33 / 341
1章 投げる冒険者
32話 生まれてくるべきではなかった
しおりを挟む
コオロギの魔物から戦略的撤退を決めた数時間後、アイツらは帰ってきた。ボロボロになりながらも、しっかりと依頼内容通り1体生け捕りにして。
評価の低下を防ぐ為にしていた武勇伝も一気に言い訳へと変わり、周りからは氷のように冷たい視線が向けられる。
クソオーナーに抱き抱えられてギルドに帰ってきたファルコは拍手喝采で迎えられた。
僕は怖くて、後ろにゆっくりと下がりながら裏口から逃げようとしたけれども、誰かに背中を押されてしまい、ファルコの前に姿を晒す羽目になった。
瞬間、僕の気配を読み取ったのか、パチリを閉じていた瞼を開けるファルコ。余程疲れているのか、一言も喋らなかったけど、僕には何を言いたいのか分かった。
『腰抜けが』
僕は、怖くてギルドから飛び出すように逃げ出した。ギルドの方から冒険者達の笑い声が聞こえてくる。耳を塞いでただただ走り続けた。
何も考えずに走っていたら、家に帰ってきていた。帰巣本能だろうか?僕をゴミのような目で見る兄2人と、ナチュナルに見下している弟。本来なら、帰ってきたくない場所だけど、何故だか何の抵抗感も無く、屋敷に入る事が出来た。
きっと、兄や弟たちが慰めてくれる。心のどこかでそう思っていたからだろう。しかし、そんな儚い希望は兄2人の一言で悉く砕かれる事になる。
「何でお前生きてんの?」
「殺す為にギルドに圧かけたっていうのに、これじゃ台無しじゃねぇか」
「・・・へっ?」
結論から言うと、僕は実力で昇級試験の権利を勝ち取ったわけではなかった。全ては僕の存在を煩わしく思った兄達が、ギルドに圧をかけた結果、手に入ったチャンスだった。しかも、そのチャンスは僕にとってのチャンスというだけでなく、ウィート家が僕を合法的に殺せる最後のチャンスだった。
それを聞いた途端、僕の頭は真っ白になって、数分間その場に立ち尽くした。そして、気づいた。
「僕は・・・居てはいけない存在なんだ・・・生きてはいけない人間なんだ・・・」
しかし、核心にたどり着いても、その際の最適解である自殺は出来なかった。そもそも、1体のゴブリンごときに怯えて失禁するような男にそんな事が出来るはずがなかった。
けど、これ以上ウィート家に迷惑はかけたくない。その一心で僕は屋敷を出た。何処に行くかは考えていない。けれども、ギルドに戻るという選択肢はない。ギルド内の僕の居場所はファルコ・ブレイブに取られてしまった。いや、最初からそんなものは無かったのかもしれない。
3日後、ライは行方不明者とされるも、ウィート家は探そうとはしなかった。それだけでなく、元からライなんて人間はいなかったというような言動を取り始めるのであった。
評価の低下を防ぐ為にしていた武勇伝も一気に言い訳へと変わり、周りからは氷のように冷たい視線が向けられる。
クソオーナーに抱き抱えられてギルドに帰ってきたファルコは拍手喝采で迎えられた。
僕は怖くて、後ろにゆっくりと下がりながら裏口から逃げようとしたけれども、誰かに背中を押されてしまい、ファルコの前に姿を晒す羽目になった。
瞬間、僕の気配を読み取ったのか、パチリを閉じていた瞼を開けるファルコ。余程疲れているのか、一言も喋らなかったけど、僕には何を言いたいのか分かった。
『腰抜けが』
僕は、怖くてギルドから飛び出すように逃げ出した。ギルドの方から冒険者達の笑い声が聞こえてくる。耳を塞いでただただ走り続けた。
何も考えずに走っていたら、家に帰ってきていた。帰巣本能だろうか?僕をゴミのような目で見る兄2人と、ナチュナルに見下している弟。本来なら、帰ってきたくない場所だけど、何故だか何の抵抗感も無く、屋敷に入る事が出来た。
きっと、兄や弟たちが慰めてくれる。心のどこかでそう思っていたからだろう。しかし、そんな儚い希望は兄2人の一言で悉く砕かれる事になる。
「何でお前生きてんの?」
「殺す為にギルドに圧かけたっていうのに、これじゃ台無しじゃねぇか」
「・・・へっ?」
結論から言うと、僕は実力で昇級試験の権利を勝ち取ったわけではなかった。全ては僕の存在を煩わしく思った兄達が、ギルドに圧をかけた結果、手に入ったチャンスだった。しかも、そのチャンスは僕にとってのチャンスというだけでなく、ウィート家が僕を合法的に殺せる最後のチャンスだった。
それを聞いた途端、僕の頭は真っ白になって、数分間その場に立ち尽くした。そして、気づいた。
「僕は・・・居てはいけない存在なんだ・・・生きてはいけない人間なんだ・・・」
しかし、核心にたどり着いても、その際の最適解である自殺は出来なかった。そもそも、1体のゴブリンごときに怯えて失禁するような男にそんな事が出来るはずがなかった。
けど、これ以上ウィート家に迷惑はかけたくない。その一心で僕は屋敷を出た。何処に行くかは考えていない。けれども、ギルドに戻るという選択肢はない。ギルド内の僕の居場所はファルコ・ブレイブに取られてしまった。いや、最初からそんなものは無かったのかもしれない。
3日後、ライは行方不明者とされるも、ウィート家は探そうとはしなかった。それだけでなく、元からライなんて人間はいなかったというような言動を取り始めるのであった。
63
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
最強の回復魔法で、レベルアップ無双! 異常な速度でレベルアップで自由に冒険者をして、勇者よりも強くなります
おーちゃん
ファンタジー
俺は勇者パーティーに加入していて、勇者サリオス、大魔導士ジェンティル、剣士ムジカの3人パーティーの雑用係。雑用係で頑張る毎日であったものの、ある日勇者サリオスから殺されそうになる。俺を殺すのかよ!! もう役に立たないので、追放する気だったらしい。ダンジョンで殺される時に運良く命は助かる。ヒール魔法だけで冒険者として成り上がっていく。勇者サリオスに命を狙われつつも、生き延びていき、やがて俺のレベルは異常な速度で上がり、成長する。猫人、エルフ、ドワーフ族の女の子たちを仲間にしていきます。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル
異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった
孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた
そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた
その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。
5レベルになったら世界が変わりました
異世界転生したので、のんびり冒険したい!
藤なごみ
ファンタジー
アラサーのサラリーマンのサトーは、仕事帰りに道端にいた白い子犬を撫でていた所、事故に巻き込まれてしまい死んでしまった。
実は神様の眷属だった白い子犬にサトーの魂を神様の所に連れて行かれた事により、現世からの輪廻から外れてしまう。
そこで神様からお詫びとして異世界転生を進められ、異世界で生きて行く事になる。
異世界で冒険者をする事になったサトーだか、冒険者登録する前に王族を助けた事により、本人の意図とは関係なく様々な事件に巻き込まれていく。
貴族のしがらみに加えて、異世界を股にかける犯罪組織にも顔を覚えられ、悪戦苦闘する日々。
ちょっとチート気味な仲間に囲まれながらも、チームの頭脳としてサトーは事件に立ち向かって行きます。
いつか訪れるだろうのんびりと冒険をする事が出来る日々を目指して!
……何時になったらのんびり冒険できるのかな?
小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しました(20220930)
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる