上 下
217 / 341
5章 紛い物の神

218話 記憶の穴ボコ

しおりを挟む
「凄いな・・・想像してた通りだ」

 若葉色の髪色に、とんがった耳を持つ美男美女が独特な格好で集落で過ごしている。中には、一糸も纏っていない全裸のエルフのいる。

「エルフで全裸って何か意味あるの?」

「ううん、あれはただの変態。自然に近づく為とか言ってるけど、ただみんなに裸を見られたいだけだよ」

「なんだ、ただの変態か・・・」

 人間なら逮捕ものだが、取り締まる人がいないんだろう。

「あれ?もしかしてイーグル・・・のご親戚?もしかしてお父さん?イーグルは元気?」

「いや、イーグル本人だよ。エルフとは時の流れが違うんだ。20年も経てば俺だっておっさんだよ」

「あら~そうなの。でも、前よりずっと良いと思う。そっちの子は?」

「俺の息子」

「初めまして。ファルコと言います」

「あら~昔のあなたと・・・あんまり似てないわね。心の底から優しそうな顔をしてる」

「それはどうも・・・」

 すれ違う全員に話しかけられ、驚かれ続ける。そして、父さんに話しかけるエルフの人達のほとんどが500歳を余裕で超えていた。

 いちいち一人一人に話を聞くのも面倒なので、長老の元に皆で行ってから話を聞いてもらう事にした。

「ほぉ、イーグルや。20年で立派になったの。ワシは嬉しいぞ~」

 立派な白髭を蓄えた老人が、切り株の上で果物を齧っていた。かなり老けてはいるが、流石エルフというべきか、顔立ちはとても良い。

「長老はお変わりないようで」

「さて、今回は迷子になったわけではなさそうじゃな。一体何があった?」

「実は────」

 514年続いた戦争、ベルム族への迫害は何者かの魔法によって歴史を改変された為である事を話す。しかし、歴史の書から黒幕の痕跡は無かった為、生き証人であるエルフの元にやってきた事も話した。

「・・・外の世界ではそんな事が起きていたのか。じゃが、確かに今違和感を覚えた。何故、ワシらは意味もなくベルム族を魔族などと呼んでいたんだ?」

 エルフの長老は何も知らない様子。よくよく考えてみたら、エルフはあまり森から姿を現さない。外の世界の事情を知らなくても無理はない。

「とんでもない魔法じゃな。しかし、世界全体にかけているせいか、精度は微妙みたいじゃな。完璧な精度ならば、こうして違和感なんて抱かないはずじゃ」

「「確かに・・・」」

 思えば、歴史の書も不自然に空白があった。まるで修正液で消したかのように。それは、魔法の精度の低さの現れだったのか。

「そして、お主らがその黒幕とやらがエルフであるかもしれないと疑問を抱くのも理解できるじゃが、ワシはエルフではないと思っている」

「それはどうしてなんです?」

「歴史の書から記録すら消したのならば、ワシらの記憶からも存在を消していたっておかしくはない。そして、そんな事をした場合、記憶に人1人分の穴が開く。しかし、ワシの記憶には人1人分の穴ボコはないんじゃ。全くもってな」

「そんな・・・じゃあ、無駄足だったって事?」

「待て待て早まるでない。ここは、人間よりもワシらエルフよりも遥かにこの世界の事情を知っている者に聞こうではないか」

「そんな人がいるんですか?」

「ああ、おる。人ではないがな。我々はその存在を天使と呼んでおる」

「天使・・・でもどうやって会うんです?」

 最後に天使に会ったのは、転生する前。それ以降、全く姿を現していない。もう死ぬまで会えないと思っていたのだが、長老はそうは思っていないらしい。

 長老は、食べていた果物を全て平らげ、立ち上がると俺達に背を向けて歩き始めた。

「着いてきなさい。良い物を見せてあげよう」

 長老の牛歩に、俺達は雛鳥のように着いて行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強の回復魔法で、レベルアップ無双! 異常な速度でレベルアップで自由に冒険者をして、勇者よりも強くなります

おーちゃん
ファンタジー
俺は勇者パーティーに加入していて、勇者サリオス、大魔導士ジェンティル、剣士ムジカの3人パーティーの雑用係。雑用係で頑張る毎日であったものの、ある日勇者サリオスから殺されそうになる。俺を殺すのかよ!! もう役に立たないので、追放する気だったらしい。ダンジョンで殺される時に運良く命は助かる。ヒール魔法だけで冒険者として成り上がっていく。勇者サリオスに命を狙われつつも、生き延びていき、やがて俺のレベルは異常な速度で上がり、成長する。猫人、エルフ、ドワーフ族の女の子たちを仲間にしていきます。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

異世界転生したので、のんびり冒険したい!

藤なごみ
ファンタジー
アラサーのサラリーマンのサトーは、仕事帰りに道端にいた白い子犬を撫でていた所、事故に巻き込まれてしまい死んでしまった。 実は神様の眷属だった白い子犬にサトーの魂を神様の所に連れて行かれた事により、現世からの輪廻から外れてしまう。 そこで神様からお詫びとして異世界転生を進められ、異世界で生きて行く事になる。 異世界で冒険者をする事になったサトーだか、冒険者登録する前に王族を助けた事により、本人の意図とは関係なく様々な事件に巻き込まれていく。 貴族のしがらみに加えて、異世界を股にかける犯罪組織にも顔を覚えられ、悪戦苦闘する日々。 ちょっとチート気味な仲間に囲まれながらも、チームの頭脳としてサトーは事件に立ち向かって行きます。 いつか訪れるだろうのんびりと冒険をする事が出来る日々を目指して! ……何時になったらのんびり冒険できるのかな? 小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しました(20220930)

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

処理中です...