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2章 亡命者は魔王の娘!?

17話 見えない殺意

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「ええっと、服・下着・靴下数着。靴2足。レディースのボディーソープとシャンプー。低反発の枕。異門町あっちじゃ買えない物はこれくらいかな?リリック!他の欲しい物は?」

「お菓子!」

「それはあっちに戻ってから買おう!あと歯ブラシも!」

「はぁい!」

 彼女が好んで購入した服は5着。そのうち、3着はパーカーだ。なんでも、フードを被り続けた影響で、フードが無いと少し不安を感じてしまうのだとか。

 下着選びは門外漢なので、店員さんにお願いして選んでもらった。気に入った下着はそのまま着て帰る事にした。ここに来るまで下着を着ていなかったからな。

「そして、ファミレスに来たと・・・ドリンクバーはいる?」

「なにそれ?」

「ドリンクが飲み放題になる権利。あそこにある機械の中から好きなのが選べる」

「最高じゃん!じゃあ、それも追加で!それと、パスタも!」

「おけ。すみません!トマトパスタとペペロンチーノを1つずつ。それと、ドリンクバーを2つ」

 リリックと一緒にドリンクバーの前に行き、使い方を教えて席に戻る。時刻は既にお昼を過ぎて15時になっている影響か、周りに他の客は少ない。

 ママ友の集まりと、休憩中のサラリーマンのみ。当たり前だが、どちらにも敵意が無ければ殺意も無い。無いはずなのに・・・何故だろうか。ショッピングモールを出た辺りから俺とリリックを狙う殺意が感じられるのだ。

 戦闘経験が無いリリックは殺意に気が付いていない。美味しそうに野菜ジュースを飲んでいる。ファミレスにある野菜ジュースってのど越しが優しくて飲みやすいよね。俺も大好きだ。

「お待たせしました。トマトパスタとぺペロンチーノです」

「ありがとうございます!いただきます!」

 お客さんが少ないからか、すぐに料理が来た。空腹だったリリックはかなりのスピードで、上品にトマトパスタを食べていく。中途半端に殺意だけに気付いてしまった俺は、上手くぺペロンチーノの麺が喉を通らない。

「どうしたの?具合悪いの?もしかしてわたし────」

「せいではない!だから大丈夫だから!」

「そう?」

 ここで様子がおかしい所を見せたら、リリックも心配するし、殺意を向けている見えない誰かにも感づかれる可能性が・・・いや、待てよ。別に気づかれても良いんじゃないのか?

 何故、気付かれない方が良いと思ったのだろうか。

「リリック。帰りは電車じゃなくてバスでも良いかな?次の電車、17時頃に来るからさ」

「うん!良いよ!ところでバスって何?」

「道路を走ってた長い自動車あったでしょ?アレだよ」

「ああー!あのいっぱい荷物が入ってそうな!」

「それはトラックだね。とにかく見れば分かるよ。パスタ食べてドリンクバーに満足したら行こうか」

「うん!」

 その後、リリックはコーラとレモネードとメロンソーダを一杯ずつ飲んで満足した。夕飯は少なめでも良いかも。

 ファミレスを出た後も、殺意が向けられている。まるで砥石で研いだナイフのように鋭い殺意。気を抜いたら刺殺されそうだ。

「へぇー!これがバス!確かにさっき走ってたね!」

「電車と比べて到着が遅くなるけど良いかな?」

「歩きよりも遥かに速いから全然!ここでも静かにした方が良いよね?」

「ああ。何なら寝てても良いよ」

「う~~ん。昨日いっぱい寝たから多分寝ないかな?」

 確かに昨日9時間も寝ていたし、多分寝ないだろうな・・・。

「すぅ・・・すぅ・・・」

 寝た。バスに乗ってからたった10分後に寝てしまった。驚きの速さだ。

 窓側に座っていて殺されてしまうのだけは避けたいので、俺が壁側に座っている。寄りかかる物がないリリックは倒れるように自然と俺の肩に寄りかかって来た。

 やはり今までの疲れが取れ切れていなかったのだろう。到着するまで寝かせてあげよう。

「お父様・・・お母様・・・」

 どうやら夢の中で両親と会っているようだ。彼女の父親は魔王であり、勇者と戦って遥か昔に死亡している。母親もその後、病気で亡くなった事を主任から教えて貰った。

 真夜中、彼女の年齢を聞いてからもしかしてとは思っていたが、千年戦争で魔族を率いていた魔王の娘だったと今朝教えて貰った時は驚いた。魔族というのは最大で1000年生きるらしく、魔族らの10歳は人間でいう所の1歳らしい。

 なので、167歳のリリックは実質16歳という事になる。既にいない両親を思い、悲しむ気持ちは分かる。

 夢の中でしか会えないというのなら、会わせてあげよう。

 一方、向けられた殺意は一向に消えない。お陰で眠気が冷めた。

『次は異門町入口、異門町入口です。停車するまで、立ち上がらないようお願いします』

 バス会社も魔物にバスを壊されるのを恐れて、町の入口までしか行ってくれないのだ。異門町の前まで運行してくるだけで良心の塊なので、文句は全く無いが。

 町の入口から自宅までの距離は約2キロ。辛い距離ではない。

 しかし、家へ直行はしない。

「ヒスイ?どうしたの、武器なんか出して」

「ちょっとね。悪いんだけど、荷物持ってもらっても良いかな?この刀袋も」

 愛刀を取り出し、腰に携える。

「ねぇ、何処に向かってるの?ヒスイの家はこっちじゃないよ」

「ちょっと寄り道がしたい気分なんだ」

 1度しか通っていないのに、リリックは帰路を覚えているようだ。

 不思議がるリリックを尻目に普段は通らない道を歩き、行き止まりまで到着する。

「行き止まりだよヒスイ。一体ここに何の用があるの?」

「凄い大事な用事さ。悪いんだけど、俺の後ろにいて。今からすっごく危ないか・・・らっ!」

 言葉を言い終わる前に飛んでくるナイフ。翡翠は見事に弾き、刀を構える。

「やっと、手を出してきてくれたね。一体何のようかな?ザナ人の観光客さん」

 何もいない誰もいない空間が紙をくしゃくしゃにしたかのように歪み、地面に放り投げられる。

 捨てられた歪んだ空間は汚いボロ布へと姿を変え、歪んだ空間があった場所から全身を黒ずくめの服で覆い、胸当てと籠手のみを装備した謎の男が現れる。

「成程、透明マントか・・・しかもかなり良質だね」

「・・・・・・」

 男は何も喋る事もなければ、ジャスチャーをする事なく、腰に帯びた夥しい数のナイフのうち1本を抜き、構える。

「言葉じゃなくてナイフ投げるなら、俺もそれに答えてやるよ」
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