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4章 偽りの歴史

175話 噂の力

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『ベルム族を殺しまわっている人を知らないか?』

 そう聞いても相手に不信感を抱かせるだけである。

 何で、この人そんな人を探してるの?怪しい、通報さなきゃとなる可能性がある。

 そもそも、カートライトは秘密を多く抱える国だ。都市で動いている殺し屋なんて知らない事の方が多いだろう。

 じゃあ、どうやって探すべきか?方法を変えれば良い。

 探すのではなく、誘き寄せれば良いんだ。嫌な噂を流して。

「なあ、知っているか?最近都市の何処かに魔族が住んでいるらしいぞ?」

「えぇ?本当なの、おじさま。そんな話聞いた事がないんだけれど・・・」

「本当に最近になって囁かれ始めた噂だからな。無理もないさ。私だってこの間聞いたばかりさ。政府は混乱を招くから隠蔽しているんだと」

 魔族が住んでいると言う噂を流すという作戦だ。これは、俺ではなくドゥークが考えた作戦だ。

「一体どんな魔族なんだい?おっさん」

「なんでも、2m超えの巨人なんだとか!」

「噂によると、城壁をデコピンで破壊したそうですよ?」

 もちろん、噂の魔族の詳細な情報は嘘だ。諜報員もいるので、なるべく遠い姿を連想させるようなワードを駆使していく。

「夜に活動を始めるらしいから気をつけろよ?」

「俺らも近日中にこの都市から出て行く予定です・・・!!」

 無辜の民を欺くのはとても心が痛いが、誘き寄せるためだ、仕方がない。

 来る人、会う人に噂を流しまくる。兵士がいない場面を見計らって着実に。

 兵士に捕まっては意味がないので、かなり牛歩になってしまったが、一日だけでおよそ200人もの人に嘘の噂を流す事に成功した。噂そのまま他の人にも飛んで行ったようで、夜中に出歩くのは、酔っ払いと野犬のみとなる地域まで現れる始末。

 そんな夜道を歩きながら、隠れ家へ帰ろうとしていた時だった。

「いやぁ、かなり噂が広がったな後は噂を流れるのをゆっくりと傍観していれば良いんじゃないかな?」

「・・・・・・いや」

「ん?まだ、俺達で噂を流すのか?」

「・・・いや」

「じゃあ、何をするって言うんだよ。もうやるべき事はやったじゃないか」

 後は殺し屋が夜に現れるのを待つのみ。明日ぐらいには殺し屋も動くのだろうと思っていたのだが、ドゥークは何かが足りていないみたいだ。

「私達には今、やらなければならない事がある」

「それはいつやるんだ?」

「今すぐだ」

「今?」

「・・・とにかく走れ。とにかく逃げろ。がむしゃらに走って迷子になっても良いからとにかく走れ・・・良いな?」

 ドゥークは至って真面目だった。そして、変身魔法を解いていた。

 ドゥークのあまりの異常な行動に、何かを察したファルコは事情は何も聞かないまま、走り始めていた。
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