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1章 投げる冒険者

32話 生まれてくるべきではなかった

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 コオロギの魔物から戦略的撤退を決めた数時間後、アイツらは帰ってきた。ボロボロになりながらも、しっかりと依頼内容通り1体生け捕りにして。

 評価の低下を防ぐ為にしていた武勇伝も一気に言い訳へと変わり、周りからは氷のように冷たい視線が向けられる。

 クソオーナーに抱き抱えられてギルドに帰ってきたファルコは拍手喝采で迎えられた。

 僕は怖くて、後ろにゆっくりと下がりながら裏口から逃げようとしたけれども、誰かに背中を押されてしまい、ファルコの前に姿を晒す羽目になった。

 瞬間、僕の気配を読み取ったのか、パチリを閉じていた瞼を開けるファルコ。余程疲れているのか、一言も喋らなかったけど、僕には何を言いたいのか分かった。

『腰抜けが』

 僕は、怖くてギルドから飛び出すように逃げ出した。ギルドの方から冒険者達の笑い声が聞こえてくる。耳を塞いでただただ走り続けた。

 何も考えずに走っていたら、家に帰ってきていた。帰巣本能だろうか?僕をゴミのような目で見る兄2人と、ナチュナルに見下している弟。本来なら、帰ってきたくない場所だけど、何故だか何の抵抗感も無く、屋敷に入る事が出来た。

 きっと、兄や弟たちが慰めてくれる。心のどこかでそう思っていたからだろう。しかし、そんな儚い希望は兄2人の一言で悉く砕かれる事になる。

「何でお前生きてんの?」

「殺す為にギルドに圧かけたっていうのに、これじゃ台無しじゃねぇか」

「・・・へっ?」

 結論から言うと、僕は実力で昇級試験の権利を勝ち取ったわけではなかった。全ては僕の存在を煩わしく思った兄達が、ギルドに圧をかけた結果、手に入ったチャンスだった。しかも、そのチャンスは僕にとってのチャンスというだけでなく、ウィート家が僕を合法的に殺せる最後のチャンスだった。

 それを聞いた途端、僕の頭は真っ白になって、数分間その場に立ち尽くした。そして、気づいた。

「僕は・・・居てはいけない存在なんだ・・・生きてはいけない人間なんだ・・・」

 しかし、核心にたどり着いても、その際の最適解である自殺は出来なかった。そもそも、1体のゴブリンごときに怯えて失禁するような男にそんな事が出来るはずがなかった。

 けど、これ以上ウィート家に迷惑はかけたくない。その一心で僕は屋敷を出た。何処に行くかは考えていない。けれども、ギルドに戻るという選択肢はない。ギルド内の僕の居場所はファルコ・ブレイブに取られてしまった。いや、最初からそんなものは無かったのかもしれない。

 3日後、ライは行方不明者とされるも、ウィート家は探そうとはしなかった。それだけでなく、元からライなんて人間はいなかったというような言動を取り始めるのであった。




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