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1章 就職!異世界の門日本支部!

26話 圧倒的経験差

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「・・・危なかった。まーじで来てくれてありがとうモネさん」

「主任は、ヒスイにしか連絡していないんじゃなかったの?」

「アタシもつい数分前までは知らなかったもの。アンタヒスイの部屋から音が聞こえてこなかったから怪しいと思って電話した。それがアタシが騒動を知った経緯。シャープ、アンタとんでもない事やらかしたね。退職だけじゃ済まされないわよ」

「・・・分かってる」

 ドッペルゲンガーの討伐に協力してくれたとはいえ、元はと言えば、25体のドッペルゲンガーを知らなかったにしろ、連れて来てしまったのはシャープ本人。

 更にその経緯が不法入国の補助ときた。正しい罰が与えられるならば、シャープは不法入国罪の幇助犯とかいう些か珍しい罪に問われるだろう。

 不法入国罪自体も300万以下の罰金か3年以下の懲役or禁錮なので、大した罰は受けないと思われる。しかし、門番は辞めざるを得ないだろう。

「シャープ、アンタの気持ちは本当に痛い程分かる。アタシだって今まで18年間、ザナの環境に苦しんで来たヤツを数え切れないほど見てきた」

 炭鉱夫の家系に生まれたモネも同様、シャープと生まれ育った環境は違えど、ザナの過酷な環境に酷く苦しんできた。

 気の強い彼女がリオ生まれの翡翠に対して当たりが強いのも、リオという(ザナと比べて)優しい環境に生まれた故の嫉妬によるものも起因しているのだろう。

「何でアタシがリオ側の門番に立ってるか分かるか?金稼ぐ為だけじゃない。この世界をザナのような世界にしたくないからよ!」

 彼女の当初の目的は金稼ぎだけだった。しかし、リオの人々や環境に触れ合っていくにつれて、そのような感情が芽生えたのだろう。

アンタシャープは軽率な行動で、この世界をザナに変えようとした!法律で裁かれる事に心から感謝しなさい!」

 モネの言葉は、泣く事を我慢していたシャープの涙腺を悉く崩壊させる。自分が全て悪いのに・・・泣いて良い立場では無いのに、涙が止まらない。謝罪の言葉が止まらない。

「ごめんなさい2人とも・・・ごめんなさい、皆・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・!!」

 シャープが泣き止むまで、翡翠は彼の背中をさすり続けた。

「それにしても、主任遅くない?もうとっくに着いててもおかしく無いはずなんだけど」

 むしろ、どうしてモネさんの方が早く到着したのだろうか。もしかして、何処かで足止めを喰らっているとか?

「あり得るね。どうする?主任達が到着するまで待つ?」

「待つに決まってるじゃない。協力したとはいえ、今のシャープは魔物を25体も連れ込んだ極悪人なんだから。拘束道具を持っていない以上、この場から離す事は許されないわ!」

「ごめんなさい・・・僕は犯罪者です・・・ごめんなさい」

「モネさん!これ以上シャープを泣かせてどうするの。意味ない事はやめて・・・ってあれ?」

 ふと、目線をシャープから部屋に移した時、翡翠は初めて違和感に気づいた。合体したドッペルゲンガーの体が消えていない事に。

「な、何かがおかしい・・・」

 ドッペルゲンガーは基本的に、切られた部位は塵のようになって消え、絶命した場合は体全体が消え失せる。

 なのに、合体ドッペルゲンガーの切断された上半身と下半身は未だに消えずに物体として残っているのだ。

 これが何を意味しているか理解するには少し、いやかなり遅かったようだ。

「2人とも!逃げt─────」

 シャープとモネに警告の呼び声をかけようとしたその時、背後から翡翠の右胸を鋭い一突きが貫く。

 服と肉を貫いて、右胸から出て来たのは、漆黒の刀身を持った刀。まもなくそれは翡翠の胸から引き抜かれ、大出血を引き起こした。

「「ヒスイーーー!!」」

 翡翠が致命傷が負った事により、2人はようやっと気付く。翡翠が倒れた事により、隠れていた姿が2人の視界に入る。

 翡翠を貫いたのは、翡翠の一太刀によって、両断された合体ドッペルゲンガーの上半身。残った3本の腕には刀、斧、モーニングスターが握られている。

 合体ドッペルゲンガーは完全には死んでいなかったのだ。死んだふりをして、3人が油断するのをずっと待っていたのだ。その最初の被害者が翡翠となってしまったのだ。

「シャープ、治癒魔術は?」

「ごめん、使えない・・・」

「クソッ!逃げるしかないみたいね・・・」

 倒れる翡翠を手繰り寄せ、背負いベランダから逃げる準備を始めるシャープ。8階の高さだとしても、各階のベランダを使えば比較的に安全に降りる事ができるはず。

 一方のモネは足止めし役を担う為、ハンマーを構える。

「モネ!早く!」

「アタシは良い!だから早く主任のところに連れていきな。あの人なら、高レベルの治癒魔術が使えるはず。それで──────」

「だったらもう大丈夫!」

 ベランダから地上に降りようとしているシャープの横に長身の茶髪の男が現れる。男は背負われている翡翠の傷口に手を添えると、治癒魔術を呟く。

「『サーナ』」

 呟くと同時に手の平から発生した緑の光が翡翠の貫かれた胸の出血を止め、傷口を再生させる。荒かった呼吸はあっという間に正常かつ整った速度へと戻り、峠をあっさりと超えさせたのだった。

「翡翠の致命傷、上半身と下半身が別れた何かデッカいドッペルゲンガーに、翡翠を背負ってベランダから逃げようとしたシャープ。察するに・・・油断してたね?」

 たった3つの情報から状況を完全に把握した主任は、腰に帯びていた2本の剣を抜き、刃をぶつけ、カンカンと鳴らしながらドッペルゲンガーと対峙した。

「それじゃ、今からお手本見せてあげる。一瞬だし、1回しか見せれないから、見逃さないで・・・ねっ!!」

 言い終えた時には、主任の姿はドッペルゲンガーの背後にあった。癖なのか、特に血濡れていない2本の剣を血払いし、鞘に納める。

「ゲ、ゲ、ゲギャアッ!!」

 鞘に収められると同時に、ドッペルゲンガーの別れた上半身と下半身は思い出したかのように絶叫。漆黒の肉体は128分割され、跡形もなく消え去ってしまう。

「どう?これが、お手本っ!これができるように頑張ってね☆」

 主任が剣を握ってから、鞘に収めるまでの時間はたったの3秒。まだまだ未熟な2人に見えるわけがなく、放心してしまうのだった。
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