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1章 投げる冒険者

35話 母の安否

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 噂には聞いていた。北東で人を殺す謎の魔物の話。遺体に食い散らかされた痕跡は無く、ただただ殺しているだけの謎に包まれた魔物。

 何の理由も無く殺す事から、快楽の魔物と呼ばれているその魔物は当然のようにブカの村も襲っているらしい。だが、ブカの村の被害者はゼロらしい。

 死人がいないという情報がある時点で一安心だが、この目で故郷の安否は確かめたい。依頼が落ち着いていたので、帰ってみることにした。

 ブカの村を囲む柵が壊されている。けど、修繕は始めているみたいだ。

「おおっ!ファルコじゃねえか!!話は聞いてるぞ!大活躍じゃねえか!」

「トラスさん、無事で良かった」

 近所で、木こりをやっているトラスさんが無事だった。親しい人が無事だったと気づいた瞬間、心の底から安心した。

「母さんと父さんは?」

「イーグルさんは、ここしばらく帰ってきていない。ディーネさんは軽い怪我をしたけど命には全く影響はないって話だ」

「母さんが・・・まさかっ!!」

 謎の魔物がブカの村から被害を出さなかった理由はもしかして・・・!!

「おっ、帰ってきた帰ってきた。おかえり、ファルコ。アンタの話、いろんな人から聞いてるよ」

 後ろを振り返ると、母さんが立っていた。軽い怪我をしたと聞いたけど、すでに治癒の魔法で体の怪我自体は治したらしい。

 家の方を見てみると、いつもは無かった戦斧が家の壁に立てかけられている。

「母さんが追い払ったんだね」

「他に誰がやるっていうんだい。この町には兵士はいないんだからね」

 母さんは冒険者を引退してからすでに16年もの時が経過している。運動不足解消のためにたまに振っている所を見たことはあるけど、冒険者を引退して以降、まともに戦っていないらしい。

 つまり、16年ものブランクがあるにも関わらず、39人も殺した魔物を追い払ったということになる。流石は冒険者という危険な仕事で最前線を生き抜いた人だ。心配が杞憂に感じてしまう。

「もしかしなくても、心配して帰ってきてくれたんでしょ?それはすっごい嬉しいけど、心配しないで。今は自分のことだけに集中なさい」

「うん、分かったよ。ありがとう・・・」

「所で、あの魔物は一体いつになったら倒してくれるんだい?流石に何回も追い払うのは難しいよ」

「俺も又聞きした話だから信憑性は微妙だけど、C級に討伐依頼が来るらしいよ」

「C級に!?無理だよ!2分くらいしか戦ってないけど、あれはC級の冒険者には対処できないよ!せめてBくらいないと・・・いや、でも、この時期は繁忙期か・・・!」

「一体どんな魔物だったの?」

「実は夜中に襲われたから姿はハッキリと見ていないんだよ。けどね、飛んでいたのだけは分かる。それと、私の肩を切り裂く程の爪を持っていたから気をつけてね」

 母の安否と、有益な情報を得たファルコは夕方に帰れるように、ギルド「ファーマーズ」へと戻るのだった。
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