大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太

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四章 魔族との和平交渉

第三十六話 ノック、ストック

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「ていうか、そこのお前。何で武士みたいな格好してんの?俺と同じ異世界人でしょ?何、知り合いが誰もいないから武士のモノマネしてみた~って感じ?いや、キッツ!40代になってもポニーテールのおばさんぐらいキツイんですけどwww」

 素でやっているのか、それともわざとやっているのか。ノックは戦う前に蘭丸を貶し始める。武士の彼にとって許されざる言葉を吐かれたが、蘭丸は決して怒る事はなかった。否、怒っていないというよりは、言葉の意味を理解していない様子だ。

 しかし、言葉の意味を理解していないのは、蘭丸の頭が悪いからというわけではない。蘭丸とノックの生きていた時代が違いすぎた故の理解の困難化である。

 蘭丸はなんとか部分的に言葉の意味を理解し、ノックに言葉を返す。

「いや、真似ではなく本当に武士なのだが・・・」

「嘘乙wwwお前みたいな女みたいな武士いるわけないしwwwてか、いつの時代の武士だよ」

「二千二十二年から来た幸助曰く、拙者は戦国の世の武士らしい。そして、女みたいな武士はいないと言うが、尾田信菜様は知らぬのか?」

「ししし知ってるわ!そのくらい!ちょっと、お前を試しただけだよ」

「そうか・・・だが、知恵で確かめるのは些か間違っているのではないか?拙者達の確かめる術はもっと他にあるだろう?」

「えっ?何?実力って言いたいの?キモッww普通に実力で確かめようって言えやww戦国時代の武士はカッコつけたがりなんですか~?」

「格好も付けられなければ武士としても男としても二流だ。格好つけるのは当たり前だろう。それとも、お主の住んでいた時代では格好つける奴は恥ずかしい奴と罵られるのか?」

「いいや、持て囃されるさ。だから俺は・・・俺は・・・!あの世界が大嫌いだったんだよ!」

 怒りの爆発と共にノックの拳が蘭丸の頭めがけて下りてくる。蘭丸の見事な身のこなしで回避するが、ノックは見た目通りの怪力で、拳は地面へとめり込んだ。

「せいっ!」

 拳を引き抜く前に腕を切り落とそうとするが、鋼のような筋肉の壁は蘭丸の刀を弾いてしまった。

「そんなナマクラで斬れると思ってるの?ふんっ!」

 残った拳が再び頭に向かって降りてくる。鍛えられた蘭丸の反射神経は紙一重で避けることに成功させたが、当たっていたら今頃蘭丸の身体は足で潰された空き缶のようになっていただろう。

(危なかった・・・だが、何故真っ直ぐ殴って来なかったんだ?潰すように殴るのが確実とはいえ、正拳突きをしてこなかったのは判断を誤ったな)

 距離を取り、刀を構え直す。ノックも拳を地面から引き抜くと、ニヤリと口角を上げて不敵な笑みを浮かべた。

「二発か・・・お前みたいなモヤシ野郎なら、これで十分かな?」

「拙者をもやしと言ったな?良いだろう。お主の攻撃真正面から受けて見せよう」

 特に捻りもない挑発が蘭丸の逆鱗に少しだけ触れる。先程まで言葉の意味を理解できず、挑発に乗らなかっただけで蘭丸は気が長いタイプではないのだ。

「ほう、言ったな?なら、絶対に避けるなよ?」

「ああ、約束しよう」

 ノックは拳の届く位置まで近づいてくると、ぐっと腰を低くして、右腕を引き、左手で狙いを定める。狙いは当然蘭丸。蘭丸はというと、腕を組み、足で地面を噛むように踏ん張る。

「ダメ!ランマルさん!」

「邪魔をするな!ぼにー!これは男同士の戦いだ!」

 男の戦いの前に地底人を守る戦いだと言うことを静かな怒りのせいで忘れている様子。蘭丸の鋭い目つきで怒っている事を察したノックの笑みは更に気色悪い物へと変わっていく。

「パワーストック二発分!人間絶対死亡威力だ!後悔するなよ!!」

「・・・来い!!」

「ダメだって言ってるでしょ!ランマルさん!!」

 ボニーは必死に蘭丸を止めようとするが、漢の意地を張ってしまい、聞く耳を持たない様子。

 ボニーはしっていた。ノックという男の力がどれほど恐ろしいのかを。知っている故に未来視は持っていないが、蘭丸が死ぬビジョンがハッキリと見えていた。

 何としてでもランマルさんを守らなくてはいけない。そう思った時には既に両手の平を地面につけていた。

「『ランドウォール』!!」

 蘭丸の一歩前の地面が盛り上がり、高さ2mの土の壁を作り上げる。

「なっ・・・ぼにー!!」

「急拵えだから!踏ん張って!ランマルさん!!」

 彼女の行動といつもの態度からは考えられない言葉遣いに、流石の蘭丸も我に返り、彼女の言われた通りにする。

 数秒後、ノックの拳が土の壁に激突する。ボニーの言った通り、その場凌ぎの土の壁は呆気なく砕け散り、地面へと返っていく。だが、急拵えで最悪の事態を免れる事が出来たのは最高だと行っても過言ではないだろう。まだ蘭丸とボニーにとっての悪い事は完全には終わってはいないが。

「ちぃ!避けんなよ!!クソ野郎!!ま、まだ俺の攻撃は終わってないんだけどねwww」

 蘭丸とボニーを嘲笑う声と同時に、土の壁とノックの拳が衝突した箇所を中心に衝撃波が発生。なんと、周りの家を何軒も破壊してしまったのだ。

 蘭丸とボニーは予め踏ん張っていた為、耐える事が出来たが、踏ん張っていなかったら今頃木の葉ように吹き飛ばされていただろう。

 パラパラと建物だった物が頭に振ってくる。時々大きな破片が頭に当たって痛いはずだが、蘭丸は特に気にしている様子はなく、ノックに注目していた。

「ねえねえ、カエターニのお嬢さん?家庭教師に習わなかった?人の邪魔する娘は悪い子だって。それとも、要領が悪くて入らなかったのかな?」

 ノックはボニーのファミリーネームを口にして煽る。衝撃波を知っている事も加味すると、どうやら知り合いのようだ。

「ノックさん・・・ノックはワタシのお父様が贔屓にしていた冒険者なんです。数年前に死んだと聞いていましたが、まさかこんな地下で生き延びていたなんて・・・」

「納得した。だから、こやつの能力を知っていたのか。良ければ詳細を教えてくれないか?」

「はい。ノックの能力は自分で力をストックして、自分のタイミングで放つ事が出来る能力らしいです。今のは宣言があったので止められましたが、普通ならいつ衝撃波付きのパンチが飛んでくるか分かりません。ですのでどうかお気をつけて」

「おいおいww呼び捨てだけじゃ飽き足らず、俺の能力まで言うなんて!酷い女に育ったねぇ、カエターニちゃん♡」

「ぼにー。あやつの言葉に乗るな。能力さえ分かれば後は拙者が何とかする。お主は・・・いや、少しだけ時間を稼いでくれないか?」

 蘭丸は刀を納め、もう一本の刀に指をかける。それだけで蘭丸が何をするかを理解したボニーは笑顔で了承し、のっくの前に立ちはだかる。

「おいおいwwその棘付き金棒、身体に合ってないなww杖の方がお似合いだよぉ?それに、何でそこの武士は戦わないのかな?・・・あ!もしかして、怖気付いちゃったぁぁ~~?」

「なんとでもでも言え・・・鋼帝こうてい、お前の力見せてやるぞ」

 刀身が薄く紫色に光る刀に話しかけると、蘭丸はその刀を身体の後ろに隠すように構えた。
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