しみ!!』
・・・やっぱりもう少し読もうか。
「お腹いっぱい食べるのは良い事だとは思うけど、少しはしたないぞ2人とも」
「今日ばかりは大丈夫だよ、ヒスイー」
「ナチュレの王女様だって、お腹いっぱいまで食べたみたいだし」
モネさんの指摘から、シュエリ王女の方を見ると、大して膨れてもいないお腹を幸せそうにさすっていた。流し目で俺の方を見ながら。
あれは確実に満腹という意味ではないが、これからの俺の命に関わるのでやめておこう。それと今のうちにシュエリ王女の誤解を解いておかなければ────
「って、いない!?もう帰っちゃったの!?」
王女は俺が目を離した隙に帰ってしまった。何としてでもリオに帰るまでにキスで子供ができるという話は逸話だと説明しなくては・・・というよりも、説明する前に俺は帰れるのだろうか?
そもそも、帰らせなかったらキスしようって事でキスしたわけだし、キスしてしまった以上、誤解を解かなければ俺はナチュレで本当に王族で暮らすことになってしまう・・・!
それだけは勘弁だ!俺は責任感のある仕事をするのは嫌いではないが、身の丈に合わない責任を負わされるのだけは嫌だ!
生徒会長に半ば無理矢理立候補させられた時も、緊張で応援スピーチから当選発表までの記憶が無かったし・・・(因みに翡翠が他の候補者に僅差で負け、第2希望の書記になった)。
まだ自分の背中に降りてくるか分からない責任に少し押しつぶされた翡翠は、その日の睡眠欲が全くもって失せてしまうのだった。
★
1時間前に城で開催されていたパーティー。町で行われていたどんちゃん騒ぎの宴。
永遠に続いてほしいと願われる最高の娯楽だが、人に体力という概念が存在する限り、永遠には続かない。
パーティーに参加した貴族や王達は客室で眠りにつき、宴で限界まで騒いだナチュレの民はベッドではなく、地面の上で泥酔している。
ほとんどの者が楽しさ故の疲労から眠りにつく中、翡翠は眠れないでいた。理由は簡単、シュエリの誤解が解けなかったら、自分の背中にかかる責任によるものである。
どんなに寝たくても、布団にくるまっても睡魔は襲ってはこない。初めてコーヒーを飲んでしまった子供のように目がギンギンだった。
「眠れんな・・・仕方ない」
スマホは充電できる回数が限られているから、なるべ使いたくはない。となると、残された暇つぶしの品は本だけになる。何冊か読んでいない漫画の新刊を持ってきたので、眠くなるまでの暇つぶしにはなりそうだ。
暗い特別客室の中、他の3人を起こさないようにバッグを手探りで見つけて、手探りでバッグの中に入っている本を探す。
見ないで探していると、漫画本ではない、薄くて大きな本で手に当たる。同人誌は電子で買うはずなので、持っていないはずなのだが・・・。
不思議に思った翡翠は、漫画ではなく、正体不明の薄い本を引き出す。本の裏表紙には、コーヒーをこぼしたような茶色いシミがついている。
翡翠はシミのついた薄い本の事を覚えていた。手元を照明魔術で明るくして、本の表紙の下らへんに書かれた名前を見る。
書かれた名前は『森山焼太』。俺が数日前に主任からもらった父さんの日記だった。
「そういえば、結局今まで1ページも読んでいなかったな・・・読むか」
眠くなるまで、まだ全然余裕がある。漫画本は後回しにして、日記を読むことにした。
父さんが残した日記。一体何が書いているのだろうか・・・俺の事が書いてあったら嬉しいな。
『20×4年6月12日。
先月、魔物との激しい戦いの末に亡くなってしまった主任の松野さん。彼が、俺によく奨めてきていた、良い事があったら、日記に書くというのを趣味にしていこうと思う。まず、今日はいとこから最高のニュースを聞いた。俺の事を散々低学歴だと罵っていた親戚のガキが志望校の受験に落ちたらしい。5教科ばかり勉強して、魔術を勉強しないからだ。当然の報いだろう』
しょっぱなからかなり尖った内容。まあ、森山家の人間がクソなのは知っているので、父さんの口の悪さには納得がいく。
最初の文から察するに、良い事だけを書いた日記のようだ。嫌な思い出を読むのは気が重くなるのでありがたい。
『20×4年7月4日。
今日は今年で一番気分の良い一日だった。主任の松野さんが倒せなかった上に、逃げられちまった魔物を殺す事が出来た。酒が最高に美味い!明日、討伐した皆で墓参りに行きたいと思う!』
文から分かっていく父さんの人物像。豪快だけど、仲間思いな人。大雑把だが、知る事が出来て良かった。
まだ、ページはある。少し眠くなってきたので、次のページを読んだら終わりにしよう。
『20×4年7月15日。
なんかナチュレっていう国から使いが来た。なんでも、4日に倒した魔物はナチュレも追ってたらしくて、倒す手間を省いてくれたお礼に、パーティーに招待してくれるらしい!エルフって言ったら美男美女の種族!パーティーと言ったら、美味しい物がいっぱい!その場ですぐOK!って皆で言っちまった!やべぇ、マジで楽しみ!!』
・・・やっぱりもう少し読もうか。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
26
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる