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2章 亡命者は魔王の娘!?

26話 気高きエルフの騎士

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 翡翠は刀を引き抜き、リーダーらしきエルフの男と戦う意志を見せ、立ち向かっていく。

「貴方、騎士団のリーダーですよね?名前を聞いても?」

「何故、名前なんか聞くのだ。今から殺し合う仲だというのに」

「今までの騎士や刺客の中で一番話が通じそうな人だからかな?」

 兜を付けておらず顔が露出しているからか。他の騎士よりも親近感が沸く。一縷の望みに過ぎないが、もしかしたら平和的戦闘終了も望めるかもしれない。

「シャイ・マスカッツ。キャンベル騎士団現団長だ。門番、君の名前も聞いておきたい」

「森山翡翠」

「ほう・・・名前はその目の色から取ったのか?」

「そうらしいよ。母さんはもう死んでるから確かめようがないけど」

「そうか・・・それで、要件は何だ?」

 戦いではなく、まず最初に名前を要求したからだろうか。シャイ・マスカッツは俺が話し合いを求めている事を察してくれた模様。

 彼の理解の速さに感謝して、質問を口にする。

「貴方達の目的は?」

「君ら門番の殺害と、魔王女リリックの暗殺」

「理由を聞いても?」

「すまないが、上からの指示に過ぎないので分からない」

「貴方の推測でも良い。話してくれないか?」

「・・・門番の殺害は門番がエルフを倒してしまい、それによってエルフという種族に泥を塗ってしまったからだ。
その汚名返上をする為に君達を正攻法で殺させてもらう」

 プライドの高い種族だとは聞いていたが、汚名返上の為に殺しに来るまでとは想像もしていなかった。これじゃ、今この騎士団を倒しても次が来てしまうじゃないか。

「魔王女リリックの暗殺は・・・完全に私の憶測だが、王自身の復讐・・・だと思っている。エルフという種族は千年戦争で多大な被害を受けた。森は焼かれ、同胞は数えきれない程死んだ。そんな所業を行った魔族を共存同盟に加入はさせたくないから王は我々に暗殺を命じたと思われる」

「リリ───魔王女の暗殺に成功しても、魔族のほとんどが共存賛成だと聞いている。その共存同盟に加入させるのを阻止する事はできないんじゃないのか?」

「きっかけは作れる。魔王女が共存同盟に加入している我々の国が殺したと知れば、共存同盟を疑問視する者が現れ始める。そこか内輪もめが始まり、魔族に甚大な被害が出る事が予想できる」

「随分と悪趣味な計画だね。エルフはそんなに魔族を恨んでいるのか?」

「人それぞれだ。大して恨んでいない者もいるし、酷く憎んでいる者もいる。我が王は後者なのだろう」

 これで不明瞭だった目的が明らかになった。理由は納得できるものだが、止めない理由にはならない。話し合いによる平和的解決も難しいだろう。大元の原因である王もいないし。

 でも、まだ聞きたい事がある。

「次の質問だ。貴方達はどうやって────」

「ここに来たんだ?と聞きたいのか?私達の移動手段を知りたいのか?」

「・・・駄目かな?」

「そこまで私は優しくない」

「そっか。それじゃあ・・・殺りますか」

 なら、質問コーナーはここで終了。ここからはふれあいタイムころしあいに移行する。

「君の話し方からして、恐らく話し合いでの解決を願っていたのだろう。すまない、それは不可能だ」

「謝るって事は、シャイさんも望んでいたんですか?」

「・・・どうだろうな」

 弓矢を引くように、サーベルを持つ手を大きく引き、空いた手で俺を指さす。俺を敵として認識し、今から攻撃するという意思の現れか。

 こちらも負けじと剣道で基礎中の基礎である中段の構えを取るが、シャイ団長の静かな迫力に若干押され気味だ。少しでも気を抜いたら一瞬で間合いを詰められそうな油断できない雰囲気が漂っている。

 門番という職業を始めて魔物と戦い始めてたった半年の俺に対して、シャイ団長はそれを簡単に上回る年数戦ってきたと思われる。鎧に付いた傷と、顔の険しさが経験を物語っている。

「『ヴェントゥス』」

 瞬間、シャイ団長のサーベルに風の魔術ヴェントゥスが使用される。木をも大きく揺らす強力な風を纏った刃はまだ間合いを詰め切っていないのに振り下ろされた。

 いや、まだ間合いが詰め切っていないからこその戦法だ。

 刃にまとわりついていた風は刃から外れ、俺の方へと真っすぐ向かってきた。

「まずい・・・『ヴェントゥス』!!」

 気づくのが遅かった。避ける事はもう不可能。なので、相殺を試みる。

 しかし、シャイ団長の放ったヴェントゥスの威力は本来の威力だけでなく、サーベルの振り下ろしにより威力もたされたのだろう。俺がとっさに唱えた風の魔術を簡単に打ち消してしまった。

 俺の風の魔術に勝ったシャイ団長製の風の魔術は俺の体を吹き飛ばし、背後に建っていたマンションの壁にめり込ませた。

「あっぶねー・・・防御魔術トゥエレで身固めてなければ今頃全身骨折だった・・・」

 先程まで立っていた場所から現在めり込んでいる壁までの距離は凡そ100m。吹き飛んでいった時間はわずか3秒。100m競走の世界記録の3分の1で吹き飛び、叩きつけられた事になる。

 吹き飛ばされた瞬間、防御魔術を唱えて体を魔力の盾で守っていなかったら、翡翠もモネ同様戦闘不能になっていただろう。

「素晴らしい反射神経。敵出なかったら、私の騎士団に迎え入れていた」

「それはどうも。でも、エルフじゃないと入れないんでしょ?キャンベル騎士団は」

「そうだ。私の見込みだが、君は入れると思うよ」

「ん?どういう事だ?」

「気にしないでくれ。試合を続行しよう」
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