上 下
186 / 341
4章 偽りの歴史

187話 即退却

しおりを挟む
「なっ・・・!ななななな・・・」

 思わぬ方法でヘリナを奪われたルナは、驚きのあまり言葉を失ってしまっていた。『な』以外の言葉が出ず、ぴくりとも動けない様子。

 対して、ファルコ達も満身創痍の状態だ。ファルコの左手の平は大火傷状態で、ドゥークは義手を失ってしまっている。

 どちらが有利かなんて、誰に聞いたとしてもルナと答えるだろう。

 驚きによる硬直も永遠には続かない。ルナも調子を取り戻すと、杖を再び構えた。愛しいヘリナを取り戻すために。

「帰しなさい!それはウチのなんだから!!『スパーク』!」

 杖の先から電撃が放たれる。電気は光と速度は同じ。放たれた直後に防御をいても遅い。

 ファルコがすぐに魔法の盾を展開しても意味はないだろう。

 絶望する暇すらもなく、雷が迫ってくる。雷が当たる1秒もない刹那のような時間。謎の人影が魔法の雷からファルコ達を身を挺して守ってくれたのだ。

「ぐぬぅ・・・!!」

「貴方は、ロドリゲスさん!」

 現れたのは、諜報員のロドリゲスだった。ドゥークと同じくこの場から離脱しておらず、地下水路で表に出るタイミングを見計らっていたみたいだ。

「邪魔するなよ!魔族風情が!!」

「大丈夫ですか、ロドリゲスさん」

 電撃をモロに喰らっていた。無傷なわけがないだろう。しかし、ロドリゲスさんは、俺達に心配をかけまいとサムズアップしてみせる。

「早く逃げるぞ・・・」

 マンホールの蓋は開いている。逃げられそうだ。

 周りに耳を澄ませてみると、騒ぎを聞きつけた人達がこっちへと近付いている事がわかる。怪我していようがいまいが、逃げるが吉だろう。

「『ドラゴンズビート』ォ!!」

 火事場の馬鹿力とでも言うべきだろうか、ドゥークが身体能力を上げ、満身創痍の俺とロドリゲスさん、そしてヘリナ先輩までも抱えてマンホールへ入り込んだ。

 地上から地下水路までは高さがある。その高さをドゥークは足のみで耐えると、俺達から手を離し、一度高くジャンプ。

 開いていたマンホールの蓋を閉めてみせた。

「ふぅ・・・危なかった。おい、何寝っ転がってんだ!!さっさとここから走り去るぞ!諜報員、お前は私が運んでやるから道案内ぐらいはしろ。いいな!?」

「り、了解・・・」

 軍曹としての高い指揮力と、切り替えの速さをみせるドゥーク。俺も迷惑はかけられない。負傷しているのは左の手の平だけなのだから。

「良いな!?気を抜くなよ!!まだ戦闘は終わってないんだからな!!隠れ家に帰るまでが戦いだ!!」

 そう言うドゥークの背中は、小さいはずなのに、何故か大きく見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

最強の回復魔法で、レベルアップ無双! 異常な速度でレベルアップで自由に冒険者をして、勇者よりも強くなります

おーちゃん
ファンタジー
俺は勇者パーティーに加入していて、勇者サリオス、大魔導士ジェンティル、剣士ムジカの3人パーティーの雑用係。雑用係で頑張る毎日であったものの、ある日勇者サリオスから殺されそうになる。俺を殺すのかよ!! もう役に立たないので、追放する気だったらしい。ダンジョンで殺される時に運良く命は助かる。ヒール魔法だけで冒険者として成り上がっていく。勇者サリオスに命を狙われつつも、生き延びていき、やがて俺のレベルは異常な速度で上がり、成長する。猫人、エルフ、ドワーフ族の女の子たちを仲間にしていきます。

異世界転生したので、のんびり冒険したい!

藤なごみ
ファンタジー
アラサーのサラリーマンのサトーは、仕事帰りに道端にいた白い子犬を撫でていた所、事故に巻き込まれてしまい死んでしまった。 実は神様の眷属だった白い子犬にサトーの魂を神様の所に連れて行かれた事により、現世からの輪廻から外れてしまう。 そこで神様からお詫びとして異世界転生を進められ、異世界で生きて行く事になる。 異世界で冒険者をする事になったサトーだか、冒険者登録する前に王族を助けた事により、本人の意図とは関係なく様々な事件に巻き込まれていく。 貴族のしがらみに加えて、異世界を股にかける犯罪組織にも顔を覚えられ、悪戦苦闘する日々。 ちょっとチート気味な仲間に囲まれながらも、チームの頭脳としてサトーは事件に立ち向かって行きます。 いつか訪れるだろうのんびりと冒険をする事が出来る日々を目指して! ……何時になったらのんびり冒険できるのかな? 小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しました(20220930)

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

処理中です...