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3章 異世界旅行録
26話 脱出と、追跡
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「ふぅ、何とか出れた・・・」
扉を閉め、ホッと息をつく。かなり危険な賭けだったが、勝って良かったという安心感が心を包む。
明日本当の子作りを説明しないと誤解したままになり、バレた場合、再びナチュレと戦争~なんて事もあり得てしまうかもしれない。
「となると、モネさんとリリがいる場所とタイミングを見計らって教えなきゃな・・・」
明日の計画の事をかんがえながら階段を下る。忘れていると思うので、もう一度説明させてもらうと、現在、各国の王が集まるレベルのパーティーが行われている。
そこには招待客であるモネさん達ももちろん参加している、もし、俺がいない事が分かったら混乱するだろうし、まだまだ俺もパーティーに参加していたい。
気持ちを無理矢理切り替えて魔術の光で照らされた階段を下り、7階から4階へと急いで降りる。
もし、侍女さん等とばったり会って、説明を求められたら面倒な事になる。細心の注意は勿論払う。
なるべく足音を立てないようにつま先で4階への階段を下っていると、見覚えのある容姿の老人がパーティー会場であるダイニングを出て行く姿をみかけた。
「あれは・・・グイス大臣?」
王政時代、実質的な権力2位だったグイス大臣だった。彼は何食わぬ顔で、ダイニングを出て、バルコニーへと向かおうとしていた。
それだけなら、大勢がいる空間に疲れて風に当たりに行ったのだと思うだろう。しかし、彼の手に持つ物と、服装がその考えに疑問を抱かせた。
グイス大臣の手には魔術師が使う、魔術の効果を増大させる杖が握られており、会場から出た途端、フードを被ってその顔を隠したのだ。
グイス大臣は見た目は老人だが、まだ腰が曲がっていない上にしっかりと問題なく歩けている。杖を歩く補助として使っている可能性はゼロに近い。
そして、フードを被る意味は益々理解できない。何故、雨も降っていないのにわざわざ視界を悪くする?
気になってしまっては、納得しなければ心がむず痒い。少し悪いが、尾行させてもらおう。
「『消音魔術』」
使った事はないが、シュエリ王女が使っていたのを見様見真似で消音魔術を使用してみると、これが意外と上手くいって、俺の体から発せられる音がピタリとやんだ。
足音も、服の擦れる音も、呼吸音も自分の耳に入ってこない。成功だ。もしかしたら、自分にだけ聴こえていないというパターンもあるので、忍び足は忘れない。
他に会場から出てきている人は1人もいない事を確認してから尾行を開始した。
尾行と言っても、グイス大臣は特に警戒しているわけでもないので、後ろを振り向く事はない。俺はそのあとをついていけばいい話。
照明の光によって伸びる影によってバレる可能性があるため、ある程度の距離は保つ。
廊下を何度か右に曲がったところで、ようやくバルコニーに到着する。仕事柄、隠密行動をする事はないので、緊張したし、疲れた。
しかし、気づかれず尾行には成功した。次は、何をしているかのを調べる必要がある。
更に急接近し、フードでわずかに隠れていない口元が見える距離まで近づく。
グイス大臣の魔術師の杖の先端についていた結晶が青く光っている。魔術を発動させているようだ。口を動かしているのは分かるのだけれど、全く声が聞こえない。ただ口をパクパクさせているだけ。
エルフの熟練した魔術師は口パクでも魔術を発動できるのかと驚いていると、バルコニーで羽休めをしていた一羽の鳥が休憩を終えて暗闇へと飛んでいく。何の音も立てずに・・・。
ここで、ようやく事のおかしさに気が付く。グイス大臣は口パクで魔術を発動させているのではない。俺の耳にグイス大臣の声が入ってきていないんだ!
大臣の声だけじゃない。あらゆる物から発せられる音が耳に入ってきていない。
そう、失敗していたのだ。成功したと思っていた初めての消音魔術は、自分から音を消すだけでなく、自分の耳に入ってくる音さえも消してしまったのだ。
簡単に言い表すならば、俺だけが無音の世界に侵入してしまったような状態。慌てて消音魔術を解くが、その頃にはバルコニーにグイス大臣の姿はなくなっていた。
こちらが焦っているうちにバルコニーからパーティーに戻ったのかもと、こちらも会場に戻ったが、グイス大臣の姿はなかった。
もう少し探そうと思ったが、俺がいなくなった事で心配していた門番仲間が近づいてきたので、とりあえずやめておいた。
「アンタ、何処行ってたの?」
「あはは・・・ちょっと風に当たりにバルコニーに行ってた」
シュエリ王女の部屋に行って、キスしてました。なんて口が裂けても言えない。脱出する事だけを考えていたせいで、その後の事を何も考えていなかった。
返答に困っていると、背後からリリが俺の匂いを嗅いできた。
「すんすん・・・・ふ~~ん、バルコニー・・・誰と?」
「ひ、1人だよー!他に誰と行くっていうんだ!」
「う~~ん・・・シュエリーヌ王女!」
うん、まずシャープから黙らせた方が良いだろうか?
それから10分間、モネさんとリリに詰められていたが、新しいスイーツが運ばれてきたことで話はお預けに。
更に数分後、シュエリ王女が再び会場に姿を現したのだが、顔面は真っ赤で、パーティーの終わりの挨拶まで上の空だった。
扉を閉め、ホッと息をつく。かなり危険な賭けだったが、勝って良かったという安心感が心を包む。
明日本当の子作りを説明しないと誤解したままになり、バレた場合、再びナチュレと戦争~なんて事もあり得てしまうかもしれない。
「となると、モネさんとリリがいる場所とタイミングを見計らって教えなきゃな・・・」
明日の計画の事をかんがえながら階段を下る。忘れていると思うので、もう一度説明させてもらうと、現在、各国の王が集まるレベルのパーティーが行われている。
そこには招待客であるモネさん達ももちろん参加している、もし、俺がいない事が分かったら混乱するだろうし、まだまだ俺もパーティーに参加していたい。
気持ちを無理矢理切り替えて魔術の光で照らされた階段を下り、7階から4階へと急いで降りる。
もし、侍女さん等とばったり会って、説明を求められたら面倒な事になる。細心の注意は勿論払う。
なるべく足音を立てないようにつま先で4階への階段を下っていると、見覚えのある容姿の老人がパーティー会場であるダイニングを出て行く姿をみかけた。
「あれは・・・グイス大臣?」
王政時代、実質的な権力2位だったグイス大臣だった。彼は何食わぬ顔で、ダイニングを出て、バルコニーへと向かおうとしていた。
それだけなら、大勢がいる空間に疲れて風に当たりに行ったのだと思うだろう。しかし、彼の手に持つ物と、服装がその考えに疑問を抱かせた。
グイス大臣の手には魔術師が使う、魔術の効果を増大させる杖が握られており、会場から出た途端、フードを被ってその顔を隠したのだ。
グイス大臣は見た目は老人だが、まだ腰が曲がっていない上にしっかりと問題なく歩けている。杖を歩く補助として使っている可能性はゼロに近い。
そして、フードを被る意味は益々理解できない。何故、雨も降っていないのにわざわざ視界を悪くする?
気になってしまっては、納得しなければ心がむず痒い。少し悪いが、尾行させてもらおう。
「『消音魔術』」
使った事はないが、シュエリ王女が使っていたのを見様見真似で消音魔術を使用してみると、これが意外と上手くいって、俺の体から発せられる音がピタリとやんだ。
足音も、服の擦れる音も、呼吸音も自分の耳に入ってこない。成功だ。もしかしたら、自分にだけ聴こえていないというパターンもあるので、忍び足は忘れない。
他に会場から出てきている人は1人もいない事を確認してから尾行を開始した。
尾行と言っても、グイス大臣は特に警戒しているわけでもないので、後ろを振り向く事はない。俺はそのあとをついていけばいい話。
照明の光によって伸びる影によってバレる可能性があるため、ある程度の距離は保つ。
廊下を何度か右に曲がったところで、ようやくバルコニーに到着する。仕事柄、隠密行動をする事はないので、緊張したし、疲れた。
しかし、気づかれず尾行には成功した。次は、何をしているかのを調べる必要がある。
更に急接近し、フードでわずかに隠れていない口元が見える距離まで近づく。
グイス大臣の魔術師の杖の先端についていた結晶が青く光っている。魔術を発動させているようだ。口を動かしているのは分かるのだけれど、全く声が聞こえない。ただ口をパクパクさせているだけ。
エルフの熟練した魔術師は口パクでも魔術を発動できるのかと驚いていると、バルコニーで羽休めをしていた一羽の鳥が休憩を終えて暗闇へと飛んでいく。何の音も立てずに・・・。
ここで、ようやく事のおかしさに気が付く。グイス大臣は口パクで魔術を発動させているのではない。俺の耳にグイス大臣の声が入ってきていないんだ!
大臣の声だけじゃない。あらゆる物から発せられる音が耳に入ってきていない。
そう、失敗していたのだ。成功したと思っていた初めての消音魔術は、自分から音を消すだけでなく、自分の耳に入ってくる音さえも消してしまったのだ。
簡単に言い表すならば、俺だけが無音の世界に侵入してしまったような状態。慌てて消音魔術を解くが、その頃にはバルコニーにグイス大臣の姿はなくなっていた。
こちらが焦っているうちにバルコニーからパーティーに戻ったのかもと、こちらも会場に戻ったが、グイス大臣の姿はなかった。
もう少し探そうと思ったが、俺がいなくなった事で心配していた門番仲間が近づいてきたので、とりあえずやめておいた。
「アンタ、何処行ってたの?」
「あはは・・・ちょっと風に当たりにバルコニーに行ってた」
シュエリ王女の部屋に行って、キスしてました。なんて口が裂けても言えない。脱出する事だけを考えていたせいで、その後の事を何も考えていなかった。
返答に困っていると、背後からリリが俺の匂いを嗅いできた。
「すんすん・・・・ふ~~ん、バルコニー・・・誰と?」
「ひ、1人だよー!他に誰と行くっていうんだ!」
「う~~ん・・・シュエリーヌ王女!」
うん、まずシャープから黙らせた方が良いだろうか?
それから10分間、モネさんとリリに詰められていたが、新しいスイーツが運ばれてきたことで話はお預けに。
更に数分後、シュエリ王女が再び会場に姿を現したのだが、顔面は真っ赤で、パーティーの終わりの挨拶まで上の空だった。
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