上 下
127 / 341
3章 平和主義者達

126話 大義か個人か

しおりを挟む
「流石アタシの相棒ね。声だけで分かってくれるなんて・・・かなり嬉しいわ」

 見えないが、その声と喋り方は確実にヘリナ先輩のものだった。という事は、トルネヒロを襲ったのは、ガーディアンズ。

「久しぶりって言ったけど、別れてから2週間しか経ってないんだよね。こんなに早く再会できるだなんです思わなかった・・・」

「嬉しいん、ですか・・・?」

「嬉しさ半分、悲しさ半分よ。だって、アタシはこの町トルネヒロと、ギルド『レボルス』を滅ぼしに来たんだから」

「一応理由を聞いても良いですか?」

「・・・魔族と共謀して、国家転覆を狙っているからよ」

 いつかはバレるだろうなとは思っていた。しかし、まさか移籍してからたったの2週間でガサ入れが入るとは思わなかった。

「今、アタシ達ガーディアンズには、裏切り者である貴方達を逮捕する権利と、殺す権利を持っている」

「でも、皆俺達を殺すつもりなんでしょ?目が見えなくてもなんとなく分かります。ヘリナ先輩の背後から感じる尋常ではないレベルの殺意を感じます」

 他にも、刃を研ぐ音と、建物を破壊する音が聞こえてくる。しかし、まだ悲鳴は上がっていない。

 恐らくだ・・・恐らくだが、俺の言葉を待っているんだろう。ただ、なんと答えようが、ガーディアンズの冒険者達は俺達を殺す。ベルム族の人達は更に凄惨な殺し方をする。

 彼らにとって、ベルム族は忌まわしき存在なんだから。

 言葉に迷っていると、ヘリナ先輩の唇が左耳に近づいている事に気がついた。俺に何が囁こうとしている。

「ファルコ、アタシなら貴方を助けられるよ?」

「・・・はぁ?」

「ファルコはレボルスに来てから2週間しか経ってない。人はそんな短い期間で思想に染まりきらないと思うの。アタシだけじゃない。ガーディアンズの人達も皆そう思ってる」

「・・・・・・」

「ファルコは、父親であるイーグル・ブレイヴに騙されそうになった。そうなんでしょ?」

「・・・・・・」

「ねぇ、お願いファルコ。そうだって言って。嘘でも良いから頷いて。アタシに貴方を殺させないで・・・」

 声が潤んでいる。顔に生暖かい水滴が落ちてくる。滴って俺の口の中に入ってくる。しょっぱい。涙だ。ヘリナ先輩は今、本気で泣いている。

「俺は・・・」

 人生は思い通りにはいかない。回数は人それぞれだが、大事なモノから1つしか選べない時が来る。

 今がその時だ。大義レボルスを選ぶか、個人ヘリナ先輩を選ぶか。俺は─────。

「これは、俺の意志です・・・!」

 大義を選ぶ事にした。

「そっか・・・・・・愛してる」

 風を切る音がする。俺を斬り殺そうとヘリナ先輩の大剣が迫ってくる。死の覚悟をした次の瞬間、ほぼ光を失っていた目は、再び光を捉えた。

「フンッ・・・!!」

 気づいた時には、ヘリナ先輩の腕を掴み、大剣の振り下ろしを停止させていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強の回復魔法で、レベルアップ無双! 異常な速度でレベルアップで自由に冒険者をして、勇者よりも強くなります

おーちゃん
ファンタジー
俺は勇者パーティーに加入していて、勇者サリオス、大魔導士ジェンティル、剣士ムジカの3人パーティーの雑用係。雑用係で頑張る毎日であったものの、ある日勇者サリオスから殺されそうになる。俺を殺すのかよ!! もう役に立たないので、追放する気だったらしい。ダンジョンで殺される時に運良く命は助かる。ヒール魔法だけで冒険者として成り上がっていく。勇者サリオスに命を狙われつつも、生き延びていき、やがて俺のレベルは異常な速度で上がり、成長する。猫人、エルフ、ドワーフ族の女の子たちを仲間にしていきます。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

異世界転生したので、のんびり冒険したい!

藤なごみ
ファンタジー
アラサーのサラリーマンのサトーは、仕事帰りに道端にいた白い子犬を撫でていた所、事故に巻き込まれてしまい死んでしまった。 実は神様の眷属だった白い子犬にサトーの魂を神様の所に連れて行かれた事により、現世からの輪廻から外れてしまう。 そこで神様からお詫びとして異世界転生を進められ、異世界で生きて行く事になる。 異世界で冒険者をする事になったサトーだか、冒険者登録する前に王族を助けた事により、本人の意図とは関係なく様々な事件に巻き込まれていく。 貴族のしがらみに加えて、異世界を股にかける犯罪組織にも顔を覚えられ、悪戦苦闘する日々。 ちょっとチート気味な仲間に囲まれながらも、チームの頭脳としてサトーは事件に立ち向かって行きます。 いつか訪れるだろうのんびりと冒険をする事が出来る日々を目指して! ……何時になったらのんびり冒険できるのかな? 小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しました(20220930)

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

処理中です...